闇影の軌跡 〜黎明〜   作: 黒兎

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魔女

「…………」

 

 ゼダスは無言で振り返り、アルバレア公爵邸を後にする。先ほどルーファスから色々聞かされた以上、出来るだけ長居したくなかったりするのだ。

 

 

「(…………まさか、な……)」

 

 

 吐かれた言葉の真偽は自分で判断しろ。それが互いに情報を提供する上で合意した点だ。

 故にルーファスの言葉だって、全てが真実とは思わない。むしろ、全てが嘘の可能性だってなくはないのだ。…………だが。もし……言っていたこと全てが真実だとするなら…………!

 

「(…………ダメだ、マトモに思考が働きそうにない。ちょっと考えるのを止めよう)」

 

 これ以上考えても堂々巡りになることは不可避の現状。なれば、少しは思考を止めるのも有効な手の一つだ。

 そんな時、ゼダスは気付いた。────只今、特別実習中だ。合流するためにエマに連絡を取った。

 

 どうやら、険悪な雰囲気ではあるもののエマと、そして意外にもシノブの尽力により、何とかかんとか実習はこなせているらしい。今からは街道の手配魔獣を狩りに行くそうだ。

 ならば、そこで合流しよう───。そういった旨の返信をするのは想像に難くなかった。

 

 

 

 

 ────それじゃあ、今からそっち行くんで場所の座標を教えてくれ、と。

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 エマに指定された場所に来たゼダス。そこはバリアハートの外れにある街道だった。

 

「ほうほう………俺がいない間にそんなことが………」

 

 B班に合流し、ルーファスと対談している間にこなした依頼の話を聞いたゼダスはそう呟いていた。

 

 どうやら、実習課題として渡されていた依頼の中に結婚指輪用のドリアーズ・ティアという名の樹液の結晶体を取ってきてほしいというものがあったらしいのだ。

 街道にある色々な樹木を探し、苦労の末に見つけたのは良いのだが、問題はその次にあったのだ。

 そのドリアーズ・ティアをバリアハートの宝石店に居た依頼主に届けに行った時、偶々その場に居合わせた貴族が金に物を言わせて横取り───もとい、買い取ったらしい。

 その貴族曰く、ドリアーズ・ティアは漢方薬として重宝されるらしい。その事はゼダスも知っていた。だが、それはちゃんとした支度をした上での服用が必要だったはず。話を聞く限り、その貴族はその場で丸呑みしたそうだから、最悪の場合は腹を下すだろう。横暴な真似をしたのだ、それくらいの天誅くらい落ちても良いとは思う。

 しかし───

 

 

「まぁ、無い話では無いか」

 

 

 ───平民が貴族に虐げられる状況(これ)が今の帝国の現状なのだ。

 

 

 いつ考えても、古い固定観念だと思う。たかが、この世界に生まれ落ちた時の血筋が偶然良かっただけで下の者を差別する。己がどの様な環境で生まれるのかは完全に運でしかないのに。

 だが、そんな不条理がまかり通る世の中が既に成り立っているのだから、それを変革するとなると相当な労力と時間が掛かるのは必至。常識を塗り替えるのはいつ何処だって大変なのだ。

 

「だろ? ンなのにさっきからずっとマキアスの野郎が愚痴愚痴と………」

 

 溜息交じりのシノブの台詞。そう言いたくなるのも少し考えれば理解出来る。

 貴族嫌いのマキアスのことだ。貴族が我が物顔で横暴する現場を目の当たりにさせられれば、愚痴の一つや二つは出てくる。というか、止まらなくなるだろう。

 

「あはは………」

 

 ある意味自由度が高過ぎるB班にエマはもう笑うしかなかった。色々と諦めていた。

 どのメンバーとも上手くやっていけそうなエマが諦めの境地に達しかけているのだ。この班は本当に辛い。そう思うゼダスを連れてB班は手配魔獣がいるとされる街道の丘へと足を向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

「ん。アレかな?」

 

