闇影の軌跡 〜黎明〜   作: 黒兎

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久々にぐだぐだしながら書いた気がします!







奇妙な相手

 以前───といっても、一ヶ月から二ヶ月前の頃だっただろうか。

 まだ“学生”ではなく、純粋な“執行者”だった頃のゼダスがある相手と会話していたことをふと思い出した。

 

『───貴方は強いです。執行者としては十分過ぎるほどに強いです』

『いきなり何だ? 未だにアンタから勝利の一つも取れてない俺に対する嫌味か?』

 

 場所はゼムリア大陸地図の何処にも記載されていない所に存在する謎の領域。景色的には、遥か彼方まで続く草原のように見える。

 ただの草原に見えても神聖というか厳かな雰囲気が漂っていて、人が軽々に言葉を発せれるような空気ではないのだが、その二人は特に何を思うでなく、会話を重ねていた。

 

『いえ、違います。純粋な評価ですよ』

『ふーん………まぁ、そこはどうでもいいかな。で、何が言いたいんだよ?』

『これからも貴方は戦い続けるのでしょう。きっと、自身の追い求めているものを手に入れても戦い続けるでしょう』

 

 一部仮定を含む内容なのにゼダスと話している相手───中世の騎士甲冑を纏っている金髪の女性は凛とした声音で言い切る。が、ゼダスは、

 

『あー………いや、戦い続けるかは分かんないぞ。記憶さえ取り戻したら、正直他のことはどうでもよくなるだろうし』

『………貴方の中で本当にそう思っているのなら、今はそれでもいいです。あくまで私から見た貴方ならば戦い続けると思っただけなので』

『そう見えるってことは、俺そんなに戦闘狂なのか? 自覚無いんだが………』

『そんなことはありません。貴方は戦闘を“楽しんでいる”のではなく、戦闘を“必要としている”ようには見えますが』

 

 その言葉の意味をゼダスは一度考える。

 確かに戦闘を“楽しむ”というかは“必要としている”方が合ってはいる。今の記憶が始まった直後には結社入りが確定していたのだし。

 力が無ければ生きていけないし、自身の望んだものを手に入れられない。

 ならば、必然的に力は必要になる。故に彼女はそう見たのか───と、ゼダスは結論付けた。

 

『───生涯戦い続けるかは別として、少なくとも貴方は自身の望むものを手に入れるまでは戦い続けるでしょう。その過程において………そうですね。私にような、というと変な気はしますが、勝てない相手と戦うことになったらどうしますか?』

『別にアンタみたいな、で合ってるよ。今の俺だと勝てないんだし………で、勝てない相手か。だとしたら、答えは一つだろうな』

『一体それは?』

『───“生き残る”。それだけだ』

 

 ゼダスが発したのは至って当然の理論。

 生きていれば何とでもなる。死んでしまえば元も子もない。ただそれだけの話だ。

 命があれば、準備を整え直して再戦するも良し。勝てぬと割り切って逃げてしまうも良し。選択肢は幾らでも見えてくる………のだが、死んでしまってはどうしようもない。屍は動かないし、意志もないのだから。

 

『“抗い続ける”───この選択肢は無いのですか?』

『勝てないって結果が分かってる相手に、その選択肢無いな。抗い続けることで得る結果は良くて引き分け。悪くて負け………つまりは死だ。完全に無駄だろ』

『その理屈に辿り着けているのなら、私も安心です。その上で一つだけ助言させて下さい』

『ん? 何?』

『貴方はこれから、きっと想像も付かないような出来事に次々と出会うことになるでしょう。その中でさっき言った通りの勝てない相手と戦うことになっても絶対に諦めないで下さい。今は勝てなくとも───次は(・・)次こそは(・・・・)と思えるようになって下さい』

 

 

 それが結社の執行者であるゼダスと、結社《身喰らう蛇》の使徒が七柱にして《鋼の聖女》の異名を冠する世界最強クラスの達人───アリアンロードとの最後の会話だった。

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 ブルブランの言っていた“厄介な相手”の出現にゼダスは座していた席を離れ、一気に後方に跳躍する。緊急による行動の為、自身の得物である真紅の大剣《レーヴァティン》を収納してある包みを手には出来ていないが………まぁ、それも仕方ない。そんなことをしたら、死んでいた(・・・・・)

 さっきまで使っていた卓が、見事に綺麗に一刀両断されていたのだ。………いや、その表現は正しいとは言い難い。結果を見たら「一刀両断されていた」という事実だけが観測出来ただけなのだから。

 

 正直な話、何が起きたのか理解出来ていない。卓の切断面から察するに“何か熱い物体で斬られた”のは分かるのだが、相手の纏っていた白いローブの裏からいつ抜き斬って、納刀したのかが全く見えなかったのだ。

 純粋に動体視力が足りなかったのか、それとも何らかの絡繰か。現段階では判別出来ないが厄介なのに変わりはない。

 一つ分かった事と言えば、相手に明確な戦意があることくらいか。そうでなければ、攻撃はしてこないだろう。

 

「(あぁ………くそっ。今の段階で出来ることと言えば………)」

 

