彼の名は。   作:ma96

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pixivの方で載せてたのですが、気分でこちらにも載せます。
君の名は。が好きなので、それだけです。ww


彼の名は。前編

 

「えッ!。あの二人の…結婚式?。」

 

 

 

ある休日の日。恋人の三葉が気に入り通っているカフェでのんびりとお互いの休日を過ごしていた時の出来事。

瀧は三葉の唐突な話に驚きを隠せずにいた。

 

 

「そうなんよ。二人の…、サヤちんとテッシーの結婚式。あー、あの二人も遂に結婚かぁ、素敵やね瀧君。」

 

 

テーブルの上に置いてあるカプチーノをスプーンでクルクルと混ぜながら三葉は宝物入れから大切なモノを取り出してきたように満足気に微笑む。

 

 

 

三葉曰く、二人の結婚式は岐阜市内で行うらしい。

彗星の災害の一件で現在も国の総力を挙げて復興活動中の糸守町では式を行うことがまだ不可能だが、それでもやはり馴染みのある土地で式をあげたいらしく、岐阜市内を選んだらしい。

そして来月末の休日に結婚式が開かれるとの事だ

 

「ふぅん。まぁ正直な話あの二人なら納得なんだよな。サヤちん…さん、とテッシー…さん、の仲は三葉と入れ替わった時にこの目で散々見たから。」

 

 

三葉と入れ替わっていた時は特に何も感じなかったが今の自分、立花瀧はあの二人とは関係が浅い。

なんとも言えない微妙な距離感に包まれ、ついぎこちなくなってしまう。

 

三葉も瀧のそれを感じたのか「瀧君なら大丈夫やよ!。」とこれまた無邪気な笑顔を瀧に向ける。

 

 

「…?。」

 

しかし瀧はその太陽のような笑顔にではなく、三葉の言った大丈夫やよという単語に反応した。

口元まで運んだカップを一旦元の位置に戻し、先程の疑問を三葉に言う。

 

 

「ちょ、ちょっと待て三葉。何が大丈夫なんだ??。」

 

 

瀧のその言葉に三葉は首を傾けでキョトンとした目で瀧を見る。

まるでこの人は何を言っているんだと訴え掛けているような仕草。

 

三葉のその仕草と態度に釣られて瀧自身も鏡のように同じ仕草を取る。

 

フクロウかよ。

 

そう感じたが話が拗れそうなので心の内に閉まっておく。ニヤけそうな気持ちを抑える為にコーヒーをズズッと一口飲んで心を落ち着かせる。

そしてフクロウからメトロノームみたいになっている可愛い彼女さんに先程の真相を求める。

 

 

「だから、三葉のその言い分だと俺がまるで二人の結婚式に出席するみたいだろって。」

 

「え?。瀧君も出席するんやよ??。」

 

 

間髪入れずに三葉はそう答えた。

 

 

「っは?、ぇッ!?。」

 

予想もしていなかったその言葉に、返事の言葉が詰まる。

瀧の動揺を表現してくれたかのようにコーヒーと一緒に頼んでいたチョコレートケーキの破片がフォークから落ちた。

 

「な、なんで?。」

 

色々と言いたいが、何とかこの現状で発することが出来た返事がこれだ。

 

 

 

「瀧君は二人の結婚式に行きたくないの?。…駄目。瀧君も行かなくちゃ駄目!。瀧君には二人の晴れ舞台を見届ける義務があるんやからね!。」

 

三葉は少し残念そうに。というより明らかにテンションが下がったかと思うと、今度はムッとした表情で必死に瀧を説得する。

 

 

「落ち着けって三葉。ほら一旦カプチーノを飲んで、はい深呼吸すーはー吸ってー吐いてー。」

 

相変わらず喜怒哀楽が激しい女だと再認識する。

しかし、そんな三葉を見ていると自然と心が和むのは惚れた弱みと言うのか何なのか。

 

 

言われた通りに深呼吸をする三葉を見て心を落ち着かせた瀧は先程の結婚式の話を冷静に考える。

 

 

生憎、前の日は休日だが当日は出勤日。

就職活動でもがき苦しんだが運命のように何かに導かれる感じでその業界では有名な大手建設事務所から内定を一つ貰いそこに入社する事に。これには司も高木も大騒ぎ。

そして最近ようやく有給を取れるようになったのだ。この半年間悔しい思いも情け無い思いも沢山してきたが三葉がいてくれたおかげで充実していた。

それもこれも、あの星が降った日に、テッシーとサヤちんが三葉を信じて頑張ってくれたから。だからこの日常がある。

 