 フィーが指を指しながら言う。丘近くの岩陰から覗いた先にそいつはいた。

 全体的に鋭利なシルエット。二足歩行で、その尖った爪の様な腕から繰り出される一撃は生身でそのまま食らうと無事では済みそうにない。

 

「だろうな。えー、何々……名称は『フェイトスピナー』か」

 

 フィーの問いに推測で答えを出しながら、アンチ・ゴスペルで解析を掛けるゼダス。やはり、銃身を向けるだけで導力魔法の類いを使えるのは良い。直感的に使えると考える手間が少しは減るのだから。

 そんなことを思っている中、シノブが、

 

「見た目で明らかだが、アレ近接型だろ? どうやって立ち回るよ?」

「正直な話、この班の面々を見た感じ近接特化の方が多いんだよな。だからといって、前衛ばっかり固めても互いの動きを阻害しかねんし……」

 

 多分、この班における戦闘立案を担うのはゼダスになるのだろう。考えに考えを張り巡らせ、如何に特別実習らしさを出させるか───

 

「よし。前衛はシノブ、フィー、ユーシスで。中衛はマキアスに任せる。で、エマは後衛だ。これで行く」

「あ、あの……ゼダスさんは何処へ……?」

「状況に応じて、付く場所を変えるつもりだよ。ただ層の薄い中・後衛辺りになりそうだけど」

 

 これで大まかな役割分担は終わった。もう後は戦うだけなのだが……最後に一つ、言っておかねばならないことがあった。

 

 

「別にあの程度の相手、普段通りの力が出せるなら万一に負けはないだろうな。だが、戦闘に絶対はない(・・・・・・・・)何が起きるか分からない(・・・・・・・・・・・)。それだけは肝に命じといてくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 フェイトスピナーと呼称される魔獣の姿から鉤爪での攻撃や飛び掛かり、その他色々と攻撃手段があったとしても全てが単調なものであると想像は出来る。ならば、必然的にその対策も容易。どれだけ力強い魔獣であっても対策が簡単であれば、特に苦戦することはない…………ない………はずなのだが。

 

「あー、クソっ! やりづれーな!」

 

 学生である以上、特定のメンバー以外は戦闘能力は大したことない。その上に協調性皆無の連携糞食らえなB班にとっては“強敵”と称しても何の問題もないくらいには脅威だった。

 単調な相手ならば通しやすいであろう攻撃もさして効果的に刺さらない。ちゃんとすれば出来ることが分かっているだけあって、出来ないことに焦りを覚え、それが班全体の流れを更に加速させ、淀ませ、空転する。戦闘における最悪の悪循環が成り立ってしまっている。

 これは不味い、非常に不味い。重々理解していても、このままでは何も変わらないことが分かっていた。

 せめて……せめて、何か切っ掛けがあれば────

 

「────よし、ここは俺がッ!」

 

 そう焦る間にも戦況は流転し、好機は訪れる。魔獣の体勢がよろけたのだ。それを逃すまいと前衛のユーシスが騎士剣を手に攻勢に打って掛かる。

 接近してからの連続突き。帝国貴族に代々伝わる宮廷剣術の模範的な技だ。

 しかし─────

 

「(────アレだと浅いな)」

 

 冷静に戦況を見極めているゼダスはユーシスの突きでは魔獣の生命を刈り取るに届かないことを察せていた。

 仕留めるには何かで後押しせねばならない。そして、それをゼダスが行う事は非常に容易い。お得意の聖扉戦術に組み込まれてる体術で近付いてトドメを刺すも良し、手にしているアンチ・ゴスペルで導力魔法を撃ち込んでも良い。

 如何様にもやり方はあるが、それを(・・・)ゼダスが(・・・・)行っては(・・・・)ならないのだ(・・・・・・)

 

 特別実習である以上、班として何か成果をあげる必要がある。先月の場合は、出会って一ヶ月ちょっとの間柄で新世代の機能「戦術リンク」を効率的に展開させることが出来たとかがその顕著な例と言える。

 そして、Ⅶ組の現状を顧みた場合、今回の実習でこなさねばならないのはユーシスとマキアスの関係悪化を少しでも改善することと先月達成出来なかったB班での戦術リンクの効果的な発動だ。

