Fate/amber dictation   作:黒兎可

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拾参. 登戸ノ爆

 

 

 

 

 

「ええっと、恥ずかしながら沖田さん、こと剣術に関しては人格が変わるとおっしゃいましょうか、ええ」

 

 倒れこんでいた自分を起こし、お互い一息ついたころ。

 セイバーは何度も謝りながら、自分に恥ずかしそうに話しかけた。

 

 縁側に座り、意気消沈しながらも彼女は語る。しかし、酷く腰が引けた口調だったのは何故だろうか。

 

「何故とおっしゃいますと?」

 

 こう言うと変かもしれないけれど、彼女が戦闘中に人が変わったようになるのは目に見えていたのだから、稽古一つとってもああなってしまうこともありえた訳だし、むしろそこに気が回らなかった自分が悪いのでは?

 

「いえ、あの、そういうことでねく、そういうことじゃねえんですよ」

 

 何故か口調になまりが出た沖田さん。

 困ったように笑う表情は、やはり戦闘中のそれとは比べようもないくらいに親しみやすい。

 

「うーん……。その、ですね? 戦ってるときは、まだ、その、()なんですよ。私を維持出来るといいますか。

 でも、こと稽古に関しては『俺』が出ちゃうというか」

 

 俺?

 

 ……。

 そういえば、生前の彼女の一人称、俺とか拙者とか言っていたような気がする。

 

「は、はい!?」

 

 そんなことを呟いたせいか、沖田さんは目を見開き、がばり、と自分の両肩を掴んだ。なんだその俊敏な反応は……って、痛い! 握力が尋常じゃ無いくらい本気のそれだ。

 

「え? え? な、なんで知ってるんですか? そんなこと、だって私、別に話したりしませんでしたし――」

 

 この反応からして、夢で見たことはどうやら真実のようだ。それとなく、その話を伝えると、彼女は呆然として「……ぬかった」と小声で言った。

 なんとなく、普段の彼女らしからぬ動揺ぶりな気がする。

 

「セイバー、その反応だと今の丁寧な口調とかは、作った人格みたいな風に聞こえるのだけれど……」

「あ、いえ、別にこれが猫を被っているということではありませんよ。

 ただ『私』のものであっても、生前のふるまいのものであるかは別ということです」

 

 つまりどういうことだろう。ただ、その言い回しの通りにどちらの振る舞いをしていても、彼女の雰囲気というか、ふるまいにわざとらしさは感じないのは事実だ。

 

「まぁつまり、えっと、剣士としての私と、私人としての私ということです」

 

 私人としての彼女?

 

「ごらんの通り、『私』は女性です。これは、生前の私が斬り捨てた私。『女性としての』私。

 対して『俺』は、剣士としての私。生前、暗殺者として名を馳せていたころの『人斬りとしての』私。

 差異としてはそういった感じでしょうか……。なので、どうしても荒っぽくなりがちです」

 

 戦闘中の彼女の印象を振り返って見る。一人称、態度、それら一通りは確かに今の彼女の雰囲気のままだけれど、しかし放っていた圧は、どちらかといえば稽古中のそれに近い。

 そういう意味では、なるほど「剣士としての彼女」か……。

 

 ……。

 なんであんなに、切羽詰っているのだろう。

 

「切羽詰って……?」

 

 不思議そうな反応をする彼女に、自分は続ける。

 そう、切羽詰ってるような印象なのだ。戦っている時はそうは思わなかったけど、教えている時の荒っぽさには、どこかカルラさんのような余裕がない。まるで、その一事がほんの小さな一事であっても、それ自体で生命に関わってくると言わんばかりの、そんな強い印象を受けた。

 

「……あの私を見て、そういうことを言ったのはマスターが初めてです」

 

 沖田さんは少し、ほんの少しだけ嬉しそうに、寂しそうに微笑んだ。それから自分から目をそらし、空を見上げる。どこか遠くに向けられたそれは、夢で見た、雨に打たれた彼女の横顔を思い起こさせた。

 

「余裕がない。……そうですね、余裕はなかったのかもしれません。

 だって、私にはこれしかなかったから」

 

