別の世界に行ったら男の娘をやるハメになったボクの話   作:くうや

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第六話 「自分ですらそうであると信じる程に」

あーもう。

自殺に失敗するし、黒い変な人に腹パンされて死にかけるし、ピエロみたいな変な人から急に何かぶっ刺さるし……何なんだよもう。

いくらボクがイレギュラーイベントに耐性があるって言ってもマッハでSAN値ゼロですよ。むしろマイナス振り切っちゃうよ。

もし神様が居たら短距離50m走ベストタイム10.8秒を出すこの俊足で助走をつけて、全身全霊を込めた全力パンチをかましてやる。

 

 

 

「……あれ?」

 

勝手に神様への宣戦布告をしていたボクの視界に肩をすくめた()踊狂(ようきょう)の姿が映る。

さっき剣みたいな物で胸を思いっきり刺され、今回ばかりは死を覚悟したのに無傷だった。

バチバチと電気みたいなのもが走った割には痛み一つ無いし、と胸に触れながらボクは血の気が引いた。

おもむろに触れたローブの胸元にはポッカリと穴が開いているにもかかわらず、自分の体には傷一つ無かったからだ。

 

「ふーむ。界客(そとびと)としてのノンクレイム特性は残っていらっしゃいますねぇ?

ますます意味がわかりません。

本来、魔力を持たない界客(そとびと)だからこそ魔力を中心とした魔術魔法のほとんどが通じないハズ。

しかしこれでは色々と矛盾しか御座いません」

 

ノンクレイム特性とかよくわからない単語がまた飛び出す。

要するに本当なら界客(そとびと)ってのは魔法が使えなくて、魔法も効かないハズ。

なのにボクは魔法が使えるのに魔法が効かないって言うチート状態になってるって解釈で良いのかな……。

でもあの黒いバケモノの攻撃とかは喰らって死にかけたジャン、と思ったけどよく考えたら殴られたのって物理だからまた別だった。

 

 

「急に第四を打ち込むヤツがあるか! 万が一があった場合どうするつもりだ!」

 

「御心配なく!

念の為に上位幻惑系を使い効果が無い事を御確認致しましてから、シャリディンランスを使いました! ので問題は御座いませんよ!」

 

「だから万が一と言う話をだな……」

 

「ルシード・コールソン様と言う崇高な回復の使い手様がいらっしゃるではありませんか」

 

顔の横でくるんくるんと右手の人差し指を回しながら悪びれる様子もなくおどける彼を前にルシードさんは深い溜息を付く。

そしてベッドの右横で相変わらずパンイチで縛られ横たわるヴィグフィスさんは「何が起きたのだ! 説明しろ!」と良いエビみたいに跳ねて暴れている……怖い。

 

「そうですね、折角ですからこの方をガーディアンナイツに入れると言うのは如何ですか御二方。

魔族を撃退出来る術師なぞなかなか居りませぬし、ラキナ・ルゥ・レオナ様とも御歳が随分近い。何かと宜しいのでは?」

 

「……確かに戦力としては申し分は無く我々は構わんが他に問題が出てくるだろう? ヌネス様を始めとして黙っていないのではないか」

 

「いえいえ御心配ありませんよ! 寛大なる御心を御持ちの我が主ならばきっと『イレギュラーがあるからこそ面白い!』と仰って御許しになられるに違いありません」

 

 

何が宜しいのかサッパリわからないボクを余所に話は勝手に進む。

彼の意見にルシードさんは何か考え込んでいる様子だ。

でも確かにこの世界で生きる為の事を真面目に考えないと今のボクには行くアテも頼る先も無い。

……いくら自殺をしようとしたからと言って、最悪野垂れ死になんて流石にしたくない。

 

「あ、あの良かったら連れてって貰えませんか? 自分に出来る事ならします……」

 

気が付くと自分の口から言葉が出ていた。

さっき死にかけた事もあって、これからあんな事がまたあるかも知れないってのは重々承知していた。

けどそれ以上に……ネトゲみたいな魔法や魔術のあるファンタジーなこの世界。それに対して逸る気持ちを抑えられないって思いからそんな言葉が出た。

そして自覚したと同時にボクはひたすらお願いしていた。

最初は困った顔を浮かべていたルシードさんだったけれど、ベッドの横で縛られたまま静かに聞いていたヴィグフィスさんの「良いのではないか?」と言う予想外の言葉でついに折れる。

 

 

「いや~良かったですねぇ界客のしょう……」

 

無事に話がまとまると仮面の彼が陽気に話しかけてきたかと思えば、続きに詰まる。

彼はそのままボクの元へまた顔を寄せ、ローブの胸元に開いた穴を覗き込んできた。

かと思えばそこに指を引っかけて中をガン見してくる。

彼は「ん~?」と言いながら顔をマジマジ見て首を傾げる。

そして勢い良く掛布団を剥ぎ取り、突然の事に放心しているボクを余所にローブの裾を思いっきりめくり上げ……

 

「ちょ、な、なぁああああああッッ!?」

 

「ああ、やはり付いて(・・・)ましたか!

ワタクシめとした事が危うく勘違いしてしまうところでした失礼失礼! ……しかし女性の御召し物を着けられているとは、上流の方々と似た嗜みを御持ちでいらっしゃるのですねぇ」

 

「いや、これはその、用意されてた物を着けてただけ……でッ!」

 

裾をつまみ上げる彼の手を思わず払いのけ、真っ赤になりながら自分は前屈みにうずくまる。

自分が好きでチョイスした訳じゃないし、これしか無かったから仕方ないんだ!