 ならば、ここでゼダスは動けない。第三者から見れば「他力本願」と思われるだろうが仕方ないのだ。

 

「───マキアス、アシストッ!」

 

 手は出さないが口は挟むゼダス。

 戦闘時という状況下。しかも、これを逃すのが惜しい程の好機。

 流石に何とかなるだろう───と高を括っていたが、ここでゼダスは致命的な見落としをしていた。しかし、気付かなかった。

 

 

 

 

 ──────この程度の好機(チャンス)を逃さないのなら先月の実習で戦術リンクはマトモに機能していただろう、と。

 

 

 

 

 ユーシスの騎士剣による突きを喰らいながらも、刺し違えるように振り抜いてくる魔獣の鉤爪。それをマキアスが己の得物であるショットガンで吹き飛ばせば勝ちの局面で、彼は撃たなかった。撃てなかった。

 理性では撃たなければならないと重々理解していただろう表情を浮かべている。同時に大貴族の息子であるユーシスを助けたくないという平民としての矜持に似た何かを感じさせる表情にも見えた。

 

 このままではユーシスが危ない。死ぬ、とまではいかないかもしれないが、間違いなく重傷は避けられないだろう。

 だが、現状況において咄嗟に動けるのはゼダス………とシノブとフィー。シノブはまだしもフィーは助ける気は無いらしい。やはり、まだ結束力が皆無らしい。

 

「(………って、こんなこと呑気に思ってる場合じゃないな)」

 

 ならば、ゼダスが動く他に無い。元執行者だ、助けに行く程度は余裕で達成出来る。その上で今後のこの班の行方を少しでも明るいものにしようとするなら───

 

 

 

 グサッ!!!!!!!

 

 

 

 ───一度班の仲を木っ端微塵に崩してしまおう。

 

 

 ユーシスと魔獣の間に割って入ったゼダスは片手で騎士剣を、もう片手で鉤爪を受け止め───いや、鉤爪の方は深々を腕に刺さった状態で戦況を膠着させた。騎士剣を握っていた手を離し、すぐさまアンチ・ゴスペルを抜き撃ち。起動させた風属性導力魔法で魔獣を吹き飛ばした。消費した魔力量を鑑みれば、あれだけで魔獣は消し飛んだと見て間違いない。

 ズキズキと痛む片腕。刺さった場所を考えて、すぐに死ぬということはないが、《輝く環》の奇蹟が反応するくらいには痛い。だが、ここでは(・・・・)発動させては(・・・・・・)ならない(・・・・)

 今はただ演じなければならない。痛さを忘れずに、それでいて冷静で、明確に怒りを宿して。

 ゼダスは歩みを進め、マキアスの元へ。そして、ネクタイを引っ張って非常に冷めた声音で言葉を紡ぐ。

 

 

「────ふざけてんじゃねぇぞ」

 

 

 その言葉で周囲の空気は体感で明らかに下がった。だが、そんなことは御構い無しで言葉は続く。

 

「良いか、ここは戦場だぞ? ミス一つで戦況は簡単に覆るし、それで生命を散らす奴だって吐き気がするほどにいるんだ。なのに、何であそこでちゃんと連携しなかった?」

「そ、それは………」

「この場のおける事態の重要性から眼を背け、私情を持ち込んだからだろ。そんな下らない理由で仲間を危険に晒すとか馬鹿かよ」

 

 淡々と説教するゼダスの口調は次第に皮肉めいたものへと変容していく。

 

「というか、この班のメンバーは駄目な奴しかいないな。互いに協力する気もないし、助ける気もない。………協調性って面なら委員長とかはまだ救いようがあるが、それも一人じゃ意味無いし。本当に委員長が可哀想だわ」

 

 嘲りをも含む完全な挑発。だが、それに言い返せるような成果が無いのは明らかな事実なのだ。

 そんな中、それでもフィーは、

 