 手にある刀に視線を落とし、どこか自嘲するように肩をすくめる。

 

「多くの男たちの中に、剣一つで私は居ました。ただ不思議と、女扱いはあまりされませんでしたね。

 なんでなのかなーと思えば……、色気はあまりありませんでしたか。肉体的なことではなく、精神的に。

 だって、私は女であることを斬り捨てましたから」

 

 そこには少なからず、隊士の幾人かが彼女と同門で、修行を積んできたというのも理由かもしれない。ふと、そんなことを自分は思う。

 

「斬り捨てた以上は、私にはその選択肢をとることは出来ません。結局最後の最後まで、憧れた人はいましたけれど、愛し合った人間はいませんでした。

 そのことは割り切ったつもりでしたけど……。マスターがおっしゃるのなら、そうなんでしょうね。きっと」

 

 何故、自分が言うからそうなのか。

 似ているところはあまりないと思うのだけれど。

 

「だって、マスター、なんとなく私と似てる気がしますし」

 

 似てる? 疑問符を浮かべる自分に、彼女は微笑みながら続けた。

 

「ええ、そりゃあもう。

 ――生きるための活力が、たった一つなところなんて特に」

 

 そう、なのだろうか。自分には、沖田さんのように、生きるための指針は一つも無い。己自身を捧げる道も、己自身が何になりたいということも。

 でも、そんな自分に彼女は頭を振った。

 

「あるじゃないですか。死せども、未だ貴方の生き方を定めるものが」

 

 嗚呼、それは――。

 

「貴方が愛したご主人様。私を現世に呼び出したそのお方。

 彼女のために、彼女の願いのために、貴方は自分のすべてを捧げている。記憶がなくても、いいえ、ないからこそそれ以外、何も見るつもりがない。

 一心不乱に、ただ進むのみ。違いますか?」

 

 言われて見ると、たしかにそうなのかもしれない。

 

 だから、と沖田さんはこちらに向き直り。

 

「マスターはちょっと残念ですし、変に気遣いができませんし、女の子みたいな顔してちょっと送り狼みたいなことを言う時もありますけれど。

 でも――そういう一途なところ、私はすごく憧れます。

 私、そういうのすごく疎いんで、わからないところもありますけれど。

 でも、その一念だけは、きっと私の生き方の何倍も、何倍も純粋で、綺麗なものだと思うから。だって私――」

 

 ――全然、未成熟ですから。

 

 嗚呼、何故だろう。

 その時の彼女の表情に、不思議と春花様の顔が重なって。何故か自分は、直視できずに顔を逸らした。

 

 どうされました? と問いかけるセイバーに、なんでもないですと丁寧語で答えた。

 

 だけれども、とその上で自分は思う。

 自分は確かに、春花様を好いていた。愛していたと言っていい。でも、だからこそそのために何か出来る事をしていたということは、ないような気がする。

 

 沖田さんのあの剣術の腕を見れば、明らかなことだ。あれは、一朝一夕でなんとかなるようなものじゃない。天才だの何だの言われているけれど、そもそもそういう次元の話ではない。その道一つのために、自らの命すら削る覚悟と、行動がともなって、初めて体得できる技術のはずだ。

 

 それほどまでに、自分は春花様のために生きてこられたかと言えば、違うような気がする。

 過去がないということを差し引いても、自分の生き方なんかよりも――。

 

「?」

 

 彼女と視線が合い、ふたたび自分は顔を逸らした。嗚呼、どうしたというのだろうか。春花様相手にも感じた事の無いような、妙な気恥ずかしさを覚える。

 

 

「何やってんの? 貴方たち」

 

 背後からカルラさんの声がした。振り返ると、既に荷物をまとめているのか、大型の鞄を手に持っている。

 それと、ランサーの姿が見えない。

 

「ランサーは、体術で消えることができるのよ。そこら辺にいるから安心しなさい。

 しゃべらないのは単に『合理的じゃない』からでしょ?」

  

 どういうことだろう。

 

「真昼間のこんな軒先で、使い魔とはいえ逢引なんてしてる男を前にかける言葉なんてないんでしょうよ」

 

 にやりと意地悪く微笑むカルラさん。

 それに対して、セイバーがふぇ、というような声を上げた。かなり同様したのか、自分と一気に距離を開ける。

 

 逢引?

