Fate/amber dictation   作:黒兎可

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玖. 来走 人斬道

 

 

 

 

 

 カルラ・エインワーズ。

 第三次聖杯戦争参加者。当時はサーヴァント”魔術師(キャスタ)”のマスター。途中にて敗退し、撤収。

 

 現在、帝都における聖杯の起動により、上海にてサーヴァント「ランサー」を召喚する。

 

 ……以上だった。他にも色々と説明はあったのだけど、その中で彼女に関する説明が書かれていた箇所は、その程度の情報しかこちらに齎してくれなかった。

 

「何よその顔? 貴方も自己紹介しなさいよ」

 

 びしり、と右手を突き出してくる彼女。人差し指が自分の額にぶつかった。……どうでも良いが、その右手は長手袋(ロンググローブ)のようなもので包まれている。少し角ばってるような気がするし、そしてその指先は硬かった。

 

 容姿は、赤茶けた髪色含めて異国の雰囲気だが、顔立ちは日本人のようにも見える。

 

 応接室にて、茶を淹れる余裕も無く、何もできず呆然としている中。「怪我してるじゃない、見せなさい! あと救急箱!」とこちらに指図するやいなや、猛烈な勢いで自分の左肩に包帯を撒いたり消毒をした彼女だ。

 

「あら、綺麗な切り傷ね。荒らされて無いし、これならちょっと小細工すれば一週間もかからず直るわね」

 

 直後に「とっとと読みなさいよ!」と叫んだ彼女により、半ば強制的に先ほど手渡された書類を読んでいた。

 

 その最初のあたりを読んだ直後のやりとりがこれだった。

 

「すまんの、坊主。我がマスターはちと性急すぎるし、優しくもない。

 それに一通り読み終えてからで良いだろう。まだ状況が整理できていないと見える」

 

 役立つときがあるやもしれぬが、まぁ今は目を瞑ってくれ。

 ランサーの言葉に、自分は返答できなかった。

 

「ところで酒はないかの? 何分、和国入りしてから一口も呑んでいないもので――」

「他人の家の酒類に自発的に手を付けようというそれは、許しませんからねランサー。

 第一、私はお酒嫌いです。いっそ命令しましょうか?」

「カカ、こだわる箇所がおかしいだろうに。無駄遣いするものではないぞ? それは」

 

 ランサーの言う通り、その話をしながら彼女は左手を握りながらランサーに向けていた。手の甲には二つの稲妻と、それを発生させている丸い模様。つまりは令呪か。

 それを使って命令しようというのだから、えっと……。

 

「まぁ、それはマスターが気にしないようなタイミングで頼もうかの。もっともあいにく、今の我らは霊体化できぬ身であるがな。

 あのサーヴァントも同様だったことからして、おそらくはあれも、聖杯戦争後の召喚だろうのぉ。

 そこをどう思う? アサシン」

「いえ、あの、セイバーです」

「ぬ、そうか? それにしては明らかに身のこなしが……。まぁ良いか。

 セイバーよ、お主もそうであろう」

「ええ」

 

 そして沖田さんは沖田さんで、彼らを招きいれた後も腰に刀を刺したまま。ランサーは武器を何処かへと消しているのだけど、彼女は未だ警戒を解けないでいる。自分も自分で、その心境はよくわかるというか……。

 

「事情を知りたいのなら、とっとと読みなさいよ!」

 

 思わず大声で、はい、と頷いてしまいそうな剣膜で言われた。

 どうしようもないので、大人しく言われた通りするしかないか……。

 

 

 ――魔術礼装「栄光の右手(ハンズオブグローリー)」は、きわめて一般的な礼装である。

 

 

 最初の一文を見たとき、自分はめまいを覚えた。

 

 ……。

 左手じゃいけないんですか?

 

「知らないわよそんなの! まぁ『回路』的に大丈夫なら、左でも行けるんでしょうけど、大体は右手でしょうし、そういう一般的なじゃないケースの話じゃないわよ、それは」

 

 まくしたてるように言われてしまったが、自分が聞きたいことはそういうことじゃない。

 

 ……。

 そもそも魔術礼装って何?

