Devil may cry ~Fleet Collection~ 作:縁(みどり)
時刻は11:00を回ったところである。もうすぐ昼時のこの時間に、ダンテは遅すぎる朝食をとりながら、今日の予定を提督から聞いていた。
「演習?」
ダンテは注文したピザを食べながら、ソファにもたれかかる。少し怪訝な面持ちでその話を聞いていたが、次の提督の言葉でその表情が一変する。
「あなたの実力を見たいと思いまして。艦娘達と手合わせしていただきたいのです。」
「…hah、そりゃまた楽しそうだな。」
ダンテはにやけた表情を浮かべながら、ピザをさらに口に頬張る。電はそれを見て軽くため息をつく。一日ダンテと付き合って分かったことの中に、この表情をするときは決まってあまりいいことが起こらない、というものがあったからである。
「だが、俺にメリットはあるか?艦娘じゃなくて、深海棲艦と戦いたいんだがな。」
ダンテはそんな風につぶやきながら、ピザを一気に口に含む。提督は、少し苦笑いをしてその様子を見る。確かに、この演習ではダンテが何か得をするとは言えない。軽く考え込むような表情を浮かべた提督は、次のように述べた。
「…そうですね。では、この演習後には可能な限り要望にお応えしますよ。」
提督の言葉を聞いた電は、それは…と言いながらおろおろとしだす。ダンテは満足そうな笑みを浮かべて、ソファから立ち上がる。
「…そりゃ、うまい話だな。乗るぜ。」
ダンテはそう言いながら、両手を広げて見せた。電はそれを見て、はぁ…とため息をつきながら、どうなっても知らないと言わんばかりの視線を提督に向けていた。
「では、行きましょうか。」
提督はダンテにそう言いながら、外へ向かった。
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「実戦形式の演習を考えています。よろしいですか?」
「そっちの方が面白いだろ?」
提督の言葉に、ダンテは軽口で答える。その目は、少し離れた海上にて警備をする艦娘達を見据えていた。
「hah、海の上に立てるってのは本当なんだな。」
書類を見ながら確認作業をしている電と提督を尻目に、ダンテはそうつぶやく。
やはり、艦娘達の方から嗅ぎなれた匂いがする。しかし、今隣にいる電からはそんな匂いはしない。それは、艤装に関しての一つの事実を指し示していた。
今現状の戦闘スタイルとしては、海上で魔力による足場を維持して動き続けるのも悪くはない。だが、それだと純粋に戦闘を楽しめない。いつも地上の戦いではやらないことを、突然いつもと違う環境でやれば、失敗するリスクも上がる。
何とかこの事実を利用できないか、ダンテはにやけながら考え込む。
「…ダンテよ。」
と、そんな状態のダンテに、声をかかる。ダンテが軽くそちらを見ると、艤装をつけた艦娘たちが6人ほど立っていた。その中に、仁王立ちをした武蔵を見つけ、表情を柔らかくする。
「…hah、ムサシじゃねえか。」
ダンテはそう言いながら。それに対して、武蔵はじっとダンテを見据えるだけで、動かなかった。
それは、昨日の軽い衝突で見せつけられた強さの片鱗、そのことが彼女を離さなかったからである。
不意に、武蔵の口が開く。
「…私から演習に志願させてもらった。何分、最近は戦えてなかったものでな。」
「そいつはいいな。俺はストレス発散のいい的ってわけだ。」
武蔵の言葉に、軽いジョークを飛ばしつつも、余裕の態度を崩さなかった。武蔵はそれを見て、目を閉じ、この格の違いを理解するためにこの演習に臨もうと、覚悟を決めた。
「…この武蔵、演習といえど手は抜かないぞ。いいな?」
「Ha-ha!そう来なくちゃな。」
ダンテは武蔵の言葉に満足そうな笑みを浮かべる。周りにいる艦娘達が、その様子を黙って見ている。
「…ねぇ、本当にあの人攻撃するのかな?」
「さぁ…ご主人様はそう言ってたみたいだけど。」
駆逐艦の朧と、漣がそう言いながら、軽く武蔵の方を見る。武蔵の表情が、いつも戦闘の時に見せるような戦いを楽しみにしている笑顔だったため、少し身震いしていた。