「………でも、それを言うならゼダスも一緒。協力する気無さそうだし」

「薄々気付いてるかもしれないが、お前らとは実力的に明確な差があるんだわ。連携しないとさっきも魔獣も処理出来ないお前らと一緒にすんな。実習じゃなかったら、あの程度の魔獣片手間で撚れたっての………」

 

 最早、班全員を敵に回すような発言。───だが、これで良い。

 生半可な繋がりだからこそ、下らない原因で変な拗れが生じるのだ。そんな繋がりは一度潰し切った方がいいのは自明の理。

 故にゼダスは容赦無く言葉を吐き続けるのだ。

 

「というか、今の状況を考えてこれから実習続けるとか不可能だろ。討伐課題の一つもロクにこなせないんだからな。結局、お前らは先月の二の舞を演じるだけな訳だ。何にも成長してねぇ」

 

 そして、言いたいことは言い尽くしたのか、急に呆れた口調へと移行する。

 

「あーあ、もうやめだやめだ。こんなのに時間潰すとか阿呆らしい。実習点が欲しいなら勝手に個人でやってろよ、俺はもう知らん」

 

 呆れを通り越し、完全に諦めムード漂わせたゼダスは先来た道を引き返し始めた。フィーやシノブは一応静止の言葉をかけたが、それも意に介さずにゼダスは進む。

 しかし、そんなゼダスの姿に思うところがあった───否、多分他にも言いたい事があったのだろう。エマはゼダスの後を追って行った。

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

「待って……待って下さいっ!」

 

 きっと急いで来たのだろう。そう予想するのが容易いくらいの必死具合でエマはやってきた。

 ゼダスの方としては人目の付かないところで刺さったままの鉤爪を抜き、《輝く環》の奇蹟で治癒するつもりだったのだが、この状況ではそう上手くいきそうにはない。

 

「……何? あとは勝手にやってろって言っただろ? 俺を追い掛ける必要が何処に────」

「一個だけ、聞かせてもらえませんか?」

 

 何故この状況で質問があるのか。全く以って理解出来ないゼダスであったが、少しの考えた後──

 

「───取引だ。俺が質問に答える代わりに腕の傷の応急処置頼めるか?」

「分かりました、それで呑みましょう」

 

 というやりとりを経た後、ゼダスとエマは街道の脇道逸れた───魔獣も寄り付かなければ、人目も殆ど無い場所へと移動した。流石にバリアハートに戻る時に鉤爪が刺さったままだと確実に混乱を招く、と判断してのことだった。ついでにゼダスにとって、何を聞かれても第三者に答えたことが漏れにくいという利点もあったが、そんなことはエマの知るところではないだろう。

 一つあった岩を背に腰を下ろしたゼダスは一思いに刺さっていた鉤爪を引っこ抜く。すると必然的に血が相当量噴き出る訳だが、それをエマは水属性の導力魔法で塞き止め、その上で治癒を開始した。

 上着を脱いでもらった方が魔法の狙いや色々な面でやりやすいとエマは進言していたが、ゼダスが頑なに脱ぐことを拒んだのでこういう形で二人の時間が無言で流れていく。

 それからどれくらい経っただろう。徐にエマは口を開き、取引条件としていた質問を聞く。

 

「あの……形容し難くて大変申し訳ないのですが……ゼダスさんは何故、自分を犠牲にする形で事を運ぼうとするんですか?」

「は? 俺が自分を犠牲に? 一体何の冗談だそれ」

「でも、ゼダスさんは先月の特別実習でも自分を使って班としての成功を収めたと聞きました。───そして、今回もそうしようと思って、あそこで敢えて魔獣の攻撃を受けたんじゃないかって思うんです」

 

 ……案外と見抜かれてるもんだな、と思うゼダス。

 エマの指摘は正しい。よく周囲を見ることが出来ているのだろう。ついでに凄いお人好しでもあるのだろう。でなければ、先の言葉でその発想には至るまい。

 

 だが、「正しい」と言っても、それはある一点を除いた場合の話だ。

 

「俺は一度だって犠牲になったつもりはない。俺の行動理念はその場における最適解か自分にとって有利に事を運べるかの二択なんだから。今回はああするのが最適解だったってだけで、それを犠牲とは言わないだろ?」

