俺と一色の御近所付き合い   作:時雨日和

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第6話 いつもと違う誕生日

8月8日朝

八幡「………仕事行きたくない」

俺の朝はこの一言から始まる。腐ってる目を一段と腐らせるようなクソ暑い朝、しぶしぶと起き上がり仕事の準備をする。朝飯は前日に一色が作っておいたものを食べ、部屋を出て、鍵をかけ、会社へと向かう。いつも通り、そう何も変わらない電車に乗る時も、会社に着いた時も、仕事をしている時も、昼飯を食べている時も、残業する時も、仕事が終わった時も変わらない。

帰りの電車9時前くらい

八幡「………(いつも通りだ…誰にも何も言われずに終わった。今日…誕生日何だけどな……誰にも祝われなかったな)」

ボーッと席に座りながら窓の外を眺めていると、いつの間にか次で降りる駅につく頃だった。

八幡「……何期待しているんだか」

ゆっくり立ち上がり開閉口の前に手すりにつかまりながら待ち、降りる。人混みの中をまるで俺を避けるようにスルスルと行き駅を出た。その時

「ヒッキー……」

昔の呼びなれた呼び名、聞きなれた声。今では懐かしい、聞いた瞬間すぐにわかった。

八幡「…由比ヶ浜…か?」

呼ばれた方を向くと予想通り由比ヶ浜が立っていた。

結衣「うん、そうだよ。久しぶりだねヒッキー」

八幡「おう、お前…何か雰囲気変わったな」

結衣「そ、そう?」

八幡「あぁ、なんつーか大人っぽくなったつーか」

結衣「そ、そうかな?えへへ…」

こういう雰囲気は変わらないけどな。

八幡「それで、どうしたんだ?誰かと待ち合わせか?言っておくがここ意外と何もない所だぞ遊ぶならもっと他のところ」

結衣「ち、違うし!遊びに来たんじゃなくて…」

八幡「なら仕事か?お前の仕事ってこんなところまで行くような所なのか?」

結衣「違うって!仕事でもなくて…その…」

八幡「……もしかして迷子か?」

結衣「馬鹿にしてるし!?違くて、その…ヒッキー……今日誕生日でしょ?だから、お祝いを言いに。誕生日おめでとうヒッキー!!」

八幡「………」

結衣「ヒッキー?」

八幡「おう…悪い、なんつーかそんな事言われるの久しぶりだからな。かれこれ何年も言われてないまである」

結衣「そっか…何か、ごめんね連絡も取ってなくて」

八幡「いやいいんだ、気にしてない。それよりわざわざそれを言いに来たのか?」

結衣「あぁ…うーん、それもあるけど……他にも、あるんだ」

八幡「あ?何だ?」

結衣「えっとね、ヒッキー…」

八幡「おう」

結衣「……あたし、ヒッキーの事が好き!!」

割愛

駅前で由比ヶ浜と別れた後から雨が降り始めた。生憎今日は傘を持ってきていない、それに何故か走る気にもなれなかった。俺は雨に打たれながら歩いて帰っていった。そしてアパートにつく頃には全身がびしょ濡れだった。俺はゆっくりと階段を上がった。そして部屋の前に着いた。

205号室

チャイムを鳴らす。はーいという聞きなれた声とともに扉が開いた。

いろは「どちら様…って先輩!!どうしたんですか!?びしょ濡れですよ!!」

八幡「いやそんなん知ってる、傘を忘れてな」

いろは「忘れたって…だったらわたしに連絡くれればいいのに」

八幡「お前呼んだら何か借りを作っただの言って何か請求されそうだったからな」

いろは「そんなことしませんよ!わたしをなんだと思ってるんですか…とにかく風邪引いちゃいますから早く部屋に……そういえば何で先輩こっちに来たんですか?まさか!濡れたことを理由にしてわたしの所のお風呂を使って何かいかがわしい事でもしようとしてましたか!?ごめんなさい流石に気持ち悪くて警察呼びそうで無理です!」

