Fate/amber dictation   作:黒兎可

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拾壱. 日陽無明教室

 

 

 

 

 

「あら、味付けは上手ね。材料の鮮度はともかく」

 

 食事をはじめると、カルラさんはそんな感想を言った。語調の強さに反して意外と楽しそうだ。彼女のサーヴァントはといえば、やれやれ、と言わんばかりにため息をついている。

 ちなみに沖田さんは、カルラさんが持ってきた漬物(たくわん)を自分の米のところに乗せてきている。

 

「さっすが、良いところで使用人やっているだけあるのかしら? 蘭磨くん、結構良いもの食べてきたんじゃない?」

「そ、そうなんですかね……?」

「うん。だって無関係の私にもわかるくらい、味付けからは気遣いを感じるもの。あんまり味を濃くしすぎず、かといって味わいがなくなるほど薄味でもなく。

 些事加減が繊細ってことね。ちょっと見直したわ」

 

 見直す点がおかしい気もしたけど、そこは流しておこう。 

 

 お粥を音も無く食べ終わると、彼女は人差し指を立てた。

 

「じゃ、食事もそこそこのところで。食べながらでもいいから聞いて頂戴?」

 

 首肯する自分と沖田さん。

 少し得意げに笑いながら、カルラさんは続ける。

 

「あらかじめ、私達が敵対しうるサーヴァントについて情報をまとめておきましょう? 具体的に言えば、真名を調べておくの。

 あ、改めて言うまでもないけど、貴方のサーヴァントの方は教えてもらわなくてもいいから。信用してもらうためにアドバンテージ残しておいた方がいいってのもあるけど、なんとなく正体察してきたから」

 

 ちらり、と沖田さんの方を見る。

 こふ、と軽く咳き込むと同時に、少しだけ血を流している。……ふきんふきん。

 

「現状、私が把握しているサーヴァントは二体。アーチャーと、あのもう一人のセイバーを名乗っていたあれね。

 まぁ消去法で言えばライダーかアサシンなんでしょうけど、とりあえず二セイバーとでもいっておくわ」

「にせいばー ……?」

「何よ、私のネーミングに文句でもあるの? わかりやすさ第一よ、わかりやすさ。

 で、ニセイバーとアーチャー。貴方たちも話を聞く限りだと出会っているみたいだけど、容姿とか、能力について教えてもらえるかしら」

 

 列車の中で遭遇した、あのサーヴァントの姿を想像する。

 

 確かその容姿は。

 

 ……。

 黒髪の少女のサーヴァント。

 

「容姿にそれ以上の言及がないってことは、東洋人ってことで問題ないわね?

 使ってきた武器は?」

 

 ……。

 古い、火縄銃。

 

「……? へ、でもそれって――」

 

 カルラさんは、いぶかしげな目でこちらを見る。

 

「…………まぁいいわ。

 とするなら、ありえそうな可能性としてはまさか、あのアーチャーが残っていたってこと……? 

 念のため確認なんだけど、そいつ『是非もない!』とか、妙に老人みたいな口調してなかった?」

「なんで知ってるんですか?」

 

 思わず素で返す自分に「本当にか……」と彼女は唖然としていた。

 言いながら、カルラさんはどこからか取り出した羽根ペンで、紙に字を描いていく。

 

「ともかく敵の正体よ。少なくともアーチャーについては、当たりがついたわ。隠すつもりがないだけ、と言えなくもないけど、問題はランサーの方ね」

「ランサー?」

「最初に私に貴方、言ったでしょ? セイバーが最初に倒したサーヴァント。えっと……、アーチャーによれば、へくとりぃが、だったっけ? 十中八九『言えてない』だけだと思うけれど」

 

 彼女は紙の一番上に、次のような文字を書いた。

 

 

 Held-Krieger

  

 

人造英霊兵団(ヘルト・クリーガー)。第三帝国の方で、技術だけ研究しているって話は聞いていたけど……。

 あのアーチャーが言ったってことは、ほぼ間違いないでしょうね」

 

 それだけ言って、押し黙った。

 

 ……。

 マニュアルはあるんですか?