「それはそうかもしれませんが……」

 

 エマは口が篭る。

 何故そこまでして、気にかけるのか。なんでクラスメイトという関係以外は無い赤の他人の為にそこまで悩んだ顔をする(・・・・・・・)のか。

 理解しろと言われれば無理だと切って捨ててしまう自信はある。だって、そういう事に意味があるのかを疑問に思ってしまう性根だ。仕方がない。

 しかし、興味が湧いたのは事実だった。

 

「委員長は優しいよ。よく人を観て、その上で意思を汲み取ろうと努力して、思い悩む。それは優しい人にしか出来ないことだろう。だから……そんな委員長だから、俺からも言わせてくれ。───なんで自分を犠牲にする?」

 

 さっきの問いをそのまま投げ返す。

 

「言ってしまえば、他人だろ? 死のうが生きてようが、どうなろうが知ったこっちゃない。そう割り切った方が絶対に楽だ。自分にかかる負担が少ないんだから。だからこそ、俺から見たら理解に苦しむが?」

 

 きっと、問いを返されるとは予想していなかったのだろう。エマはええっとと唸りながら、答えを探している様子だった。

 

 自分のことは自分がよく知っている、とよく言われるがアレは嘘だ。

 自分のことなんて自分が一番分かってない。容貌でさえ、何かを通さねば確認出来ないのだ。そして、人間の中でも最も不可解とされる己の感情となれば尚更分からない。

 感情は全ての行動に結び付く。無意識の行動も例外でない。故に行動の意を問われては、そう簡単に答えれずに思い悩む。エマの今の長考はその意味では正しいのだ。

 

「答えが被ってしまうんですが、犠牲ではないと思います。だって、自分がしたいからする行動ですし」

「委員長ってそんなキャラだったか………? まぁ、それが本心なら別に問題無いが………って、応急処置しても痛いのは痛いな」

 

 制服の一部を千切って、包帯代わりに傷口に宛て巻いたがこの程度ではやはり気休め程度にしかならない。今の状況なら一応、街中を歩いても然程目立たないだろう。

 だが────仕掛けるなら(・・・・・・)今だと(・・・)思った(・・・)。周囲に誰もいない、気配を感じない。完全に二人っきり………そして、全てが予想通りなら十分に有利な取引が出来る。

 

「………なぁ、委員長?」

「なんですか?」

「どうにかして痛みを和らげる方法って知らないか? 街まで歩いて戻ろうにもこの痛みだとちょっとキツい」

 

 ………我ながら相当に無茶苦茶な言い分だと思う。

 普段から隠し隠しでやってきていたとは言え、十二分に過剰性能なゼダス。なのに、高が腕の痛みで行軍がキツいというのは無理がある。

 しかし、相手に思い込ませるのは決して不可能ではない。その程度の演技は造作でもない。

 

「無くは無い、ですけど………」

「んじゃあ、頼めるか? 今頼めるのは委員長だけなんだ」

 

 渋々、といった様子のエマは徐に眼鏡を外した。何故眼鏡を外す必要があったのか───そこはどうでもよく、今は何が来ても即座に反応出来るようにすることが必要だ。

 

「ゼダスさん………ごめんなさい」

 

 エマはゼダスの両頬を両手で抑え、ジッと見つめる。──────瞬間、ゼダスは見えた。

 

 

 

 

 

 ────エマの瞳の奥で駆動した魔力炎が。

 

 

 

 

 バシッ!!!!!!!!

 

 そこからの行動はまさしく迅速だった。空いていた片手でエマの頭を無理矢理掴み、視線を外させる。別に片手が負傷していても問題ない。その時用の訓練はとっくの前に終えているのだから。

 

「ぜ、ゼダスさん………?」

「最初から勘繰ってたさ………マトモな経歴、出生の奴が例外無く誰もいなかったⅦ組の中で唯一不明な存在。絶ッッッッッッ対に何かあるって………やっぱりか────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───なぁ? 《魔女の眷属(へクセンブリード)》さんよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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