闇影の軌跡 〜黎明〜 作: 黒兎
確実に緩やかな変化
私は何も求めていなかった。母親がいれば良かった。それだけで良かった。
他に何が欲しかった訳でもなかった。……当時からそう思っていたかは定かではないが、今ならばそう思える。
父は私が生まれる前に死んでしまっていたからかそんなに印象が無いのだが、母は別だった。
母が生業としている職業上、あまり家に帰ってこなかった。しかし、それ故に母の愛の大切さを体感してきた幼少期。
いつの間にかフラッと帰ってきてはお土産話を聞かせてくれた。あの場所ではこんなことがあり、この場所にはあんなものがあった。嬉々として語る母の顔は今でも脳裏に浮かぶ。
母が無傷で帰ってきたことの方が少なかった気がするが………まぁ、元気が取り柄な人だったからかいつも笑っていた。
そんな母から愛を貰い、そのまま健やかに成長していく。そんな本来あって然るべきな生き方をしたかった。
だが、“神”という存在は普通の幸せさえも許してくれなかった。
一つの選択ミス。それをたった一つと言うのか、されど一つと言うのか。………この場合は明らかに後者だろう。
その所為で私は母親を殺させてしまった。実際に手を掛けた訳ではないとしても、これは私を蝕む事実に他ならない。
だからこそ、私はやらねばならない。果たさねばならない。母が死ぬ原因となった出来事を引き起こした奴らを一人残らずに殺さねばならない。
その為に私は強くなると心に誓った。灯さねばならないのは怨嗟の焔のみ。
復讐を成す為ならば、人で亡くなろうとも構わない。鬼にでも修羅にでもなってやる。
そういった破滅的な考えを抱くと、それに吊られて本人自身の精神も崩壊すると聞くが、正直な話どうでもいい。関係無いのだ。
自分が壊れるよりも復讐を遂げることの方が私の中では重要度が高いのだから。
………………まぁ、もう既に壊れているのかもしれないが。
―――*―――*―――
士官学院に入学してから約1ヶ月。暦上では5月を迎えていた。
特別実習を経たからかほんの少し、だが確実に変化が訪れていた。
一見今まで通りに見える日常でも、以前に比べて明らかに会話の数が増えていた。特にA班はその傾向にある。その上、毎朝の対ゼダスでのトレーニングも実習前は参加者がリィンとラウラだけだったのに、今では残りのA班メンバー───アリサとエリオットも加わってきている。計4人になったこともありゼダスも戦い甲斐を感じていたが、まだ未熟ということもあり物足りなさも感じていた。
────と、A班は順調に良い傾向へと進んでいるのだが、問題はB班の方だった。
聞いた話によると、どうやら特別実習でまた貴族と平民───ユーシスとマキアスの喧嘩があったそうなのだ。入学当初から段々と酷くなっていっていた気はしたが、それは実習中でも健在だったらしい。B班の良心と言っても過言ではないガイウスとエマが助け舟を出したらしいがそれも全て無駄だった。フィーとシノブは………そういう立ち回り方に秀でていなさそうなので期待はしてない。
「(個人的にはどうでもいいのは今も変わってないんだが、こっちに飛び火してこないかがなぁ………さっさと丸く収まってくれないかなぁ………)」
完全に思想が他力本願なゼダス。
大抵の問題は時間が解決してくれると言うが、この件に関しては期待できそうにない。時間に全てを委ねていてはいつ解決出来るのか分かったものではない。
とはいえ、首を突っ込みたくないのも事実。何処かの誰かが都合良く解決してくれれば良いのだが………
「──────という訳で〜、ゼダスくん。これ分かりますかぁ?」
突如ゼダスの思考に割り込む声。それはホワホワと柔らかく、気が抜ける声だった。
