龍牙は総てを終えると元の姿に戻り地上に降りた。
そして全て終わった事を悟る。振り返ると、アヌ神、シャマシュ神、マルドゥク神がいた。
「終わったな……」
「あぁ…」
龍牙の言葉にそう返すシャマシュ。だがその眼は後悔と哀しみが宿っている。
「アヌ神、約束を果たそう………」
「………本当によいのか?」
「アンタが約束を守ってくれるなら俺はそれでいい」
龍牙がアヌ神との交わした誓約………
1.この件の後にギルやエルキドゥに神の呪いが及ばぬ様にすること。
2.事を終えるまでウルクを護ること。
この2つだ。
1つ目、本来の歴史であれば天の牡牛を倒した後、エルキドゥは神の呪いに掛けられ苦しみ死んでいく。それを防ぐ為だ。
2つ目、例え破壊の力であっても万分の一でもウルクを危険にする可能性があった。故にその保険だ。
「では始めよう」
アヌ神、シャマシュ神、マルドゥク神は龍牙を囲む様に立つ。
誓約の代償は、龍牙がこの時代より居なくなる事だ。その理由は、他の神々だ。
アヌ神達は龍牙の事を理解し、受け入れているが………他の神々は納得しない。自分達を滅ぼす様な存在を近くにおいて置く訳がない。何より人間がそれを持つ事を許さない。だからこそ何が何でも龍牙を排除しに掛かるだろう。そうなれば龍牙だけでなく、ギルにもエルキドゥにもウルクの民にも飛び火するだろう。それは龍牙にとって最悪の未来だ。
それを回避する為に、龍牙はこの時代から消える。正確には龍牙を別の時代に送ると言う事だ。龍牙自身、違う世界には行きたくなかった、何故なら。
(この時代に未練はない……いやあるが、だからこそ未練はない。何より大切な彼女達が無事でいられるのなら……)
龍牙は目を瞑る。次に目を開けば違う光景が広がっているだろう。だが龍牙は最後にこの世界で見つけた何よりも大切な彼女達の事を考えた。
「きっと……アイツ等怒るだろうなぁ」
「当たり前だ!」
龍牙は驚いて目を開けると、肩で息をしているギルとエルキドゥがいた。
「「バカァァァァァァ!」」
そして2人は同時に殴り掛かって来た、2人の拳が吸い込まれる様に龍牙の顔に吸い込まれ、吹っ飛んだ。数メートル……いや十数メートルほど。
「自分一人で解決しおって!しかも我に何も言わずに消える等……ふざけるな!」
「そうだよ!どうして何にも言ってくれなかったの!?」
2人は龍牙のマウント・ポジションをとってガクッガクッと揺さぶっている。
「ちょ…っ説…明を……させて」
龍牙は一先ず、2人を止めると事情を説明した。しかし2人が納得する訳がない。
「ふざけるな!お前が居なくなったら……………」
「……ごめん。でもこれしかない、お前達を、民を巻き込まない方法は」
「だが!……お前が居なくなれば、誰が我を叱るのだ!?誰が我の機嫌をとるのだ!?誰が……我を女として愛してくれる…の…だ……」
彼の英雄王の瞳から雫が溢れ出す。龍牙は今まで彼女のこんな姿見た事はないので、かなり驚愕した。
「………ギル、俺は何時かこうなる事は分かっていた……だからそれなりに準備はしてる」
「何をいって……」
ギルは何を言っているのか理解できていなかった……だが龍牙がそんな嘘を吐く訳がない。
「もしもの時の為にとって置いた方法があるのさ……ギルとも、エルキドゥともまた会える方法が」
「本当に!?」
「だが違う時代に行くのであれば……未来であったとしても我と言えどいずれは死ぬ」
エルキドゥとギルは龍牙が何処の時代に飛ばされるか分からないが、それが遥か未来であれば会う方法はない。ギルにも人間の血が流れている、故に寿命もある。
「まぁ今は詳しくは言えないけど、確実に会う方法はある」
「真か?」
「勿論……でもそれにはギル達に関わる物がいる」
「関わる物?……ならこれをやる。丁度渡そうと思っていた所だ」
ギルはそう言うと宝物庫から小さな黄金の鍵を取り出した。
「……鍵?」
「うむ、合鍵だ」
何の?と聞こうとしたが、何となく何の鍵か分かったので、ありがとうと言いそれ受け取る。
「ボクは何を渡せばいいかな……基本的にボクって物を持ってないし、持っててもそれは龍牙やギルがくれた物だし」
龍牙は考えているエルキドゥとギルから貰った鍵を見て、何かを思い付いた。
「ならこの鍵を首から掛けれるように、エルキドゥの体の一部を鎖にしてほしい」
「それでいいの?わかった…」
エルキドゥは自分の体を細い鎖にして龍牙に渡す、龍牙はそれを受け取ると鍵を通し自らの首に掛ける。
「ありがとう」
龍牙は2人から送られた物を握り締める。
「ギル……エルキドゥ……勝手な俺を許して欲しい」
「馬鹿者が……全く……自分勝手な奴だ」
「本当だよ」
「………さぁ時間か、ギル、エルキドゥ……また会える、そして………」
龍牙は彼女達にしか聞こえない声で何かを言うと、再びアヌ神達の元に戻る。それ以上の言葉は不能だ、彼女達にはそれ以上言う必要はない。言わずとも彼女達は龍牙を信じている、その龍牙が「また会おう」と言った……彼女達にはそれだけで十分だった。
アヌ神達が再び龍牙に手を向けると、天を貫く光が立ち昇った。そして龍牙は何も言わずにアヌ神逹に身を任せ、ギルとエルキドゥ……そして今まで過ごしたウルクをその眼に焼き付ける。
『これもまた俺らしいか………』
龍牙はそう呟くと静かに目を瞑り、意識を手離した。