Fate/amber dictation   作:黒兎可

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拾弐. 陸軍鎮台ガ悪魔

 

  

 

 

 

 カルラさんの準備が終わるまでの間、何と無く自分はセイバーに聞いた。

 

「ちょっとだけでいいから、剣術教えてもらえないか?」

 

 思えば、その一言が間違いだった。

 

「いいですよ? 私、そういうの得意ですから、お任せください!」

 

 普段と何らかわりない調子で、きゃっきゃと喜ぶように言う沖田さんに、自分はどこかいやされていたところもあったけれど。でも考えてみたら、彼女と自分との生きた時代は違うし……、そういえば、始末記の沖田さんも、そういう傾向はあったような、なかったようなというのを今更ながらに思い出す。

  

 

 

「――馬ぁ郎おおッ!

 だぁら、体乗せて斬り込めって何遍まぁしゃ気が済んだぁ、お(めぇ)さんッ!」

 

 

 

 胴着みたいな色合いの服に身を包んだ沖田さんが、そんな口調で何度も怒鳴り散らす。それは沖田さんが今、洗濯をしているあの桜色のものと同型で、色合いは白と浅黄色とむしろ新撰組らしい色合いの服装なのだけれど、問題はそこじゃない。

 

 まず彼女は、納刀して縛った刀を手渡してきた。「これで重さがわかりますよね?」と微笑みながら言ってきたので、ためしに受け取って見ると、そのまま自分は刀を持てずに取り落とした。

 

「重さですか? 確か清光は……、二斤百匁くらいだったと記憶していますが」

 

 歩兵銃の銃剣を付けたくらいの重さだった。以前春花様に、遊び半分で持たされた事を思い出した。

 刀だけでとなると、鞘まで含めるともっと重いだろう。考えてみればどちらも鉄の塊なのだから、当たり前と言えば当たり前の話だった。むしろ細腕の沖田さんが、意外と筋肉質だったと考えるべきなのか。

 そう、この段階で気付くことは出来たのだ。その刀を持たせながら、もう一本別な刀をどこからか取り出して、鞘を地面につけ柄に手を置き、仁王立ちでもするような体勢に彼女がなったのを。 

 

 そしてその際、一瞬その表情に不穏な陰りが見えたのを。

 

「とりあえず振ってみてください」

 

 取り落としそうになる刀をぷるぷる震わせつつ数回振る。

 

「うーん……、マスターは刀に向いていないかもしれませんね。というより、まずは鍛えましょう」

「木刀とかでもいけるとは思うのですけど、まずは腕を動かす動作を覚えてください」

 

 言いながらもう一本の刀を手渡す沖田さん。そちらはさっきのものにくらべ、妙に軽かった。

 一瞬手が触れた時「きゃっ」と小さい声を上げる沖田さんだったけど、それはともかく。途中までは、普通の口調だった。ただ、次第にその口調が段々と荒っぽくなって(エスカレートして)いった。

 

 

「腕力がないなら体重を乗せていくんですよ。へ、二撃目ですか? まずは一撃目を成功させてから考えましょう」

「だから、もっと深く踏み込むんですよって」

「踏み込むのと一緒に刀を……、あー、それじゃ隙だらけですから、もっと早くしてください」

「あー! 落とさないで下さいよ、()結構もろいんですから!」

「だから、もっと強く踏み込みを――じれってぇ、踏み込めばえぇんだ!」

 

 

 そしてその最終進化系が、さっきの口調だ。

 びりびりとその一括一括で、体が震える。正直言って怖い。剣膜が、今にも斬られそうなくらいの威圧感を漂わせる。それでも戦闘中の彼女ほどの恐怖を感じないのは、彼女がまだ抜刀していないからか。

 

 どれくらいの時間そうしていただろうか。気が付くと、庭先の木の上でランサーが面白いものを見るような目でこちらを見物していた。カルラさんの姿がなかったのが救いだろうか。

 そして自分が大の字で地面に倒れた時点で、一旦休憩とのこと。

 

「ふぅ……。

 お疲れ様です、マスター」

「……」

「マスター?」

 

 残念ながら、返答してあげられるだけの体力はなかった。

 さっきの沖田さんは、マスターだとかサーヴァントだとかを無視して有無を言わせすらしないほどの状態だった。それに煽られ続けながらの状態だったので、色々と大変なものがあった。

 

 口には出してないものの、その自分の疲労の様子に、不安げな表情を浮かべて膝をかかえるように座り、こちらを覗きこんでくる沖田さん。

 こういうところは可愛らしいのに、さっきのあの彼女の表情を重ねてしまい、げんなりしてくる。

 

「あの……、えっと、厳しかったです? ひょっとして」

 

 ……。

 そんなことより沖田さん可愛いね。

 

「へ!? あ、ありがとうござ……、って、それ全然話題逸らせてませんからね!