 

「あるわけないじゃない。って、何言ってるのよ、あなた……?」

「クク、今までの自分の行動が原因だろうに。ちゃんと説明してやれ」

「え? あ、うん、そのつもりだけど……。

 ヘルト・クリーガ。魔術協会側で把握している程度の情報だけど、なんでも聖杯戦争における英霊召喚の技術を、そのまま兵士として転用できないかっていうものらしいわ。

 あまり気持ちの良い話じゃないけど、人間の兵士を人体改造して英霊の霊核を擬似的に再現。そのまま英霊の力の一旦を現界させる……っていう基本骨子だったはずだけど」

 

 彼女の話を聞いていて、腑に落ちないところが出てきた。

 英霊召喚て確か、聖杯の力を使って行っているんじゃなかったろうか。だとすれば、そのへくとり……、へるとく……、

 

「言いづらいなら英霊兵、とかでいいわよ?」

 

 その英霊兵たちもまた、聖杯を使わないと呼び出せないのではないか。

 そして、仮に呼び出せたとしても7体以上呼べるものなのだろうか……?

 

「無理ね」

 

 カルラさんは「当然じゃない」といわんばかりに断言した。

 

「事実それが出来っこないからって聖堂教会も魔術協会も鼻で笑って放置していたっていうのが現状かしら。

 あっちもあっちで多くの兵士を実験に投入していたけど、基本『思想』に染まって居ない奴は使えなかったみたいだし。そりゃ、仮に成功して反逆でもされちゃたまったものじゃないから。

 問題は――そんなものが成功してしまっている、という現状ね。

 聖杯が原因で成立しているのだとしたら、個人的にも看過できなくなってくるわね」

 

 個人的にも看過できない?

 

「魔術は秘匿するもの、というのが大原則なのよ。神秘とは、神秘が知られることで徐々に劣化して、消えうせてしまうものだから。

 だっていうのに、そんな大々的な方法で攻勢をかけるための兵器に使うなんて……。まだ聖杯を爆弾にでもした方が、発想としてはマシよ」

 

 いや、何でも願いが叶う道具を爆弾にするっていう発想もなかなか飛んでいるというか……。普通やらないことだし、やったとしたらきっとその相手は頭が色々とおかしい。

 

「それは後で考えようかしら。今考えてもどうしようもないし……。

 ふぅ、こんなところかしらね?」

 

 

 セイバー:? :ランマ

 アーチャー:織田信長 :?

 ランサー:李書文 :カルラ・エインズワース

 ニセイバー(アサシン)?:? :?

 

 

 こちらに今、彼女が書いた文字を向けられる。

 そこにあった情報に、自分は目を見開いた。

 

「あの、これって……?」

「今判明している段階でのやつよ。まぁ、ニセイバーは仮にアサシンと仮定してあるけど、問題はこっち」

 

 と、そう言いながら彼女はアーチャーのところに指を着きつけた。

 

 

 織田信長――。

 

 

前回の(ヽヽヽ)アーチャーよ」

 

 ……。

 正式なサーヴァント?

 

「前回の聖杯戦争で、召還されたサーヴァントという意味じゃそうね。

 第三次聖杯戦争のアーチャー。なんか、とんでもない飛行機みたいなのに乗ってたし、たぶんこの国の軍関係の人物がマスターなんじゃないかしら」

「い、いえ、ちょっと待っていただきたい」

 

 ん? と頭をかしげるカルラさんに、沖田さんが困惑した声を上げた。

 

「織田信長……? 織田信長とは、あれですよね? 同姓同名とかではなく」

「いや、なんでサーヴァントの貴方の方が困惑しているのよ……。明らかに私より詳しくてしかるべきでしょ」

「いえ、知識としては充分にあるんですけど、ちょっと……。あれですよね? 数多くの武将を打ち破り、後一歩というところで道を経たれた、天下人になれなかった武将」

 

 そこら辺で、彼女が何を言いたいのか理解してきた。

 そして自分も同様の困惑を抱いている。

 

「……女性?」

 

 戦国の風雲児、織田信長。

 記憶が曖昧模糊としている自分でさえその名前を覚えているのだから、よっぽど有名な武将なのだろう。今、彼女が語った経歴だけを見てもまさに頷ける。

 

 だというにに、そんな明らかに直接戦うのが難しいような相手が、あの少女……?

