カルデアの英雄達と   作:ひとりのリク

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スパイシーな朝、食堂にて

「あ、エミヤ。おはよ〜」

「おはよう、マスター。少し早めの起床だな。うん、今日も元気そうで安心した」

 

マイルームから左右にどこまでも伸びる廊下に出た私は、たまたま部屋の前を通り過ぎようとしていたエミヤ(アーチャー)と出くわした。

 

「なんだかお腹減っちゃって、寝るどころじゃなかったんだよね」

 

それだけに、私はエミヤの腕にいつも以上に期待を寄せていた。こうしてバッタリ会ったのは、早起きは三文の得という、お約束のやつかもしれない。私の我儘……朝食のオーダーを頼むチャンス!

 

「奇遇だな、実は私も何か口にしたくてね。足が食堂に向かっていたところだ」

 

え…なんですと。

 

「え?エミヤって、毎日食堂で料理担当じゃなかったの!?」

 

相手が英雄だということを忘れて、素で驚く私に。

 

「当たり前だ!カルデアには多くのサーヴァントがいるんだ、私以外にも腕の立つ者はチラホラといる。彼らもよく、料理を作っているのに気づかなかったのかマスターは」

 

エミヤはそう言う。

マスターは更に。

 

「えへへ……マジで!?待って、全然知らなかった。ていうか、エミヤ以外のサーヴァント達って、料理できるんだ!」

「マスター、ちょっとまってくれ。一つ…一つだけ先に質問させてくれ」

「うん?どうかしたの」

「これまで、数え切れない程の料理をここで食べてきただろう?その中で、特段に美味と感じたりしたものはあるか!?」

「そんなに迫られても……わ、私たちの関係が疑われちゃうよ」

「そんなことは今、どうでもいいのだ…味だ、あれがおいしかったとか、あれは微妙だったとかあるだろう!?」

「全部美味しかったよ!いや、お世辞とか気遣ってとかじゃなくて、本心で」

「ばかな……!この私の腕が、彼らと同等だと……いや、マスターが味覚に異常があるだけなのか?」

「失礼だなぁ、もう」

 

何故か背後で虚空を見つめるエミヤを他所に、マスターは食堂の扉を開ける。手を掛け、半分ほど開けた時、それは来た。

 

「くあっ!?な、何この匂い!食堂の扉開けた瞬間、辛いのが漂ってくる!?」

 

不意打ち。

朝の空腹腹に届いた、辛い中華風味。パッチリと目が覚めた。

そして…

 

「ぐぁぁっ!!後から来るタイプのボディブローだったか!計算違い…くはっ」

「おいエセ神父!!お前卑怯だぞ、俺の麻婆は甘くしてくれと頼んだじゃねえか……かっらぁぁぁあ!」

「沖田が、、、沖田がぁぁぁぁああ!!!ノブゥゥゥ(辛ぁぁああ)!?」

「わー、ノッブに毒味させて正解でしたねぇ。沖田さん、こーゆーの食べると死んじゃうんですよ〜」

 

漂う辛臭に悶絶、あるいはソレを味わい果てた英雄達。

床に転がる者もいる。見た感じ、レイシフト先でいつの間にか持って帰ってきた酒をかっ喰らい、酔い潰れるいつもの光景に見えなくもない。

 

「覚えていろ、ルゥラァァ…」

「うっぐっ……虚勢なんて張るんじゃ、なかったわ…」

 

テーブルに伏せて黒い怨念を周囲に漂わせ、辛味の海に溺れているアヴェンジャーズ。唇が真っ赤だ。煮え滾る怨讐のせいで、辺りが黒く塗りつぶされている。

 

「みんな、朝から元気そうだね〜!」

「ぐっ!こ、この臭い……まさか、アレを作った者が……いや、本人かっ!?」

 

隣に鼻をつまみ立つエミヤがやや引き気味に、しかし興奮気味に目を見開く。何故そんなリアクションなのか、マスターには分からない。

エミヤが視線を向ける先、禍々しいオーラを放つ厨房から一人の男が笑顔を向けやってきた。

間違いない、この男がこの惨状の元凶!