その声の主は一般的な観点からみても“綺麗”と分類される女性だった。輝くような金髪に大空のような青い眼。その豊満な身体付きの上に眼鏡をかけているという女性教師という職が似合い過ぎていた。
名をシア・ヴァレン。先日、この学院に配属された教官だ。担当教科は『魔法学』。
『魔法学』とはその名の通り、魔法について学ぶ科目なのだが、この場合の“魔法”は
因みに今までは教科担当の教官が居なかった為、サラ教官が請け負っていたのだが、シア教官が配属になって交代してたりする。それもそうだ。『私はぁ~元ぉ~魔法に関して研究していたのですよぉ~』と本人が言っていたのだから、それ相応の専門の知識を持っているに違いない。
「(…………そりゃ、そうか。だって───なぁ………)」
───と、ここまでがシア教官に関する基本的な情報なのだが、ゼダスは他の観点からでしか見ることが出来なかった。
もっと他の何か………もっと恐ろしく、おぞましい“何か”。どこか懐かしさを想起させるその溢れ出る雰囲気というかなんとやら………
「────ーい………ゼダスくーん、起きてますかぁ?」
「……別に寝てた訳じゃないですよ。考え事してただけです。で、えー何々………」
当てられていたことを思い出し、ゼダスは机上に広げていた教科書に眼を落として、答え始める。
「『現代社会で使用されている導力魔法と各地の伝承として“在る”とされる真なる魔法との明確な差異』ですが、個人的には数値で表せるか否か、という点を挙げたいですね」
「その心はぁ?」
「文字通りですよ。導力魔法は数値で表すことが出来るんです。発動しようとした導力魔法の種類、放つ位置の座標、出力を決めるために入力する変数などなど………挙げればキリがないんですけども、全ての要素を数字で表せれます」
「ほぅ……」
「対し、純然たる魔法に関してはそういうわけには行きません。神秘に近しい物を数値で表すのは無理があります。仮に出来たとしても、一般人がその数値を元に魔法が引き起こした事象を再現するのは到底無理でしょう。───これが自論ですが如何です?」
すらすらと自論を展開したゼダスにクラスメイト全員は呆然。別におかしなことを言ったわけではないので、多分流れるように展開したから呆然とされているのだろう。多分、きっと。
しかし、シア教官はそのゼダスの自論をある程度は解していたのか、
「明確な差異を挙げ始めるとキリがないので間違いではないですよぉ~」
と言葉を紡ぐ。
ここで『正解』と言わずに『間違いではない』と言うところ本当に性格が悪い、と思うゼダスである。そして───
「それじゃあ、どうしたら正解だったのか説明していただけますかね?」
―――*―――*―――
その後、ゼダスとシア教官の自論の張り合い&相手の自論の欠陥を見つけ突きまくり授業が終わった。
この展開はシア教官が魔法学の授業を担当することになってからの日常風景に他ならなかった。他の授業では大して目立とうとしないゼダスが敢えてつっかかるこの展開に最初の方はクラスメイト全員ハラハラしたものだが、流石に慣れてきていた。
「ゼダスはよくもあそこまで教官に食ってかかるものだ………」
最早、何も不思議に思わなくなっていたが、ラウラはふと呟いていた。
別に何を思ったでないであろうその一言にラウラの横の席───シノブは頬杖をつきながらに言葉を返した。
「なぁ、お前、前の実習でゼダスと何かあったのか?」
「? 何故だ?」
「いや、明らかにゼダスに関する発言が増えてるんだから、そう思われても仕方ないだろ。自覚無いのか?」
そう言われたラウラは考え始めた。
確かにシノブの言う通り、ゼダスに関する発言が増えている気はしなくもない。これはゼダスのことを意識している………ということなのだろう。
ならば、その切っ掛けは何か?
