キャスター:クーフーリンの情報により、一同は【大聖杯】のある円蔵山の中にある大空洞へと向かっていた。道中、スケルトンの群れと遭遇したがマシュや牛若逹の活躍により事なきを得ていた。
「それにしてもやっぱ杖は慣れねぇなぁ」
「そう言えばクーフーリンさんと言えば魔槍で有名ですものね」
マシュはクーフーリンの伝説を想いだしそう言った。
「ランサーで召喚されてたら楽だったんだが……キャスターで召喚されちまったからな。無い物ねだりはしねぇ……そういやそっちのマスターは戦い慣れしてるみたいだな、魔術師ってのは魔術に頼る様な奴ばかりだと思ってたが……まぁ例外もいたが……坊主もそういう口か?」
クーフーリンは先程までの龍牙の戦いを見ていた。それ故に龍牙に尋ねた。
「俺は……まぁ魔術とか使えても、最後にはこの身で戦わないといけないから……それなりには鍛えたよ(主にギルからの宝具射出から生き延びる為に)」
「そっか……ん?どうした嬢ちゃん?」
クーフーリンは話をしていて落ち込んでいるマシュに問いかけた。
「その……私は先輩達や皆さんのお蔭で戦闘経験は積めています。ですが未だに英霊の象徴と言える【宝具】を発動できません………どうやら私は欠陥サーヴァントみたいです」
宝具とはその英霊の象徴ともいえる物だ、それは様々な逸話・伝説が元となっている。クーフーリンで言えば師である影の国の女王から譲り受けた魔槍がいい例だ
「宝具ですか……私の場合は複数在ります」
牛若丸はそう言う。英霊によっては牛若丸の様に複数の宝具を持つ者もいる。
『恐らく、デミ・サーヴァントになった影響だろうね。だからマシュには宝具が使えない』
「あぁ?何言ってんだ、嬢ちゃんがサーヴァントとして機能してる以上は、宝具は使えるに決まってんだろう?」
『えぇ!?そうなの?!』
通信でロマンが話に入ってきたが、クーフーリンに言われ驚いている。
「本来、英霊と宝具はセットなんだぜ。それが出せないのは嬢ちゃんの心の問題か、魔力が詰まっているかのどちらかだな。まぁ、大声でも出せば使える様になるだろ?」
「そうなんですか?!そー!なー!んー!でー!すー!かー!」
クーフーリンの言葉を真面に受け取りマシュは大声で叫びだす。
「ちょっと?!いきなり大声出さないでよ!鼓膜が破れるかと思ったじゃない!」
いきなりマシュが大声を出した事で耳を塞ぐオルガマリー。
「まぁ所長の鼓膜はいいとして……マシュが宝具を使えないと今後困るな、仕方ない。ちょいと荒療治するとしようか」
「ちょっと私の鼓膜はいいってどういうことよ!?」
龍牙はオルガマリーの抗議を無視して懐から小さな笛を取り出した。
「「「笛?」」」
それは黒い笛で、何処か禍々しい力を放っている。それを見て文句を言っていたオルガマリーも固まっている。
《ピィ――――!》
「魔物を呼ぶ為の笛だ……マシュ、宝具は理屈や理論じゃ使えないよ」
「どっどう言う事ですか?」
「………ヒントは君の持つ
「えっ?」
「これには俺も牛若丸も手を出さない。キャスターも手を出すなよ」
「………あぁ」
クーフーリンもそれに了承した。
「ちょ……ちょっと!?何を言って……ひぃ?!」
オルガマリーが何かを言おうとした時、龍牙が殺気を飛ばすと脅えてその場にへたり込んだ。
「マシュ・キリエライト……これから先に待つのは生死を掛けた戦いだ、この程度の事でやられる様なら君も、マスターの立香も直ぐにあの世行きだ。だったら此処で死んだ方がマシだろう?俺には自分の役目と約束がある、だから何を犠牲にしてもでも俺は進み続ける」
皆はそれを黙って聞いていた。
「この狂った状況だ、何が起きるか分からない。だから藤丸君のサーヴァントである君には藤丸君を守って貰わないといけない。どんな状況でもな」
「私が………先輩は私が守ります!」
「言葉だけでは足りない………その言葉が本当かどうかは見せて貰おう」
「マシュ……がんばれ!」
立香は心配そうにマシュを見るが、マシュの眼に決意が見えた為、応援する事にした。
「はい!マシュ・キリエライト!戦闘開始します!」
龍牙は周りにスケルトン達が集まって来たのを確認する。10~20体程集まっている。マシュは覚悟を決め、スケルトンの群れに向かって行った。