 

「マスター、おはようございます。今日の朝食当番は私なので、今朝、無性に作りたくなった麻婆豆腐を作ってみましたよ」

 

ルーラー、天草四郎時貞。いつでも爽やかスマイルはタダである。

彼の両手にはグツグツと音を立てながら辛臭を放つ麻婆豆腐。元凶発見。両手に干将・莫耶を投影するエミヤ。

 

「まてまてまてまて!天草、その禍々しい麻婆をマスターに近づけるのはよせ!」

「ちょ、天草?麻婆豆腐入れてるその容器って、まさか…」

 

嬉々と麻婆豆腐の鍋をこちらに持ってくる天草。マスターは、その麻婆豆腐を入れている鍋に目を向けて、驚きの声を上げた。

 

「ん、これは聖杯…!お前、聖杯に麻婆豆腐をぶち込んだのか!?」

 

煌々と輝く鍋は、倉庫の床に置いていたはずの聖杯だった。

 

「えぇ、手頃な食器がなかったので。安心してください。聖杯はきちんと洗っておきました。あと、聖杯の中にいた彼に試食もお願いしましたから大丈夫です」

 

指を指した方向には、真っ赤な唇で項垂れるアヴェンジャーズ。

エドモンとジャンヌ・オルタ。

 

「いや、アレ見て大丈夫って、絶対大丈夫じゃないよね。サーヴァントですら項垂れてるじゃん!?」

「いえ違います。お二人の横に座っているアンリマユに、ですよ」

 

いた。真っ黒かつアヴェンジャーズが放つ黒いオーラで見えにくくなっているが、アヴェンジャーのサーヴァント、アンリマユが確かに座っていた。

 

「アンリマユ!?君、聖杯の中にいたの?どうゆうこと!?」

「何って、昼寝?みたいな。なんか、聖杯と一体化できちゃったからついでに」

「一体化したついでに昼寝してたの!?それすごいね!寝心地良かった?」

「ん、まあまあかな。寝起きでいきなり麻婆豆腐を口に入れられたのは、少しイラッときたけど。うまかったから許した」

 

許したのか。どうやら彼のご機嫌を取るに足る味だったらしい。

 

「その寛容な心に感謝します、アンリマユ。という訳です、マスター、エミヤさん」

「んー。アンリマユが大丈夫なら問題ないね!」

「本当に行ってるのかマスター!?」

 

マスターのセーフティーゾーンが理解できないエミヤ。エドモンとジャンヌがダメでも、アンリマユが大丈夫なら問題はないらしい。他にもサーヴァントが多数、座に帰りそうな勢いなのだが。後で言及しなければならない。

取り敢えず、あの麻婆豆腐は危険だからと、マスターの握る箸を取り上げるエミヤ。ナイチンゲールがいない事が悔やまれる。

マスターが駄々をこねだしたところで、アンリマユが更にぶち込んできた。

 

「そうそう、ルーラーの神父は麻婆豆腐食べてないから気づいてないみたいだけどさ」

「うん?どうしたの、アンリマユ」

「麻婆豆腐食べたらさ、聖杯転臨できたぜ。俺だけじゃなくて、他のサーヴァントも」

「……はい?」

「なんだと…?」

 

予想すらしなかったその言葉に、アホ顏のマスターは、食堂で唇真っ赤になっているサーヴァントのステータスを確認する。そして、息を飲む程の驚きの声を上げた。

 

「すげえ!みんな聖杯転臨できてる!麻婆豆腐のダメージで悶絶してるけど。まあそれを差し引いても……」

「うむ、すごい発見だぞマスター。聖杯に麻婆豆腐を…いや、恐らく聖杯に料理を入れて食べる事で、聖杯を消費せずに転臨できるようだぞ!!!」

 

これにはエミヤも驚嘆。早速、聖杯につがれた麻婆豆腐を投影したスプーンで食べ始める。視野の隅では、危険を察知した沖田が食堂を後にした。

 

「ひゃっほうい!これでダビデの息子にも立ち向かえる!!!!

そうとわかれば後は!」

 

〜10分後〜

 

並べられた6個の聖杯、もとい麻婆聖杯。

 

「いやバカか君は!?何故全ての聖杯に麻婆豆腐を投入したのだ!?」

「大丈夫だよ。全部洗っといた!」

「衛生的な問題ではない!」

「聖杯は残り一つになりましたが、これで皆さんの強化はじゅうぶんですね」

 

恐怖の聖杯転臨が始まった……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、運営によるサイレント修正により、聖杯転臨のバグは解消された。

 

「またか運営!」

 

後に残ったのは、麻婆豆腐に拒絶反応を示すカルデアのサーヴァントと。

 

「ねぇ天草〜、洗礼詠唱すれば麻婆豆腐に苦しむ英霊達をなんとかできるんじゃないかな?」

「なるほど。苦は悪魔の類にカテゴライズされてもおかしくはありませんね。もし効かずとも祈りは届きます。早速試しましょう。まずは、ドクターロマニからいきましょう」

 

悪意のない、カルデアの良心だけだった。




閲覧ありがとうございます。
楽しんで頂けたら幸いに思います。

何処かの麻婆神父の電波を受信し、衝動に駆られた天草。
いつか復讐してやると麻婆豆腐から逃げるアヴェンジャーズ。

ほのぼのとした作品を書いていきたいです!
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