Fate/amber dictation   作:黒兎可

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肆.桜飛沫前夜

 

 

 

 

 

「何者でしょうか、貴方は。いえ貴方だけではないが」

「何者? かか、何者と問うたか。

 その口ぶり、やはり『在り方』が妙である自覚はあるか」

 

 かかか、と少女は腹を押さえて笑っている。

 年は自分より一つか二つ下だろうか。長い黒髪はひざのあたりまで長く、毛先にわずかにくせが付いている。見た事のない黒い軍服に、赤い外套(マント)。愛らしくも妙に覇気のある顔は、見る者の視線が外れることを許さない。帽子には武将の兜のごとき意匠がほどこされており、太陽を連想させるようなそれは、見ていて異様な印象を受けた。

 

「じゃが、そうじゃのぅ。

 ――ここは魔人とでも名乗っておくか。的確(ヽヽ)じゃろう」

 

 魔人、という呼び名を、堂々と楽しげに語る彼女。

 

 自分の隣に立つ「おきた」さんは、一歩、自分を庇うよう前に出た。

 

「ふざけないでください。貴女、サーヴァントでしょう」

「それくらいは分かるだろうがのぅ。ただ、問題は貴様の認識の方でないかの?」

「……!」

 

 黒い、不吉な少女の言葉に、「おきた」さんは息を呑む。自分には事情がわからないが、しかし、少女の言葉に何か思うところがあったのだろうか。

 

 どこからともなく、眼前の少女は、金色の「銃」を取り出す。それは、知識にあるものが間違ってなければ、かなり型の古いものだった。

 

「儂に言わせれば当然と言えば当然じゃろうが、ま、親切ではないから教えてやる義理もない。そこなマスターが知っていよう。むしろそちらに聞け。

 しかしその混乱具合は、聖杯が『正しく』起動していないということの裏づけにもなっておるの」

「何が言いたいのですか? 貴女は」

「大した事ではない。儂の目的はそこな『へくとりぃが』だけだったが、中々悪く無い余興だったと言っておこうかの」

「余興……」

 

 おきたさんの目が、鋭くなる。今の少女の言葉に、苛立ちを覚えたのだろうか。

 そんな彼女の様子さえ、かかか、と少女は笑い飛ばす。

 

「余興じゃ余興。余興以外の何だというのじゃ?

 貴様、まさか『あれ』に笑いを見出せないとか()うまいな。綺麗に落としたあの堂の入った暗殺ぶり、中々に見ごたえがあったぞ」

「……」

「かか、怒るな怒るな。

 冷徹な人斬り(ヽヽヽ)らしい地が出ておるぞ?」

 

 笑いながらそう言う彼女の言葉に、おきたさんははっとなって、自分を見た。

 自分はさっきから、震えが止まらない。春花様の、まるで「熱した鉄で殴り殺された」かのような死体を直視することも、触れることさえできずに。ただただ隣に立つ、自分をマスターだという彼女の、その恐ろしい立ち姿に震えるばかりだった。

 

「ま、マスター ……?」

「そこな坊主。乱丸(ヽヽ)によぉ似ておるわ。己の立ち位置がうすらぼんやり、ぼやけておる。目の前の状況に対して、正しく理解することを拒んでおるのじゃ。

 人は、それをボケ(ヽヽ)という。平和に牙を抜かれた、哀れな子羊じゃ」

 

 ――生まれてくる時と場所を間違えたな、坊主。

 

 少女はまるで、年老いた老兵のような。どこか悟りを開いたような声音で、自分にそう言った。こちらを見る目は、まるで何もかも見透かしているかのようにさえ見える。

 

「それがマスターとは、貴様も難儀よの、セイバー」

「……哀れまれる必要はないです。弓兵(アーチャー)

 

 少女に対して、おきたさんはそう言い、足を進め。今度こそ完全に自分の前に立った。見上げる背中は、本来なら恐ろしさなど感じることのないほど、華奢な少女のもので。

 

「例えそこがどのような死地であろうと――私は最後まで、マスターと共に歩むだけです!」

 

 ――そして不思議なことに。

 前後のやりとりの意味なぞ一切理解できなかったのに。

 

 彼女のその言葉を耳にした瞬間。自分の手の震えは、どうしてか収まっていた。

  

 かかか、と少女は笑いだした。

 

 

「――是非もない。

 ならば大人しく、『しゃれこうべ』を晒せッ!」

 

 