「お前さんも中々やるねぇ、わざと嫌われ役をやるなんて」
マシュが行った後、キャスターが龍牙にそう話し掛けた。
「牛若やダレイオス、アンタが居たら大概は何とかなりそうだからね。あの子の為にも悪役にでもなるさ……その為にアンタにも一肌脱いで貰うよ、光の御子」
「まぁ……乗り掛かった舟だ、任せときな」
戦闘が始まって少し経った。
「はぁ…はぁ…」
スケルトンの群れを全滅させたマシュは既に疲弊しきって来た。
「ご苦労だな嬢ちゃん」
「クー……フーリ…ンさん……はぁはぁ」
「疲れてる場合じゃねぇぜ……次の相手は俺だ」
クーフーリンはそう言うと、その身の魔力を高め始める。それを見てマシュは驚いていた。今まで味方だった彼が何故自分の前に立つのか分からなかった。
「どうしてって顔だな……あの坊主も言ってたろ?これから戦うのはサーヴァントだって……わりぃがマジで行くぜ。死ぬ気で踏ん張りな、アンサズ!」
クーフーリンはそう言うと杖を振るい炎を放ってくる。
「くっ!?」
マシュは炎を何とか盾で防いだが、大きく後ろに下がってしまう。だが次に飛来する炎を見て直ぐに盾を構え直した。
盾の軋む音がする、飛来する炎にマシュは盾を構えるので精一杯だ。
「おらっ!本気で受け止めないと後ろのマスター達諸共消し炭になるぞ!」
クーフーリンは更に魔力を高めだす、マシュはそれを肌で感じ直感した。【宝具】が来ると。
「『我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社………倒壊するはウィッカー・マン!オラ、善悪問わず土に還りな!』」
詠唱を終えると共に、枝で構成された巨人が火炎を纏い現れる。火炎を纏った巨人はマシュに襲い掛かった。
「(守らないと……私が……じゃないと皆……例え今だけでも……偽物でも……皆、無くなってしまう……守りたい!皆を……先輩を!護りたい!)あぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!」
その意志に呼応するかのようにマシュの構える盾の前方に光の盾が出現し巨人を防ぎ切った。
「はぁはぁ……私……いま……」
「いやぁ……それなりに加減したがマスター諸共無傷とはな……」
クーフーリンはマシュが完全に自分の宝具を防ぎ切った事に驚いていた。そして拍手の音が聞こえてきた。
「見せて貰ったよ、マシュ・キリエライト。試す様な事をして悪かったな」
『パンッ、パンッ、パン』と拍手が聞こえてきた。
「いぇ……龍牙先輩は私の為になs《パクッ》」
拍手をしたのは龍牙だ、そう言いながら膝を付いているマシュに近付くとマシュの口に何かを放り込んだ。
「っ!美味しいです!」
口に入れられた何かの美味しさに立ちあがったマシュ。
「身体の方も大丈夫そうだな」
「マシュ?身体は大丈夫なのか?」
後からやって来た立香がそう聞いた。マシュは先程まで倒れそうになっていたのに全くその様子はない。
「はい……あれ?あんなにも疲れていたのに、身体が嘘の様に軽いです!?」
「龍牙、マシュに何喰わせたんだ?」
「えっと……確か【禁断の果実】【アンブロシア】とかの原典だったかな。食べれば魔力が満ち、瀕死でも直ぐに回復し、老人も若返る果実」
それを聞いて全員、驚いていた。なんでそんな物を龍牙が持っているのか?と。立香を始め、マシュ、オルガマリー達も聞くが……。
「秘密」
と言って教えてくれなかった。
実際はバビロニアの宝物庫より取り出したのだが、そんな事を言うと何でそんな物を使えるのかと聞かれるに違いないと思い、あえて龍牙は言わなかった。単に彼が説明するのが面倒だと思ったからだろう。
皆……特に魔術師であるオルガマリーは理由を知りたかったが、忠義が臨界点突破してそうな牛若丸に刀を向けられたので黙ってしまった。
それからマシュの宝具は、元となった英霊の真名も不明であった為、名前が分からなかったのでオルガマリーが【ロード・カルデアス】と名付けた。
一休みした一行は、再び大聖杯の元へと向かう為に、歩を進めるのであった。
この時は龍牙は知らなかった……自分達のいるこの世界で、本来ない筈の異変が起きている事を……。