「…まあ、なんだっていいけどさー。撃てって言われちゃ撃つしかないしねー。」
北上は気楽な表情を浮かべながら、そんな風に呟く。大井はダンテの方を睨みつけながらひたすらブツブツと、昨日の邪魔をしたことを後悔させてやる…と呟いていた。
「…で、なんで鈴谷な訳?」
鈴谷はそう言いながら、ため息をついていた。本来ならば、この時間は非番で熊野と一緒にどこかへ出かける予定だったのだ。オシャレな服も選び、街で遊ぶ準備もしていた。そして、いざ往かんとしているときに、急な招集命令であった。
「…昨日の今日で、ちょっちやりづらい…」
鈴谷は結局、あの後もしばらく熊野にダンテのことでいじられ続けたのだ。別にそんな気は全くない、と否定していた鈴谷も、なんだか今のダンテを見るとまた複雑な気持ちになる。実際、ダンテは外国人で顔立ちが整っており、綺麗な銀髪をなびかせる姿は様になっているのだ。
と、そこまで考えて鈴谷は頭をぶんぶんと横に振る。こんなこと考えていては、戦闘に支障がでると思ったからである。
ダンテはそんなことは露知らず、自分の仮説を立証するために、行動を起こす。
「イナヅマ、艦娘たちが履いてる、ブーツを持ってきてくれないか?」
ダンテは真面目な顔でそう電に告げる。電は頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいた。今までダンテに温和な表情を向けていた提督も、それを聞いてさすがに怪訝な面持ちでダンテの方を見る。
「…ダンテさん、艤装は女性にしかつけることができないのです。それでも持ってくるんですか?」
ダンテの言葉を聞いて、そう説明する提督の表情には、純粋にダンテのことを心配する感情も含まれていた。だが、ダンテはその真面目な表情を変えることはなかった。
しばらく、お互いをじっと見合い、静寂が支配する。その沈黙を破ったのは、提督のため息であった。
「…分かりました。電、お願いしてもいいかい?」
「りょ、了解なのです。」
電はとりあえず急いで工廠の方へと駆け出していた。提督はダンテの方をチラと見る。ダンテは先ほどと変わらぬ真面目な表情を浮かべてはいたものの、どこか楽しそうな雰囲気を漂わせていた。
「…武蔵たちは所定の位置へ。」
「了解だ。」
提督がそう告げると同時に、武蔵たちは艤装を展開して海上へと降り立つ。ダンテはただ、じっとその艤装を眺めて何も話さなかった。提督はその様子を訝しげにただ見ているのであった。
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「…お待たせしたのです。こちらが、艦娘用の艤装なのです。」
電はそう言いながら、ダンテの目の前にブーツと艦橋を模した、背中に背負うタイプである駆逐艦の艤装を置いた。ダンテはしばらく黙ってそれを見ていた。その様子に、提督と電は軽く息をのむ。
「…Hah。」
ダンテはそう軽く笑みを浮かべて、そのブーツを両手に持つ。その様子を、電と提督は黙って見守る。
ダンテの表情が不意に真面目になる。そして、そのブーツをじっと見つめる。決して長い時間ではなかったが、まるで何分間もそうしてかのように錯覚させるほどに、ダンテは集中していた。
しばらくした後、そのブーツを軽くカツンと合わせる。そしてその表情を笑顔に変えた。
「…このまま履けばいいか?」
ダンテはそう言って、ブーツを地面に置いた。それを見た電と提督が、困惑したような表情を浮かべる。
「ダ、ダメなのです!普通の人間が艤装をつけると、激痛が走り、最悪の場合死に至ると言われているのです!」
電はそう言ってダンテを止めるが、そんなことを気にも留めないでダンテはそのブーツを履いた。提督はその様子を不安げな面持ちで見つめる。もし、目の前でダンテが倒れてしまったら、どうすればいいのかを考えていたのだ。
しかし、当の本人は全く何も動じてはいなかった。
「…やっぱり、そういうことかよ。」
ダンテは納得したような表情を浮かべ、そのまま軽く目を閉じた。電と提督はそのダンテの言葉の真意が分かってはいなかった。
次回、ダンテに新しい力が…