Devil may cry ~Fleet Collection~ 作:縁(みどり)
最初の立てた個人的な目標は、1年以内に完結させる、でした。
ただ、今こうして書いていると、そんなことよりもしっかりと読んでいただいてる皆さんに楽しんでも貰わなきゃいけないな、と思います。
なので、投稿が遅れたことは許してください!
「…完全に引き分けだ!異論は認めないぜ!」
「だからあれは明らかに…いや、もういい…」
天龍とネロはそんなことを言い合いながら鎮守府へと向かう。
ネロは半ば呆れていたが、天龍が楽しそうなのを見て特に何も言わないことにした。阿呆らしいというのが主な理由である。
結局、大体1時間の演習で終わってしまったが、ネロにとっては収穫もそこそこあったので深く気にはしていなかった。
「お疲れ!2人とも!」
湾頭で2人を待つ夕張が、手を振りながらそう叫んでいる。その横で、少し仏頂面な空母棲鬼がいた。
天龍はそれを見て、頭の疑問符を浮かべた。
「?…そいつ連れてきたのか?」
天龍がそう呟いて、空母棲鬼に対して指をさす。
それを見た空母棲鬼は、少し腹を立てたように天龍から目をそらす。
夕張が、あぁ、と呟いて、頭をかく。よく考えれば、いきなり敵だった存在を連れ回していたら、困惑するのは当然だろう。
「安心して、もう戦闘能力は一切無いの。」
夕張はそう言って、満面の笑みを浮かべていた。
天龍は少し不安になったが、一応しっかりとした設備で検査をしていたのは知っていたので、特には何も言わなかった。
ネロはその間に陸上へと上がる。びしょびしょのコートを絞りながら、ため息をついていた。
そんなネロを見た空母棲鬼は、少し戸惑っていた。
しばらくして、表情をしっかりとしたものに変える。
「…ネロ。あなたが、私を助けたの?」
空母棲鬼はそう言いながら、ネロへと歩み寄っていく。
それに気がついたネロは、軽く不貞腐れたように呟く。
「…その前にお前をぶっ飛ばしたけどな。」
ネロはそう言いながら、ため息をついて鼻の頭を掻く。
実際、彼女に対してかなり攻撃を加えたのは事実。
しかし、そんなことなどは気にしていないかの様子で、空母棲鬼は笑う。
「大事なのは過程じゃなくて結果よ。少なくとも今の自分にとっては、命の恩人。」
ネロはそれを聞いて、軽くため息をつく。
相手がどう解釈しようとも、もはや気にしないことにする。もちろん、それを空母棲鬼も感じとっていた。
そんな中、空母棲鬼は呆れたような視線を天龍へと向ける。
「…それで、あの眼帯女はなんであんなズル賢い手を使ったのかしら?明らかに勝負はついていたじゃない。」
「!…」
それを聞いた天龍は、あからさまに敵意を剥き出しにした。
ピクリと一瞬動いた頭のユニットが、それを際立たせている。
「…俺がズル賢いだと?」
小さく、それでいて鋭く呟いた天龍。
それに対して、空母棲鬼は余裕綽々な様子で笑顔を浮かべていた。
「あら、確実に一度倒れたのに、負けを認めず、ネロを引きずり倒したじゃない。」
まさしく、正論。
この場にいた天龍以外の面々が確実に思っていたことを空母棲鬼はぶちまけてしまった。
天龍は、歯をくいしばって苛立った表情を浮かべる。
「!…お前には関係ないだろ!」
そう言って空母棲鬼に詰め寄っていく天龍を、夕張は羽交い締めにすることで止める。
それを振り払おうとするが、夕張は全力で腕を拘束しているため、なかなか外れない。
「おい!離せよ!!」
「やめなさいって!だって本当にそうじゃない!」
夕張の言葉にさらに天龍があぁ!?と返して何故か頰のつねりあいに発展する中、空母棲鬼はネロの手を掴む。
「?…おい、一体…」
「行くよ。」
空母棲鬼はそのままネロを引っ張っていく。
ネロはどこに連れて行かれるのかもよく分からず、ただ空母棲鬼に連れていかれるだけであった。
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ネロがこの場所に来た直後に思ったことは、昼間なのに太陽光があまり入らず暗い場所であった。
鎮守府の建物の陰になっており、あまり人が好んで来たがるところではない。
