Devil may cry ~Fleet Collection~ 作:縁(みどり)
ネロはとりあえず、女の子に囲ませたいという欲求に抗えません。
何ででしょうね。
ネロがその建物の中に入って、真っ先に感じたことは、これだけ大きな建物なのにも関わらず、人の気配がないことだった。
それは、あの時の魔剣教団の本部のようで、ネロは嫌な予感がしていた。
「…ここの人間はみんな食われちまったか?」
そう呟きながら、ダンテの気配を探るネロ。間違いなくこの建物のどこかにいることは理解していたが、まだどこにいるかまでは考えが及んでいなかった。
「…どうせ、全部見るしかねえんだろ」
ネロは、もはや諦めたような表情を浮かべながら、走り出した。見える部屋に片っ端から入っていけば、いつかは目的も達成できるだろうと理解していたのだ。
そんなネロの前に、一人の男が現れる。
「貴様もここに辿り着くとはな」
そう呟いた影を見て、ネロはあからさまに面倒臭そうな表情を浮かべる。
そこには、空を傷つけて、大佐を殺そうとした技術局長の姿があったからだ。
「…上から物を言う奴は嫌いでね。そうでなくても俺はイライラしてんだ。さっさと退かねえと叩き斬るぜ」
「そうか。なら、少なくとも貴様にこの偉大な計画の邪魔をされないように気をつけねばな」
そう呟いた技術局長は、ネロを向けてそのまま歩き出す。それを見たネロは、小さく舌打ちをしてブルーローズの銃口を向ける。
「あいにく、今俺はお前に借りがあるんだ。恨むなよ」
「恨みなどせん。なにせ…貴様にはもう止められん」
技術局長がそう呟いた瞬間、ネロはそのまま思い切りその引鉄を引く。
その弾丸はしっかりとその技術局長の後頭部へと向かっていき、そして技術局長に突き刺さる__
__と思われたが、その瞬間に技術局長の姿は消えていた。
「!!…」
ネロはそれを視認した瞬間、あたりを見回す。
しかし、どこにもその姿はない。まるで、瞬間移動でもしたかのように、その場から消えてしまったのだ。
「…どうなってやがる?」
ネロがそう呟いた瞬間、その辺りに声が響き渡った。
「最早、ダンテの力を解析し終えた俺に不可能はない!貴様にはもう止められないのだよ!!」
その声を聞いたネロは、明らかに苛立ちのような表情を浮かべていた。
「また遊んでやがるのか?ダンテの奴…」
ネロがそう呟いた瞬間、その周りに赤い結界が貼られ、10体ほどのスケアクロウが出現する。
それを見たネロは、大きなため息をつく。
「…いや、こっちが敵に遊ばれてるのか」
ネロの呟きは、ただ無機質に響いた。
_______
「…ここは…」
何も見えないデース。まるで、暗闇に閉じ込められたかのようネー。
それでも、自分に何かよからぬことが起きたことは分かる。
こんなに、心の底から気持ち悪い感覚が蠢いてるのだから。
『金剛、君は元帥のための研究に協力してもらえるかな?』
そんな声が頭に流れ込んで来る。その声が、確かに技術局長のものだと理解できていた。
でも、何故か少し恐怖心が頭をよぎる。
それでも、その感情を意識の奥底に落とされたように消し去られてしまった。
「…もちろんデース。提督のためなら、meの身体はいくらでも捧げマース」
本心からそれを口にしたのか、それとも操られていたのか。
それもわからないほどに、自分の意識は混濁していた。
『…ありがとう、これでまたこの戦いは終結へと近づいた』
その言葉を聞いて、思い出した。
この戦いを終わらせるカギは、ダンテが握っていることを。
でも、もう体が動かなかった。自身の変化に、もう飲み込まれてしまっていたのだ。
悪魔に…ナル…
_____________
「…片付いたな」
ネロはそう呟きながら、静かにまた歩を進める。あたりには、悪魔の血液が散乱していて、ここでそれなりに大きな戦闘が繰り広げられたことを嫌でも想起させられる。
「待ってください!」
そう言った声が後ろから聞こえたときに、ネロはそちらに眼をやる。
