別の世界に行ったら男の娘をやるハメになったボクの話   作:くうや

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プロローグ 「あれ、はだ、裸っ!?」

     

 

 

 

 

『―――また、一人こっちに来てしまったか』

 

漆黒の其処で、悲哀と哀傷を込めた言の葉が一つだけ響いた。

 

 

 

 

 

 

 

深い暗闇の中、体を覆う感触。

顔を動かしてみても、指を動かしてみても普段感じていた感触は訪れず。

代わりに纏わりついたような感触だけが自分が存在している事を唯一証明する。

 

何故自分がここにいるのかと問いかけても何故と言う思考は瞬きのように走り抜けて、闇の中に埋没して消え失せる。

いくら考えようとしても数秒後には何をしていたのかすらも忘れてしまい、また考えようとして忘れての繰り返し。

それはどんなに大事な物を強く握り締めようとも、指の隙間からどんどん零れ落ちる砂のよう。

忘れてはいけない物が確かに在ったとしても、無情に消えて行く。

 

 

 

そんな中に淡い光と、空気の漂う音。

ボクは差し込む光に意識を持って行かれると、おもむろに目を開く。

同時に身体を覆っていたナニかは消え失せ、匂いと肉体の感触も蘇る。

息をする感覚、熱……と次々に思い出されるようにして取り戻されていく。

 

「……ん……あ」

 

息と同時に零れる自分の呻き声。

赤ん坊が発するような、声とも言えない音をボクは喉から出す。

指す光に誘われて目蓋を開けてみるが視点が定まらない。

目に映る背景は色々な色が混じり合って輪郭がぼやけ、耳に届く不規則な音は朦朧とした頭ではまともに判断が出来ない。

 

 

「・・・・ぶ? は・・・くない?」

 

視界の先の色は輪郭を持ち始め、ぐちゃぐちゃだった音もはっきりとし出してボクはそれが声だと理解する。

 

「目が覚めた? 具合はどう?」

 

 

はっきりとした視界の先には黒いローブに身を纏った綺麗な女性の姿があり、彼女は安堵を含んだ表情を交えながらボクの顔を覗き込む。

 

「えっと、ここ……は?」

 

「ここは駐屯地のテントよ。キミってもしかして村から来た志願兵? それともどっかの討伐隊の子?」

 

「……とう……ばつ?」

 

混濁した意識がだんだんとはっきりして困惑する。

それは何故かと言うとイジメを苦にしてさっきマンションから飛び降りたハズなのに、自分がこうやって生きているからだ。

 

「えーっと、なんかレイヤーの人ですか?」

 

「レイヤー……? んーと私のところはそう言う部隊じゃないわ、それともキミがいたところはレイヤーって言う部隊名?」

 

 

 

目の前にいる女性に対して思わずそんな事を口走ってしまう。

返答に対し女性は小さく首を傾げて何か考え込む。

そして自分は目の前の彼女へ対し戸惑って、思わず首を傾げた。

 

と言うのもこの女性……の格好と髪の色が変なんだ。

ロングの髪はありえないほど澄んだライトグリーンで鮮やかに色を放ち、左頬には何かの模様がある

そして服装も銀の刺繍が細かく入った黒のローブで現実世界じゃまず見ない格好だ。

昔、コミケとかで髪を染めたりウィッグを付けた人は沢山見たけれどそれとは違う。

何と言うか、ありえない髪の色なのに人工的な感じが全くしない。

どう言う事なんだ……これはボクが死ぬ前に見てる夢か? などと問いかけながら軽く周りを見渡す。

 

そしていくらか冷静になった自分は横になっている場所がベッドの上だとやっと気付いた。

多分、この女性に介抱されて運ばれたのだろう。

どこの病室だろうかと見渡してみるけれど、辺りに並ぶ家具を見てそうじゃないと気が付く。

部屋の中もよくよく見ればテントの中のようで、視線を向けた先にある棚や鏡が何だか古臭い……教科書で見たような中世風だ。

 

「まだ記憶が曖昧みたいね自分の名前はわかる? 私はローズ・アズライル、魔術師よ」

 

「ま、じゅつし……?」

 

髪の色だけでは無く、発言まで突拍子もない単語が出てきた。

そんな職業聞いたのやってたネトゲか漫画かゲームくらいだ……。

なんて自分は心の中で思わず苦笑してしまう。

ラクに死ねる方法をネットで色々調べ20階のマンションから飛び降りたハズなんだけども、どうしてこんなところにいるんだ。

もしかして落下中の夢か死に際に見てる夢だろうか?