 

「まぁ確かに可愛いって言えば可愛いんじゃないの? そういう趣味の男もいるかもしれないし……、って、何よその反応」

 

 いや、だって、別にそんなつもりはないし。

 正直に言って、剣術を教わっていた直後のことだし、第一、そういう風にセイバーのことを見るのは失礼だと思う。

 

 彼女は、英雄なのだ。

 

 少なくとも、自分はそう聞き及んでいる。その力を借りているのだから、どんなに砕けた付き合い方をしても、せいぜい、友達がいいところだろう。というよりも、自分は「上司」や「春花様」、「部外者」以外の相手に対して、その付き合い方しか識らない(ヽヽヽヽ)

 

「……? 何よそれ、意味わかんないっ」

 

 カルラさんが、ぷい、と視線を自分からそらす。何かおかしなことを言っただろうか。

 不思議に思いながらセイバーの方を見ると、何故かそちらも、さっきみたいに驚いた表情をしていた。

 

 一体どうしたというのだろう、この空気は。

 

 ……。

 沖田さん、黒髪も似合っていたよ?

 

「……ひょっとしてマスター、困ると片っ端から近くに居る女性を褒める癖とかありませんか?」

 

 セイバーの言葉に、自分は視線を逸らした。

 

「ええ……。

 ま、まぁいいわよ。何か調子狂うなぁ……」

 

 そんなことを言いながら、カルラさんは自分の襟を掴み、一気に立ち上がらせた。……こっちの腕力もすごいなと思って見れば、人形の左腕を使っていた。

 

「まぁとにかく、聞きなさい蘭磨くん。私の方の準備はとりあえず済んだわ。あのアーチャーを倒す準備は済んだ。それで提案なんだけど、いいかしら」

 

 何を提案するというのだろう。正直、戦略についてはもう提案することなんてないと思っているのだけれど。

 

「いや、沢山あるでしょ。貴方、手順書(マニュアル)の抜けがわからないの……って、本気でわからないかもしれないのか、あーやりにっくい!

 なんで記憶喪失になりやすいとか、わけわかんない相手が協力者なわけ!?」

 

 明確に名指しされて絶叫されているものの、彼女の言い分はもっともだろうから、自分は何も返す言葉はない。

 

「まぁとにかくよ。

 要するに主目的というか、作戦目標を決めようと思うのよ」

 

 目標?

 

「ヘルトクリーガに関してなんだけど、色々考えたわ。

 で、おそらく『聖杯』さえおさえれば大丈夫よ。奴らはあくまで聖杯の力を使って呼び出される擬似的なサーヴァント。正規のそれじゃないのだから、召喚のロジックはともかく魔力供給さえ断てれば良いはずよ」

 

 ということはつまり。

 アーチャーと戦う側と、聖杯を押さえる側とに別れるということだろうか。

 

「飲み込みが早いじゃない、蘭磨くん。

 ま、そういうことよ。で、相手の本拠地についてなんだけど、おそらく――」

 

 

「――ッ、マスター!」

 

 

 ごう、と刀が降り抜かれる音。

 突然、沖田さんが突然立ち上がり刀を構えたのだ。何事かと思い自分はその切っ先の方向を見る。

 

 そこには、ばさりばさりと羽ばたく烏が一匹。沖田さんの一撃で足を切り落とされたそれは、こちらの様子を窺うように飛んでいた。

 

「ただの烏ではありません。明らかにこちらを狙って急降下してきていました」

「こちらを? って、あれは……?」

 

 なんだろう、どこかで見た覚えが……。というより、藤保さんのシキガミだったっけ。

 ばさりばさりと羽ばたく烏。セイバーが刀を抜いたあたり、こちらを攻撃するような動きをしたということだろうけど、一体……。

 

「たぶんあの性格が悪いののことだから、意図的にやってるんじゃないのかしら。ほら、飛行中に捕らえられたら大変じゃない? だからあえて攻撃的な挙動をするようにしてるとか」

