闇影の軌跡 〜黎明〜 作: 黒兎
最近、真面目なサブタイが浮かばなくて困りまくりの「 黒兎」です。自分で言うのもどうかと思うけど、こんなサブタイで良いのか………もっと盛り上がった場面なら、少しはカッコいいサブタイになるはず、多分!(根拠の無い自信)
《天帝》、学院生活始めました
そこは小さな村だった。だが、人が住んでいたとは到底考え難いレベルに廃れ、その上轟々と燃えている。見るも無残な光景とはまさしくこう言う事を指すのだろう。
無数に積み上がる瓦礫の山。その上に細い刀身の大剣を携えた少年が一人立っていた。
少年の紫の瞳に宿すものは圧倒的な“虚無”。ただそれだけ。
ひたすらに無為な蹂躙の限りを尽くした少年はハナから感情というものが無かったのか。或いは乏しかったのか。それとも何処かで抜け落ちたのか。真相を知る者は誰もいない。が、一つ。一つだけ分かっているとすれば────
────この惨状を引き起こした張本人こそがこの少年、ということだけだ。
惨状の跡に残るは死の臭い。常人を狂気の奥底に叩き落とす濃厚なまでの血の香り。
この場にいても尚、何にも無感動でいられることこそが狂っているのかもしれないが、当の本人は眉一つ動かさずにただ虚空を見つめていた。
そんな中、何かを感じ取ったのか、少年は明後日の方向に視線を動かす。
そこにいたのは、この惨状の現場の中では妙に輝き美し過ぎる存在。手を伸ばしてくるその姿は女神にも見えはする。
物理的に輝いているのでは無く、内面的なもので。そして、妙に霞んで見えるところ、幽霊なのかもしれない。
「(…………いや、分かっている)」
だが、少年の心が無感動では無くなっただけで、喉からは声の少しも絞り出せない。まるで、少年に話をさせないように。少年が───それを自身の手で掴ませないようにするように。
そう理解すると、鼓動が速くなる。
それの存在を前に興奮したのか? ───否。
それの存在に緊張しているのか? ───否。
そう……この鼓動の原因は純然たる
「(止めろ……止めてくれ)」
強くあるはずの少年が、不確定性の何かに脅え、心の声で助けを求む。
だが、助けてくれる者なんて誰も、何処もいなかった。何故なら、その全てを───自らの手で蹂躙したのだから。
でも……それでも心の声は止まらない。
「(止めろ、消えてくれ。もう、
―――*―――*―――
「────────ッ!」
悪い夢を見た。ゼダスが最初に思ったのはその一言分の感想だけだった。
随分と寝汗も凄く、昨日着たままの制服は若干皺が出来ている。
どうやらベットに倒れこんだのを最後に意識を落としていたらしい。
もう朝日も昇って良い時間だ。そろそろ起きなければ────────って、ん? 朝日?
「〜〜〜〜ッ!」
執行者としての即座な思考活性化が働き、状況の整理をすると今の状況が盛大に不味いものだと気付く。
今、窓から覗いてるのはどう見ても朝日。つまり、一晩意識を落としていた………のはこの際どうでも良い。
だが、今のゼダスは執行者であり、同時に学生だ。完全に────
「──────遅刻だ、俺のバカ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
―――*―――*―――
「───で、初日から普通に遅刻してくる、と。何、バカなの?」
急いで身支度を済ませ、全速力で学院のⅦ組教室へと向かったのだが、起床した時にはもう手遅れだったのだ。今更急いだところで焼け石に水なのは変わりなく………結論だけ言えば、教室に到着するや否や、サラから文句というか短い説教を喰らう羽目になった訳だ。
「ぐっ………遅刻しただけあって、言い返せる言葉が一切無い。あーあー俺が悪うございました」
こういう時はこっちからサッサと折れてしまった方が良い。謝罪したくないオーラを出しながらも一応は謝っておく。
最優先事項である謝罪も済ましたゼダスは教室内の端っこの席に腰掛ける。
すると、サラは話し始める。………正確に言えば、再開なのかもしれないが。
「どっかのバカが遅刻してきたけども、これでⅦ組全員集合ね。じゃあ、もう一度、Ⅶ組のカリキュラムについて説明するわ」
Ⅶ組には普通のクラスでは導入されていない特別なカリキュラムが二つ存在する。
