~荒野~
【グオォォォォォォォォォォ!!!!】
【ガアァァァァァァァァッァ!!!!】
神々しい光を放つ純白の龍と禍々しい闇を放つ漆黒の龍が激しくぶつかり合う。この戦いが始まって既に数時間が経過した、両者とも退かぬ激しい戦いだ。
「そこぉ!!!!!!」
ぶつかった瞬間に龍牙は純白の龍の頭を蹴り漆黒の龍に向かい跳ぶ。そしてその手に持つ黄金の剣……終末剣エンキを振りかぶり、漆黒の龍の頭に剣を叩きこむ。
《ガキィン!》
「うおっ!?」
だが堅牢な龍の躰にはそう簡単には傷は入らず、龍牙は剣を弾かれ飛ばされる。それを純白の龍が受け止めると直ぐに漆黒の龍から距離を取る。龍牙の攻撃は幾度も繰り返しているが通る様子はない。
「ッ~~~~手が痺れるぅ~アイツ、どんだけ堅いんだよ!?魔力を全部筋力に回してんのに傷1つ付いてねぇ。やっぱこの状態じゃ」
【完全ニ力不足】
「そうだよなぁ……このままじゃ均衡状態が続くだけか……かと言って持久戦をする余裕はない」
【私ト奴ノ衝突ハ世界二負担ヲカケル】
「できるだけ早く終わらせたいが……」
【ガアァァァァァァァァァァァ!!!】
暴れ回る漆黒の龍を見てそう簡単にはいかないと考える龍牙。
「無理矢理にでも俺の中に押し込めるか……」
【無理ダロウ……前ニ貴方ノ中ニ入レタノハ互イニ同意ガアッタカラダ】
「えっ?俺は同意してなかったと思うんだが……まぁいいか。やるしかない……『魔力解放……全身の筋繊維・神経線維に伝達【筋力強化】【神経伝達加速】【耐久強化】』」
龍牙はエンキを変形させてトンファーにすると、自分の中の魔力を全身へと巡らせる。
「一瞬でいい、奴の動き止めれるか?」
【命令トアラバ止メヨウ】
「時間もねぇし、次で力の半分をつぎ込むぞ」
再び純白の龍は漆黒の龍に襲いかかり、その爪を長い胴体に立て、牙で噛み付いた。
【今ダ、王ヨ!】
「うおぉぉぉぉ!」
龍牙は凄まじい速度で漆黒の龍の胴体を駆け上がる。それに気付いた漆黒の龍は自由な尾を振り上げ上げ、それを龍牙に叩き付けようとする。
【サセヌ!】
純白の龍は自分の尾で漆黒の龍の尾を受け止める。その間に龍牙は頭の辺りまで来ていた。胴体を蹴り、一気に頭の上まで跳ぶ。
「『魔力操作、耐久に回した魔力を【筋力】と【神経伝達】に回す』ハアァァァ」
落下の中で防御に回していた魔力を全て攻撃の為に筋力と神経伝達速度に回す、それは攻撃を受ければ直ぐに終わってしまうことを意味するが純白の龍が漆黒の龍を止めている為、問題はない。
「オラッ!オオォォォォォォ!」
漆黒の龍の頭の真ん中に目掛けて繰り出すのは、エンキ(トンファー)による連続の打撃。
1度では効かないのは良く分かっている、ならば10、20…と繰り返せばいい。
「【加速】【細胞活性】」
だがそんな攻撃を続ければ、神造兵器であるエンキは未だしも生身の身体がついていける訳がない。
「【加速】【細胞活性】」
龍牙が使った魔力操作による身体能力の向上は簡単に言えば魔力によるブーストだ。しかし魔術師の使うブースターと違う。人間は自分の身を護る為に、無意識の内に脳がリミッターを掛けており20~30%の力しか出せない。しかし龍牙は魔力操作によりそれを強制的に解除している。
「【加速】【細胞活性】」
更にその上で魔力で筋力・神経伝達速度を上げ、凄まじい力と速度で連撃を繰り出している。だが常に100%以上の力を出し続ける事など不可能だ。その様な事をすれば身体が崩壊する。
「【加速】【細胞活性】」
だが龍牙は魔力により細胞を活性化させる事で驚異的な治癒能力で崩壊した細胞を修復していく。それには死ぬ様な苦痛が伴う。
「【加速】【細胞活性】」
例え苦痛が伴っても龍牙が止まる事はない。それが龍牙の生き方だ……自分の考える通りに生きる。誰にも指図されず、自分の意志を突き通す。自分の大切な物の為であれば死も、痛みも恐れない。
「ウオオオオオォォォォォォォォォ!!!!」
連撃でも漆黒の龍の堅牢な身体には傷は与える事は出来ないだろう。だが衝撃は堅牢な身体の内部を揺らす事は出来る。
「目を………」
龍牙は右腕を振り上げ、残っている魔力を総て筋力とエンキに回し力を収束させていく。
「覚ませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
龍牙の渾身の一撃が漆黒の龍の頭に叩き込まれ、漆黒の龍を地面に沈めた。その一撃は巨大な漆黒の龍の頭を地面に叩き付ける程の力……龍牙の右腕の骨は砕け、筋繊維は裂け、神経もズタボロだ。
【グギャ……ァァ】
先程の一撃で漆黒の龍は脳を揺らされた、つまり脳震盪だ。それにより漆黒の龍は気絶している。
「はぁはぁ………」
龍牙は気を失いそうになっていたが、何とか踏みとどまっている。落下しそうになるが純白の龍に助けられ、今は地面に降りた。そして漆黒の龍へと近付いていく。
「ぁあ……クソいてぇ、こんにゃろ。これで目を覚まさなかったら次は津波で水の底に沈めてやるからな」
脚を引き摺りながらもゆっくりと歩を進めていく。右手は既に使い物にならないが、左手に双剣の柄を引っ付け、弓の状態のエンキを持っている。
龍牙は何とか漆黒の龍の所に辿り着くと、エンキを地面に突き立て左手で漆黒の龍に触れる。
「ほらっ、起きろ」
龍牙は静かにそう言った。まるでそれは家族に向ける様な、優しい言葉。漆黒の龍はそれを受け、再び目を開けた。そしてゆっくりと顔を上げ、その眼で龍牙の姿を捉えた。
【王よ………申し訳ありません】
「全く……お蔭で身体はボロボロだぜ」
【王よ……私は……】
先程までとは違い、漆黒の龍の眼には破壊の意志はない。ただ龍牙を見つめている。
「別にいい。許す………お前は俺を裏切ったあの世界の人間達が許せなかったんだろう、俺の為に怒って、哀しんでくれた。だからいいよ……っ……ぁあもうダメ」
それだけ言うと、龍牙はその場に倒れた。流石に龍牙も限界が来ている。
【拙イ……王モ限界ダ。破壊ノ】
【あぁ……創造の】
純白の龍と漆黒の龍が互いに顔を合わせるとその身体を光と闇に変え始めた。光と闇は龍牙の身体の中へと入って行く。
【我等ガ王ヨ】
【我等は貴方と共にある】
2体の龍は愛おしそうな眼で龍牙を見つめながらそう言う。龍牙はそれを聞きながら意識を手離した。