別の作品で悩んでいる時にふとネタが降ってきたので投稿します。
三人称書いたの久々だ・・・
―仲いいなぁ、あの三人。
放課後、叶葉は屋上から帰宅していく生徒を眺めていた。
視線の先にいるのは、沢田綱吉、獄寺隼人、山本武の三人である。
綱吉と山本は、あの自殺未遂事件を経て親友と呼べる仲になったらしい。獄寺――最近転校してきたらしい、綱吉をやたら崇拝している男子生徒――は山本のことを友達とは思っていないようだが、綱吉の側にいる人間として少しは認めているようだ。
今日も何やら笑いながら喋る山本に対して獄寺が騒ぎたて、それを綱吉が慌てて収めるという光景が見えた。
綱吉は困った顔を浮かべてなにやら叫んでいるが、そのココロの中に『楽しみ』があることを、叶葉はとっくに気づいていた。
友達が居なかったはずの彼に、友達ができた。それも、一気に二人も。
同じクラスではないので、一体なにがあってあのようなかんけいになったのかはわからないが・・・
ーもう、沢田くんを私と同じだなんて考えちゃダメだな。沢田くんに、失礼だ。
羨ましい。ただただそう思う。
私も友達が欲しい。ああやって一緒に入れる友達が。
風が吹いた。
右目と同じ色をした空に、雲が穏やかに流れている。
風と共に木々が揺れ、優しい音を立てる。
なんだかいつもより世界がゆっくりになった気がして叶葉は目を細めた。
こんな日は、自宅の部屋で温かい紅茶を飲みながら読書をするのにピッタリだ。
今日の紅茶は何にしよう。いつもは砂糖たっぷりのミルクティーだが、たまには甘酸っぱいレモンティーもいいかもしれない。
そういえば、この前借りた『ともだち』というタイトルの本が今もバッグの中に入っていることを思い出す。
もう帰ろう。そして今日は、家でこれを読もう。温かいレモンティーを飲みながら、暖かい世界を覗きに行こう。
視線を綱吉達から外し、足元の荷物を手にとってーーー
ーーー先程から感じていた気配に目を向けた。
「ワォ。君、僕に気づいてたのかい?」
叶葉のいる場所よりも高い所、給水所の上にいる学ランの男子生徒。
それは、叶葉ですら知っているこの街の絶対的存在の姿で。
「・・・敏感、なので」
並盛中の生徒なら、誰もが恐れ慄き、逃げ出すであろう場面。
何故なら相手はあの恐怖の象徴たる風紀委員長だ。
群れを嫌い、気に食わなければ全てを咬み殺す、並盛のトップ。
なのに、はじめて会った筈なのに、なぜかいつもより緊張していない自分のココロに、叶葉は首を傾げた。
ーーーそれは、彼のココロを既に"曇り空の左目"が捉えていたからかもしれない。
はじめまして。孤高故に、孤独なヒト。
それは、ただの気まぐれだった。
彼の愛する母校は今日も平和に放課後を迎えた。
部下である風紀委員のメンバーは、これから並盛町の風紀を守りに町へ繰り出すだろう。
帰りのホームルームの終わりを告げるチャイムがなる。
応接室で書類をながめていた彼は、少し休憩とばかりに席をたち、自分専用の昼寝場所、即ち屋上へと足を向けた。
階段を登り、扉を開けてそのまま空を見上げる。
今日は不思議と見つめていたくなるような青空だ。あの空の元で寝るのは悪くない。
彼は寝ることは嫌いではなかった。
目を瞑っていれば、彼の嫌いな群れるしか能の無い草食動物達を視界に入れずに済むから。
それにーーー目を閉じてしまえば、そこは自分だけの場所だ。
屋上はやはり無人で、彼は特等席とも言えるお気に入りの場所である給水所の上に登り寝転んだ。
風に揺られて髪が靡く。
そして、いつも通り目を閉じる。
余計なモノは全てシャットダウンして、暗い中へと意識を向ける。
静かに、静かに。
どれくらい、たっただろう。
屋上の入り口の扉の開く音がした。
ー僕の眠りを妨げるなんて、いい度胸をしているね。
パチリ、と目を開けた。
先程と特に変わらない青い空と白い雲。
眠り出してから何時間も経過したような、10秒も経ってないような奇妙な感覚を胸に、その場でムクリと起き上がった。
そして、屋上の侵入者に目を向けた。
ソレは、最近新調したばかりの冊の側に立っていた。
黒髪のショートカットで、背の低い女子生徒。
何もせずに、ただそこから生徒の帰宅風景を眺めていた。
何故、そのような選択をしたのか、後から思い出し考えてみても答えは謎だ。
相手が女子だったから?
否、女子だろうと彼の気に触るモノは全て咬み殺してきた。
相手が一人だったから?
否、一人でも眠りを妨げたとあらば咬み殺す対象だ。
静かだったから?
否、静かだろうと五月蝿かろうと眠りを妨げた事実はかわらない。
だから、それは本当にただの気まぐれなのだ。
屋上から出て行くよう声をかけるでもなく、咬み殺すでもなく。
ただ静かに彼女を見つめるなんて選択をしたのは。
それから少しして、彼女は帰宅風景から目を離し、
迷う事なく真っ直ぐに彼の方を向いた。
見えている水色の右目と視線が合う。
「ワォ。君、僕に気づいてたのかい?」
「・・・敏感、なので」
抑揚のない声。
下手すると聞き逃しそうな小さな声で、しかしはっきりとそう言った彼女に少しばかり驚く。
この並盛で、彼に怯える事なく話しかけることの出来る人など、限られている故に。
ーへぇ、面白い。
決して肉食動物には見えない。しかし、そこらの草食動物とも何か違う気がした。
だって、音がしない。
普通なら、そこに人がいるだけで何かしらの音が聴こえてくるはずだ。
なのに、屋上の扉を開けた音以来、彼女からはなんの音もしなかった。
まるで、本当は誰もいないみたいに。
「君、名前は?」
「・・・1-B、綾見、叶葉」
「そう」
それだけ聞いて、彼は彼女から目を離した。
そして、そのままもう一度ゴロンと寝転がる。
先程と少し形を変えた雲を見て、そのまま何事もなかったかのように目を閉じた。
そして、次に目を開けた時には既に屋上に彼女の姿はなく。
自分を起こす事なく屋上を離れたという事実に笑みを浮かべた。
それは、彼が小動物に向けるモノと似ていて。
空は、いつの間にか青からオレンジへと表情を変えていた。
それから、たまに屋上では、給水所の上で昼寝をする風紀委員長と、柵の側で佇む女子生徒という奇妙な光景が見れるようになった。
互いに話すでもなく、ただそこにいるだけの存在。
友達ではない。そもそもあれ以来会話は一度もしていない、名前のない関係。そもそも二人の間に何かしら関係があるのかどうかすら怪しい。
でも、それでいいと、お互いに思っていた。
あり得ないくらいに穏やかな二人の邂逅の話。
次は・・・どうなるかな?
思いついたらまた書くので気長に待っててもらえると嬉しいです。