 

「……は、はぁ? アンタ、魔術師やって何年よ! 意味わかんない! ジョーシキってもの考えなさいよジョーシキってものを!」

 

 突然悲鳴を上げてその場で転がる、えっと、カルラさんといったか。彼女のその様子に、ランサーは肩をすくめた。

 

「やれやれ、一向に話が進まぬの」

「そんなの、なんで知ってないのよ、ちょっとアンタ!」

 

 ええ、と言ってしまいたいが、確かにこの場にいるのが春花様だったらとんとん拍子で話が進んだだろうし、その言葉には自分も文句を言えない。

 

「魔術に用いる道具のことです、マスター」

 

 冷や汗を流しながら彼女の罵倒を聞いていると、沖田さんから解説が入った。

 道具……。嗚呼、春花様が使っていた時計のようなものか。

 

「私が見た範囲では、そうですね……。あの藤保と名乗っていた魔術師の、使い魔たちなんかがそれではないでしょうか? いえ、あれは紙を触媒にしていたのかもしれませんが」

「あ、あれね? 私も連絡とるとき使わされたわ。

 シキガミって言うのかしらね? ああいうの。私、いまいち気持ち悪くて理解できないんだけど」

 

 セイバーの話にカルラさんがそう続けた。なるほど、おおむね理解した。お坊さんが持っている経文とか、数珠とかみたいなものか。 

 

「用途には、術者の力を増強する。あるいはそれ自体が魔術を引き起こす引き金になるようなものを言うようです」

 

 そしてそれを何故セイバーが知っているのか、という疑問がある。幕末に魔術とか、そういう話は全然聞かないのだけれど……?

 

「聖杯によって召喚された時点で、その時代の知識なりが身に付くようになっている、ようです」

「カカ! 良かったの坊主。何せ我がマスターはそこまで面倒見がよくないからな!」

「赤子の面倒を見るような仕事はしたくないですから。後、いい加減その減らず口をふさぎますよ?」

「だから無駄遣いを止めろと言ってるだろうに」

 

 何故だろうか、カルラというらしい彼女はこう、妙に神経質な印象を受ける。

 常にピリピリしているというか……。決して余裕がないわけではないのだけれど、こう。

 

 まぁ、とりあえず読み進めよう。

 

 もっとも、その後はつまるところもなく最後までいけたのが救いだった。

 

 書かれていた内容をまとめるならば。魔術礼装「ハンズオブグローリー」。ある偉人の腕を使って作られたこれを、回収するのが彼女たちの仕事らしい。

 なんでも聖堂教会――春花様に今回の依頼をしたところ――から盗み出されたものだとか。

 

「で、盗んだ場所について説明は……」

「それは文書に残るとヤバそうだからボカしたわ。 

 相手は――ドイツ第三帝国」

 

 独逸(ドイツ)国、ときたか。

 あんまりそういうイメージはなかったのだけれど……? 

 

「あら、あのシンボルマークからしてかなり強力な主張じゃない。鍵十字を反転させて更には回して。

 親衛隊に至ってはルーンまで刻んでるというのだから、諸外国の、少し知識がある相手が見るだけで丸分かりよ。

 ……ん? アンタまさか、わかんなかったとか言わないわよね?」

 

 ……。

 とりあえず、話を進めてもらえると。

 

「わかったわよ。まぁ、別にアンタが困るだけだからいいけど。

 で、ドイツといえばクソ日本(ジャップ)と提携してたじゃない? だからこっちの方に何かあるんじゃないかと思って、調査も兼ねて来たのよ。

 幸い、渡航費とか滞在費とかは教会持ちらしいし、在り難いったらありゃしないわ!」

 

 その話をするときは、何故か妙に嬉しそうな様子のカルラさんだった。

 後気のせいでなければ、ジャップ……、日本を名指しする時の顔がものすごく忌々しそうな感じだったような。

 

「と、いうわけで。私にとって聖杯なんて二の次なわけ。

 今回の仕事の報酬があれば、前回の聖杯戦争でやられた実家の立て直しも少しはマシになるし。強いて言えばそれが目的だから、効率よく第三帝国と日本帝国軍との関係を探れれば良いのよ。

 結果から言えば、貴方たちと協力するのが一番良いわけ。わかる?」

「……何を持って、その言葉を信じれば良いでしょうか?」

 

 セイバーが警戒を強める。実際、彼女の言葉を僕らが簡単に信用して良いのか、確かめる術はない。

 

 もっとも、それは理解していたのか彼女は微笑んで、こう返した。

 

「じゃあ、担保というか証拠を二つ。

 一つは私が前回の聖杯戦争に参加していた、ということと、脱落したってことに関して」

 

 言いながら、彼女は左手のグローブをめくった。

 

「――!」

 

 めくられた腕を見て、自分は言葉を失った。

 

 そこにあったのは、人形の腕。無骨な、木で出来た球体間接の人形。

 その要所要所が鉄の糸のようなもので引かれており、彼女の意思にあわせて動いているように見える。

 

