Fate/amber dictation   作:黒兎可

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 間.我想ウ故ニ

 

 

 

 

 

 己の存在理由について、考えたことのない人間はおらぬ。

 

 というのも、それは人間が生きるために必要なことだからだじゃろう。自分が何を定めてどう生きるか、ということが、なまじ猿や畜生よりもいくらか発達した思考により阻害されるからの。

 生き物なら何をおいても、生きるために第一に従うべき習性。宿命。

 

 言い換えるなら、起源、本性――いや本能が近いか。生き物として原始的なものじゃ。

 

 わしの場合、ふと考えれば、それは国と呼ばれる概念じゃった。

 

 なまじ、液体窒素で凍結したかのごとくこちこちに固まった寺に入れられていたのが災いしたのか、不自由さがどこまでいっても自分をしばる。じゃからこそ、しばられないで良い世界を望んで戦った。わしに出来ることの全てを尽くした。誰一人、本当の意味では信用することもなく。

 じゃからこそ、大願果たせずともその生き方に、疑問も後悔もない。

 

 結果、生前鼻で笑っていた死後の世界というか、「英雄」として民衆から祭り挙げられることになるとは思ってもみなかったのじゃがの。

 

 やるべきことはやりつくした。後は後の者達が手を尽くすべきなのじゃ。

 

 少なくとも、わしはそう考えておった。……わしはそう考えるし、わしの「本体」もそう考えておるはずじゃ。

 

 

 ――じゃからこそ、目の前の光景が一瞬理解できんかった。

 

 

 曖昧模糊とした自我が、現世に形成される間。わしは今の思考力で周囲を探索する。

 見回す限り、日の本の武士(もののふ)ではない。まげも結っておらぬ(わしもヒトの事をいえた義理はないが)。服装は南蛮じみておるが、自由さがない。まぁそれなりに整理された服装じゃ。その者達が、口口にささやきあう様は、明らかに動揺が見て取れた。まるで、わしが今川を破ったときの大半の下々の者を連想させる様じゃった。

 

 その様を冷静に見回して思うのは、どうやらわしがこの場に現れたのが想定外、というような反応ということじゃ。

 しかし、おかしいのぉ。わしが呼び出される所以たる何かがぱっと見て見当たらないような気がするのじゃが……。

 

 ん? なんじゃへしきり(ヽヽヽヽ)かの?

 せっかくなら茶器とかで呼び出して欲しかったものじゃが、まぁ是非もないネ。

 

 ふと視線を落とせば、身体はおそらく二十中ごろを過ぎたあたりじゃの。銀の西洋鎧めいたそれに身を包み、背にマントをなびかせる姿はあまり現実的な戦装束ではないが……。まぁ一般的に、そういう「うつけ」だと思わせるように振舞ってはおったしの。

 

 そして視線を上げた瞬間、一人の男と視線が合う。

 

 その瞬間、嗚呼こいつは駄目じゃ、とわし自慢の観察眼が断言した。

 

 おそらくわしを呼び出した者。死したる英雄が魂を呼び出しし魔術師。つまりはわしのマスターなのじゃろうが、この男。これは駄目じゃと。これにマスターを任せるのは色々な意味で駄目じゃと、一目で理解した。

 

「これはこれは、お初にお目にかかります。我がサーヴァ――」

 

 瞬間、わしは念じた。

 わしの逸話ならば、おそらく出来るじゃろうと考えての行動じゃったが、当然のように成功した。

 

 銀甲冑の手に、あつらえたように火縄銃が現れる。頭を下げたその魔術師めがけて、わしは弾丸をぶち込んだ。

 何かを言う前に、そのマスターは場に転がる。

 地下空間なのか倉庫なのか、光が全然入ってこない場に、音が響き、煙が昇り、火薬の匂いが充満し。地面は鮮血の、鮮やかな赤に染まった。

 ぬ? まだ死んではおらぬのか面倒じゃ。まぁそう長くも無く、口も動かせぬから大丈夫じゃろうがの。

 