三人への恩返しのつもりで立花瀧としては是非出席したい。

 

しかし。瀧は新入社員なのだ。ようやく有給を取れる様になったからといって、早速上司に来月は有給を取って友人の結婚式に行ってきますと言うのは果たして良いのか?。間違いなく好印象ではないのは確かだ。相手次第では完全に非常識人扱いだってされる。有給は社会人の権利だが、それ以前に分をわきまえなければと思ってしまう。

何より早く一人前になりたいという願望が瀧にはあるからだ。それは自分の為でもあるし三葉との将来の為なのだが、恥ずかしいので一度もこの手の話はした事がない。

 

「た…ん!。」

 

そもそもあっちで二人の結婚式となると糸守の人達で集まるってこと。

みんな顔見知りなのに、自分一人。完全に浮く。

まず誰だお前?ってなるだろう。

っていうかそもそもテッシーとサヤちんだって俺とは顔見知り程度で仲が良いわけではない。俺が知ってるからって一方的に声かけて向こうから、なんで?何て言われたら、当然わかってはいるけどヘコむ。

 

「…君!。」

 

三葉の為に行きたいけど、主役はあくまで二人だ。もしかしたらあの日以来に糸守町の人達が集まる機会なのかもしれないだろう。そんな折角の機会を混乱させるわけには…。

 

「瀧君!。」

 

「うおう!?。」

 

 

意識が頭の中に集中して心ここにあらず状態だったの間抜けな声が漏れてしまい

コーヒーの表面にから見えた自分の顔が随分と滑稽であった。

 

 

「どうした三葉?。…そんな不機嫌な顔してさ。」

 

ん〜。と唸ってこちらを睨んでいる。

眉間にシワを寄せてまるで神社の狛犬を彷彿させるしかめっ面。

 

「もう、何度も呼んでるのに!。デート中やよ、まったく。…か、彼女を放ったらかしにするのはよくないなぁ。」

 

最後のセリフは恥ずかしかったのか自分で言って顔を赤くしている。

それは悪いことをしたと瀧は素直に三葉に謝罪を入れる。

 

 

「あー、ごめん。すまん。もう好きな相手に寂しい思いさせないから機嫌なおしてくれよ。」

 

 

「…す、き!?。えへへ…って、もうっ!。私はそんなに甘くないんやからね。」

 

 

「ははッ。わかってるって。…あのさ三葉、二人の結婚式の話なんだけど。」

 

 

 

「やっぱり、駄目…かな?。私は瀧君と行きたい。」

 

 

後半は独り言のようにボソッと溢れた。だけどしっかりと瀧には聞こえた。

さらに三葉は顔全体をこちらに向けずに、何かを強請るように視線だけを瀧に向ける。俗にいう上目遣い。

瀧の心を貫くのには十二分。オーバーキル。

 

 

「…はぁ。わかったよ。とりあえず今夜、上司に連絡して明日にでも相談してみる。」

 

駄目だ、敵わない。

そう思ったら答えはあっさりと口から出た。

 

お前、散々悩んでたのに!。と自分で自分にツッコミを入れたのは恐らく人生で始めてかもしれない。

 

 

「ほんっとッ!?。ありがとう瀧君!、大好き!。」

 

 

場所もわきまえず三葉は俺の手を握り、満面の笑みを浮かべる。

背景から満開の花が咲き誇っているオーラを放ち、瞳がキラキラと輝いているではないか。

身を乗り出しているから私服にケーキのクリームが付着しそうだったので空いている片方の手でケーキをソッと退かす。

大丈夫。まだ俺は冷静だ。

 

そう自分に言い聞かせ。手を包み込む暖かさをもっと堪能し続けたいという気持ちをグッと堪え、できるだけ優しく、壊れ物を扱う様に手を解く。

そして三葉の肩を掴み、元の位置に戻す。

 

 

「あ…。っああ、ごめんね瀧君。ついっ。」

 

名残惜しそうに俺の手を見詰めていたが、直ぐに我に帰ると林檎の如く真っ赤になり手をワタワタと動かし顔を覆う。

 

 

 

立花瀧として初めてテッシーとサヤちんの前に三葉の紹介で立った時に二人が言っていたが、人前で場を忘れるくらいに感情的に喜ぶ三葉を見るのは珍しいらしいのだ。

自分には見慣れた光景だが、周りは珍しいと口にする。

胸の奥がこそばゆい感じになる。この感覚は三葉と入れ替わっていた時。あの時に湧き出てきた感覚と似ている。

自分が知っている素直で天真爛漫な恋人。周りが見ているお淑やかで凛とした宮水家の女。どちらが本当の彼女なのだろう?。

 