 言うや否や、少女は手に持っていた銃を放った。音と光がとにずれが生じ、それが自分目掛けて飛んで来ていると、認識できなかった。

 おきたさんが、猛烈な速度の剣撃で叩き切っていなければ、今頃自分の眉間にも風穴が開いていたろう。

 

 それを見て、魔人を名乗る少女は「かか」と楽しげに笑った。

 

 少女は何度も引き金を引く。引くたびに銃の火縄は、消え、現れを繰り返す。

 その光景とほぼ同時に放たれる弾丸は、しかしそれこそ、おきたさんの手により文字通り認識できない速度で振るわれる刀で、切られ、弾かれていた。

 煙の上がる刀身を一瞥し、彼女は魔人を睨む。

 

「かかか、なるほどのぉ、確かに速いな。

 しかし、ならばなぜ儂が銃を構えなおす間に襲いかかって来ない」

「見え透いた真似を。その誘いに乗るほど、おき太さん甘くないですよ?」

 

 にやり、と笑うおきたさん。その表情には、しかしどこか余裕がない。あれだけのことを平然とこなしているはずの彼女が、何故そんな顔をするのだろう。

 確かに魔人を名乗る少女の言う通り、さっきのランサー相手にしていた要領で攻める事はできるのではないだろうか。目の前の少女は、隙だらけに会話をしているよに見えるというのに。また一発一発の間に、どうしても

 

 

「良い()じゃ。格は知らんが、一応は最優のクラスか」

 

 

 魔人の少女はそう言うと、腰の刀を抜き放つ。

 するとどうだろう――その背後に、いや、周囲に。無数の銃が出現した。銃たちは、数えるのが馬鹿馬鹿しくなるほどの数があった。狭い列車内だというに、魔人の背後を埋め尽くさんがばかりに。

 

 銃は編隊でも作るかのように、前列、中列、後列と並ぶ。

 

 

 

「我が”三千世界(さんだんうち)”を前に、屍を晒すが良い――天魔轟臨!」

 

 

 

 それは、三段撃ちとでも言えば良いのだろうか。

 さきほどまでにあった銃の、火縄が再生する間隔が。三つの編隊が入れ替わり続ける事により、なくなってしまった。

 おまけに数が数だ。一回の射撃でさえ、もはや自分の耳そのものに攻撃を受けたかのような衝撃を受ける。

 

「――ッ、な、何ですかそれ!? さすがに、百発単位とか、うざったい!」

 

 そしてそれとは別に。放たれる弾丸をそれでも器用に薙ぎ払い続けるおきたさんだったもの。最初の二回を受け、流石に身体に傷を負ってしまった。もっともそれでも恐ろしいことに急所を外し、胴体や身体に直撃はしていない。ももと腕にかすり傷(それでも大きいが)程度で済ませてしまうあたり、やはり彼女の剣は人間業ではなかった。

 

 そして傷ついた次の瞬間、彼女の行動は素早かった。

 こちらを一瞥するやいなや、弾丸の雨をかいくぐりながら自分を抱きかかえ、そのまま列車の反対側まで走る。いや、「走った」。そのことに自分が気づいた時点で、すでに自分は列車間の扉の影に運ばれていたのだから。

 

「大丈夫ですか、マスター ……ッ」

「あ……」 

 

 自分を、やや力が抜けたように抱きかかえる彼女。表情はよく見れば血の気が薄く、明らかに体調が悪いように見える。

 しかし彼女は、傷ついた腕や足を少し押さえて、扉の向こうに繊維を向けていた。

 

 彼女は、そんな、貫通こそしていないものの、えぐれるようなケガをしているにもかかわらず、戦意を消して居なかった。

 

「だ……、大丈夫なのか? それ、その……」

「? 嗚呼、平気かと思います。一応。サーヴァントですし」

 

 こちらの表情を見て、彼女は一瞬驚いたような顔をしたものの、ふふっと得意げに微笑んだ。その顔が普通に綺麗で、先ほどまで自分に恐怖を抱かせていた相手だとはとても思えなかった。

 でも現に、そんなことをしながらも、彼女は両手から刀を離さない。

 

 それよりも今、さぁばんと、と彼女は名乗ったか。魔人を名乗る彼女も言っていた。

 脳裏を過ぎる、春花様の声。聖杯によって召喚される、過去の英雄――。魔人からはセイバーと呼ばれていたか。

  女性の英雄なんていたのか? と。記憶がないなりに疑問符が浮かぶものの。しかし刀を構える彼女の立ち姿は、過去の英雄と言われても、確かに納得できるだけの説得力があった。