「急ごしらえで置換して作ったものの、まぁこんなものよ。

 私の腕は、忌々しい事にアーチャーめにぶった切られた。お陰で命令することも出来ず、あっという間にキャスターも倒された」

 

 苦々しい顔をしながらいう彼女の続く言葉に、自分はやはり反応できない。

 

「加えてそれと同時に、私の実家も大打撃を受けて……。っていうか、あれ反則でしょ! あんな手打ってくるサーヴァントなんている、普通!」

「カカ、負け戦は負け戦。今更何を言った所で無駄じゃ無駄じゃ。 

 それを乗り越えた先に悟りがあるのだ、我がマスターよ」

「ぶんなぐる」

「だから令呪を使うなと言っているだろうに! このマスターは……」

「だったら減らず口を叩くんじゃないわよ、このサーヴァントは……」

 

 なんとなく、今のやりとりは息ぴったりだな、と思った。

 

「では、もう一つは?」

「はい、これ」

 

 言いながら、彼女は手に持っていた手鞄(バッグ)を開け、またもや紙の束を手渡してきた。

 ただし、そこには――。

 

「私のサーヴァントについてまとめたもの。真名、宝具含めて」

「!」

 

 セイバーが息を呑んだ。自分も、おそらく似たような表情をしているだろう。

 少なくとも戦う際、自分のサーヴァントの名前を相手に知られるということは、弱点を相手にさらけ出すことに等しい。それを率先して行うということは、つまるところ、本気で敵対する気がないか、名前を知られたところで大した事がないと思っているかだ。

 

 そして、確かに彼女の言葉の証明として、これは適当な品と言えるだろう。

 

「時間もないけど、名前と、どういうサーヴァントかだけは確認なさい。後は暇があったら読んでみれば?」

 

 

 ――サーヴァント、ランサー。

 ――真名、李書文。

 

 ――宝具は二つ。槍を用いた技と、素手のみの技。槍が仮に折られたとしても、素手で必ず打倒できる点で、意表をつくことが出来る。どちらも最強レベルの武術。

 

 真名についてさえあまり知らないものの、しかし宝具というのについては、かなり大きな情報だ。

 少なくともこれを明かしてくるという時点で、自分は彼女をある程度信用して良いのでは、と思えて来る。

 

「セイバー」

「……わかりました」

 

 刀を彼女が消すと、カルラさんは「いい心がけね」と言って微笑んだ。

 

「まぁ、信じてもらったからには絶対に後悔はさせないから。還付なきまでに計画立て(スケジューリング)して、余念無く下準備して、速攻で終わらせてやるんだから!」

 

 めらめら燃えるように拳を握り、立ち上がるカルラさん。自分とセイバー、あとランサーはそんな彼女の様子にあっけにとられていた。

 

 

 

   ※

 

 

 

「蘭磨だっけ。……なるほど、そういう状況なのね。貴方も結構大変なのね。

 うん、とりあえず今日はもう遅いし、寝れば? 一日二日くらいはここに滞在するでしょうけど、既に私の準備はあらかた終わってるし。

 年のため切符は三枚持ってるけど、最悪それも必要ないかもしれないし。

 ……あ、流石に客間をあてがえとは言わないわ。ここの部屋だけ使わせてもらうから。嘘だと思うなら、表側から施錠してもらっても結構よ。一応、用足しも部屋の中にあるみたいだし……? これだから金持ちは。

 窓は流石に、されると悲しいけど……。ま、今日は私も寝ようかしらね。流石に一日で山脈横断は無理があったわ」

 

 自分の立場というか、現状について説明すると、彼女はそんなことを言ってきた。

 病気のことまでは言い含めなかった(強いて言えば魔術ど素人、という程度の情報だ)。でもそれに対して、彼女は明らかにさっきまでより優しげな声音になっていた。

 

 こちらのサーヴァントの真名を聞く事も無く、彼女はそう言った。

 

 部屋の中に入ると、開口一番、彼女はこんなことを言った。

 

「少し調子が崩れますが、悪い人ではないんでしょうか……? 沖田さん、ちょっと苦手ですが」

 

 寝台に座ると、ちょこんと靴を脱ぎ、沖田さんも隣に座ってくる。

 そして座りながら、こちらに視線を向けてそんなことを言った。

  

 どちらかと言えば、確かにそれは同意する。こう、何と言うか、妙に厳しい先生を相手にしているみたいな、そんな印象だ。

 でも、厳しい先生というのはえてして生徒のことを考えてくれているものだろう。……なんとなく、自分の繋がっていない記憶の認識に、そんなものがあるような、ないような。

 

「まぁ、何はともあれお疲れ様です。沖田さんも、ちょっとお疲れです」

 

 見た目はそう見えないけれど、具体的にはどう?