 

 

少なくとも。自分の目の前にいる彼女がそれを望んでいる。それは確かなことだから瀧はそれに精一杯答える。

星が降った日に誓った、必ず会いに行く。その願いは叶った。なのに…。

 

人間は欲深い生き物だと思う

 

 

その言葉を、湧き出てきた気持ちを。僅かに残るコーヒー諸共一気に腹に流し込む。

 

さて今月はこれから地獄か。

残業三昧で三葉に会える時間が短くなるんだから。

 

「ふっ。有給がまだ決まったわけじゃないのに、早とちりすぎだよな。」

 

我ながら人のことを言えない浮かれ具合だなと笑ってしまいそうになる。

 

 

 

「ちょっとなにぃー。瀧君、一人でニヤニヤなんかしとって気持ち悪いよ。」

 

 

「誰の所為だよ。まぁいいや、そうと決まったら早く会計済ませて出るぞ。今日という時間を一分一秒と無駄にしたくない。」

 

そう言って瀧は三葉の皿の上に置いてある苺をフォークで刺すとそれを自分の口の中へと運ぶ。

その光景を間近で見ていた三葉は、一瞬思考が止まり一時停止みたいに固まると直ぐさま今度は早送り再生のように瀧に突っかかる。

 

 

「あッー!。私の苺ぉ!。何で食べちゃったのよー!!。」

 

 

「プフッ。あはははッ。すまん、残したのかと思った。」

 

もちろん嘘だ。三葉が好きな物を最後の楽しみに取っておくのは知っている。

こういった反応がいちいち可愛いのも知っている。

 

 

 

 

 

「瀧君のバカ!、アホ。今日一日は絶対に機嫌直してやらんからね。」

 

会計を済まして外に出た矢先に三葉が瀧に迫る。

プリプリと可愛いふくれっ面を眺めるのも良いが、悪化して本気で怒ったりすると機嫌を直すのに一苦労だからこの辺でご機嫌取りをしようと瀧は行動に移す。

 

 

「三葉、悪かったって。その代わりに今日の晩ご飯は三葉の好きな食事をご馳走するよ。なっ。だから機嫌直せって。」

 

 

ほんの数歩前を歩く三葉はその言葉に反応したが悟られまいと姿勢を正す。

 

「…なんでも?」

 

 

「おぅ。なんでも。」

 

 

「本当になんでもええの?。」

 

 

「いいよ。今日は元々そのつもりだったし。」

 

 

「……。んっ。」

 

答えを待っている瀧の目の前に

白く儚く細い、懐かしさを感じさせる綺麗な腕が伸びてきた。

 

 

「三葉??。」

 

瀧はその折れてしまうんじゃないかと何度も思った腕の持ち主。一歩先を歩き、顔はこちらに向けずに腕だけをこちらに伸ばす彼女を見る。

 

 

「んっ。」

 

一言そう言って、手を宙でさまよわせる。

まるで半身を探すように、寂しいと伝えているように。

 

 

「わかってるって。ついさっき約束したばかりだもんな、…これで満足かい?。」

 

カフェで約束した好きな相手に寂しい思いはさせない。

自分から一歩先を歩いたのに寂しいから放っておかずに構ってと言ってくる彼女。

 

瀧は三葉の手に自分の手を重ねる。俺はここにいるよ。と想いを込めて優しくギュッと握ると、さまよっていた手は、半身を見つけたと言わんばかりに心地良い力で握り返してくる。

 

この腕の持ち主の方を見ると、そりゃもう幸せそうな顔。無意識にえへへ、ウフフ。と笑い声も漏れているほどだ。

 

距離もいつの間にか真横になり、お互いの肩同士がぶつかりそうになっている。

 

 

 

 

 

 

「瀧君。私、瀧君の手料理が食べたいわぁ。イタリアン!。」

 

 

「そんなのでいいのかよ?。もっと贅沢で豪華なモノとかでもいいんだぞ?。」

 

 

「瀧君と一緒に、瀧君の手料理を食べる。瀧君尽くしやからものすっごく贅沢やさ!。」

 

 

「…ッ!?!?。イヒヒッ。なん…だよそれ。」

 

今、自分はきっと凄くヘンテコな顔をしているだろう。もう社会人だぞ、かっこ悪すぎる。

 