 順当に考えれば“応戦”か“撤退”の二択だ。ただ、応戦は悪手に近い。

 相手を最初見た瞬間から表情が凍り付いたレベルなのだから、きっと相手の練度はゼダスと同等。もしくは同等以上。

 

「(勝てる………勝てるか?)」

 

 ゼダスは内心、自身に問うてみるが正直言って勝ち目が見えない。無理に押し切れば勝利とまでは行かなくとも、相手を退かせることは出来るかもしれないが、こちらも無傷では済まないし、そもそも手元に得物が無い時点で成功する確率は減っている。 

 ならば、撤退────なのだが、流石にここで得物を置いての撤退は後々に響く結果を考えて不味い。逃げても追われて戦う羽目になったら、尚更不利な状況に成りかねないし。

 つまり、今やるべきことは何が何でも得物であるレーヴァティンの回収。これ一つだ。

 

 やることを決めたゼダスは一度姿勢を低くし、ただ一点………得物を納めてある包みに視線を合わせて一気に床を踏み込んで、疾った。

 速度は充分。常人の視界には留まらないのだが、相対する相手は確実に常人では無いから勿論、視線は少しも外れていない。

 

「(さて、どうくる?)」

 

 相手が認識出来ている以上、ゼダスの行動を必ず阻害してくる。その妨害が原因でレーヴァティンが取れなくとも、せめて相手の攻撃をちゃんと目視で確認しなければならない。

 

 

 さぁ、レーヴァティンまで残り数アージュ。………3アージュ………2アージュ………1アージュ───と来たところで煌めいた。

 

 

 突如、虚空に煌めいた緋点。それは弧のような軌跡を描き、ゼダスの横腹を殴り付けて、勢いよく吹き飛ばす。

 

「────ってぇ………致命傷だけは回避したけど………」

 

 攻撃を喰らった横腹からは尋常じゃないほどの熱を感じると同時に相当な量の出血が見て取れた。だが、瞬時にゼダスの有している《輝く環(オーリオール)》が反応。物凄い速度で治癒を開始していた。

 今の攻撃は………と、ゼダスは刹那の間に考える。

 さっきの攻撃が卓を両断した攻撃と同じものだとするならば────

 

「(───アレは炎を纏った斬撃、か………しかも、どうやら自分の意志で斬れるっぽいし)」

 

 これなら辻褄が合う。

 両断された卓の断面は若干溶けていた(・・・・・)し、感じた熱もただの痛覚が反応しただけのものとは考えられないくらいに熱かった。しかも、出血の仕方から考えるにアレは間違いなく斬撃。

 ただ厄介なのは………刀身で相手の身を斬る工程を省いて、相手を斬れるらしい。

 文字に起こすと全く訳の分からない話だ。斬る工程を省いて斬れる?

 

「(それ結局、斬ってるじゃねぇかよ………)」

 

 内心で悪態を吐くゼダス。………まぁ、どれだけ武器の特性が分かっても、視えるのは緋点となった斬撃だけなのだ。

 それを避け続けながらにレーヴァティンを回収。やることはそれだけなのに変わりは無い。

 

「つか、聞いてなかったけど、アンタ何者だ?」

 

 レーヴァティンの回収の成功率を少しでも上げるべく、注意を惹こうと思い、ゼダスは問い尋ねる。

 敵なのは、明確な戦意がある時点で明らかだ。結社の連中が面白半分で殺しにきた可能性も無くは無いのだが、よく分からない白いローブを纏った相手なんて見たことは無いし、あんな能力持ちの武器を使っている奴がいるなんて聞いたことも見たことも無い。

 ならば、明らかにしておくべきなのは相手の素性、なのだが………

 

「………………」

「(予想はしてたけど、やっぱり答えないか………)」

 

 黙ったまま攻撃を仕掛けてくる相手が、こんな問いに答えるわけもない。

 長い髪が邪魔で表情が読めないが、紅い眼は未だにジッとゼダスを捉えている。ずっと捉えられ続けるのも癪なので、別に仕返しにもならないのだが、ゼダスは相手の眼を睨み返してやる。───と、その瞬間。眼の奥のより一層紅い瞳がキランと輝いて───

 

 

「────ッ!」

 

 

 何処からともなく発生した緋点。しかも、数が一つではなく、複数。

 その全てが無規則な軌道で、そして同じタイミングでゼダスに牙を剥く。

 ゼダスは己の流派である《聖扉戦術》の体術技で防いだり、去なしたりしているのだが、数も数だ。完全には防ぎ切れていない。

 

「(当たれば斬撃なんだが、飛んでくる時は自動追尾ミサイルみたいな動きしてくるな、これッ! 全く軌道が読めない!)」

 

 無数の光がゼダスを襲い、その副次結果で戦闘場所になっている休憩所にも相当な損害を与えているのだが………………何かがおかしい。

 

「(そういえば………何でこんな戦闘になってるのに誰も気付かない? 大市のすぐ隣だぞ、ここ)」

 

