Fate/amber dictation   作:黒兎可

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帝都物語というか帝都大戦というか、リスペクトしているのは良いセンスしてるぜ・・・(first & next order を見て)


拾. 鉄ノ知ル雨

 

 

 

 

 

 ――夢を見た。

 

 彼女(じぶん)は京の都に居た。……何故かは分からないが、自分にはそう認識できた。髪の色は黒く、肌は健康的に思えた。

 服装もまた、他の者達同様に袴を着用しており、今の彼女(じぶん)とは少し雰囲気が異なる。鈍く光る日本刀に、彼女(じぶん)は不敵な笑みを浮かべた。

 

 多くの仲間が見守る中で、彼女(じぶん)は刀を抜き放った。まだ構えらしい構えも決めておらず、というのがわかる。嗚呼、どこかその仕草は初々しい。しかしそうであっても、歴として彼女(じぶん)の動きには、迷いがなかった。 

 

「――(オレ)、いや、拙者はこれより、名を改めたく思います」

 

 嗚呼、言葉の語気まで異なる。少女らしさなど微塵もない。儚げな印象さえ欠片もない。

 そこにあるは、ただただ一人の剣士である。一片の躊躇や迷いを切り捨てんとする、武士へ成ろうとする剣士である。

 

「家名、沖田。名は――総司。これより拙者、惣次郎改め、沖田総司を名乗らせて頂きたく」

 

 強面の男が笑った。恰幅の良い彼は、ばしばしと彼女(じぶん)の肩を叩いた。なでるような動きであったが、その威力は強い。華奢な彼女(じぶん)は少し体制を崩したが、でも、それでも倒れてしまうような弱弱しさとは無縁だ。

 

 硬くなるな、と彼女(じぶん)は言われた。彼はあらかじめ、彼女(じぶん)がどのような名を名乗るか知っていたのだ。

 

 やや照れたように笑いながらも、彼女(じぶん)は剣を構える。

 

 

 そして――走り出した。

 

 

 幾度も夜を駆け巡り。

 幾度も血が舞う都を走り。

 

 彼女(じぶん)の隣から、誰かが消えた。

 

 彼女(じぶん)の前から、誰かが消えた。

 

 彼女(じぶん)の後ろから、誰かが消えた。

 

 ただ誰が消えても、彼女(じぶん)はその歩みを止める事はなかった。

 

 幾度も、何かを言いたそうな顔をしながら。幾度も、子供から笑顔を奪いながら。

 かく在るべしと、彼女(じぶん)は己に刀を向けた。剣士としての彼女(じぶん)は、暗殺者としての彼女(じぶん)に涙を流した。

 

 魂の兄弟すら手にかけた。いよいよ、引き返すことは出来なかった。

 

 悔いがないと、彼女(じぶん)は言いはしなかった。

 雨の中、呆然と空を見上げながら。流される血溜まりの中心で、刀を両手に持ち、下ろし。

 空を見上げ、仰ぎ、空ろな表情のまま。

 

 いつかの彼女(じぶん)が、そこに立つ彼女(じぶん)に声をかけた。

 

 振り向くその目は、表情は、諦めに満ちていた。

 

 ただ――それでも彼女(じぶん)は笑っていた。笑わなければ嘘になってしまうから。

 今までの自分を。夢を、仲間を嘘にしないために。

 

 最後まで――最後の最後まで、ともに剣を誓い。ともに時代を駆け。ともに戦いたかった。

 

 その最果てに横たわるのが無意味な死であろうとも。そうであっても、彼女(じぶん)はそう在りたかった。

 

 のき先の暖かな光に包まれ、空を仰ぐのは決して嫌いではない。でも、そうあるべくではないのだ。そうあってはいけなかったのだ。

 彼女(じぶん)は最後まで、それを嘘にしないために――ただ最後まで「誠」の一文字と共に在ればよかったのだ。

 

 嗚呼、だからきっと――。

 

 それだけは、それだけはきっと、偽りのない「誠」であるはずなのだから。

 

 

 

   ※

 

 

 

 ――夢を見た、気がする。

 

 目を開けた瞬間、自分の目の前には沖田さんの顔があった。

 一瞬絶句し、そしてはたと昨日の状況を思い出す。沖田さんとそのまま語り合って、おそらくそのまま寝入ってしまったのだろう。

 

 慌てて起き上がろうとすると、猛烈な痛みが左肩に走って倒れ込む。

 

 そういえば、昨日、サーヴァントによって斬られていたっけ。何故今になって痛むのかは定かではないものの。

 