 確かに言動の端々から、老獪というか、武将としての格のようなものは感じ取れたものの、簡単に納得はできない。

 

「あら、そんなこと言ったら貴女もじゃないの?」

 

 もっともカルラさんは、ひらりと、沖田さんにそう返した。

 

「少なくとも、日本刀を扱う女性の英霊なんて、以前この国に私が来たとき、調べた範囲では見つからなかったわよ?」

「……その、否定はできませんが」

「史実として伝えられるそれと、実際のところが違ったところで、今を生きる人間には違いなんてわからない。だって、観測のしようがないんだから。

 どこかに生まれてから死ぬまで全ての人間の有様を観測する『悪魔』でも居ない限り、無理でしょ。そういう意味じゃ、誰もあの英雄をそうだと否定することは出来ない」

 

 カルラさんの例えはよくわからなかったものの、その言葉は確かに的を射ている。納得できるかは別として。

 

「まぁ何で私が知っているのかと言えば、ちょおっと因縁があってね」

「因縁?」

「家の仇なのよ、あれ」

 

 嗚呼、そういえばそんな話もしていたか。

 ということは、カルラさんの腕を切り飛ばしたのも、あのアーチャーということになるのか。

 

「あー、ったく何たる状況なわけ……? ってことは、状況なんて整理するまでもないじゃない」

 

 そう……、恐ろしい事に、今回の構図がおおむね見えてきた。

 今あるありあわせの情報だけで、ここまで上手く運ぶものなのか。何か作為的なものも見え隠れしているように思うけど、そこは後で考えよう。

 

 まず、第三次聖杯戦争終盤。聖杯は……、消失している。

 加えてアーチャー、織田信長が未だに現世に留まっている。マスターの魔力供給なくして成立しえない以前に、聖杯が消えても未だ霊体になれることから、そこには何か矛盾がある。

 とするならば、聖杯を強奪したのは、彼女、ひいては我が国の軍ということになる。

 そうすれば、あの時、沖田さんに拷問されそうになっていた兵士を撃ち殺したことにも説明がつく。大方、口封じが目的なのだろう。

 

「同盟国同士という意味じゃ、正しいことなんでしょうね」

 

 でも、現在の情報で対策の立てようがあるのだろうか。

 

「ヘルトクリーガについては、まだちょっと怪しいわね。

 でもアーチャーに対してなら、ある程度は対策が立てられるわね」

 

 ちょっと待っててと言いながら、彼女は奥に置いてあったバッグから、紐で閉じられた紙の束を取り出した。

 

 そこには……、膨大な量のメモと、写真や切抜きが貼り付けられていて……って、いや、これ何ですか!?

 

「何って、アーチャー対策」

 

 何さも当然というように言ってるんですか、このヒト。

 

「そりゃ一回負けたんだから、次に何か機会があったとしたら、徹底的にボッコボコに出来るよう準備くらいするわよ。

 次回の聖杯戦争で呼ばれないとも限らないし、そん時はめったんめったんにぎったんぎったんにして、有り金全部ぼったくってやんだから!」

 

 そして発言がなんでこう、いちいち物騒なのか。

 沖田さんは言うに及ばず、カルラさんまでこの調子だと正直、胃が持たない。救いを求めてランサーの方を見れば、ご老体は肩をすくめた。

 

「わしはむしろ、セイバーに性根は近いぞ?」

 

 どうやらこの場では、自分が一番場違いらしい。 

 

 拝啓、春花様。思えば遠くに来てしまったものです。

 助けて冥夜さん……!? 願ったところで意味はないのだけれども。

 

「はぁ……」

「……あ、マスター、ごちそうさまでした」

 

 両手を合わせてそう言うセイバーに、少しだけ心が癒される。癒されると同時にあの時の殺気を思い出すのだけれど、そこは一旦忘れたことにしよう。

 

「端的に言えば、あのアーチャーの特性は、開拓者といったところね」

「開拓者?」

「そ。古きを廃して新しきを広める。少なくともそう伝承されているわ? 比叡山のテンプル焼き打ちだったっけ? 何よりその印象とか、あとは戦法が新しいとか、そういう風に言われているわね。

 ともかく、これがかなり大きい。あのアーチャーの言動とも一致していることから、おそらくそういう性質を持った英霊であると推測できる」

 

 伝承が英霊を作っている、という風に聞こえたけれど、それは一体……?

 

「英霊というのは、伝承により補正が加えられるのです」

 

 セイバーが、小首を傾げながらそんなことを自分に言う。う~ん、この微笑みだけだったら、充分に癒されるのに……。

 

「後世の人間が、その英雄の伝承を歪める。あるいはイメージが浸透することで、その英雄の存在が歪められる。

 私で言うこれこふっ!」

 

 嗚呼、そんな。満面の笑みで吐血されましても……!

