~森~
「龍牙!エルキドゥ!神の生み出した穢れを祓いに行くぞ!」
神の生み出した穢れ……すなわちそれは神々の森の守護をしているエンリル神が生み出した怪物・フンババの事である。その声は洪水、口は火、息は死を齎すと言う巨大な怪物だ。
人々に対する自然の生み出した恐怖であり、大地の穢れである。
「ギル、別に神々の命でもないし、アレを倒したらエンリル神の怒りを買うんじゃないのかい?」
「その様な事、百も承知よ。しかしこれ以上、あの魔物を野放しにする訳にはいかん」
確かに人間に対しては害悪であるが、フンババを倒してしまっては神々も威厳を折られると等しい為に黙ってはいないだろう。
だが反対はしない、現在の神々の殆どは人間を自らの所有物の様にしか思ってない。このままでは人々は永遠に神々の奴隷である。俺はそれをこの身をもって知っていた、以前の世界の神々も人間を傀儡としか思っていなかった故に人間を滅ぼしに降臨した、最後には人間である俺の手で逆に滅ぼされた。それが人間の一歩となったのなら、この命を差し出した意味もあると言うものだ。
ギルが圧政した事も、人類の先を見据えて事だった。
ーだが俺を連れて行かなくていいんじゃないか?エンキと同じ神造兵器のエアで倒せるし、宝具をぶっ放せばおわるじゃん、少しは休ませてほしいー
「黙れ!従者である貴様は黙って
もうヤダ、この暴君……と考えつつも、此処で嫌と言えば暴言の後に涙目+上目使い攻撃がくるので大人しく従おう。アレをされると相手がギルと言えど……いや美人であるギルがするからこそ凄く罪悪感がある。
出る所が出て、引っ込んでる所は引っ込んでるこの我儘ボディと美貌……偶に出るデレは反則である。エルキドゥにしてもそうだが、寝惚けて俺の寝台に入ってくる………それに加え俺が入浴していると2人して乱入してくる……俺も男なので我慢できない。
そんな事を考えていると、辺りに瘴気が漂ってきたので意識を周囲の警戒に向けた。
3人の足元が割れ、牛の頭、猛禽類の様な脚と尾と男性器が蛇になっている山の様な怪物が現れた。その禍々しい眼で睨まれれば普通の人間なら石化しているだろう。
「これがフンババ……醜悪だな」
ギルがそう呟くと、俺とエルキドゥは同意する。
フンババは巨大な口の様な物があり、そこから毒気が放たれ、周囲の木々を枯らしている。
「はぁ……じゃあやりますか」
それから俺はエンキを取り出し、エルキドゥと共にフンババに攻撃を繰り出す。ギルは様子見の為に財宝庫から武器を放っている。この時にエアやエンキの真名解放をしていれば直ぐにでも終わったが、今回の目的の1つが木を手にいれる事であったのでそれはできない。
毒やら炎は俺やエルキドゥにとっては問題ないが、咆哮して洪水を起こすのはどうなんだ?俺はエンキの加護が、エルキドゥは神の加護があるから問題ない。ギルは流されたが……取り敢えず俺達はギルを助け、一旦退いた。
俺達は退いた後、森に被害を出さずにフンババを倒す方法を考えた。
①フンババを殺さず倒す。
②森の木を手に入れる。
③フンババを配下にする。
これが俺達の目的である、①と③はフンババを殺すとエンリル神の怒りを買いそうなので、配下に置き森を管理させる為だ。
俺はアヌ神やシャマシュ、マルドゥクなどからこの世界の魔術などを習ったため、神獣やらを従属する方法や後々に役立つ術を開発したので問題ない。
と言う訳でシャマシュ神の所を訪れて、ギルに加護を与えて貰う。頼んだ俺達が言うのもアレだが、神々の鼻っ柱折ろうとしているのにいいのか?
