ココロの声をキミと。   作:夢いろは

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一話です。宜しくお願いします。
突然ですがアンチ・ヘイトってなんですか?



一章 他クラスの彼ら
ターゲット1 キッカケの音


目覚まし時計の音が鳴り響いた。

白を基調とした物淋しい部屋の隅に、タオルケットにくるまって寝ている少女。

手探りで目覚まし時計を止める。

(朝・・・)

むくりと起きあがり、少女は小さくあくびをする。

右手の中指に嵌められたお守りの指輪の存在を確認して、安心したように呟いた。

 

「・・・今日も、ちゃんといる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は部屋を出て、洗面所に向かう。

冷たい水で顔を洗い、寝惚けた頭を無理矢理起こした。

その後、櫛を手にとり顎の辺りで揃えられた黒髪をとかす。

左目を隠すために伸ばされた前髪も忘れずに。

鏡に映る彼女の顔は、いつも通りの無表情を貫いていた。

とかし終わり、櫛を片付けて、最後に左目にかかる前髪を軽く持ち上げる。

それは、自分が自分であることを証明するための、彼女の日課だ。

 

 

 

普段から見える彼女の右目は、青空のような青い瞳。

 

 

 

前髪に隠されていた左目は――曇り空のような灰色。

 

 

 

 

 

少女―綾見叶葉には、ある秘密があった。

それは、色の違う左目に宿る゙力゙。

叶葉には、゙左目に映る人のココロを読み取る゙力があった。

前髪を伸ばして左目を隠しているのには、理由が3つある。

一つは、左目の視界を狭くする事。だが、これについては、彼女は右目と左目を別々に動かせるので、いつも左目の視線を下に向けて出来るだけ視ないようにしているためそこまで重要ではない。

二つ目は、オッドアイであることを隠すため。

そして、三つ目は力を抑えるためだ。

叶葉の左目は、彼女の意志と関係なく映った人全てのココロを読み取る。

だが常に読み取り続けていては、余りの情報量に叶葉の頭に異常が出るのだ。

そのための、前髪。前髪で隠していると。左目に映るココロが曖昧になるのだ。

具体的にいえば、『喜び』『悲しみ』といった人の感情のみを読み取るようになる。

 

彼女はこの力が決して好きではない。まるで人のココロを盗み見しているようで気持ちが悪くなる。

だが、受け入れてはいる。願いを叶える為にと与えられた大切なモノだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、7時半。

外部活が朝練を始める頃の時間に、叶葉は自分の通う並盛中学に来ていた。

叶葉は何時もこの時間に登校している。誰もいない教室に先に入ることで、早くその場に馴染めるように。

(・・・朝から大変そう)

グラウンドを走る野球部を尻目に校舎に入る。

彼女のクラスは1-Bだ。

友達がいない叶葉は常に一番後ろの窓側の席で本を読んでいる。

今日も1人きりの教室で席に座り、本を取り出す。

静かな教室にはページを捲る音のみが聞こえる。

やがて少しずつ生徒が登校しだし、教室はだんだん騒がしくなっていく。

誰かの笑い声が朝の教室を彩っていく。

しかし彼女は1人だ。

誰も彼女のことを気にしない。

1人。

独り。

彼女は、常に独りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時もなら、そろそろ教室の前のドアから担任が入ってきてもおかしくない時間だ。

しかし、なかなか先生はやって来ない。

代わりにやって来たのは、他クラスの生徒だった。

 

「おい聞いたか!?あのダメツナが体育館で持田先輩と勝負だってよ!!」

 

ざわっと、教室が一際ざわめく。

ダメツナとは、隣のクラスの沢田綱吉とかいう男子生徒のはずだ。

他人との接点がまるで無い叶葉ですら知ってるのだから、彼は相当な有名人なのだろう。ただし、嫌われもの、という意味でだが。

叶葉は、沢田綱吉のことが嫌いではなかった。

自分と同じ、友達のいない人間。

同じ学校の生徒という以外接点は何もないのだが、沢田綱吉は叶葉が気になっている人間の1人だった。

(体育館で勝負・・・?あの、沢田くんが?)

 

 

 

 気になる。周りの皆は見に行くようだ

   私なんかが見に行っていいんだろうか

 あのダメツナが勝てるとは到底思えない

   負けるところなんて見て欲しくないはず

 でももしも沢田くんが勝てたらなんて

   出来ない人をバカにするような趣味は

 見に行きたいでも嫌われたくない

   どちらを選ぶ?だったら私は―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キミは行かなくていいのかい?」

背後から声がした。

さっきまで騒がしかった教室も、今は叶葉しかいないため静けさを取り戻している。

叶葉にまともに話し掛ける存在。

そんな人間は、1人しかいない。

「・・・ピエロさん」

「やあ。久し振りだね」

そう言ってピエロは微笑んだ。

「それで?もう一度聞くけど、キミは行かなくていいの?気になるんじゃないのかい」

「・・・別に」

―別にどうしても見に行きたいほどじゃない。

叶葉はそう言いたいらしい。

「そう?多分面白いものが見れると思うけどな」

「・・・趣味悪い」

「あ、違う違うよ、沢田綱吉が負けるのが面白いんじゃなくてね」

「じゃあ、何?」

「何だろう。感情の変化かな?」

「・・・何時でも見れるけど」

「そうなんだけど」

叶葉の返答にピエロは困ったように笑った。

「キミにとって大切な何かが見つかると思うんだけどな」

「・・・大切な、何かって?」

「さあね」

そう言ってピエロは今度はクスクスと笑う。

ピエロは何時も答は出さない。答に通じるヒントを出すだけ。

「じゃあね、叶葉。頑張ってね」

そうしてピエロは風のように消えていった。

 