 

 あいにく、藤保さんのことさえ詳細は覚えて居ないので、以下説明割愛。

 どちらかといえば、仲介役みたいなことをしてこちらまで誘導していたらしいし、カルラさんの方が藤保さんのことについて詳しいかもしれない。

 

「面倒だわ。

 ランサー、とっつかまえて」

 

 カルラさんの言葉に合わせて、瞬間、カラスの背後にランサーが出現した。

 がん、という音と共に、肘打ちのように地面に叩き付けられるカラス。断末魔のような声を上げる様は、沖田さんにより足切断並に血の気が引くところだったけど、数秒もせずどろどろと溶けて、小さな小箱に変化した。

 

 ……箱の角が一部欠けていたり、ヒビが全体に入っていることには目をつむろう。

 

 そしてだれも、そんな有様に何一つつっこまないこの状況。

 

 箱をあけると、手紙が入っていた。……読めなかった。日本の文字表記でない。明らかに異国の文章だ。

 

「えっと、何何? 指令って……、協会からじゃない!?」

 

 紙をめくっていた自分の両肩を掴み、後ろから覗きこむカルラさん。少しほっぺたが触れるが、特に気にした様子もない彼女。むしろ突然の行動に、こっちの方が困惑したくらいだ。

 

 もっとも、すぐさまこっちの手元から手紙を取り上げて、離れてじっと読み始めるのだけれど。

 

  

「バーサーカーがノボリトの研究所で暴れてる?

 速やかにコレを鎮圧されたし。第三帝国由来の……、って、どこよノボリトって」

「登戸なら、世田谷近くだからここより南下する感じですね」

 

 こちらを不思議そうに見るカルラさん。

 

「貴方、帝都に来るのって初めてとか言ってなかったかしら」

「あ、いえ、厳密には武蔵野付近には、来た覚えがあるような、ないような……?

 ここの別荘が、そもそも春花様所有のものですし」

「ふぅん? じゃあ、土地関係で少し頼ってもいいわけ?」

 

 思わず頬が引きつる。彼女の求める要求度合いで頼られるという想像が、なんというか、上手く出来ない。どうせ怒鳴り散らされる、という未来が容易に想像できた。

 そんな自分の表情を見て、いぶかしむカルラさん。モノクルをくいっと上げながら、観察するように半眼でこっちを見る。……、って、近いです。

 

「いや、何ていうか、蘭磨くん私のことどう見てるわけ?」

 

 ……。

 説明魔人。

 

「何よその形容! べ、別に普通でしょ普通!」

 

 ばんばん、とこちらの腕を叩かないで下さい。

 ランサーが彼女の背後で「自業自得じゃろうに、クカカ!」と笑っている。

 

「あー、もう、これじゃせっかく用意終わったのに意味がないじゃない」

 

 そういえば、何の用意をしていたのだろうか、彼女は。

 

「対織田信長用の最終兵器よ。本来は別な用途のためのものなんだけど、今回はその用途で使うわ。

 まぁその話は追々ね。とりあえず蘭磨くん達も、外に出る支度しなさい」

 

 言いながら、ぶつぶつと独り言というか、手紙の内容に文句を呟き続けるカルラさん。

 さっきの調子だと、おそらく自分たちも登戸に向かう流れなんだろうけれど……。

 

 

  

「? セイバー、どうしたの」

「……いえ、なんでもないです」

 

 

 

 そして何故か、カルラさんの背中を見つめていた自分を、沖田さんは不機嫌そうに見ていた。

 

 

 

 

  




おき太「ちょっとマスターのことがわかってきました」にこにこ
ノッブ「なんじゃマスターもお主に対して理解深めて来てる感じじゃの」
おき太「これはおき太さんが最強無敵になる日も近い・・・?」
ノッブ「そうは言うが、バーサーカーに勝てるのか? 協会の情報、今回はコハエースほど充実していないというに」
おき太「? それはどういう」
 
ノッブ「難易度がSNのバサカ戦レベル」
おき太「え゛?」
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