再び俺達は森に訪れた。
《また来たか、折角見逃してやったのに……アギャギャギャ!》
此方を見て嘲笑っているフンババ。仕方ない、ちょっと怖がらしてやろう。
龍牙は自分の中に居る、
「破壊されるか、服従するか選べ」
龍牙が
《ふっ服従します!僕になるから許して下さい!命だけは御助けを!》
「「…………」」
それを見てギルとエルキドゥは唖然としている。シャマシュ神から加護まで貰ったのに、龍牙のちょっとした脅しで終了した。
「えっ……もう終わり?こんな終わりでいいの?」
脅した当の本人も驚いている。それだけ龍牙の中の
「まぁいいか。じゃあ契約ね………かと言ってそのままじゃ危険だよね。依代は……ライオンの頭してるしアレでいいや」
そう言ってコートの裏から取り出したのは、騎士王が好みそうなライオンのぬいぐるみ(龍牙Ver)。
ライオンのぬいぐるみ(龍牙Ver)とは、龍牙が作った白いライオンを模した大人1人くらいの大きさの鬣モフッモフッのぬいぐるみである。どうやってコートに仕舞ってたのか少し気になるが、置いておこう。
「と言う訳でこれを依代に……ほいさっ!」
と軽いノリでぬいぐるみをフンババに投げると、魔法陣が展開しフンババとぬいぐるみが1つになった。こうしてフンババを下した龍牙達は木を切り出した。
と言ってもフンババの指示のもと、必要な分だけを切った。自然を守るのも人類が生きる為に必要な事である。ギルは取れるだけ取ってしまえと言うが、自然は人間だけの物ではないので、何とか説得した。動物達も関わってくるのでエルキドゥも此方の味方だったので、説得は簡単だった。
そして俺達はウルクに凱旋する。俺達を引き裂く原因が待っているとも知らずに。
~ウルク~
「ぁ~やっと終わった。寝るぞ…絶対にゆっくり寝るぞ」
「折角一仕事終えたんだしまた宴じゃないの?」
「当然だ。あの様な腑に落ちない終わりかたであったが、此度の事を解決したのは龍牙だからな。国を上げて祝杯を上げ、我直々に褒美をとらす」
「なら休み下さい」
心からの願いを言うがギルの耳に届かなかった。ため息を吐きながら、フッと何時もと違う事に気付く。何時もなら民達の喝采が出迎えてくれるが……静かだ。
ギルとエルキドゥが止まった。
「急に止まってどうした……ん?」
龍牙は前に居るギルとエルキドゥの向こう側を見てみると、金色の髪を靡かせ、眩い宝石や金で身を飾った女性が立っていた。
だが唯の人間ではない、その身から放つのは神の力だ。龍牙は目の前の女性が女神であると理解した。
「私はイシュタル。無皇 龍牙、かつてこの世界に襲来した神すら越える破壊の力を使いこなし、フンババすらも平伏させた。我が夫なるに相応しい!私の物となりなさい!そうすれば私の身体も心も、貴方の物となる。貴方に永遠の快楽を与えましょう!」
流石の龍牙も驚いた。なんだこの女神は初めて会った相手に求婚してきた。
それに何で破壊龍の事を知ってるの?
「驚いているのですね。私の様な高貴な神が突如求婚してくるのか、何故貴方の秘密を知っているのかと……貴方の事は良く知ってます。
私が初めて貴方を見たのは我が父アヌ神と『しょうぎ』とやらをしている時のこと……貴方は此方に気付きませんでしたが、私は貴方のその美しい魂に、貴方の姿に一目惚れしました。
それから貴方の事を調べました、破壊の龍を宿していることも知りました。でも強大な破滅力を手にしても、決して曇ることない魂。貴方が気になってずっと見てました。
毎日遅くまで民のために走り回っていることも、息抜きの為に街に出た時は必ず子供達と遊んでいることも、民達の相談に乗り感謝されていることも、たまに仕事を終えると宮殿を抜け出して民達とお酒を飲んでいることも、朝起きて酷い寝癖が付いていることも、そこの2人と寝ていることも……全部知ってます。
私の物になって下さい。そうすれば私が永遠に貴方を愛しましょう」
龍牙はそれを聞くと、寒気が襲った。
「……1つお聞きしたいのですが、最近凄く視線を感じたのは」
「私です、神の力を使い視てました」
そう満面の笑みを浮かべていうイシュタル。目がヤバい。
龍牙があまりの事に固まっている、そんな龍牙に近付こうとするイシュタルだが、剣を持ったギルと鎖を持ったエルキドゥに往く手を阻まれる。
「これは我の物だ!貴様なんぞにやらん!」
「ボク達が黙っている内にさっさと失せなよ!」
と言った、イシュタルはそれに激怒し口論となる。更にギルの母であるニンスンまで現れ激しくなる。
龍牙は終始固まっており、我に帰る頃にはイシュタルの怒りを買っていた。
ーアレ…俺とウルクのピンチじゃね?ー