今度こそ叶葉以外居なくなった教室で、叶葉はピエロの言葉の意味を考えていた。

無意識に左手が左目を覆い隠すように触れる。

(大切な何か・・・・・・)

叶葉のココロがもう一度選択肢を投げ掛けてくる。

 

 

 

 やっぱり私が見に行っても邪魔になるだけ

   けど私は大切な何かを見つけに行きたい

 私なんかが見てもきっとわからない

   それが私の願いへと繋がるのなら

 嫌われたくないけど見に行きたい

   どちらを選ぶ?だったら私は―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かな教室とは打って変わり、お祭り騒ぎの体育館。

叶葉は結局綱吉の勝負を見に来ていた。

(バレないようにこっそり見ていよう)

出来るだけ目に付かない場所を、と叶葉は二階の角から全体を眺める。

『怒り』のココロが見える男の人―多分持田先輩―と、ニヤニヤしている審判らしき人。そして肝心の綱吉は・・・。

(・・・いない?)

「ぬ、沢田はどうした?」

「トイレにいきたいっていうんでいかせました」

気付かない内に逃げていたようだ。

(見に来た意味ないじゃん・・・)

折角嫌われる可能性のある選択肢を選んでまで来たのに、当の本人がいないのでは台無しだ。

(もういいや。教室戻ろう)

もう見るものは無いとでも言うように、叶葉はこっそりと体育館を抜け出した。

 

 

 

 

 

 

余談だが、叶葉は目がやけに良い。学校での視力検査では何時も2.0だが、それ以上に目が良い自信がある。

また、ピエロとの特訓の成果により、気配を消すのが得意だったりする。

そのため、教室に帰る途中で綱吉を遠目に見つけて急いで隠れても、彼が叶葉の存在に気付く様子はなかった。

誰かと何か話しているようだが、遠すぎてよく聞き取れない。

だがそんなことは叶葉にはなんの問題にもならなかった。

(『恐怖』と『失望』・・・いや、あれは『自虐』?)

大方、「俺はやっぱりダメなんだ」とか言ってるのではないだろうか。

こんな弱い彼を私はどうしても少しでも勝てるだなんて思ったんだろう。

叶葉は自分の見る目の無さに呆れた。

そして、遠回りしていこうとしたその時、大きな音が聞こえた。

 

 

 

それは、普通に生活していれば聞くはずのなかった音。

 

この町においては、これから日常的に聞くようになる音。

 

そしてこれはきっと、彼女を変えるキッカケの音。

 

 

 

聞こえたのは、一発の銃声。

 

 

 

倒れる綱吉。彼のココロが目まぐるしく変化するのが視える。

『自虐』から『悲哀』へ

『悲哀』から『後悔』へ

そして『後悔』はやがて『覚悟』へと形を変えた。

 

 

 

復活(リ・ボーン)!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叫びながら額に炎を灯し、パン一姿で走っていった綱吉を叶葉は必死に追いかけた。

(さっきの変化・・・一体何があったの!?)

銃声だとかパン一だとか言いたいことは沢山あるのだが、今はそれどころではない。

彼を追いかけて着いたのは、先程抜け出した体育館。

銀髪の少年の横をすり抜けて中に入ると、予想外の光景が広がっていた。

それは、ダメツナと呼ばれる彼が持田先輩に勢いよく飛び掛かる姿。

綱吉はそのまま持田先輩の髪を何本か引っこ抜いて叫んだ。

「100本とった!!!」

その様子に体育館は笑いに包まれる。

そのまま勢いで持田先輩の髪を全て引き抜いた綱吉に軍配が上がった。

(嘘・・・勝っちゃった)

怖くて逃げていた彼が。

自分なんかがと嘆いていた彼が。

(凄い・・・信じられない)

出来るわけがないと思っていた彼が、やったのだ。

周りの人達から誉められ讃えられる彼は、何処と無く嬉しそうに見えた。

視えるココロは『驚き』と『喜び』。そして、微かに視える『自信』。

叶葉は周りに気付かれないようにそっと左目にかかる前髪を持ち上げた。

 

 

 

『そっか・・・出来るんだ。ダメダメな俺でも、死ぬ気でやれば出来るんだ』

 

 

 

"曇り空の左目"から伝わる、彼のココロの声。

その瞬間、叶葉の中で何かの音がした。

(・・・なれるかな)

私も、願いがあるのに怖くて逃げてた私でも。

(あんな風に、変われるかな)

叶葉は周りの喧騒など耳にも入らないほどに、夢中で綱吉を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・やっとだね」

 

"彼だけが許された世界"で、青年は静かに笑う。

 

「今日、キミはやっと、変わるための第一歩を踏み出した」

 

真っ白な世界を見渡して、そして上を見上げた。

 

目を閉じると、思い描くのは弱く儚い少女の姿。

 

「今日のキミのその想いが報われる日が来ることを、願っているよ」

 

 




ツナ登場です!(ただし見てるだけで関わってないw)
次は嵐とばして雨の予定です。
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