 

「――お目覚めになられましたか? マスター」

 

 

 ぱちり、と沖田さんが目を開ける。

 

 かなりの至近距離でのそれに、自分は大声を上げた。

 色が抜け白に誓い髪。これまた色が薄い、琥珀色のような瞳。病弱ゆえか肌の色も健康的とは決して言えないが、でも儚げな印象の彼女は、端的に言えば綺麗なのだ。おまけに服装はいつの間にやら始めて出会った時の袴のない和装のようになっていて、色々と目のやり場に困る。

 

 身体を起こして、少し伸びる。……うん、動けない程じゃない。再度視線を、隣の彼女に向けた。

 

 ……。

 その格好も似合ってるよ沖田さん。

 

「ふぇ? あ、ありがとうございます……!?」

 

 がばり、と起き上がると、彼女は慌てたように両手と頭をぶんぶん振る。

 そういえば、春花様の服はどうしたのだろう。

 

「えっと……、色々汚れてしまいましたので、そこにまとめてあります。

 あの、選択は致しますので、その」

 

 ん、つまり沖田さん、この場でお着替えをしたっていうことでしょうか?

 

「……そういうところに言及するのが、マスターの残念なところかと存じ上げますが」

 

 ぐさっと来る台詞は、二日連続で自分の胸を貫いていた。まぁ自業自得ではあるのだが。

 

「この服装は、私のサーヴァントとしての服装でありますので、言うなれば私という属性を構成する要素だったりします。

 なのでこれだけは、意識せずに出現させることが出来るんです。おそらく受肉したところで変わらないかと」

 

 受肉?

 

「通常私達、サーヴァントは、マスターなしでは存在を保つことが不可能です。というのも、私達は英霊。つまり死人です。現世に魂が留まり、肉体を維持するためにマスターと聖杯の魔力が必要なんです。

 その前提を崩す方法が受肉です。マスターとのつながりが消えるわけではないですが、聖杯に拠らない魔力生成――つまりは、現世における『新たな肉の器』を手に入れるということです」

 

 もう一度生まれなおす、ということだろうか。

 

「概念的には近いと思います。第二の人生ってやつですねー。

 英霊の中でも、聖杯にそれを願うヒト達は多いみたいですよ?」

 

 他人事のように言う彼女に、自分はふと、夢のことを思い出す。

 

 雨に打たれた一人の少女。かつての願いを、夢を裏切らないために、数多くの屍を背負った少女。

 空を仰ぎ、空ろな視線を向け。それでもなお最後まで、願いに準じたいと思った彼女。 

 

 あれは、この彼女の夢なのだろうか。自然と、視線が右手の甲に行く。花弁のような模様は、二つ。一つは色あせ、欠けている。

 これが彼女と自分との主従を繋ぐものであると、あのセイバーを名乗る男は言った。

 

 ……何を願ったのだろう。

 

 答えを知っているような、知らないような。

 不定形の夢からでは、残念ながら自分の人生経験、曖昧模糊とした過去の記憶からでは、彼女のそれを読み解くことは難しい。

 

 だからこそ、自分は彼女にそれを聞いて見たい。言葉としては何を選ぶべきか――。

 

「――!」

 

 と、そんなことを考えていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。どんどん、と扉を叩くような音も聞こえる。

 

「……あ、そうですね。マスターは顔を洗いにいってください。

 私は、扉の鍵を開けに行きます」

 

 嗚呼、そういえば。昨日から梅屋敷は、滞在者が増えていたのだ。

 

 カルラさんと、サーヴァント・ランサー。目的を異にするものの、しかして目指す敵と結末には近いものがある彼女たち。

 考えてみれば、昨晩からずっと入り口の扉を閉めていたので、扉を乱暴に叩かれるのも、絶叫されるのも当たり前と言えば当たり前か。

 

 沖田さんの脱いだ着物を一旦放置して、自分は顔を洗いに廊下に出て――。

 

「扉を外から施錠すればとは言ったけど、十二時近くまで拘束されるなんて思ってもみなかったわ!