一つ目が「実技テスト」。
月一回周期で行われる試験らしく、文字通り実技。昨日のオリエンテーリングから察するに戦闘試験だろう。
二つ目が「特別実習」。
実技テスト後に行き先が発表されて、複数班に分かれての遠出実習。大よそ、日程は二泊三日。その時の行き先と予定によっては多少変動するらしい。
簡潔に説明された感が凄いが、両方に通じて言えるのは………そのカリキュラムの必要性が一切説明されていない点だ。
「まぁ、詳しくは追々説明するわ。一気に情報を伝えたところで頭がパンクして付いて来れないとかいう事態は極力避けたいし」
まさかの詳細説明は後回しとな。ゼダスの理解許容容量はまだまだ空きがあるから、詳細説かれても良いのだが、他の人は全く同じとは言えない。特に銀髪の猫っぽい奴とかは理解してない風だし。というか、あれは純粋に眠たいだけにも見える。益々、猫に見えてきた。
「(───それより…………)」
思考を切り替えながら、ゼダスは頬杖を付きながら思う。
────朝飯食ってなかったな、と。
―――*―――*―――
気付けば、終礼の鐘が鳴り、もう夕暮れだった。
殆ど脳内思考停止しながら授業を受けていたが、別に問題のある話では無い。普通の士官学院で習う内容など、執行者行の傍らで勝手に身に付いていたのだから。
しかし、そんな問題よりも……
「(腹減り過ぎて辛い)」
……ゼダスの空腹事情の方が急速に解決すべき案件だったりする。
人間、三食抜いた所で余程の事がない限りは死にはしないが、やはり堪えるものがある。苛立っている訳ではないが、何事にもやる気が出ないというか、妙に怠気が強いというか何とやら。
とりあえず、寮に帰って適当に何か作って食い凌ごうと思い、荷物提げて帰ろうとすると、
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
………何でこうも行動を起こそうとした時に呼び止められるのだろうか、と不思議に思うが、空腹状態だ。普段と殆ど違わないとはいえ、若干不機嫌な声音で言葉を返す。
「何?」
呼び止めたのは赤毛の少年。エリオットだ。
「いや、あの………ゼダス君はこれから帰り?」
「それ以外の何に見える? 割と急ぎたいんだけど」
「そうだったんだ………えっと、一緒に帰っても良い?」
まさかの一緒に帰寮する申し出。
きっと、いつも通りなら、アレコレ理由付けて断るのだが………まぁ、なんだ。それすらも怠い。
「………勝手にしろ。一緒に帰ること自体、別に迷惑じゃないし」
―――*―――*―――
そんな感じでエリオットと一緒に帰る事になったゼダス………だったのだが。
「………一つ言わせてくれ」
「どうしたの?」
「何でお前らまで増えてるの?」
聞いてないぞ、みたくに半眼で見る先にいたのは黒髪の少年───リィンと背高い留学生。
「あ、悪い。ダメだったかな?」
「それなら済まなかった」
「いや、別に良いんだが………ただ何でついて来たのかが疑問なんだが」
「一緒に帰るのに理由なんて要らないだろう」
簡潔にして、暴論っぽい理由で片付けられて、ちょっと理解に苦しむゼダスだが、反論する気も起きない。こうなったら、流れに全て任せようと心に誓うのだった。
夕焼けに照らされる街並み綺麗だなぁとか割とどうでも良い感想を述べたくなったその時、エリオットが何やら手間の掛かりそうな事を発言する。
「そうだ! 自己紹介しない? 今までなんだかんだ言って出来てなかったし」
え、自己紹介してなくて、こんなに絡んでくるの………こいつらのコミュ力高過ぎじゃね? 的な想像がゼダスの脳内で繰り広げられるくらいに驚いた。ただ口には出さないでおく。
「じゃあ、僕からね。僕はエリオット・グレイグ。よろしくね」
………列車内で名前聞いてたし、知っていたのだが、ここまで簡単な自己紹介で良いなら楽だ。そこまで内容を考える必要も無い。
次は───
「俺はリィン。リィン・シュバルツァー。これからよろしく」
リィンも列車内で知っていた。
で、この中で唯一列車に乗ってなくて、名前の知らない背高い留学生は、
「ガイウス・ウォーゼルだ。ノルドから来た留学生だが、よろしく頼む」