 

「さきほど、二回くらい吐血をガマンしました」

 

 それは……、それは。

 

 ……。

 病弱すぎない?

 

「いえ、私も好き好んで病弱という訳じゃありませんから……。ここまで病弱じゃありませんよ、本当なら!

 っていうより、髪だってもっとこう、綺麗に黒かったんですからね!」

 

 ぶんぶんと力説する彼女に、自分はどういったものか。

 

 新撰組の沖田総司といえば、確かに病弱という想像がつきまとう。

 池田事件で昏倒した、という話だったっけ。

 

「本当なら倒れてませんからね! まぁ、体調優れなかったのは認めざるをえませんが……。よく記録を掘り返せば、それくらい出てくると思うんですけどね……」

 

 何やら不服そうに沖田さんは頭を傾げていた。

 

「まぁともあれ、お疲れ様ですマスター。彼女たちに関しては、自分が注意をしておくので、お疲れなら眠って頂いて構わないですよ?」

 

 こちらを気遣うように言う彼女。明らかに自分より疲労困憊しているように見える。

 

 ……。

 沖田さんも寝ないの?

 

「へ? あ……、いえ。

 …………ッ、! ! ! いえいえいえいえいえいえ!? 寝ても関係ないです。いつ殺されるかわからない世界で生きてましたですし、おすし!」 

 

 何故か慌てる沖田さん。視線が自分と、ベッドとを行ったり来たりしているような気がするが、きっと気のせいだ。

 

「あー、でも、せっかくならお話でもしましょうか? 色々あって、仲良くなる時間も少ないですし。

 何でも質問してくれて良いですよ!」

 

 胸を張る彼女。

 

 ……。

 人斬り中毒?

 

「違います」

 

 猛烈な勢いで否定が入った。

 

「違いますからね? あの、よくわかんないサーヴァントの言うことなんて信じないでくださいよ? 沖田さん、別にバーサーカ適性とかないですからね? ええ! そうであろうともです!」

 

 早口に、まるでこちらを洗脳するかのごとくまくしたてる沖田さん。さっきとは違う意味で、この慌てぶりはひどい。

 あの変なサーヴァント、というと、セイバーを名乗っていたあの男のことか。

 

「ええ。二流です」

 

 二流?

 

「人斬りとは暗殺です。すなわち初手で失敗すれば、それは相手を殺し損ねるということになります。

 つまり、間抜けです。人斬りの価値はありません。そもそもの仕込みで敗退したならともかく、技量的な理由からの敗北なぞ、高が知れています」

 

 嗚呼、だからアーチャー相手に一撃で決められなかったことに、彼女は感情を乱したのか。

 

「あれは……、絶対おかしいんです。絶対、無明剣があの肩を貫通したはずなのに」

 

 不満そうな彼女だが、しかし殺気を出していないことは、正直に言えば助かった。

 

 ……。

 ブッダギリホリック?

 

「違います。

 って、それ意味同じですから!

 何なんですか、沖田さん怒りますよ? 怒っちゃいますからね! もうお団子とか持ってこないと機嫌直してあげませんから」

 

 ぷんぷん、と言う彼女だが、でも、これはちょっと真面目な話だ。だから出来れば続けさせてもらいたい。

 

 何が真面目なのかと言えば、今後の戦闘時の心構えに関わってくる。

 正直に言えば――自分は沖田さんが、怖い。

 

「こ、こわい……?」

 

 なぜならば、彼女が刀を構えて戦う意思を見せるとき。その際に必ず、自分はその恐怖感で身体を焼かれ、震えが止まらないのだ。

 まるで自分自身にさえ、刃をつき付けられているようにすら感じる。

 

 そうなる理由を知りたいと思うのは、至極当然のこと……なのではないだろうか。

 

「んー、それは、どういう心理から、なんでしょうか?

 いえその、沖田さんもその、安易に自分の所感を語って引かれちゃうのは、流石に傷つくと言いましょうか……」

 

 ばつが悪そうに。どこか怯えるように、頭を下げる沖田さん。

 

 ……。

 それでも知りたい。沖田さんのことが知りたい。

 

「ふぇ?」

 

 ――そうだ。引くとか、引かないとかじゃないのだ。これはあくまでの確認だ。

 自分が共に戦う相手が、一体何を考えて戦う相手なのか。自分自身が不確かだからこそ。寄る辺たる春花様が消えてしまったからこそ。自分がすがることができるのが、もう自分だけしかないのだからこそ。

 

 例え彼女がそうであったとしても、引くということはない。そういうものだと認識する程度のことなのだ。

 

