Fate/amber dictation   作:黒兎可

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あらすじの通り実験作です。設定理解、練りこみなどアレな場合はご指摘願います;



序.終ノ日


 

 

 

 

 

 ――――全てが終わってしまった。

 

「あ……」

 

 身を起こそうとすれば、左肩を貫通した刀のせいで僕は立ち上がることができない。だからこそ、僕は何も出来ない。目の前で大切な、自分の主がボロボロにされていく光景を。

 それを成すのは赤毛の男。頭に金の輪をつけた、中華風の服装の男。彼はぎこちない表情のまま、後ろの軍服姿の男に命令されるままに、彼女をボロボロにしいていく。打撃、打撃、また打撃――。

 

「東洋人。早いところ聖遺物を出した方が身の為だヨー?」

 

 彼女をー―春花様をボロボロにしていく男が言う。

 春花様は、何も言わずに睨む。その視線は男と、その背後の軍人をとらえたもの。後姿しか見えずとも、嗚呼、彼女がどんな表情をしているかなど、僕にはわかっている。

 

 列車の中は、既に大きく破壊されていた。砕かれた氷の槍。血まみれに殺された乗客の数々。うすらぼんやりと漂う金属のような匂いで、思考がどうにかなってしまいそうな中。それでも、彼女はにらむ事を止めない。

 

「続けろ、『ランサー』」

「……あいヨー」

 

 彼の一撃が、春花様の腹にめり込む――ごきゃりと、骨が砕ける音。それと同時に、何か「破壊してはいけない」臓物が、割かれた腹部から噴き出した。

 

「女。お前はこれから死ぬ。お前も、あの男も殺して、それから探索するとしよう」

「第三帝国に栄光あレー」

 

「――遠野にまつろう、久我峰の……ッ」

 

 かすれた声が聞こえる。春花様の言葉が。

 

 あんなボロボロの状態になって、でも、それでも彼女は何か、言葉を紡ぐ。苦悶の表情を浮かべながらなお。

 

「――閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)――」

 

「……始末しろ、ランサー」

「あいヨー」

 

 そんな風に、軍人のような男の声と共に。あっけなく春花様は、蹴り飛ばされた。僕の隣に転がる彼女。既に声はほとんど形を成さず。息も絶え絶えに、文字通り死にそうな声が聞こえてきた。

 自分と彼女の距離は、数尺もない。手を伸ばすと、彼女の頬に触れられる。痛ましく晴れ上がり、切られ、地が噴き出し、赤黒くなった頬。手に感じる生暖かな温度が、その重大さを物語っている。

 

 そんな僕の手に、彼女は重ねるように手を載せた。

 

「はる、は、な……さ……ま?」

「……済まないわね。貴方にはこれから、大きな苦労をかけるわ」

 

 そう言いながら、春花様は僕に顔を向ける。口元が広がり、目元が細くなる。笑っているのだろうか、泣いているのだろうか。ぼろぼろになった顔面から判別するのは難しい。

 

「後のことは、きっと姉さまが何とかしてくれるはずよ。あの人、私よりも察しが良いから」

「何を言って――」

 

 

「――」

 

 

 彼女が何を呟いたのか、僕には理解できなかった。

 でもそれと同時に、列車の奥、僕らが先ほどまで座っていた座席の方が、輝く。カバンが飛来し、赤毛の槍使いの頬を掠めた。いぶかしげにこちらを見て、槍使いはそれを叩き落とそうと動く。

 

「――を貴方に返します」

 

 しかし――金属同士がぶつかるような音が響く。槍使いの一芸は、カバンを破壊することはなかった。

 それは氷の壁に阻まれていた。僕らと彼らの間に、巨大な氷の壁が出現していた。氷は、春花様の得意とする魔術だった。

 春花様は僕の顔を見て、そして手を包んだ。

 

「苦労をかけたわね――蘭磨(らんま)

 