「(うーむ………分からんな。特に何かあったわけでも無いし………)」
ただ班が一緒だっただけだ。何も変わらずにケルディックに赴き、実習をこなして、トリスタに戻ってきた。その間に事件に首を突っ込んだりもしたが、それも無事解決できたのだから、初回ということを鑑みても充分すぎる結果といえただろう。
「(そういえば………)」
そこまで思い返して、ようやくラウラは思い当たる節を見つけた。
あのケルディックでの一件が終わる直前、ゼダスは独りで謎の相手と死闘を繰り広げていたのだ。その結果がどうなったのかは知らないが、生きていたのだから最悪の結果にはなっていないに違いない。
しかし、その死闘の片鱗を垣間見た時が一瞬だけとはいえあったのだ。
今まで見たことの無かった彼の本気の顔。辛く、苦しく、だが愉しそうだったその表情にラウラは『心配』の情を抱く前に何処か『安堵』していたのだ。
何故かは分からない。今も分かりそうにない。
ただその表情が忘れられなくて。眼を離せない存在になった………ということだろうか。
「………分からんな」
「ふーん………まぁ、今はそれでも良いんじゃねぇの」
シノブの何やら含みのある発言にラウラは首を傾げざるを得なかった。ついでに何故かニヤニヤしていたことにも首を傾げざるを得なかった。
―――*―――*―――
本日の授業が全て片付き、放課後に洒落込んだ夕方時。ゼダスは独り、学院のグラウンドの端っこにある倉庫に足を向けていた。
普段ならば、確実に岐路に着いて夕飯用の材料の買出しや調理をしているであろう時間帯なのに、まだ学院に残っている。それはハッキリ言って異常だった。
「(でも、仕方ねぇよなぁ………)」
内心ボヤくゼダス。これがただの呼び出しならば、別に問題ない。寧ろ、倉庫という場所指定で生徒から呼び出しだったら、健全な男子ならば少しは心踊るようなイベントが発生するかもと期待出来たかもしれない。それか身の危険を感じるかの二択か。
だが、今回は教官からの呼び出し。しかも、あのシア教官なのだ。何もときめかない。どころか、また互いの意見の言い合いになりかねない。
──────と、普段の授業風景を見る者なら思うだろう。
「(そんなわけないはずだ。だって、アイツは………)」
と思い至った時、目的地である倉庫に辿り着いた。………今まで気付かないフリをしてきたのだが、心臓がバクバクしている。ここに来て、心音がより一層増して聞こえた。
深呼吸し、気持ちを落ち着かせたゼダスは一思いに倉庫の扉を開き、中に踏み入る。
トールズ士官学院の敷地内には何箇所か倉庫が存在している。
各部活で用いる備品を置く為の倉庫や、馬を留める為の倉庫、その他にも色々とあるのだが………ゼダスが踏み入ったそこはその中でも少々と“異質”だったりする。
そもそも倉庫としての出来が他に比べて低い。それもそう。この倉庫はほんの少し前に出来た仮設的なもの。言い換えればプレハブ小屋に他ならない。で、出来た明確な時期だが、シア教官が転属してきた直後くらい………つまりはそういうことである。
因みにここに置かれている物の内容なのだが………
「(うっわ、改めて見ると物騒なモンしか並んでねぇ………)」
一括りに纏めて称すると、そこには色んな色で中身が煌めく瓶が無数に並んでいた。
それは導力魔法が一般的に世に普及するよりも早くから在るとされる真なる魔法の触媒とされていた“精霊”と呼ばれている魔法生命体である。
どうやって造られるのかは未だ分からず、どういった風に使用することで真価を発揮するのかも定かでない。そんなあやふやな存在なのだが、それ単体が持つエネルギーというのが洒落にならない。具体的に言うと、ここで瓶の一つでも割ってしまえば、精霊の動きが暴走して連鎖爆発を起こす。
そんな取り扱いご注意な品がこうも数多く並んでいるというのはハッキリ言って異常だ。
しかし、そんな光景に特に何かを思うでなくゼダスは歩みを止めない。ここに置かれている物なんかよりもずっと注意を割かねばならない存在があると知っているのだから、当然といえば当然なのである。