 あー、もう、やっぱり、まーたやっちゃった……」

 

 こちらに背を向けて、声音を暗くする沖田さん。どうやら何か、踏み抜いてはいけない橋の穴でも踏み抜いたらしい。

 残念ながらそれにかける言葉を考えるも、自分の人生経験からではいかんともできず。

 そして、こんな調子で色々大丈夫なのだろうかと、ふと不安になった。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 アーシーが、わしを不思議そうに見つめる。

 年は十代中頃か。かつては完全に少女といった趣じゃったが、多少大きくなったこともあって、容姿はりりしく見える。海兵の服を改造して作った服は動き安さ重視というか、まぁ夏場であることを考慮した格好なのじゃろうが、ちと丈が短い気もする。

 

「ノブナガ様」

「うむ、今帰ったぞ? ――マスター」

 

 我ながら、言いながらも何とも微妙な表情になってしまうのぉ、これは。

 いや、わしの態度というか、在り方からして仕方がないものなのじゃが、どうあがいてもわしはマスターを仰ぐという立場には収まれぬ。このアーシーにさえ傅かれているような有様じゃし。いや、それはむしろ望んだというか、意図したところじゃがの。まぁ是非もなし。

 

 むしろ軍部の他の連中が、我がマスターほど従順でないというのが嘆かわしい。特にあの間桐じゃ、間桐。根が優秀で、わしと似たような視野を持てるくせに何故精神論で戦争を語りたがるのか、理解に苦しむ。

 そういう教育を受けてきた、というのが原因かもしれんが……。いやはやまったく。あそこの家は第三次共々面倒じゃ。

 

「……」

「どうしたんじゃ?」

「やっぱり不可解です」

「何がじゃ」

「ノブナガ様がなぜ、ここにやって来れるのかといいましょうか。……、人間の英霊なのに」

「嗚呼、『上空』じゃが、まぁ、一応わし魔王じゃし?」

「説明になっておりません」

 

 ともあれ、そう時間もかからず参謀本部の方面じゃ。陸路に着いてから移動まで時間はかかるが、そこは流石に、特注の飛行船まで作ったわしの言う台詞ではないじゃろう。

 

「そういうわしからしてみれば、マスターの方が色々謎じゃがの。

 どう見ても南蛮人にしか見えぬのに国籍日本とは。似たような経歴なのが飛行分科の方に一人いたかの?」

「よく覚えていますね」

「わし、記憶力は良いんじゃ。しかもよりによって父親が……、いや、この話は止そう。

 お主の魔力もまた、完全にわしの想定外の量じゃし。まぁ今の敗戦直前の国において、この組み合わせで呼ばれたと言うのも何かの運かの」

「敗戦直前ですか?」

「ん、なんじゃお主、軍内部にいながらぷろぱんが(ヽヽヽヽヽ)に踊らされておるのかの?」

「決してそのようなわけではありませんが、しかし彼我の状況はそこまでとは。

 ……そういえば『ウ號作戦』も引き上げさせてましたけど、あれは一体何の意味が?」

「引き上げさせた、というより引き上げざるをえなかったんじゃ。

 どっちかといえば軍部の尻拭いじゃ、稲田あたりに任せておけばまだしばらく粘れたろうに、あれじゃもう手の施しようがないの。現状、言うなればヤケになっておる空気じゃ、今の軍は」

 

 この娘、まぁ少女だというのを差し引いても頭は悪くない。悪くないが、未だその知見は少女の域を出ない。まだまだ「先端」でしか見れておらぬ。視野を広く持てというのはいつも言っておることじゃが、情報を分析するにはまだまだ経験不足かの。