 いや、でもおおむね理解した。セイバーの場合、生前の「病弱」というイメージが、彼女の本来の在り方を歪めてしまったということか。思えば夢で見た彼女のイメージと、今の彼女とは容姿の面でも多少異なる。少なくとも、もっと健康的な容姿をしていたはずだ。

 

「中々扱いづらそうなサーヴァントね……」

 

 カルラさんから太鼓判を押されるレベルで、つまり彼女の病弱さは影響しているということだろう。嗚呼……。

 

「まぁともかく話は戻るけど。

 あのアーチャー、軍旗にすぐれているという点から見ても、ひょっとしたら今、軍部を牛耳ってたりするんじゃなかしら。

 そのレベルでなら聖杯を強奪してもその足取りが掴めず、かつ、第三帝国の動きとかも考えられる。

 たぶんだけど、技術提供されるかわりに、聖杯の力を横流ししてるんじゃないかしら。

 そしてきっと、アーチャーはそれをものともしない。伝え聞くヘルト・クリーガーの特性は、おおむね神聖を帯びているものだから、そう考えれば……、おそらくアーチャーは、神秘に対して特化した英霊」

 

 その話だけを聞くと、あまり自分たちに関係のある話には聞こえないけれど……。事実、沖田さんもランサーも、神聖とかがある英霊には思えないし。

 そんなこちらの疑問を感じ取ったのか、彼女はふふん、と得意げな笑みを浮かべた。

 

「いいえ、むしろ、だからこそ重要なのよ。

 特化しているということは、必ずどこかに穴があるってこと。加えてあなたの話を聞く限りだと――おそらくアーチャーは、神性を持たない英霊にはそこまで強くない」

 

 現に武術特化の英霊である貴方のサーヴァントは、アーチャーと戦うことが出来て居た、と。

 彼女の言葉に、自分は一定の納得をした。確かに、言われて見るとそうかもしれない。

 

 とすると、カルラさんのランサーと自分のセイバーとで組めば――。

 

「少なくとも、対アーチャーに関しては、磐石って言えるわね。

 頼りにさせてもらいますよ、李書文先生?」

「クカカ、こういう時だけそういう扱いか。まぁ構うまい、アサシンも真っ青な気配遮断を披露しよう」

 

 ランサーがふと、ぎらぎらした笑みを浮かべる。そこにはセイバーの冷たさとは違えど、嗚呼、やはり自分とは人種が違うのだなと、胃が痛みを覚えた。

 

「あの、マスター ……?」

「あー、うん、大丈夫。大丈夫だから」

 

 沖田さんの心配する視線に、自分は苦笑いを浮かべた。

 

 悪いのは自分だ。春花様が生きるべき場所に居座り、彼女の仕事の代行をしている。そういう意味で言えば、自分は彼女の代理に不適格なのだろう。

 何せ、ボケているから。

 記憶がなく、そのせいで今の自分に危機感を抱くことが出来ていないから。

 

 書類を片付け始めるカルラさんの背を見て、自分は思う。

 

 この場で誰より秀でたものがなく――。そんな自分こそが、ここにおいて邪魔者なのだと。

 

 

 

 

 ぎゅっと。

 でもふと、自分の右手を見れば、沖田さんが手を握っていた。

 

 

「あの、本当にお加減大丈夫でしょうか?」

「……あ、うん、大丈夫」

 

 こちらを心底気遣う、沖田さんの表情。

 

 ……。うん、そうだ落ち着こう。

 手を離してもらって、自分は深呼吸する。

 

 そうだ。夏根様の書状を見た時点で、自分が何をするかは決めていたのだ。だったら今更、そこから逃げる事は出来ない。出来ないのだから、前を向こう。

 つまるところ、一旦考えるのを保留しよう。

 

 ……ここがおそらく、平和ボケしていると言われるところなのだろうけれど。

 

 と、そんなことを考えていると、カルラさんが再び椅子に座り、手を差し出した。

 

「ってことで、今後ともよろしく。具体的には打倒アーチャー!

 ヘルト・クリーガについてはこれから考える必要が出そうだけど、ともかく貴方たちの力を改めて借りたいから。だから、ね?」

 

 差し出された手を、自分は少しためらいがちにとった。

  

 

 

 

 




ノッブ「執念深すぎじゃろ・・・」ガクガクブルブル
おき太「そういえば、ノッブってどれくらい無辜ってる※んですか?」
ノッブ「いや無辜ってるって・・・。意味はわかるがの。まぁ実際のところは断定できんが、説話にあるものは利用し尽くそうというのがわしの発想かの。なぁに、手札は大いにこしたことないのじゃ!
 それよりお主、いい加減マスターのメンタルケアちゃんとせんとやばいんじゃないのか?」
 
 
※スキル「無辜の怪物」により歪められているの意。転じて、生前の実像から後世の逸話や説で歪められていること。
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