闇影の軌跡 〜黎明〜 作: 黒兎
FGOにて、セミ様用の石ガチャ禁ゲッシュがあるにも関わらず、CCCコラボでメルトリリスのダンスに魅了され、10連爆死しました「 黒兎」です。戒めとして、呼符も使用不可になりました。これからのイベントどうしよ………
ゼダスが部屋に戻ってから、まず寝た。
「(………一回死んだからな。少しは休んでも文句は無いだろう?)」
──との謎自論により、数時間は寝ていたのだ。
体内の魔力は殆ど枯らしているから、その改善の為に休息は急務。そんじょそこらの相手ならば、体術だけで何とかなるのだが………夕刻の相手並みの手練れが再び襲ってくる可能性も無くは無いのだ。
ならば、少しでも早く魔力回復を済ませておきたい。いつでも万全の力を使えるようにしておく。これは重要だ。
───
―――*―――*―――
「………………」
不意にゼダスは眼が覚めた。
特段、何かを感じて反射的に起きた訳では無い。感じたのは、部屋に備えつけられている窓が開いていて、夜風が流れ込んで来たことくらいだ。その程度で眼が覚める様な奴ではない。
「………そういえば、実習で泊まる宿の部屋は全員一緒なんだったな。すっかり忘れてた」
同室に感じる人の氣から、その情報を思い出していた。
ということは、良い雰囲気ではないラウラもこの部屋で寝てる訳で………普通に寝ていた。別に何かしようとは思っていないゼダスである。
きっと、実習初日という慣れない環境での行動で疲れが溜まったのだろう。他の面々も心地良さそうに寝ていた。
だが、その中に在る一つの違和感をゼダスは見逃さなかった。
「一人居ないな………多分、リィンか。あの野郎、何処行った?」
一人分の気配が足りない。
女子二人は視界に入ってるから確認出来ているし、残りの気配は多分エリオット。とすれば、居ないのはリィンだと消去法から導き出せる。
「(このまま放っておいても問題無いんだが………)」
リィンだって、自分のことに関する管理くらいは出来るはずだ。深夜の危険等々は何とかするだろうし、仮に何とかならなくてもそれは自己責任だ。別にゼダスが責められることはない。
それに一人で何とかした方が本人の実力向上には適している。わざわざ探しに行く必要も義理も無い………そう、無いのだが───
「………ああっ、もうっ! 変に気になって、マトモに寝れそうに無いだろ!」
先ほどから寝続けていたからか、それとも本当に気になったのか、妙に眼が冴えて睡眠に戻れないゼダス。
気付いたら、勢い良く宿部屋から飛び出して行っていた。
―――*―――*―――
探し始めて数分。ケルディックに繋がっている街道にて、案外アッサリとリィンの姿を見つけることが出来たゼダスは、とりあえず付近の木に身を寄せ、気配を断ち切っていた。理由としては二つある。
一つは、リィンがこれから何をするのかを探るためだ。すぐに姿を現してしまうとはぐらかされる可能性も無くは無い。問い質せばいつか吐かせることは簡単なのだが、無駄に心理戦で体力を喰いそうなので却下。
二つ目は、無闇矢鱈に気配を晒したくないからだ。ゼダス以上の強敵と戦う際にリィンが一緒だと面倒というか苦戦する確率が大幅に上がる。《輝く環》がマトモに機能しない今、それは出来る限り避けておきたい。
ゼダス級の気配遮断ともなれば、並大抵の相手では違和感すら気付かない。違和感に気付けたとしても、そこからゼダス本体を見つけるとなると更に難易度が跳ね上がる。リィンくらいならば、そう易々と見つかりはしないだろう。仮に他の相手に見つかったとしても、瞬時にその場を離れれば、リィンに飛火することはない。単純な話だ。
「(………まぁ、何と取り繕うともストーキング紛いのことをしていることに変わりは無いんだよな)」
別に悪いと思いはしないが、男が男をストーキングなど変な意味と取られかねない。………そもそも、そんなことで騒ぎ立てる様な輩がゼダスの姿をちゃんと視認出来るのかは分からないが。
リィンの観察を始めて約数分。彼は太刀を素振りしたり、彼が修めている流派の《八葉一刀流》の技の感触を確かめていたりした。
技のキレも冴えていて、それ相応の技量を持っているのだと見受けられる。………まぁ、それでも執行者には遠く及ばないのだが、内に秘めたる力はまだまだ残っているのだろう。これからもドンドンと強くなっていくに違いない。
「(将来に期待ってところか………)」
心の中でリィンに対する評価を改めて定めるゼダス。割と上々だったりする。
しかし、それは今はどうでも良く、するべきことは他にある。