八幡「飛躍しすぎだしそんな事しねぇしそんな事大声でいうな!マジで通報されるじゃねぇか」

いろは「はぁ…だったら何でですか?」

八幡「(ため息付きやがった…)いや、まあなんつーか報告を…な」

いろは「?何ですか?」

八幡「……さっき由比ヶ浜に会って告白された」

いろは「え?……う、嘘ですよね?結衣先輩がこんな所に来るはずが…」

八幡「俺の誕生日だから祝いに来たらしい」

いろは「そ、そうですか…でも何でわたしに報告するんですか?」

八幡「それはだな」

いろは「あ…先輩わかりましたよ。あれですよね、もう部屋に来るなって事ですよね?もうご飯作らなくていいって事ですよね?そうですよね、先輩もう彼女いるんですもんねわわたしなんか邪魔ですよね」

八幡「おい一色」

いろは「いいんですよ、先輩。今までわたしのお節介ですから、先輩が気に止むことは」

そこから一色は俯く。

八幡「話を聞け」

いろは「な、何ですか?…先輩……」グスッ

八幡「…由比ヶ浜の告白は断った」

いろは「え?……何で…ですか?」グスッ

八幡「気になる…いや好きな奴がいるって言った」

いろは「え?好きな人…」

八幡「そいつはいつも俺の部屋に来て飯を作ったり話したりして、たまに一緒た買い物行ったり祭りに行ったりする。いつもあざとい後輩だよ」

いろは「それって……先輩…それって口説いてますか?」

一色は俯いていた顔をあげ、涙目で上目遣いで俺の顔を見てきた。

八幡「あぁ、口説いてる。一色、俺はお前の事が好きだ。久しぶりの再開から今まで飯を作ったり色々して貰って、たまに来れない時とかお前の飯が食えない時とか物足りないとか寂しいとか思っちまう。なんつーか…だから俺と付き合ってくれ」

いろは「…何ですかそれ?正直ちょっと…いえ結構重いです。」

八幡「…わる」

いろは「でも…」ギュッ

八幡「っ!?お、おい」

いろは「先輩にそこまで思って貰えるのは重い分プラスされて嬉しいです。しょうがないので付き合ってあげますよ」ギュッ

八幡「お、おう……濡れるぞ」

いろは「先輩…ここは先輩も抱きしめる所ですよ。ほんと先輩はヘタレですね」ギュッ

八幡「うっせ…ありがとな一色」ギュッ

いろは「ふふ…そうですよ。わたしに感謝して下さい。ずっと…待ってたんですから…」ボソッギュッ

八幡「……悪い」ギュッ

いろは「さて、それじゃあ先輩早く先輩の部屋に行きましょう!早くお風呂入って下さい。その間にご飯作りますから」

八幡「…悪いな」

いろは「何今更いってんですか。わたしは先輩の彼女ですからね、当然です」

八幡「そ、そうだな…行くか」

いろは「はい!あ、先輩待ってください!」

八幡「何だよ?」

いろは「先輩、誕生日おめでとうございます。はい、プレゼントです」

そう言って渡して来たのは腕時計だった。

八幡「お、おう…サンキューな」

いろは「いえいえ、いいんですよ」

八幡「それでその…俺だけ祝われるのもあれだから、ほらお前の誕生日とか祝ってないだろ?だからその代わりのお前の誕生日プレゼント」

いろは「先輩回りくどすぎて何言ってるかわかりませんよ。おぉ、ネックレスですか先輩にしてはセンス良いです!ありがとうございます♪」

八幡「(一言余計だ…)あと…これ」

いろは「ん?鍵ですか?」

八幡「七夕…願いなんだろ」

いろは「!?せ、先輩!見たんですか?!」

八幡「見たんじゃねぇ、見えたんだよ」

いろは「そんなの一緒です!!」

八幡「あんま大声出すなよ、近所迷惑だ。ほら行くぞ」

いろは「もう!先輩の馬鹿!!」

そして部屋の前

いろは「あ、待ってください先輩。わたしが開けます」

八幡「ん、おう」

ガチャバタン

八幡「何で閉めるんだよ…」

ガチャ

いろは「おかえりなさい、先輩」

八幡「っ!?お、おうただいま」///

 


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