 それよりはむしろ、得体の知れない殺気の正体が知りたい。

 そうすることで、自分の恐怖も減っていくかもしれない。

  

 ――つまるところ、目の前の彼女と、もっと理解しあいたいのだ。

  

「あー ……、その、まっすぐ来られすぎても、ちょっと照れちゃうと言いましょうか。

 でも、わかりました。恥を忍んでこの沖田総司、ちょっとだけお話させて頂きます」

 

 えほん、と咳払いをして、彼女は刀を召喚した。

 

「何歳くらいの頃でしたかね……。九歳はいってなかったと思うのですけど。姉が結婚しまして。まぁそこの関係は色々面倒なことがあったといいますか、省略させてもらいますけど。

 兄が出来たんですよ、沖田さん。

 それまで家には、姉と母だけでした。父については記憶もちょっとあいまいで……。当時はまだ普通に女の子してたんですが、その時、見せてもらったんですよ。兄に日本刀を」

 

 抜き放たれた刀は、一片の刃こぼれも、曇りも、錆もない。最善の状態に保たれているように見える。

 

「綺麗だなーって、思いました」

 

 その月光を反射するきらめきは、確かに綺麗だった。

 

「使ってみたいな! って思いました。こんな綺麗な刃物があるんだなって。こんな刃物が、世の中にはごまんとあるんだ! って」

 

 まるでおままごとをする少女が、料理が上手くなりたい、とでも言って笑うような口ぶりだ。

 

「近藤さんの門を叩くよりも前の話で、正直に言ってがむしゃらでしかなかったと思うんですけどね?

 でも、その使ってみたいっていう心は本当でした。なので、近所の子供たちとか、兄によくケンカをいどみました。今思えば兄は完全にあしらっていたように思うんですが、何分、兄の動きを真似していたお陰でしょうか。

 才能とかはよくわからないんですけど、それを見込まれて。『お前は女として生きるより、こっちの方が向いている』と言われて、道場の門を叩く感じに……。

 だから、剣は私にとって全てです。女としての生き方を切り捨てた以上、それ以外にはありません」

 

 微笑みながらそういう沖田さんに、嗚呼、自分は納得を得た。

 

 彼女のあの殺気は、相手を殺すという意思より、いかにきちんと自分の剣を振るうかという意思が強いということか。

 殺し合いの中に生きてきた彼女にとって、殺し合いよりも重要視すべき点は、ただひとえに剣で斬るという、その行為そのもの。

 自分自身の、ありえたもう一つの生き方を捧げたからこその。その剣と、剣に対する入れ込みや思いは、きっと人一倍なのだろう。

 

 つまり。

 

 ……。

 剣術中毒?

 

「少しはマシになりましたけど、もっと何かないんですか……?」

 

 言い方は悪いけれど、剣を使い、戦う。人を斬る。そのことに自分のすべてを注いだ。

 一念を一心に、一身で一信に。

 

 それがどれほど大変なことなのか、というのは、過去があいまいな自分にはわからない。

 

 でも――その生き方は、後世の人間として憧れた。

 

 

 

 

 




ノッブ「人斬りの内面を理解しようというのもまた平和ボケしとるセンスというべきか・・・。あと、わざわざベッドの上に座っておいて、貴様そのリアクションは・・・」
おき太「べ、別にマスターは残念なのでそんな意図はなかったと思いますが、一瞬ドキッとしました」
ノッブ「いやこれお主の方が誘っておるじゃろ。何この時間帯で一緒のベッドに座っておるんじゃ、普通、一瞬でも同衾するイメージが浮かぶぞ。何自分から襲われに行っておるんじゃ」
おき太「! い、いえ別にそのような意図は……!? 第一別に、おき太さんそう簡単に押し倒せませんですしおすし! 血、顔面にぶつけちゃいますし!」
ノッブ「まあそこがどう決着するかは知らぬ。良い、かってに乳繰り合え。どちらかと言えば問題はこの小うるさい女の方じゃの」
おき太「そういえば第三次の関係者みたいですけど、何やったんですか? 家が壊滅してるーみたいな感じのことおっしゃってましたけど」
ノッブ「なぁに、ちょぉっと『AZUTI』でダイナミックお邪魔しますしながら粉塵爆発を――」
おき太「私達(新撰組)でもそこまでひどい事しませんからね? って、あれ? 芹沢さんとかそういえば焼き打ちしてました!?」
李書文「クカカ、是非もなしじゃ!」
ノッブ「かか! マスターに怯えられても是非もないよネ!」
おき太「うぅ・・・、どうせ私達は暗殺者集団ですよ、うぅ・・・」
 
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