むしろこれを用意した人が原因であって、ボクのせいじゃなくて…………

 

「お前は男なのにどうしてそのような……」

 

いや、そんな事はどうでも良い。

問題はそこより不可抗力とは言え女の子パンツはいてるのをハッキリ見られた。

ルシードさんも固まってるし、気のせいかドン引きしてるよ。

 

「流石にその様な趣味の者と年頃のレオナ様と一緒と言うのは……ううむ」

 

「ちょ、違います! 違います! 不可抗力なんです!!」

 

変な勘違いをしてしまったのか、彼は唸り声を零しながら考え込む。

ああ、マズイ。

折角良い感じに話が進んでいたのにふりだしに戻るどころか悪化している。

どうにかして誤解を解かなきゃ。

 

そんなパニくるボクを前に道下師の彼は指を立てて間に割り込む。

 

「ならばこの方に女装をさせるのは如何ですか?。

王族の間でも従者が女装し、まだ幼き姫君を御守りすると言う話は当たり前の話。

幸いにしてこの方の顔立ちは少女そのもの。

これから魔王討伐に向けて色々と激化する中、魔力に長けた者がいつ何時でも御傍に居られると言うのは大きな助けとなりましょう」

 

「……その為に我らが居て、いつ何時でも御守り出来るようにこうしているのだが」

 

「しかし今回の襲撃でその危機を救えた人物はどなたですか? 確かに御気持ちはわかります。しかし今は個の主張より、これからを見据えた形で考えるべきかと」

 

ふざけた事を言い出したかと思ってたらそれっぽい意見を述べ反論するルシードさんを黙らせる。しかし上手く丸め込んでるようにも見える。

 

でも聞いてると思わずなるほど確かにと納得させてしまう()踊狂(ようきょう)の話術。

……でもそれって早い話、ボクに女装して女の子を演じろって言ってるんだよね?

そんなボクの気持ちも置いてけぼりで勝手に話が進む。

その結果、こう言われる。

 

「女の子を演じろ」

 

女装をし、女の子としてレオナを守ると言うなら認めると言う形で話が終わる。

言うまでもなくボクはそれを受け入れる事となり、その一連を満足そうに眺めた彼は仕事に戻らなければと口にすると足早に背を向けた。

 

 

 

 

「ああ……界客(そとびと)の御方よ」

 

彼は去り際に歩みを止め、ボクへ振り返る。

 

「……新城悠です」

 

「これは失礼致しましたニイシロユウ様……これからワタクシめと同じようにこの旅で演じ続けるであろう貴方様に御一つ」

 

道下を演じていた彼は先程までの煩い声ではなく、静かな声をボクに向けながら仮面を顔から外す。

その下から現れる黒髪を揺らし、綺麗な横顔で優しく微笑む。

それはあのおどけていた人間とは思えない程の美しい顔立ち……。

 

「貴方様は恐らく稀に見る強大な御力の持ち主、しかしそれに自惚れてはいけません

。もし力に溺れた時には己だけではなく―――居場所と言う全てを失う事になるでしょう」

 

そう口にしながら彼はボクへ顔を向ける……そしてボクはその顔の前に身を強張らせる。

先程まで見えなかった彼の左半分の笑みは歪んでいた。

それは刃物か何かで削ぎ落されたのか顔の半分は肉を失い、白い骨が剥き出しになっていた。

その姿は名の通り『死』を連想させるには十分な有様で、ボクは恐怖を覚える。

彼なりのボクへの警告なのだろう。ファンタジーみたいな世界でチートみたいな力を持っているボクが調子に乗らないよう。

ボクは固唾を飲み込みながらただ深く、頷く。

 

「……幸いにして今の貴方様は居場所を得た。

ならばその為に演じ続けなさい……迷わず、疑わず、ひたすらに。

自分ですらそうであると信じる程に。

そうすればそれはいつしか自分自身となり、本当の意味での居場所となるでしょう。

その時、レオナ様を含めた方々と本当の意味で仲間となり、自ずと全てを知る事も出来るでしょう」

 

一つ、にっこり笑うと仮面をつけながら彼は言葉を締めくくった。

色々と突然の事で忘れていたけどボクはレオナの事を聞いた矢先、はぐらかされていた事を思い出す。

よくよく考えれば今の自分は部外者。

色々と細かい状況を知ろうにもそれ以前に信用が無いのだ……。

それも含め彼はボクに教えてくれたのだと言う事を実感した。

 

 

「で……ひとつ聞こうか()踊狂(ようきょう)よ」

 

話を終えた彼の足元より地を這うような憤怒を含んだ低い声。

同時に仮面の彼の身体がぐらりと揺れる。

 

「おおっとコレは失礼しました! サテンフィン王国騎士団総長、ヴィグフィス・ランゼル様! 余りの素晴らしく逞しきその筋肉、それがこのワタクシめには近年稀に見る名も無き彫刻家の一品による教壇に見えまして―――」

 

「わかっておるならさっさと降りて帰れッ!」

 

ヴィグフィスさんの上に立って素晴らしいアドバイスをくれていた彼は振り落とされるとそそくさと逃げるように退散した。

何と言うか嵐みたいな人だったなぁと思いつつ一気に襲ってきた気疲れでボクは脱力してうな垂れた。

 

 

 

 

その後、駐屯地の兵士たちの治療を終えたローズさんとレオナたちを交えて改めて話をしてボクは正式にガーディアンナイツの一員となった。

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