 考えてみたら結構ボロボロになっていたのを忘れた私も私だけど、それを見越して扉を開けて置かないあいつもあいつよ! 常識的に考えて!」

「クカカ、自業自得とも言えるがなマスター。お主の言葉を借りるのなら、その程度気を遣っておくのが当然ではないのか?」

「普通、大体の人間が私の立場だったら賛同するわよこの文句は! でも出られたからありがと!」

 

 セイバーに大声で怒鳴っているカルラさんの声が聞こえた。

 

 ……どうしようか、顔を合わせるのが怖くて仕方がない。

 

「あ、ちょっと! 朝食の用意くらいしなさいよね、蘭磨くん! あと早上好(おはよう)!」

 

 客室から出てそうそう、ぼさぼさになってる髪を撫で付けながら、彼女はこちらを指さして言った。

 

 どうやら顔を洗ってから本日最初の仕事は、どうもそれになるらしい。

 幸か不幸か、それとも藤保さんの仕込みのせいか、一週間くらいは何とかなりそうなくらい食材が倉庫の中にあった(ご丁寧に春花様仕込みと思われる、冷凍された野菜とかもあった)。流石に数日も滞在しないだろうと思ってはいるけど、なんとなく勿体無い気もする。

 

「おき……、私は洗濯してきますね。水洗いくらいならできますから……」

「あ、良ければ私、手伝うわよ? あんまり凝ったものは作れないかもしれないけど……、って、うわ、調理場広ッ!」

 

 セイバーに続き、そう言いながら、ふらふらとした足取りで出てくるカルラさん。……よほどお腹が空いているのか、作業途中にちょこちょこ野菜の切れ端とかを生のままつまんでいた。なんだか申し訳なく思ったけど、今謝るとなんだか作業を中断する勢いで返答が返って来そうなので、今は放置しておくことにする。 

 

「何よ、何か言いたい事でもあるわけ?」

 

 ……。

 そのモノクル似合ってますよね。

 

「何突然褒めてるのよ、意味わかんない!」

 

 少し顔を赤らめながら机をばんばんと叩く彼女。って、包丁が危ないですから。

 もっとも明らかに彼女の手際は良い。あの妙に神経質なところというか、思考の整理整頓めいた態度のお陰か、こういう作業にはすこぶる向いているのだろうか。

 

「あ、それから貴方、セイバーにも食事持って行きなさい」

「な、何でです?」

「そんなの、蘭磨くんのパス程度じゃセイバーの魔力供給が追いつかないからに決まってるじゃない。現界しているサーヴァントの場合、食事でも多少魔力を回復できるのよ。

 まぁ用達しに行ったりといった作業が必要にはなるでしょうけど」

 

 それは……、知らなかった。 

 とりあえず簡単に、精進料理めいた汁物とお米(粥)だけ準備して、客間に持っていく自分達。「汁物は私が持っていくから」と言われたので先んじてお粥を手に自分は客室に入ろうとして――。

  

「――クカカ、それは少し異なるのぉ。

 武の合理とは、これ一つでは意味を成さぬ。それは大前提と言っても過言ではないぞ?」

 

 ふと、ランサーのそんな言葉を聴いた。

 どうやらセイバーと、何か話し合っているらしい。

 

 ……。

 とりあえず、様子を見よう(聞こう)。

 

 決して下心のある覗きとかじゃないので、沖田さんも咎めはしない……、はずだ。

 

「意味を成さない?」

「左様。心理、心情、技術、技能、体格、体調。いかに優れていようと、使う者の意思や意図がそれに伴っていなければ、無駄でしかないからな。

 その点、我がマスターはまだまだ二流じゃ。己に出来ることを他者が当然出来ているものだと錯覚するのは、ちと尊大すぎる。考えずともわかるとは、考えるまでも無く身にしみた経験があるということだ。つまり考えて居ないようで考えている。おまけに心技体が己の望む形に伴っている相手ばかりかといえば、それも違うからの。ただ信用しているだけなら他者を過信しすぎじゃが、出来ないことに他者の能力不足を問いすぎるのもの。聞けばお主のマスターは、出来る事の方が少ないだろうに」

「確かにそうなのですが……、こう、マスターが残念だと再確認されているようで気がすすまないといいますか……」

「カカ、何、それを変えるのは環境じゃろうて。まぁマスターは赤子の面倒を見るのが嫌だと言ったが、あれはあれであやつなりに、協力者に対する愛のムチなのだ。環境を変えるより、己が変われ、とな。発破をかけておるのだ。