 

「無駄なことを。列車ごと塵にしても良いのじゃぞ?」

 

 隠れた扉の向こうで、射撃が止む。それと同時に聞こえてくる、楽しげな魔人の少女の声。

 

 おきたさん――セイバーは、額に汗を浮かべながら、苦い表情で相手の様子を窺っていた。

 

「バクチはあまりやりたくないのですが……」

「バクチ?」

「ええ、一つ手はあるのですが、結構なバクチになりそうです」

 

 バクチ……、バクチか。

 でも。今の状況からすれば、待てど自分達に訪れるだろう結末は、決して明るいものとはなり得ない。その確信だけは、考えるまでもなく感じ取っていた。

 

 魔人を名乗る少女の、あの三段撃ち。数の暴力にものを言わせた、物量による射撃。例えどれほどセイバーの剣術が人間離れしていたところで、あれほどの攻撃をしのぎ続けるのは至難の業だ。

 ましてや自分など、己が気付かないうちに穴だらけになって息絶えるだろう。

 

 例えどれほど可能性が低くとも、やりようがあるのなら、試すべきだ。

 

「ですが……、失敗する可能性も高いのですよ?」

 

 それは、当たり前だと思う。でも、君が……。君がもし、最後まで自分と歩むというのなら。こんなところで終わりたくは無い。

 

 『春花様』が死んでしまった今となって、しかしそれでもなお、生き汚くも、自分は死にたくなかった。

 愛する彼女と共に逝くという選択肢を、自分は選べそうに無かった。

 

 死ぬのは。目の前で彼女を殺されたからこそ、なお、いっそうに怖かった。

 

 本当、呆れるくらいにボケている。あの魔人の少女の言う通りに。ことここに至って、自分は、自分の主義よりも、死にたくないと言う恐怖心を優先させようとしている。

 

 目の前の彼女自身の存在が、怖い。

 でも、それさえも。己自身が死にたくないと言う、その欲望が勝利していた。

 

 

「――なれば、お任せください。貴方の想い、しかと受け取りました」

 

 

 そんなこちらの心境まで話はしていない。当然理解もしていないだろう。でもセイバーは、片手を離して自分の手をとった。

 

 その感触は、先ほど感じた恐ろしさに反してやわらかく、暖かく――。

 

 

 手を離され、再び車両内に彼女が戻っても、しばらく消えそうに無かった。

 

 

 

   ※

 

 

 

「ほぅ観念したか。まぁ火縄に刀では、勝ち負けは明白よの」

 

 魔人を名乗る少女は、得意げに笑う。背後の銃たちが、再びセイバーの方に向けられた。

 セイバーはそれを見て、肩口で刃を構え、突きの姿勢をとる。

 

 がたごとと、ゆれる電車の音。横に開いた風穴から風が吹き抜ける。それに乗せられて、得意げな魔人の声が聞こえた。

 

「なんじゃ、まだやるつもりか? 明白じゃと言うたろうに。

 貴様、武田のせがれと同じ阿呆か? いや――」

 

 ちらりと、その視線が除き見る自分に向けられたような気がする。でもその感覚はほんの一瞬。視線をセイバーの方に向け、魔人は再び刀を構えた。

 

「では、消えよ。『不良動作』により呼び出されし、名も知らぬ英雄よ――」

 

 

 

「無明剣――」

 

 

 ――瞬間、世界が隔絶した。

 

 

 

 本来ならば、それを知覚する事は決してできないはずだ。魔人が刀を振り下ろし、背後の銃が自分とセイバー目掛けて放たれようとしている、その刹那。

 

 その世界は、まさに彼女の――セイバーの世界なのだろう。

 

 彼女が、動く。人間業でない動きで。

 それは本来ならば捕らえる事のできないものだったのだろうけど――でも、自分は何故か、心のどこかで、身体のどこかが、彼女のその動きの本質を理解していた。

 

 動きは、ランサーを仕留めた時と同様。とん、とん、とんと連なった足の動き。

 

 しかし目の前のそれは、もはや人智を超越していた。

 

 

 一歩――音超え。光がまるで弾丸のごとく、音を置き去りにする。見える彼女の身体がぶれ、そのまま直進。

 

 二歩――無間。踏み込んだ一歩に連なる一歩。わずかその一歩こそが、本来なら在り得ない「距離を殺す」一歩に他ならない。

 