せめてもの抵抗として、瀧は自分の口元を片手で覆い隠した。

 

 

 

「幸せやね。」

 

 

 

 

「…ッはやく行くぞ。」

 

照れ隠しのぶっきら棒な言葉。声が裏返らなくて助かった。

 

 

「うん!!。」

 

 

二人過ごすシティライフ。

何気ない買い物も食事も、ただ手を繋いで歩くだけなのに。

普段の東京よりも色鮮やかなで新鮮。

 

 

まだまだ東京の外は明るい。

そして、夜になっても。東京の夜は長い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

瀧はアラームが鳴る前に目を覚した。

 

目の開き具合も絶好調で。

カッ!と、開眼した時の定番効果音が出ていても可笑しくないくらいの勢いだ。

 

 

頭の中で、最近お気に入りなバンドの曲が再生され、軽快なステップでリズムを刻む。

 

いつもより気合いを入れて身支度を進めた。

歯磨きをして、顔を洗い。鏡に映る自分を確認する。

 

「よし。」

 

鏡に映る自分が笑っているのを確認し、満足気に声を出し決意を固め頷く。

 

 

手早く食事を取り、いつもよりキツくネクタイを締める。

 

 

 

 

 

 

 

「ッオエ。」

 

 

やっぱりネクタイはいつも通りに。

 

 

 

出勤準備が予想以上に早く終わってしまったので、相棒である革靴を磨く。

 

 

 

 

自分がまだ中学生の時。部活で熱中していたバスケットボールの試合の前日などにも今と似たような事が度々あったのを思い出した。

 

あの時はNIKEのバッシュだったが今はmadras Walkの革靴。

そこはまったく違うが。

どちらも定番で、機能性を重視している点では同じかもしれない。

 

 

 

 

そして。もう一つあの時と同じ状況なのは。

 

勝利をもぎ取ると内で燃えている、断固たる決意だ。

 

あの時は優勝を今回は有給を。

 

 

 

「久々にバスケしたいな。」

 

 

そう言って綺麗に磨きあげた革靴に足を入れる。

ドアノブを手で回し、扉を開け。

 

 

「行ってきます。」

 

勢い良く外に飛び出した。

今日も良い天気。忙しくも良い一日にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瀧は今、自分のディスクに座り、上司が来るのをまだかまだかと待っている。

早歩きした所為だ。

 

 

普段はそれなりの距離がある駅から会社までの道のりも、不思議とあっという間に感じた。

新入社員が始めて有給の相談に行くのだ。無意識に強張ってしまう。

 

 

 

 

 

会社の扉が開く音が聞こえるたび、反射的に背筋が伸びる。

「そんな扉見つめてどうかしたのか?。」と横を通り過ぎる人達に声をかけられた気がした。

 

本日、何度目かの挨拶をした所でついに待ち望んでいた上司が扉から現れた。

その場でいきなりは礼儀に反しているので焦る気持ちを抑えて上司が落ち着くのを待つ。

 

 

 

「おはよう。立花くッ、ってどうした!?、そんな険しい顔して?。顔が怖いぞ…。」

 

先輩は瀧を見つけ声をかけてきた。

昨日の晩に連絡を入れておいたから大体の話は通してある。

ズンッズンッズンッと一歩、また一歩と先輩に近付いて行く。

 

 

「おはようございます!。昨日の晩に報告した通り、今日は先輩に相談がありまして。あの、聞いてください!!。」

 

 

「わ…わかった!。きっ、聞く聞く!、聞くからそんな寄ってくるな!。朝から暑苦しいから。」

 

 

「っあ、すいません。多少…熱くなりすぎてました。」

 

胸ぐらでも掴みそうな勢いで挨拶をしにきた瀧に、先輩と言われた若者はやれやれといった表情で宥めるように頭を小突く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで。相談ってなんだ?。」

 

 

場所を移動しようと。先輩からの意見を素直に聞き、今は喫煙所でもある会社の屋上に来ている。

先輩は「お前の為にいつもより早く来てやったんだ、一服ぐらいさせろ。」と言って煙草に火をつけて一息すると。先輩の方から口を動かす。

 

 

「はい。あ、あの。実は…来月に友人の結婚式がありまして。…その。」

 

 

「ふぅん。それで?、行くの?。」

 

 

「……。…。大切な、人達の結婚式なんです。」

 

 

「立花。伝えたいことはちゃんと伝える、言いたいことはハッキリと言うんだ。」

 

 

「…すいません。行きたいです。」

 