「(翌日に疲労を残されるとこっちが被る手間が増える可能性があるしな………そろそろ止めるか。オーバーワークはあまりよろしくないしな)おーい、リィン」
「えっ………ゼダスか? どうしてここに?」
「夜中に一人でほっつき歩く奴なんて見掛けたら、少しは追いたくなるだろ。勝手に抜け出すな、危ないから」
「それは悪かったよ。確かに夜中に一人は危ないな………だけど、俺だって強くはないけど、自分の身を守ることくらいは───」
「馬鹿か。この世界は広いんだぞ? お前よりも強い奴なんて巨万といるんだ。少しは気を付けろ」
ゼダスは止める体でリィンに話し掛けたのだが、流れで説教染みたことをしてしまっている。
こういうのは大抵の場合、面倒くさがられるから避けるべきなのだが、ゼダスは今のⅦ組メンバーにどう思われようが正直どうでも良いわけで………結果、止まることなく話し続けていたが、その途中でリィンは口を挟む。
「────ゼダスって、なんだかんだ言いながら人が良いよな」
────今日はよく理解されにくいことばかり言われるな。
リィンの突然の発言にゼダスはそう思わざるを得なかった。夕刻のラウラの発言だって、理解し難い内容だったのだし。
「そんな訳無いだろ。こんな奴が人が良い判定なら、全世界の殆どの人間が良い奴だよ」
そう言いながら、ゼダスはそこら辺の木の元に腰を下ろす。それに吊られて、リィンも同じ木の元に腰を下ろした。
「そうかな? 学生寮の運営を一人で執り行って、しかもこうやって心配して付いて来てくれたんだろう? 普通に良い人じゃないか」
「違うよ、良い人じゃない。お前らが知らないだけで、俺はもっと醜いしロクでなしだ」
「仮にそうだとしても、俺から見たら良い人だ。今はそれで良いよ」
リィンの言ってることは穴だらけで、どの角度から攻めても反論出来る。
しかも、発言内容を鑑みるに反論は必須なのだが………
「(………くそっ………………なんで言葉が纏まらない? というか、なんで反論したくない自分がいる様に感じるんだ?)」
………何度考えても、思い付かない。ちょっとむず痒く感じ、頭を少し掻いていた。
そんなゼダスを見て、リィンは少し微笑んでいた。まるでゼダスの考えてることが分かっているようだ。………………実際にはそんなことはないだろうが、今のゼダスの表情に幾らかの情報が浮かんでいるのだろう。
「夕飯の時の雰囲気から察せたけど、今ラウラと険悪な雰囲気なんだろう? 俺も『どうして本気を出さない?』って聞かれて、あまり良い雰囲気じゃ───」
「───あいつは単純に頭が堅いんだよ。言い換えれば、人の事を何一つ考えてない」
リィンが言い切る前にラウラに対する意見をきっぱりと言い放つゼダス。その言葉には明らかな棘が含まれている。そして、一度口にしたら止まらないのか、そのまま言葉を紡ぎ続ける。
「こっちの事情を全く理解せず───いや、俺に関しては殆ど話してないから理解はされてないんだろうが。寧ろ、理解されたくないし。まぁ、その点を除いても、頭は堅いわな。愚直なまでに剣術一本で戦うし、しかもそれを曲げようともしない。あれか、あいつは馬鹿なのか? 別に馬鹿でも良いが、せめてこっちに迷惑掛けるなっての………」
「───やっぱり、ゼダスは良い人だよ。今ので確信出来た」
「はぁ⁉︎ お前、ホント何言ってんだ⁉︎」
リィンの発言に思わずゼダスは叫んでいた。幸い街道だったから良かったものの、街中で叫んでいたら近所迷惑は避けられなかったに違いない。だが、ゼダスが叫ぶのは何もおかしくはないのだ。
ゼダスが述べたのは明らかにラウラに対する悪態だ。何処からどう見ても悪態以外の何物でもない。なのに、それを受けてリィンはゼダスを良い人と呼ぶ。首の一つでも傾げたくなるのは必然だろう。
しかし、そんなゼダスの疑問を一蹴するかのようにリィンは、
「だって、出会ってから一ヶ月も経ってないのにそこまで深く視れているんだろう? 並大抵の人間じゃ、そんなことは出来ないだろうし………そして、その視る相手に悪い印象を抱いていたら絶対に無理だと思うんだ」
「だからなぁ、俺はあいつに良い印象は抱いてな───」
「でも、最初は? 最初はどうだった? 最初から悪い印象を抱いていたのか?」
「それは………」
言い淀むゼダス。
ラウラと初めて出会った時といえば───士官学院のあるトリスタで、ゼダスの不注意が原因でぶつかったのだ。