一歩、二歩、三歩。ゆったりとだが確実に進むゼダスは、倉庫内に出来ている曲がり角を曲がり──────
「(見つけた………)」
────視界に収めたのはシア教官の後ろ姿。見たところ、ゼダスの存在にはまだ気付いていない。
教室内で見せたような雰囲気とは一転、静かにその瞳に殺意を映したゼダスはその手に真紅の大剣、レーヴァティンを顕現。音を殺して、歩み進める。
本来、ゼダスは“アレ”と日々あんなくだらない内容で論争を繰り広げれるはずがないのだ。アレは違う………そう、違う“何か”。
そもそも、こんな場所にいて良い存在ではない。出てきて良い存在ではない。
もう大剣の刃渡りを考えるに充分届く所まで来た。
無音で振り上げながら、ジッと見据えたゼダスは無慈悲にその刃を振り下ろす─────
「───────甘いわ」
チリンッ………
突如、鈴の音が鳴り渡る。
声が響いた方向は背後。それに吊られ、ゼダスが冷徹な眼を向けた先にいたのは金髪金眼の美女だった。
女性にしてはそれなりの身長で、身に纏うは東洋の伝統衣服である着物。その上に頭からは何やら狐耳が生えている。その見る者全てを魅了するであろう美貌を携えたその相手をゼダスは知っていた。
ゼダスは裂いたシア教官の“残像”の感覚を確かめながら、怪訝さを声音に乗せて言葉を紡ぐ。
「これは一体どういうわけか説明してもらおうか、“師匠”」
「どういうわけ、ねぇ………全く以って皆目見当が付かんなぁ」
「惚けるんじゃねぇッ! アンタほどの手練れが何平然と教官職やってるんだよ!? 理解が及ばなさ過ぎて、ここ最近ずっと脳内大混乱中だったんだぞ!」
思わずに声を荒げるゼダス。だが、これは仕方のないことだった。
ゼダスが“師匠”と呼称したその女性は一般人では無い。………もっとも、執行者が“師匠”と言っている以上、その相手が普通であるわけないのは分かっていたのだが。
元々シア教官の姿をしていた金髪美女の名はシーナ・ゼロ・フリスディア。
彼女はゼダスと同じ、結社《身喰らう蛇》に所属しているのだが、少々立ち位置が歪である。
結社の中で最高幹部と呼ばれる使徒。表上では7人いるとされるのだが………彼女は8人目の使徒なのだ。本来の席と合致しない存在が故に結社内でも根も葉も無い噂扱いとされる《
外された為に数字が無い存在………つまりは零なので、第零柱と呼ばれている。本来は別の異名も持つのだが………まぁ、ここで話すような話でもないだろう。
ゼダスから見ても埒外な存在。そんな人が姿を偽ってまで学院に入ったのは間違い無く結社の意向だろう。何を考えてるんだとゼダスが思ってしまうのは当然だった。
「まぁ、生涯一度はこういうのやってみたかったし、別にええやろ」
「だ・か・ら! なんでそう話を逸らすんだよ! 結社最高クラスの戦力をわざわざ学院に寄越すか!? 普通に考えて可笑しいんだよというか俺一人じゃ駄目だったのか信用無いのか!?」
……余程、言いたいことが溜まっていたのだろう。正にマシンガンのように息を継ぐ暇も無くゼダスは言葉を捲し立てた。
ただシーナもそんなゼダスの様子に口を挟まずにはいられなかったようで───
「アンタに信用が無いとかじゃないやろなぁ………ウチとて好きで来た訳じゃないんやし」
「いや、さっき『やってみたかった』って────」
「バーカ、『やってみたい』と『実際にやる』とでは話が違うんや。実際にやると多分つまらんと思うし。現に今はつまらん」
「んじゃあ、サッサと辞めて結社に戻ってくれホント頼む」
もうただの懇願に等しい内容にシーナはカカカと高笑い。その光景にゼダスは若干の苛つきを覚えつつも何処か懐かしみを感じていた。………懐かしみよりも苛つきの方が大きかったのだが。
「ま、結社に蜻蛉返りは土台無理な話や。ウチだって《盟主》からの命令やったんよ。流石に背けんって」
「ったく………何考えてんだ………」
困ったようにゼダスは言う。