 しかし、陰口とか嫌がらせ程度でめげず、なお国の行く末のためにあらゆる方策を考えられる柔軟さは残しておいてやりたいものじゃの。間違いなく、それは今後の時代で生きるはずじゃ。

 

 わし個人としては、こやつは研究職とかの方が似合っておる気もするが……。

 

「内閣もじきに落ちるじゃろうしの。

 というか、こんな末戦まっしぐらが目に見えるようになってきた頃合になってまで権力闘争できるだけの元気があるのなら、何故最初からもっとすまあと(ヽヽヽヽ)に立ち回れぬのか……。いや、言いすぎか。所詮、過去の人間の戯言じゃ」

「……」

 

 うん、こういう反応が新鮮じゃ。

 わしが生きた時代、家臣は頷くものと首を振るものの二つしかなかったからの。ありていに言えば、そういう時代じゃった。それ以外を求めていたらヒトが簡単に死ぬ時代じゃ。今もそこまで変わりはしていないが、国という枠組みが思いのほかしっかりしてきつつあるお陰か、多少思考にゆとりがあるの。

 

 ここら辺はあの狸の功績かの。サルのままじゃ、ここまでは来なかったろうし……。

 

 いや、まぁわしも「昔ほど真面目にやっていない」から、そんなにカリカリしていないというのもあるが。

  

「そろそろ終戦について論じ始める時期という意見も窺いますが」

「遅い遅い! そんな泥棒が出てきてから縄を用意するような速度で、失敗時のりすく(ヽヽヽ)を論じるのが愚かじゃ、愚かじゃ。わし、そういうの大ッ嫌いじゃもん」

 

 そんな、調子が良かった状態がずっと続くことを前提とした作戦の組み方なんぞ、下策も下策じゃ。昔のわしじゃあるまいし、あー大嫌い大嫌い。

 

「例外が起こりうることには、回収できるだけの素地が必要じゃ。それでも無理なら、それを前提に作り続ける必要があるわけじゃ。物作りと一緒じゃ、物作りと。出来ないなら出来ないと断るか、そういう覚悟を持って、人間を、資源を運用すべきじゃ。

 相撲で例えるなら、わしらは嫌々、小兵が百貫の相撲取りの前に放り出されたような状況なんじゃぞ? 対するならばそれなりの作戦と覚悟あっての挑戦が前提あろうに。

 それならまだしも、根本的に準備不足じゃろ準備不足すぎるじゃろ準備不足。楽観視しすぎとるのも少なからずいるし、この空気は、もう兵科が政権を握る時代ではないのかもしれないの……。

 第一、どうせもう新しい暗号とか破られとるじゃろうしの」

「!?」

 

 流石にそれは想定外だったのか、アーシーは目を見開いて固まってしまった。

 着陸の衝撃に、わしらの体がぐらぐら揺れる。

 

「言葉とは神話じゃ」

 

 着陸した衝撃で若干むせておるマスターの背中をさすりながら立たせるわし。

 

「……ノブナガ様が神話を語るんですか?」

「たわけ、わしじゃから語るのじゃ。

 良いか? 神話とは、『言葉を重ねる事でさもそれが実在しているものであるかのように刷りこませるもの』じゃ。基本、神話は実在を検証する事はないじゃろ。神や仏の存在に疑いを持つ事はあっても」

 

 なぜなら、神話は単なる物語じゃから。物語を荒唐無稽と判断するか、現実的と判断するかは聞き手によって左右される。

 治安維持法の大義名分なんか最たる物じゃ、あれで捕らえられた人間は可愛そうじゃの……。成立背景と結果があまりにつりあっておらぬし。

 

 例えるなら、軍は勝つ。軍は負けぬ。我が国は世界を救う。なるほど一見格好が良いかもしれない。

 じゃが、それを保障する相手は一体誰じゃ? 誰がそれを保障するのじゃ?