 

 

「そっか、なら行ってくれば?。」

 

先輩は咥えていた煙草を人差し指と中指で挟み口から離すと、あっけからんとニカッと笑う。

 

そのあっさり過ぎる返答にただ何も発せないでいると、先輩は溜め息混じりに更に言葉を重ねていく。

 

「はぁ、行きたいんだろ?。なら行けばいいじゃないか。何の為の、誰の為の有給だよ。」

 

 

「いや、でも新入社員の自分がそう易々と有給なんて取ったら。」

 

 

「お前のケツは上司の俺が拭いてやるよ。それにどちらにせよ苦しむのは立花君だから大丈夫だ。…どっちの一日を取るかだな、その日の会社を取るか。一度っきりの一生の思い出を取るか。」

 

 

評価はコツコツと積み重ねるしかないが崩れる時は一瞬だ。それが瀧を惑わせる。

この半年間、自分を拾ってくれたこの会社で死に物狂いでやってきたつもりだからだ。

 

これを聞いたら失礼だと思ったが、この先輩にはどうも頼ってしまう自分がいた。

 

 

「…先輩なら、どうしますか?。」

 

自分が憧れた人ならどうするか。

それが知りたかった。

 

 

「俺か?。俺は行くね、うん。有給なんて素晴らしい権利は使ってなんぼだ。それに有給使ったくらいで信用なくすなら俺はそもそもこの仕事に向いてないと捉えられるし。」

 

 

この人に悩みごとがあるのか不思議だ。

「ちなみに俺は今月末の記念日に妻と旅行に行ってくると。」自慢話もしてくるし。

俺には真似できないスタイルの社会人。

 

 

「先輩は凄いですね。」

 

 

「俺は仕事を自分の一部にしているからな。大人はそんなもん。背負うんじゃない、身に付けるんだ。背負うのは家族だけでいい。」

 

そうしてドヤ顔を決め込み。人差し指で煙草のフィルターを叩き灰を携帯灰皿に落とす。

その一つ一つの仕草が、大人って感じがして格好良さを感じる。

 

 

先輩は俺の四つ年上で。

つまりは三葉よりも一歳年齢が上だ。

正直、もしも俺よりも先輩の方が先に三葉と出会っていたら勝てる気がしない。

それくらい先輩は頼りになるし大人っぽい。

もう少しで結婚半年を迎える新婚さんでもある。

あと四年で俺はこの人みたいになるのか?。

想像しても想像ができない。

 

真似しようと試みて。先輩に借りてまずは煙草に手を出してみたが、無理だ、俺には合わなかった。

酒も先輩のペースにはついていけない。それでもこっちのペースなんて御構い無しに勝手に浴びるように飲んで、司や高木みたいな仲の良い友人とは味わえない新鮮な時間を過ごせるから楽しい。酔ってお互いの惚気話も何度もした。

 

 

その先輩に行くのを許された瀧は

自分に乗っかっていたモノが落ちていく感覚を体感する。

 

先輩という人間はどうしてこうも不安を取り除き、熱意を発火させるのが上手いのだろうか。

 

 

「俺も早く先輩みたいになりたいですよ。」

 

 

「そうか。そーゆうことなら100回以上は俺と飲みに行かなくちゃな。とりあえずは今日の夜を入れて残り99回だ。」

 

 

「えー!?。そんないきなりですって!。」

 

 

「明日から忙しくなるんだから今日しかないだろって!。」

 

 

「…それってどういう意味ですか?。」

 

 

「だから言ってるだろ。お前の有給の手続きは俺がもう上に通してある。今、立花君が取り掛かっている作業も余裕があるから問題無いとのことだ。…それと社長からだが、人生の拠り所を創造するのが建築だ。だから人生に欠かせないことを沢山経験しろだとよ。そして…だけどこれはこれ、それはそれ。今月は仕事量を増やすとの伝言を頼まれた。伝えたからな!。んじゃ頑張ってーよろしくー。」

 

言葉と大きなサムズアップを残し、先輩は屋上から仕事場に消えていった。

 

 

 

一人で立ち尽くしている瀧は、有給を取れたという安心感、先輩の安定感、忙しくなるという憂鬱感。

 

それを通り越してある感情が湧き出てきた。

 

 

 

 

 

「…は、初耳だぁぁぁぁあ!!!。」

 

 

 

屋上から響いた瀧の叫び声は、東京では聞こえず、新宿ではあまりにも小さい声だった。

 




次回もよろしくお願いします。
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