結社の戦力たる執行者に加えて、使徒までもただの学院に集中させている。この状況に《盟主》が何の考えがあるのかなんて想像付かなかった。
しかし、シーナは何やら会得のいってる様子で言葉を紡ぐ。
「何やアンタ、自覚しとらんのかいな」
「自覚? 一体何のことだ?」
「ゼダス・アインフェイトという存在の危うさや」
「────ッ!?」
「………その様子を見るに本当に気付いてなかったんやな」
呆れ口調で呟くシーナ。
「アンタは執行者とはいえ、まだまだ若人なんや。自分でどれだけ強いと思うとうてもその実は“脆い”。いつ壊れて狂うか分からん。───しかも、それが至宝の一角たる《輝く環》を取り込んだアンタが暴走したら、周囲にどれだけの影響を齎すか分かったもんじゃない。そんなことも分からなかったんか?」
言われてみればその通りだ、とゼダスは思う。それ程にまで、《七の至宝》というのは厄介で強大な存在なのだ。
世界を構成する七つの属性。その中でも視覚では確認するに叶わない世界基盤の元である上位三属性の一角である空属性の最高位古代遺物。古代に《空の女神》が授けたとされるそれを本来の力を無差別に奮おうものならば、世界すらも壊しかねない“兵器”と化す。
となれば、その“抑止力”として近くに超が付く程に強力な存在を配置するのも頷ける。ゼダスとしては妙に信頼されてない感がして納得はしたくないのだが、それだとしても最悪の状況になる前に潰すことが出来るのには賛成だった。
「……そう考えると師匠が来るのは妥当ってわけか」
「大方そーいうことやろなぁ。ウチならアンタがどれだけヤバ目の暴走を引き起こしても殺し得れるし」
「流石は結社屈指の古代遺物キラー。壊すのは得意ってか」
「それはちっとばかし違うわ。ウチは“壊す”でなく“掌握する”のが得意なんや。……ま、危険と判断したら遠慮なく壊すけど」
「師匠だったら、俺が《輝く環》を暴走させたら絶対に殺すだろ? 危険だし、何より『自分で律せないことを呪って死ね』くらいのことは言われそうだ」
「確かに違いない」
コロコロと笑いながら歓談するシーナに微笑むゼダス。
思い出せば、殆ど後悔すべき事柄しか残ってない二年分の過去。
幾度も世界を呪い、運命を呪い、そして自分をも呪った。
何故俺だけがこんな目に会わなければならない、何故あそこであんな選択をした、何故させた…………嗚呼、今でも鮮明にゼダスの脳裏には浮かんでくる。
だがしかし、そんな中でも確実に繋げたものはあったのだ。得れたものがあったのだ。
それが今のゼダスにとって“救い”となっている。態度や口調では表立って表しはしない…………いや、本人さえも気付いていないのかもしれないが、それは確実に“救い”なのだ。
「───それじゃ、俺はそろそろ帰ろうかね」
その後も世間話混じりに雑談を興じていたゼダスはふとそう言う。
「もうかいな」
「生憎今は“執行者”であり“学生”でありながら、“第三学生寮の代理管理人”なんだよ。そろそろ帰って夕飯の支度しないと、腹空かせた奴らが暴動を起こしかねん。ただでさえ、今日は師匠に呼ばれて若干遅めになってるし」
「カカカ! そうか、そうかいな! アンタが管理人……管理人って……あー腹痛。どんな笑い話だ!」
「……悪いか?」
「いやいや、良えと思うよ。うん、良いと思う。似合っとるし」
「なに言ってんだこの人………」
管理人に似合うも何もないだろうと思うゼダス。
「そういうわけだから、先帰るからな!」
と言い残し、ゼダスは倉庫を後にする。そんな姿をシーナは手を振りながら見送った。
さっきまで実に楽しげに話していたせいか、若干の寂しさを感じながらシーナは倉庫内に置いていた机に頬杖を突く。
外は夕焼けが沈み、月が上がっていた。倉庫に備え付けてあった小窓からは月光が差し込んでいて、見る人は見ればそれはまるで一枚の絵であるかのような美しさを誇る空間の中、一人シーナは呟く。
「なーんや…………ちゃんと“変われてる”んや。これだったら、完全に杞憂やったわ」