 突然の事態に、周囲がざわめきはじめる。面倒くさの……。

 

 そんなことを思った瞬間、ようやく状態が安定した。現在の状況に対する知識が、正しくわしの行動原理を明らかにする。

 

 

 混乱し、一部の兵士らがわしに「拳銃」を向け始める。

 

 それに対し、わしは威圧した。

 

 

『――このわしを誰と心得る? 無能な兵士共!』

 

 

 わしの一喝に、誰しもが言葉を失った。そりゃ、失うじゃろうのぉ、そもそもわしを呼び出した理由からして、おそらくかなりひどい理由じゃしの。とある儀式のためのロジックとしてのサーヴァントであるに、その主目的をないがしろにしろというのが、意図として存在しておるわけじゃし。

 まぁ、それは別に構わぬ。

 構うことがあるとするのなら、それは今の状況を作り出したこの無能共にじゃ。

 

 わしの怒りは、凡夫には見えぬが形を伴っておる。

 巨大ながしゃどくろがごときそれを見た場の者共は、理解できずともひれ伏さざるを得まい。……生前のわし、ぐっじょぶとういうやつじゃな。こういう時に便利な逸話じゃ。

 

 いや、まぁそういうぐだぐだなことは一旦考えるのはやめるのじゃ。そういうのは蘭丸と茶を濁しておるときだけで良い。

 

 

 ぬ?

 どこから視線を感じると思い、軽く探してみれば。軍人共にまぎれて、わずかに光のあるような窓枠から、こちらを見下ろす人影のようじゃ。姿かたちは小さく、この時代の海兵でも着ていそうな格好をしておる。方目が隠れておるが、前髪を垂らす趣味でもあるのか、手入れが億劫なのか、あるいはそれをしてもらえるような相手がいないだけなのか。

  

 周囲に転がっていた「へしきり」を抜き、わしはマスターの腕を切り飛ばす。絶叫するだけの余裕があるようじゃが、既にわしの目的はここにない。

 

 飛び上がり、手すりを抜け、大人達に隠れていた「金髪の」少女の前に行く。

 

 背は明らかに低い。といっても、まぁ今のわしが「大人の姿」じゃからということでもあるのじゃが。

 

「……ッ」

 

 今のわしを前に、娘は気丈じゃった。恐怖に打たれ、周囲の大人達のように萎縮するか、転がり糞尿でも漏らすかするでもなく。片手の拳をつつむように、もう片方の手でおさえながら、きっと、こっちを見据えてくる。

 よう見た顔じゃ、その、勇気ある表情は。

 

 是非もなし――!

 

 少なからず、今の状況に思うところがないわけではないが。

 それでも「わし」という在り方が求められたのならば、それがこの時代に求められたということなのじゃろう。

 

「聖杯戦争真っ只中じゃが、まぁ、是非もないネ」

「……?」

 

 疑問符を浮かべる少女にかかと笑いながら、わしは「姿を変える」。

 

 年は少女に合わせる。服装はまぁ、甲冑は重くなるので和装で良いじゃろう。袴? いらんわそんなもの。さらしくらいは恥じらいが必要じゃから持つがの。

 あ、でもマントくらいは残しておこうかの。

 

 後ろで縛っていた髪を解き、わしは切り飛ばした腕を、少女の前に見せ付ける。

 

 

 

「のぅ、小娘。

 お主――天下をとるつもりはないか?」

 

 

 

 

 

 まぁ、その言葉に対する娘の反応もまた必然じゃったのじゃろう。

 少なからず、この場において最もわしに共感できた存在じゃろうて。

 

 ひれ伏す者共に、わしは宣言した。

 

 

「――これより貴様らは、わしの配下となれ!

 さすればこたびの戦、多少はマシな結末に導いてやらんこともないゾ?」

 

 

 

 




ノッブ「わしの詳細な話は魔人アーチャールートまで待つべし。是非もないネ!」
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