そんなところに呼び出された時点で、空母棲鬼が人の目を気にしていることがよくわかる。
「…わざわざ、こんなところで何の用だ?」
ネロはそう言って、軽く呆れたように息を吐く。
何か面倒なことになるかもしれないという直感が、頭をよぎっていた。
空母棲鬼は、真剣な眼差しでネロを見る。
「…さっき、あのポニテの女が言ってた話、信じる?」
「…お前の戦闘能力がないって話か。」
ネロはあからさまに目を鋭くした。
その話をわざわざ出すということは、空母棲鬼は…
「…隠してるのか?」
「…厳密に言えば、隠れてる、かな。」
空母棲鬼は少し俯きながらそう返す。
「…そこに装備があるのに、取り出せない感覚。」
空母棲鬼のその目には、形容しがたい悲しみがあった。
自分の意思で艤装を展開することは出来ず、自分の意思ではどうにも出来ない。
「…つまり、艤装の感覚は残っているが、確かに戦闘能力はないってことか。」
ネロはそう言って、空母棲鬼に軽く手を振る。
「なら良いじゃねえか。」
「えっ…」
ネロの言葉に困惑する空母棲鬼。
その言葉が一体何を意味しているのかが分からなかった。
「…お前を斬ったあの刀は、人と魔を分かつって話だぜ。お前は今、ただの人間になったのかもな。」
ネロはそう言って、その場を離れようとする。
それをただぼんやりと眺めていた空母棲鬼は、ハッとなって言葉を紡ぐ。
「で、でも…どうすれば良いの?」
空母棲鬼の切ないような声が響く。
これからは、深海棲艦であった時に出来たことが出来なくなる。ただ、それだけが頭を支配していた。
だが、ネロはそれに対して大きなため息をついて返す。
「…そんなの、これから探せば良いだろ。」
ネロはその一言を告げて、そのまま自室の方へと歩いていった。
もはや、何も問題はないと言った風に。
空母棲鬼は、言葉を失っていた。
「…そうだね、ネロの言う通りだよ。」
そして、そう1人で呟くと、その表情を笑顔に変えるのであった。
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「…じゃあ、空母棲鬼には戦闘能力はないし、一室適当にどっか割り当てちゃうか。」
大佐はそう言って、空母棲鬼に部屋の鍵を渡す。
空母棲鬼は戸惑いつつもそれを受け取り、大佐をじっと見る。
「…良いの?元々敵同士だったのに…」
「だって、夕張が大丈夫って言うんだから大丈夫だよ。」
そう言って大佐は指をさす。
そこには、なんだか赤く腫れている頰をさすりながら、なはは、と笑う夕張がいた。
どうやら、天龍とのつねりあいで出来た勝利の証らしい。
「じゃあ、次は名前!空母棲鬼ちゃんって、呼びづらいから、名前を考えたよ!」
「名前…?」
大佐の言葉に、空母棲鬼はさらに戸惑う。
大佐はご満悦な笑みで、その名前を高らかに宣言する。
「今日から、君の名前は
「…提督、少し安直すぎません?」
夕張がそんな風に言ってため息をつく。
空母棲鬼だから、空ちゃんという名前が浮かんだ、という説が誰の目にも明らかだったからである。
「え〜、そうかなぁ…」
「…私は、良いよ。」
空母棲鬼が、そんな風に言い合う2人をよそにそう呟く。
それを聞いた2人は、空母棲鬼の方へと視線を向け、そして、驚いていた。
「…じゃあ、私、早速部屋に行くから。」
空母棲鬼はそう言って、急いで執務室を出ていく。
それを見て、2人は微笑みながら顔を見合わせる。
「…嬉しそうにしてましたね。」
「あんな顔が出来るんだね〜。」
空母棲鬼の表情を2人で思い出しながら、ただ笑っていた。
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「…
自分の名前を再度思い出して、ニヤニヤとしてしまう空母棲鬼。
それは、初めて手に入れた、自分が人間であるという証。
「…まだまだ、もっと楽しいことが見つかるかもしれない。」
空母棲鬼、もとい空はそう呟いて、部屋のベッドにゴロリと寝転び、そのまま枕に顔を埋めるのであった。
お盆で実家に帰ると思うことが1つ。
間違いなく、実家で過ごす楽しい時間より、高速で渋滞にハマる時間の方が長く感じる。