なんて無理矢理整理を付けようとしているとズキリと頭痛が走り、思わず頭に手を触れる。

夢にしては生々しい痛みだ……。

 

 

「どうしたの? 少し辛そうね」

 

「い、いえ……少し頭痛がするだけで、大丈夫です」

 

「……我慢は良くないわよ」

 

彼女はフッと柔らかく微笑むと優しくボクの額に触れてきた。

ふわりと揺れるライトグリーンのロングヘアーからは柔らかく清涼を含んだ茶葉のような香りがして少し気持ちが和らぐ。

 

 

「始まりの海にたゆといし母よ。今、苦しみを持ったその者へ安らぎを願う」

 

女性は厨二台詞を真顔で唱え始めると同時に触れている手が淡く光り出す。

何だコレ? 何かのマジックかと思ったけれどそう言うモノじゃないとすぐにわかる。

手のひらそのものが輝いているのだ。

暫くすると光が消え、彼女はボクの頭を撫でながら柔らかく微笑んできた。

 

「どう、痛みは引いた? 大丈夫って言う人ほど、嘘を付いてる事が多いものよ」

 

「は、はい……ありがとうござい、ます」

 

 

本当はまだ痛みが残っていたけれど頭を撫でられ落ち着いてしまったボクはそんな返事をしてしまった。

 

何なんだあの光。

映像ならCGとか思うけどそんな光じゃなかったし手が光るとかありえない。

まさかとは思ったけど本当にファンタジーな世界と言うか異世界に来てしまったのか?

……かと言ってどう説明しよう。

 

小さい頃からの癖で年上と話したりする時に相手へ合わせて当たり障りないよう会話をする術は変に持っている。

しかし自分からどうにかするとか言うのが凄く苦手で、内気な性格でもあった。

 

どうした物かと思案する中、仮に異世界から来ましたって話をして大丈夫かな? と不安を覚える。

このローズさんって人は良い人そうだけれど、今はまだ迂闊な事は言わない方が良いんじゃないだろうか。

彼女は良い人だったとしてもこの人一人とは限らないし、自分の置かれてる状況もはっきりしていない。

 

ボクは得た情報を一つ一つ確認すると淡々とした調子で他人事みたいに状況整理をする。

自殺した、と言う物がそうさせているのかもしれない。

そんな事をふと思ってすぐに自分は否定する。

―――そう言えば昔からこんなだったじゃないか、と。

 

と言うのもボクは3年前からこのように自身の事ですらどこか距離を置いて考える事が多い。

一言で言えば冷めている……と言ったところだろうか。

 

感情的になった所で損をするだけ、

簡単に人を信用するのは危ないと、言うのが生前のボクが得た一番の経験でその結果こんな性格になった。

『不用意に他人を信用するな、また痛い目を見るぞ。気を付けろ』

心の中より囁いてくる言葉にボクは自分と言う輪郭を思い出し、それに従う事にした。

 

 

「そう言えばお名前を聞いてなかったわね。良かったら教えてくれないかしら?」

 

「ボクは……悠、新城悠(ニイシロユウ)です」

 

「ニイシロ、ユウ? 変わった名前ねよろしくねユウ」

 

彼女は軽く微笑んで手を出して握手を求めてくる。

それに応えようとボクは布団の中から手を出し、自己紹介と共に握手を交わす。

そして何だか肌寒いな? と思い視線を下ろすと……布団の中のボクは何も身に付けていなかった。

 

「あれ、はだ、裸っ!?」

 

予想外の事に自分は慌ててベットに深く身を隠すと彼女はその様子を見て軽く笑う。

イジメで裸に近い格好にさせられた事もあったけど、あの時恥ずかしいなんて思わなかったのに今は顔から火が出る程恥ずかしい。

 

 

「ああ、そうだユウ君、喉乾いてない? お水持ってこようか」

 

「…………いただき、ます」

 

「着てた服はあちこち傷んでたからそこに替えの服を用意してるわ。

男連中にはここには入ってこないように話をしてあるから、安心して着替えて」

 

 

気を使ってくれたのか、そう告げると彼女はパタパタと音を立ててテントの外へ。

 

何でまた裸に?

などとテンパってしまい、先程まで冷静ぶって状況整理してた物が一気に吹っ飛ぶ。

自分は恥ずかしさでオーバーヒートする熱を必死に落ち着けて、何とか結論を一つ捻り出す。

その結論を何度も頭の中で反復し終えると、口に出して確認する。

 

 

 

「――――――自殺したハズのボクは別の世界に飛ばされた、って事か」

 

改めてそう口にして何て馬鹿げた事を、と自傷を含んだ言葉を吐けばカラ笑いが思わず零る。

それはテントの中で虚しく響いた……。

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