 不思議に思い、《輝く環》で周囲の空間を一気に調べ────答えが出た。

 ゼダスとしては凄く認めたくはないのだが、人祓いの魔術が起動していたのだ。

 何故、認めたくないのかというと、人祓いはその性質上、空属性と幻属性の混合魔術なのだ。それなのに、空属性最高峰の古代遺物(アーティファクト)である《輝く環》を持っているゼダスが気付けなかったのだ。

 その事実にゼダスは少しばかり悔しいのだが、そんなことを思う暇も与えないつもりなのか、相手は素早く接近してくる。

 駆け抜けてくる度に白いローブを棚引く。しかし、角度的な問題か、その中身は見えなかった。

 

「とりあえず、一撃撃ち込む─────ッ!」

 

 近付く相手にゼダスは足裏から練り上げた氣を拳に纏わせ、全力ストレート。

 相手だって高速で動いているのなら、急には方向転換は勿論、制動なんて不可能なはず。故に必中なのだが────

 

 

 ────ガキンッ!

 

 

 白いローブを突き抜け、中身に拳が通った瞬間、その様な甲高い音と共にビリビリと響く衝撃が伝わった。

 そして、ゼダスには何が起きたのか即座に理解出来た。

 

「(あの野郎………芸達者かよ。あんなことを実戦でやる奴いるとか思わねぇ………)」

 

 相手は今、あのローブの中でゼダスの拳を迎撃した。しかも、感触的に迎撃した物は………………太刀の柄頭だ。

 衝撃が一切分散しなかったから、その防御は完全に成功している訳だ。流石にローブの中は相手も視界が届かないだろうに、何たる精度。純粋に怖くなってきた。

 

「(まぁ、今ので相手の武器が分かっただけでも僥倖か。太刀なら使うのは剣術とかだろ。最悪、視えなくても何となる………と良いな)」

 

 現状況にゼダスは願望込みでそう思っていた。負ける気は毛頭無いとはいえ、少しは弱音を吐きたくなっても良いだろう。

 

 そんな中、相手はもっと過激に、苛烈に畳み掛けてくる。

 ローブ越しに撃ち込まれる蹴りに殴り、更に相手の得物である太刀の特性による緋点が暇の一つも与えずに次々襲い来る。素晴らしくも厄介なコンビネーションだ。

 ゼダスもゼダスで応戦はするが………この戦いが起こる直前にラウラに変に動揺を受けさせられた所為か、妙に本調子じゃない。辛うじて対応出来ているが、それもいつまで保つかは分かったものではない。

 

 その後数分間、応酬が続いていたものの、やはり劣勢なのはゼダス。現状に踏み止まれていても───

 

「(───あと、二十三手。このまま撃ち合い続けてたら、そこで詰む)」

 

 執行者としての観察眼が確実な敗北までのカウントダウンを告げていた。

 何とか打開せねばならない。

 そうゼダスは知らず知らずの内に焦燥感に襲われて、打つ手が荒くなる。普段なら呼吸をするのと同じ様に出来ていることが出来なくなっていたり、精度が悪くなっていたりする。

 すると、ゼダス自身が予想していたよりも早く王手に追い詰められる訳で………

 

「………………」

「………………」

 

 体勢を崩されたゼダスは、相手がローブの隙間から太刀の抜身を突き付けられた。少しでも動かされると、即座に首が落ちてしまうであろう中─────

 

「(あっ………これ死ん─────)」

 

 

 ────ズバッ!

 

 

 一切の慈悲も無く、ゼダスは斬られ、盛大に血を吹き出しながら身体を地に落とす。

 倒れたゼダスの身体からは波紋の様に血が流れ続けている。出血量的には確実に死んでいる。これで生きていたら、それこそ奇蹟(・・)だ。

 

 そうやってゼダスを視たからか、その相手は太刀を納めて、姿を眩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「(しっかし、まぁ………あの時はヤバかったな)」

 

 数時間前の思い出から我に返るゼダス。いつの間にか、ラウラとの話し合いの後───奇妙な相手との戦闘まで思い返していた。

 

 因みにゼダスはあの時に一度死んでいる(・・・・・)

 なのに、今は平然に飯を食っていられるのは、紛れもなく《輝く環》のおかげだ。

 ありとあらゆる奇蹟を成す事が出来る完全規格外の古代遺物。その手に掛かれば、一回くらいの死なら打ち消せる。………代償として、大量の魔力を持って行かれたが、生きる為だ。これで暫くの間、マトモに魔術の類を使うことは出来なそうだが仕方ないと割り切る他無い。体術等々で乗り切るだけだ。

 

 と、現状を纏めていると皿に盛られた料理が気付かない内に無くなっていた。

 別にこのまま会話に洒落込むのも悪くはないのだが、いかんせんラウラとの関係はお世辞にも良いとは言えない。しかも、それが関係で他の面々にも気を使わせてしまっているのだ。

 ならば、この場で取るべき行動は自ずと見えてくる。

 

 

「ご馳走様。俺は先に部屋戻ってるから、お前らはゆっくりしてろよ」

 

 

 ───雰囲気が悪くなった原因である自分がこの場から立ち去る。それ一択だ。

 

 その行動に全員が何か言いたげな表情を浮かべていたのは視界の端に見えていたが、気にしない様にしていた。だって、気にしていたら面倒だろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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