 その言葉と共に、彼女の目が閉じられ――強烈な痛みが、自分の手の甲に走った。

 何が起きているのか、僕にはさっぱり理解できない。ただただ、その痛みに一瞬目を閉じて。次の瞬間には、春花様は動かなくなっていた。目を見開いたまま。焦点は自分に合って居ない。口からこぼれた血も、腹から溢れる血も、だくだくと音を立てていたのが、段々と小さくなっていく。

 

 あ……、嗚呼――。

 

 叫ぶことさえ出来なかった。頬が振るえ、手が震え。自分の身体の芯の部分が、目の前の彼女の状況を受け入れられていない。ただただ彼女が死んでしまったと言う事実を、自分は受け入れることができない。例え目の前で見せ付けけられてしまったことだとしても――。

 寄る辺のなかった自分を助けてくれた、そんな彼女を失ってしまったということを。

 

 僕の頭上、飛来していたカバンが展開し、中から本が零れ落ちていた。僕が初めて彼女からもらったもの。そう生きることは出来ずとも、春花様から与えられた一つの指標。

  

 それを中心に、何か、円形の魔法陣が展開し――。

 

 

 ――強烈な打撃音が聞こえる。

 

 視線だけを動かしていれば、春花様が作った氷の壁に、巨大な亀裂が入っていた。(ひび)の向こうでは、赤い槍が何度も、何度も打ちつけられている。人間業ではない。あれほどの厚みの氷を、単なる武器の打撃だけで破壊しようとしている。

 

 何が起こっているか、さっぱりわからない。左肩の痛みも。右手の甲に刻まれ続ける痛みも。

 そして僕は気づいた。見れば――春花様の手の甲から、まるで虫が這い回るように、赤い何かが僕の手に移ってきているのを。

 

 

「――硬かったヨー!」

  

 

 粉砕された氷の壁の破片が、春花様の顔面に落ちる。ぐしゃり、と音を立てたそれを見て、自分は絶叫した。絶叫する事をこらえることが出来なかった。

 身動きをとることは出来ない。そんな僕を見て、赤い槍の男はにやりと笑った。

 

「いくヨー。さぁ、死――」

 

 

 

 ――赤い男の構えた槍が、猛烈な勢いで弾かれた。

 

 

 

 半月のような、銀の光が男の目の前を通過した。その何かが男の槍を阻んだ。瞬間的なそれに対して、目を見開いて、男は飛びあがり後退。地面を蹴り天井に立ったかと思えば、そのまま天井を蹴って地面に着地。

 

 恐る恐る、僕は頭上の方にある、その銀の光の――「刀」の主を見た。

 

 女性だった。白に近い、短めの髪。手には刀と鞘を持ち、こちらと距離を計っているように見える。

 首には黒く長い襟巻き。白く丈の短い和服を身に付けていて、短い袖と裾から肩と足が見える。

 

 彼女はこちらに向かって前進し、僕に目を合わせた。その視線は暗い。まるでこちらのことを路傍の石のように思っているように感じる。生まれてからそんな目で人間を見る相手なんて、自分は見た事がなかった。

 

 しかし――彼女はその目に、ほんの少し人間味を浮かべる。ほんのわずかに、その表情に明るい感情がさしたように、僕には思えた。

 

 

 

「――問います。貴方が、私のマスターですか?」

 

 

 

 その言葉の意味さえ、僕は全く理解することさえ出来ず。

 そしてそれが、僕と、剣士(セイバー)との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 




登場人物・・・
 蘭磨(らんま)・・・主人公。桜セイバーのマスター。
 久我峰春花・・・蘭磨のご主人様。
 
 ランサー(?)・・・軍人の従えるサーヴァント。しゃべり方が片言。兄貴ではない。
 軍人・・・ランサー(?)のマスター。
 
 桜セイバー・・・蘭磨のサーヴァント。衣装セイントグラフは2段階。
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