 元来お節介焼きなのだ、あやつは。わかりはするが、問題はどの程度、その『責』を相手に問うべきなのかというところか。

 仮に娶られることとなったとしたら、伴侶はかなり子供について気を遣う必要があるだろうなぁ……。了見が狭いわけではないが、決して広い訳でもないから」

「……貴方はこう、経歴を見れば暗殺者めいているように思えるのですが、人間味があるというか、その……」

「甘く感じるか? クカカ、まぁ間違ってはおらん。少なくとも若かりし頃より、合理の中心をどこに置くか、という点では異なっているからな。

 こと武、そのものにおける優劣ともなればまた別だが、なんでもかんでも合理に人間を合わせよとは強制せぬさ。目指すところがないのなら、それを強いることは萎えさせることでしかないからな。

 つまり、心が折れるという奴だ。折れた心を繋ぐのは難しい。特にそれが、相手の心を折った当人であるならば」

 

 …… 一体何の話をしているのかはよくわからないものの、あまり自分が聞いて良い話ではなかったような気がする。

 

「まぁ、それこそ当人に聞かせる話でもあるまい。わしの見立てが正しければ、お主にもその傾向はあるように思うからの、セイバー」

「……いや、その、心当たりは結構あるといいますか」

「師範など大体そんなものじゃろうて。特に、お主は天凛の才に恵まれているようだからな。出来ないことが分からない、というところか。

 まぁ似たような道を辿った老骨からの、ただのお節介と思っておれ」

「忠告、痛み入ります」

「クカカ! 寝床と飯を提供してもらうのだ。そのくらいの恩返しはしても合理的じゃろうに。

 さて、いつまでも立たせているのも可哀想じゃ。入ってきて構わぬぞ、セイバーのマスター」

「!」

 

 あ、沖田さんの視線がこちらを向いた事を感じる(扉越しだけど)。

 そして数秒もせずに、彼女が扉を開けた。

 

「き、き、聞いてましたかマスター……!?」

 

 顔を赤らめながら、セイバーはこちらに確認をとる。何かそこまで恥ずかしがるような、慌てるようなことが、今の話にあっただろうか。

 

 ……。

 そんなことよりご飯食べようか。

 

「へ? あ、はい、そうですね、私もお腹空きましたし……、って誤魔化されませんからね!」

 

 言う割には視線が手元のお粥の方に向いているような気がしないでもない。

 クカカ、と枯れた声で笑うランサーは「そこのマスターと同意見じゃ」と肩をすくめた。

 

「まぁ悪かったな。ある意味、主の恥部をさらけ出させてしまったようなものじゃろうて。

 しかし、己の足りぬ箇所を死してなお探そうという姿勢は、武の合理を極めんとした己に通じるところがあったのでな。ちと興が乗ってしまった。悪かったな」

「悪いと思うのなら、もっと誤魔化すような事を言ってください!」

「それこそ必要なかろうに。わしならいざ知らず、お主のマスターに必要なのは、サーヴァントに対する理解じゃろう。その上で、お主もまたマスターを理解せねばなるまい。

 お主らは妙に生き方に距離感があるからな。そこを埋めていかねば、おそらくこの先、死ぬぞ?」

 

 出会ってそう長く会話をした覚えも無いのに、ランサーは的確に自分と彼女とのことについて見抜いていた。

 ランサーの言葉に、沖田さんは口をつぐんだ。彼の言葉に、どこか歯噛みするような表情だ。思うところがあるのだろうか、彼の最後の一言に。

 

 不意に、新撰組における彼女の立場を思い出す。

  

 ……。

 死が怖い、ということだろうか。

 

「どちらかと言えば怖いですけど、別にそういうことじゃありませんよ。

 ……あ、梅ですね。梅屋敷だけに!」

 

 お粥を見て、両手を合わせて、沖田さんはさっきまでは見せなかった女性らしい笑顔を浮かべた。

 とりあえず一度食事にしようということで、自分は彼女たちの前に器を置いていった。

 

 

 

 

 

 




ノッブ「でこれお主、何を聞いたんじゃ?」
おき太「いやぁ、どうしてマスターがあんなに戦うたびにげーげーしそうな顔をしているのかなーと疑問に思いまして。ほら、おき太さん優良サーヴァントですし? セイバーですから! セイバーですから! ですからこう、李書文先生にご教授願えればと」
ノッブ「その主張は良いが恥ずかしがるところがおかしいじゃろうに。まぁ死が怖いのはマスターの方じゃろうがの。死は怖いが、死ぬより信念を優先させる生き方には憧れると。……完全にパンピーという奴じゃな。おまけに魔術使えないし」
おき太「まぁ、おそらく今後出てくるマスターの中で、残念賞受賞者探したら三本指に入ると思いますし」
 
ちゃりん娘「その割には傷の回復速度が異常な気がするのは私だけでしょうか・・・?」
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