意識がはっきりしだしたのは3歳くらいからだった。
頭に入ってくる言葉と思われる情報を整理して言語理解ができる程度になるのにもう半年かかった。この世界の言語は文法が日本語と同じなのに、文字がロシア語のように難解で文字と数字の区別が難しかった。
私が異世界転生モノのマニアでなおかつ、英語が達者という立ち位置でなければ、この現状に発狂していただろう。死んだ時、というか25歳後半からの記憶が一切合切なくなっているから死んだかも分からないけど、起きたら3歳児で毎日メイドさんが来てくれるという状況は理解が難しいだろう普通の人には。あと、メイドさんは19世紀後半のイギリス風メイドさんで、個人的にどストライクです。
そんなことを考えていると、腰までかかる長い金髪を軽くウェーブさせた美女と黒髪のメイドさんが来た。
「アリア! あーもう、可愛いわこの子は! 私の子じゃなきゃ食べちゃいそう!」
「うぐっ!!」
ヴィットリア・ウィンザー。これがこっちの母である。
因みに産まれてから、ずっとこの調子で溺愛されている。お付きのメイドさんがいるのは、私を窒息から守るためと私は本気で考えている。
ほーら、また抱きしめてくる。本当に抱き締めてくる。
こっちとしては少々痛い程度だが、3歳児の抵抗できない筋力を鑑みると、シャレでは済まない。なんせ、こっちは一切の抵抗が出来ないので絞め殺すという知識がある分、本気で怖い。例えるなら、前の世界の子供時代に雪の山に突っ込んで身動きが取れなくなるような恐怖である。
そんな事を考えてると、涙腺が緩む。
それを見かねたメイドさんが私とお母さんを無理やり引き剥がす。ここまでが毎日のテンプレになってるから本気で怖い。毎日毎日、恐怖を植え付けてくる母とそれを助けてくるメイドさんとの毎日。悪気がないという事が分からなかったら、私の愛着がメイドさんの方にいってもおかしくない。
「奥様。毎日言っておりますが力加減を間違えないようにお願いします」
「うぅ、ごめんなさい、ラウラ。我が子のことになるとどうしても自我が抑えられなくて……」
朝チュンしちゃった男じゃないんだから……
「わ、私は大丈夫です。毎日の事なので多少は慣れました」
「なら良かったわ! さぁ、こっちに!」
突然元気になった母にビビってラウラさんの後ろに隠れてしまう。それを見た母ががっかりと膝をつく。その様子にラウラさんが大きくため息。
慣れはしたよ? だけど恐怖は抜けてないんですよ……
しかし、流石にこのままでは母に悪いため落ち込んだ顔を胸に当たるように抱きしめる。
「うぅ、情けない母でごめんなさいね…」
「ううん、気にしないで」
そもそも母は、王都の騎士団に所属していた経験があり、他の人より筋力が優れていた。それが育児という面では悪い方向に向かってしまっただけなのだ。実際、私は母の事を情けないとは考えてない。25歳で未婚だった私からしたら、同じ25歳で子供と家庭を持ち、自分もわがままボディを持っているのは尊敬に値する。あの髪だって毎日の手入れが大変だろうに。
転生前の私なら勝ち組設定のオンパレードに殺意を抱くが、今の私は体に引きずられ精神年齢が後退しているようで、素直にすごいとしか思わない。
まあ、今は娘の胸に頭をすりすりして、威厳も何も無いのだが。
「奥様、そろそろ本題にはいってください」
「ああ! そうだったわね。アリア、今日はお父さんが帰ってくるそうよ」
「え! 本当!?」
私の父は王都で魔法研究をしている。数ヶ月に一度しか帰ってこないため素直に嬉しい。
「お父さんの研究、えーと、自我領域における…ナントカっていうのがひと段落したらしくてね。しばらくはこっちにいられるそうよ」
「自我領域における魔術式解析です、奥様」
「難しい事はいいのよ。さて、久しぶりに騎士団仕込みの料理を作っ……」
「既に料理長が作っております、奥様」
「むぅ……」
ラウラさんスゴイなぁ……
ともあれ、私はお母さん達と別れてお父さんに質問する事をまとめる。転生で魔法が使えるようになったわけだし、どうせなら大魔導士を目指して勉強する。これは転生前から転生後のやりたい事として考えていた事だ。いやはや、人には言えない黒歴史が人生設計に役立つとは思わなかった。
既に魔法の基礎理論は勉強済み。
作ってみたい魔法も頭の中に完璧に記憶されている。
転生最高!
ヽ(´ー`)「魔法って楽しい……」
(ㆀ˘・з・˘)「アリア、旦那に似て魔法バカになりそうね」
( ´_ゝ`)「奥様、寂しいのですか?」
((((;゚Д゚)))))))「いいいやいや、違うわよ!? 別に騎士団に入れようとか、魔王に生身で勝てるようにしようとか、そんなんじゃないわよ!?」
( ´_ゝ`)(…旦那様に報告した方がいいかしら?)