そこには、先ほど門の前で出会った榛名と呼ばれていた少女が来ていた。
「…なんだよ、もういいだろ?」
「…教えてください。あの、異形はいったい?」
榛名の言葉を聞いて、ネロは少しため息をつく。関係のない相手に、それを伝えていいものかどうか、決めあぐねていたのだ。
「…知らないほうが良いこともあるぜ」
「それでも、お姉様が反逆行動に出た理由もわかるかもしれないんです!」
そう言った榛名の言葉に、ネロは引っかかりを覚える。
反逆行動という、やけに物騒な単語。その言葉が、どうしても気になったのだ。
「…お前らのお姉様が反逆行動ってのは、誰が言ってた?」
「…この大本営の、技術局長です」
そう呟いて、榛名は顔を俯かせる。
それを見たネロは、間違いなく技術局長の独断によって誰かが嵌められたことを理解した。
「…おい、案内を頼めるか?あのくそ野郎をブチのめして、お前らのお姉様を助けてやる」
「え、えぇ!?」
榛名は状況を理解できないようで、そう叫びながら困惑しているような表情を浮かべていた。
ネロはそんな彼女の様子を見ながら、大きなため息をつく。
「…お前らも騙されたままじゃ、何かと面倒だろ。俺が全部教えてやるよ」
ネロの言葉を聞いた榛名は、心の中で小さな恐怖心を感じていた。
目の前にいる男は、この大本営という組織が自分たちを騙している可能性を示してきたのだ。
それを単純に信頼できるほどの関係性ではないにも関わらず、自分自身にその疑念が植えつけられてしまったのだ。
「…ネロさん、私は…」
「話は聞かせてもらいました!!」
と、榛名の後ろからそんな声が聞こえたと同時に、二人の視線はその声の主へと集中する。
そこには、先ほどまでネロに敵対心を向けていた、比叡が立っていた。
「比叡お姉様?」
「…霧島、榛名。私は、お姉様を信じています。そのお姉様が反逆行動をしたならば、私達もお姉様のために、反逆すればいいまでのことです!」
そう言い切った比叡の背後で、霧島が眼鏡を直しながら、ネロへと笑顔を向ける。
「さしあたって、その異形の話とあなたの知っていることを洗いざらい話してもらおうかしら?」
霧島のその言葉には、明確な敵意があったものの、殺意ほどの強さが無いことをネロは理解していた。
ネロはそのまま左手で頭を掻きながら、ため息をついた。
おそらく、ダンテのもとへとたどり着く前に大きな障害が出来上がったであろうことを理解していたからである。
______________
「…ダンテ…」
トリッシュは、その視線の先にあるオブジェと化したダンテの姿を見ていた。
その心臓部分には、彼自身の剣であるリベリオンが深く突き刺さっており、その周りをまるで防壁かのように大きな肉塊が覆っていた。
その姿を見たものは、おそらく全員が中の人間がすでに死んでいるであろうと錯覚を起こすだろう。
「…この状態だと、流石に助けるのは無理ね」
トリッシュはそう呟きながら、あたりをチラと見渡す。
そこには、トリッシュを取り囲むように配置された、多くの悪魔がいた。そのどれもが、トリッシュが動くことを許さないかのように、トリッシュから視線を動かすことはなかった。
そして、どの悪魔も、まるでに統率されているかのように、綺麗な円形に並んでいた。
「…あの男、悪魔を従える力を持っているみたいね」
そう呟いて、トリッシュはダンテを包み込む肉塊の頂点部分を見上げる。
そこには、まるでその統率力を示しているかのような、技術局長の銅像が立っていた。
その右手は前に突き出されており、その左手には何かの辞典を模した本が握られていた。
「…悪趣味な銅像ね」
トリッシュはそう呟いて、そのままじっとその銅像を見ていた。
その銅像に、強大な魔力が流れ込んでいることを感じ取りながら。
ダンテはとりあえず、串刺しにして動かなくすればいいというのがお約束になりつつありますね。
お約束というか、そうでもしないとダンテは確実に動き回って事件を完全に解決しちゃいますからね。