「(ノルド、かぁ………)」
ノルドといえば、確かゼムリア大陸西部の北東部辺りにある高原を住処とする民がいる地域だったか。
見渡す限り草原で、徒歩で移動など自殺行為に等しいとかいう噂も聞いたことがある。
と、物騒な想像をしながらも、この3人の名前はバッチリ覚えた。
そして、残るはゼダスの自己紹介なのだが、勿論簡潔に済ませる。
「ゼダス・アインフェイト。よろしくな」
自己紹介としての意味を成させ、その上で余計な情報の一切を露見させないという執行者としては完璧なのではと思えるところ、実はまだ空腹に耐える余裕があるのかもしれない。
「(いや、そんな事ないな。割とギリギリ耐えれてるだけだし。早く何か腹の中に放り込みたい………)」
と油断した瞬間に空腹の苦しさが襲うところ、タチが悪い。
意識してしまうと苦しいし、意識しないようにしようと思っても、もう遅い。そう思っている時点で意識しないようにするなんて無理なのだから。
「そういえば………」
不意にリィンが声を漏らす。エリオットとガイウスはそれを拾い聞こえたのだが、ゼダスは無視。というか、聞こえておらず、淡々と歩みを進めていたのだが、
「ゼダス、ちょっと聞いていいかな?」
流石に名指しで呼ばれては応える他無い。
「………何? 答えれるかどうかは内容によるけど」
「昨日のオリエンテーリングで最後にガーゴイルと戦っただろ?」
ふむ、ガーゴイル………脳裏で記憶を精査し、その名が地下戦で戦った翼竜の固有名だと解する。
「確かに戦ったな。それがどうかしたか?」
「あの時はみんな必死で気付かなかったというか気にしてられなかったんだけど、まさかゼダスは一人で一頭相手取ってたのか?」
「あー………」
いつかは来ると思っていた質問というか疑問。そして、ここから派生する問いも何となくは想像が付く。
故に即座に答えを返す事が出来なかった。
考えに考え、後に押し寄せるであろう問題を考慮した結果───
「まぁ、そうなるな。多少、相性が良かっただけだ、多分」
───凄い謙遜混じりの回答になってしまった。と言っても、実際に相手取るには相性良かったのだ。
ガーゴイル自体の攻撃力があったとしても、基本は大振りだし、反動も大きいから、懐に一気に嗾けて仕留めれる。半分以上、遊んでいても勝てる相手だった。
「───で、それがどうした? 別にそれで聞くようなことある?」
聞くようなことがある事くらい、想像付いているのだが、それを露見させない為に敢えて尋ねる。
「いや、その答え難い質問だってのは分かってるんだけど………どうすればそこまで強くなれるんだ?」
少し想定外な質問ではあったが、想像外な質問では無かった。故に即座に答えは出せる。
「強くなる必要があったから。そうしないといけない理由があったからだ。結果、強くなってた。言ってしまえば、そんな簡潔な話だよ」
───寸分も違わない事実だった。
自身が取り戻すべく記憶は結社の情報網を以ってしても片鱗も掴めなかった。ならば、世界全部を掌握してしまえば良い。それを成せるまでに強くなれば良い。
馬鹿げている。暴論だ。そんなの無理に決まっている………嗚呼、全く以てその通り。世界全部を掌握するなんて、普通では無理だし、叶わぬ理想論に他ならない。
そう理解していても、もう他の道なんて残されていない。他の方法なんて思い付かなかったし、結社の執行者として生きていくには強くなるしかなかったのだから。
だが、結社の執行者であることは勿論、二年以上前の記憶がないことはⅦ組メンバーの誰にも教えていない。故にゼダスの発言は表面上でしか捉えることしか出来ないだろう。
でも、その発言に文面以上の“何か”が重く伸し掛かっていることは察することは出来たのか、リィンは、
「悪い………何か、聞いちゃいけないことを聞いた気がする」
「気にするなよ。答えたってことは聞いても大丈夫だったって事だし」
そう、気にされる必要は無い。そんな失言を気にされるよりも空腹の方を気にかけてほしい。というか、空腹のことも話してなかったなと思うゼダスであった。
………嗚呼、いつ寮に着くのか。ただその事だけがゼダスの脳内思考を殆どを占める中、四人は夕焼けに照らされる街中を歩いて行ったのだった。