あの時は確か………ほんの僅かな要素を見つけてくる凄まじい観察眼と、そこからゼダスを剣客だと瞬時に結び付ける判断力に舌を巻いた記憶がある。あれをどう解釈しても悪い印象とは言い難い。
「即答出来ないんなら、ゼダスの中で何か思うところがあるってことだ。それが何かは分からないけど、何処かに良い所がある訳だ。なら、そこだけでも
「………………」
ゼダスはリィンの言葉に絶句していた。
何も、何処も納得はしてない。でも、その言葉を否定してはならない気がした。
根拠なんてない。あるわけがない。故に戸惑いしか湧いてこないのだが………そんな中、ゼダスは返す。
「別に認めるわけじゃない………が、俺もまだ頭が堅いってことかよ。ああ、もう!」
他人に対して偉そうに言っていたのに、ゼダス自身が相当に頭が堅かった事実を認めた。
それが妙に恥ずかしいのか、ゼダスはリィンに、
「リィン! これ以上、明日に───つか、もう日変わってるはずだから今日になるのか。今日に疲れを残されると色々と困るからな! そろそろ戻るぞ!」
────と言い、ケルディックの町へと引き返していく。
そんなゼダスにリィンは微笑みながら付いていくのだった。
―――*―――*―――
翌朝一番、ラウラは困惑を隠せずにいた。
昨日の夕方から、ゼダスとの会話から発生したいざこざの様な物が原因で互いに口を利き難くなっていた。現在進行形で今も口を利けていないのだ。
そこからラウラの胸中にはちょっとしか引っ掛かりというか何というかを晴らすべく、早朝から剣でも振ろうかと思っていたのだが───
「─────昨日は済まなかった」
ラウラが宿の一階に降りるや否やゼダスが頭を下げて謝ってきたのだ。
一体、何の心境の変化があったのか。それが全く分からずにラウラは怪訝な表情を浮かべるが、その謝るゼダスの姿からは真剣さを感じられ、冗談半分で行なっている訳ではないのだと嫌でも理解出来る。
「お前の言う通りだ。確かに俺は人を信じるのが怖いのかもしれない。だから、今でも俺は
「そなた、まだ眼を背けるのか………?」
「馬鹿か、最後まで聞け馬鹿」
「馬鹿と言ったな⁉︎ しかも二回も!」
ゼダスは謝罪の姿勢を解きながらラウラを貶すと、本人は声を荒げる。
だが、ゼダスはそんなことを気にしていないのか、自分の言いたいことをそのまま続けた。
「───だが、今の段階で信じれないって断じるのは話が違うだろ? だから、
「なっ────!」
きっと、ラウラは今、「何こいつ、凄い我が儘なことを言ってるんだ?」と思っているのだろう。現に言った本人のゼダスでさえ、我が儘過ぎて無茶苦茶な言葉だと自覚している。
「ああ、分かってるさ。俺にとっての都合の良い話だ。都合の良過ぎる話だ」
零から信用まで結び付けるとなると、その過程において異常なまでに多く、そして絶大な労力を伴う。なのに、それで得られるのは、ゼダス・アインフェイトという人物からの信用のみ。
損得の天秤が全く釣り合っていないのだ。
故にこんな話を受ける必要はない。────普通なら。
「だから、お互いの納得の行くようにしよう。お前らは俺に対する信用を稼ぐ。そして、俺はお前らに強さを与える。それでどうだ?」
「強さ………?」
「そうだ、強さだ。強さは有っては困らないだろ? ………まぁ、俺に関する情報は渡せないとしても、強さなら与えられるしな。俺的には等価交換なんだが、どうかな?」
交換材料としては、あまり適切とは言い難い。きっと、これが他のⅦ組メンバーだったなら、交渉成立する確率は下がっていたに違いない。
だが、ことこのラウラにおいて、強さを引き合いに出した交渉は良い判断なのだ。
「(ラウラが目指す先が何処かは知らない。だが、あいつの環境とかを鑑みるに剣術………強さが関わってくるのは絶対だろう)」
だから、殆どの確率で乗ってくるはずなのだ。実際───
「私はそなたを仲間だと思っている。これは入学式の時から揺るがぬ見解だ。だから、信じると誓おう。それで強さが手に入るのなら、私としても願い叶ったりだ」
「それじゃ、交渉成立───」
「だが、この内容で他の全員を納得させられるのか? 誰もが強さを求めている訳では無いと思うのだが………」
「まぁ、そこは何とかするさ」
「そうか………なら、これからよろしく頼めるか?」
そう言い、ラウラは手を差し伸べてくる。
ゼダスはその手を一瞥した後───
「交渉が成立している間はよろしく頼む、ラウラさん」
「………辞めにしないか、その呼び方。あまり、さん付けで呼ばれるのは好きではない」
「分かったよ。よろしく、ラウラ」
と言いながら、ラウラの手を取り、握ったのだった。