 

 例え逆らえぬ状況であっても、情報と正常な判断力があれば人間は必ず疑念を持つ。

 なれば、それを摘む様な状況こそが本来は悪じゃ。

 

「まぁ、わしは結構そういうことやっていたがの」

「……悪ではないですか、ノブナガ様」

「だってほら、わし、魔王じゃし。

 まぁ皆殺しは時代に合わぬからやらんが」

「よく叫んでいるじゃないですか。『皆殺しじゃ!』って叫んでるじゃないですか」

「ノリじゃ、是非もないネ!」

 

 一層不可解そうな表情を浮かべるアーシーに、わしはいつものようにそう切り替えした。車中、何とも言えない表情をしておったのが何よりも面白いの。

 これで男でもっと筋肉質じゃったら割と好みの感じじゃったのじゃが……、おっと、いかんいかん。

 

「そして、例のヘルトクリーガについてですが」

「嗚呼、それじゃな――」

 

 アーシーに今日見てきた所感と、あのセイバーについて話し終える頃に、参謀本部に到着。 

 道を歩くわしの姿を、不審な目で見るものが数名。……その中に妙に面長の軍人が居た気もするが、まぁ気に橋内でおこう。なんかそわそわして、妙に自分の存在意義に疑問を抱かせるような、そんな雰囲気の男じゃったが、気にしない気にしない。

 

 会議中の扉を開けると、全員がこちらに唖然とした目を向けた。

 

「のぉ、久しぶりじゃの東」

「……」

 

 わしの呼び方に嫌そうな顔を浮かべる参謀総長。何度か筆談したことはあったが、まぁその時の流れからして、未だにわしの実在を疑っているようじゃし、是非もないかの。

 この場で大人の姿になっても良いが、サーヴァントが増えてきたこともあって、あまりわしも魔力を使いたくはない。

 

 まぁ、渋い顔をする原因もわかっとるし、こやつとの面会もこれが最後かもしれんしの。

 

 といっても、会話することもほとんどない。こやつもこやつで追い詰められておるだけじゃ。まぁ時代が不運としか言い様がなかったのもあるが、そもそも今の戦争の形態がずさんというか、システム的にどうあってもこうならざるを得ないところがあるからの。こやつ本人にも問題がなかったとは言わぬ。結局、忠誠心を名目に何をやっても良いわけではないということじゃろう。

 こちこちに固まった良識も、わしの時代の前では首ちょんぱじゃが、今の時代はきちんと合議すべきということじゃ。かりすま(ヽヽヽヽ)は只の願望投影じゃしの。

 わしから出来る事は、今後少しでもこのような政治形態を取らない程度に、草案をまとめて誰それかに手渡しておくくらいかの。

 

 久々に直に面会した東は、ひどく疲れておるようじゃった。それでもわしに一定の敬意をはらっているよう見えるのは、こやつの忠誠心はどこまでいっても「あそこ」にあるからか。わしも一度、真面目に参ったことがあった縁もあってか知らぬが。

 

 こやつの性格からして、わしらを邪険にしてもおかしくはないのじゃが、そこは仕方ないのかもしれぬの。ただ、どうせ「あそこ」にはわしの存在を知らせてはおらぬだろうが。

  

 石とこの東を足して二で割るか、あるいは両者が手をとっておればと思わずにはいられんの……。

 まぁ、こうやって批評しているあたり、わしは「当事者じゃない」というのが一番の理由なんじゃろうが。

 

 参謀で少し会議に参加した後、わしら用に設けられた一室へ向かう。。

 そういえば、いよいよ、「あれ」が完成する。いよいよという意味では、三年という準備期間はあまりに早かったといえる。……まぁ、もうちょっと早く出来ていれば色々と状況は違ったかも知れぬが。

 

 そんなこと考えながら椅子に腰掛けた時。

 

「……あのワカメ、何故ここに居なかったのじゃ? 確か間桐には、こっちに居るよう松田経由で指示を出したと思ったが」

「?」

 

 わしの直感が、何やら嫌な予感を告げていた。

 

 

 

 

 

 




おき太「ノッブが真面目に仕事している・・・だと?」
ノッブ「それに比べ完全無敵のおき太は・・・あっ(察し)」
おき太「ふ、ふぅーん、相性だった負けませんもの! ええ、おき太さん大勝利ですとも!」
ノッブ「ただしFGOじゃと」
おき太「そういうの止めましょうよ。あ、大豆いります?」
ノッブ「パス。わし、魔王じゃしまとめて浄化されそうじゃし」
おき太「己が神だと宣教師に鼻で笑って自称した身で、何今更信心気取ってるんですか」
ノッブ「宗教とか色々違うじゃろそれ」
 
ゴクウさ(真)「お師さまが可愛く見えるこのふてぶてしさ」
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