 三歩――絶刀。自分と相手との距離を「殺した」動きのままに、相手も巻き込む最後の一歩。止まるからこそ、今までの動き全ての威力が一撃に集約される――。

 

 

 結果。魔人を名乗る少女が刀を振り下ろし終わるより前に、セイバーの刃が、少女の肩に突きたてられた。

 

 

「――ッ、なるほどの。侮りすぎたな。

 間合いごと『蹴り殺されては』、火縄の利も消えうせるか」

 

 

 しかし、その刃が少女の身体を貫通することはなかった。

 セイバーも、自分も驚いている。なぜなら彼女の肩には「銀の鎧」のようなものが、部分的に装着されていたからだ。

 鎧は肩と、胴体の一部を覆う。まるで鋼の襦袢のごときそれを前に、一体、いつそんなものが現れたのかと、自分とセイバーは疑問符を浮かべる。

 

 しかしそうでありながら、セイバーはやはり冷静だった。いや、「冷静すぎた」。距離をとり、刀を構える姿には、何一つ乱れが無く。今にももう一度、さっきのあれを行えそうな風格と落ち着きぶりが漂っていた。

 

「防がれた……?

 防ぎましたか、アーチャー! 私の、私の『無明』を……!」

 

 セイバーの声からは、何故か憤りのようなものを感じる。

 それを、かかか、と笑い、魔人を名乗る少女は肩を押さえた。

 

「三段、じゃな。いや、中々どうして。余興と侮ったことは詫びよう。

 それはもはや、空間跳躍の域じゃ。三つの踏み込み、などではないな。いやはや……。

 こんな古い収集物(これくしょん)まで使わされてしまうとはヒドイ目に合ったわい」

 

 と、少女の身体から黒と赤の光(そうとしか形容ができない)が上る。足元から徐々に姿がぼやけていき、この場に充満していた圧が、段々と薄れていく。

 

「逃げるのですか、アーチャー」

「ぬかせ。軍才とはすなわち見極める力じゃ。撤退に恥も何もないぞ。

 必ずを毎度求める必要なぞ、儂にはないのじゃ『人斬り』」

 

 ぬ、と。やはりセイバーは、彼女の言葉の端々に、苛立ちを覚えて居るような気がする。明らかに、魔人と相対する彼女の雰囲気は、自分に話しかけていた少女らしさと遠い所にあった。

 

 

 

「――いずれ貴様は、儂みずから首を撥ねとうなった。

 せいぜいそれまで、首を洗っておけ」

 

 

 

 かかかと笑いながら、彼女は姿を消した。

 セイバーはしばらく魔人の立っていたあたりを睨むと、ようやく刀を納めた。

 

 辺りを包む静寂。

 

 自分は――車内に入り、見てしまった。

 

 

 むざんな、春花様の姿を。

 

 

「あ……、嗚呼――」

 

 もう、見る影もない。ついさっきまで楽しげに談笑していた、優しかった彼女はもう、居ない。

 力無くその場にへたり込む自分に、セイバーは言った。

 

「貴方の、大切な方だったようですね」

「……」

「……そうですか。私を呼び出したのは彼女ですか。ずいぶん懐かしいものがありますね」

 

 そう言いながら、彼女は僕の持ち物である古い本を手に取り、懐に仕舞って。

 

 

「――では、改めて。

 貴方が私の(マスター)ですか?」

 

 

 今にも泣きそうな自分にそんなことを問いかけながら――。

 

 

 

 

 

「――こふッ!?」

「ええっ!?」

 

 

 その場で血を吐いて、自分目掛けて倒れてきた。

 

 

 

  

 




ノッブ「魔人を名乗る謎の美少女アーチャー! アーチャー界に天下布武が起こる!
    え? 儂の真名、知りたい? 知りたい?」
おき太「それEXでやってますから」
ノッブ「是非もなしかナ?」
おき太「なんで私がツッコミに回っているのでしょうか・・・?」
ノッブ「それにしても、貴様のマスター、本当、乱丸っぽかったのぉ」
おき太「一文字違いですしね」
ノッブ「名前は知らんぞ。そういう意味じゃないのじゃ。というかツッコミやらされてるみたいなこと言った傍からこのぐだぐだっぷりなのじゃ」
おき太「是非もないですね。それはともかく、あれ? 鎧なんて持ってましたっけ」
ノッブ「コハで使ってなかったスキルじゃが是非もないネ!」(※ちょっと拡大解釈してます)
おき太「どのスキルですか!!?」
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