~円蔵山 大空洞~
龍牙達は円蔵山の最深部……「大聖杯」のある大空洞へと足を踏み込んだ。そこに満ちる膨大な魔力、
「あれが……大聖杯?超級の魔術炉心じゃない!?どうしてこんな物が極東にあるのよ!?」
一同が見たのは、巨大な黒い杯だった。それは聖なる願望機とはかけ離れた禍々しい気配を放っている。
「気を引き締めろ……本命が来たぞ」
クーフーリンの視線の先には、敵意を持って此方を見降ろしている黒くなった聖剣を携えた漆黒の騎士王が佇んでいた。
「先輩、あのセイバーさん良く見れば女の人です!アーサー王は男性だと思っていたんですが…」
『当時のお家事情だろうね。昔は男子じゃないと王位を継げなかったみたいだし。全く…マーリンも趣味が悪いなぁ』
伝承ではアーサー王は男だと言われているが、この型月の世界ではよくある事だと龍牙は考えながら通信してきたロマンの話を聞いていた。
「対話は期待すんなよ。奴はあの状態になってから一度も言葉を発してねぇ」
クーフーリンが警告の為にそう言ったが……。
「ほぅ……面白いサーヴァントと人間がいるな」
平然と喋りだした。
「喋んないんじゃなかったの?」
「なにぃ?!セイバー、お前喋れたのか!?今までわざと黙り込んでやがったのか!?」
「何をしていても常に見られている。故に案山子に徹していた」
セイバーが喋っていなかったのは、当の本人がそうしていただけの様で何時でも喋れたようだ。
「それにしても小娘。貴様、中々面白い盾を持っているではないか」
セイバーはマシュを見てそう言った瞬間、黒き聖剣に魔力を収束させていく。それが巨大な剣の形を形成した。
「話していても始まらない。貴様の盾と私の聖剣。どちらが上か試させて貰う!」
『なんて出鱈目な魔力なんだ!?これが、アーサー王のエクスカリバー!……藤丸君!』
セイバーの言葉と共に聖剣の魔力が解放される。
「マシュ!宝具を展開するんだ!」
「はい!……『真名…偽装登録……行けます!宝具、展開します!』」
マシュは宝具【
「『卑王鉄槌———極光は反転する。光を呑め!【
聖剣より放たれた凄まじい威力の黒き魔力の奔流はマシュの展開した光の盾に激突し、その破壊力をもって光の盾を破壊していく。
「うっ…うあぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁああ!!!!!」
マシュも負けぬ様に盾に魔力を込め続ける。
「負け……ない…絶対に……私の後ろには先輩達がいる……絶対に護ってみせる!」
マシュの【護る】と言う意志に応えたのか、光の盾はその輝きを取り戻す。いや更に輝きを増し漆黒の暴風を防いでいる。徐々に漆黒の魔力の奔流は小さくなっていき消えた。
「はぁはぁ……やり…ました……護り抜きました」
見事に漆黒の聖剣をを防ぎ切ったマシュ。
「ほぅ…やるではないか。別段、手を抜いたと言う訳ではないが」
「負けられません。私の後ろに先輩達がいるかぎr……あれ……はぁはぁ」
マシュはセイバーの聖剣を完全に防ぎ切ったが身体にかなりの負担が掛かって居る様だ。盾を支えに立っていたが、ガクッと膝が折れ、膝をついた。
「ご苦労様マシュ……よく防いだな。よくやった」
龍牙はマシュの頭に手を置いて前に出る。
「藤丸君、所長、マシュの回復を……ダレイオスとクーフーリンは3人を守っていてくれ」
「あぁ……だがどうするつもりだ?」
「俺と牛若丸で奴を叩く」
「ほぅ……唯の人間が面白い事を言う。人の身でこの私と戦うと?」
その言葉に歪んだ笑みを浮かべながら、龍牙を見ている騎士王。
「だっ駄目です、龍牙先輩。あのサーヴァントは今までとは……」
「ハハハ、それくらい見りゃ分かるよ。さて騎士王、俺が相手だ」
「面白い……初めて貴様を見た時から他の者とは違う何かを感じていた。だがまずは小手調べ……此奴を倒して見せろ!」
セイバーがそう言い、手を上げると上から巨大な影が降りてきた。巨大な躰、石斧を持ったシャドウサーヴァントだ。
「なぁ!バーサーカーだと!?アイツは街の端の方で動かな筈じゃなかったのか!?クーフーリン!」
「確かにその筈だったんだが……」
「まぁ出て来たものはしゃあねぇ……」
そう言って、龍牙は現れたバーサーカー(シャドウ)を見る。
「■■■―――――!!!」
バーサーカー(シャドウ)は咆哮すると龍牙に襲い掛かる。
「大英雄の影……戦いらしい、戦いになってきた!」
「主殿!御供します!」
龍牙は宝物庫より
「おらぁ!」
-ガキィン!—
龍牙はバーサーカー(シャドウ)の石斧を片手のエンキで防ぐ。
「はぁ!」
牛若丸は龍牙が攻撃を防いでいる間にがら空きの胴体へ斬撃を放つ。
「■■■■!」
バーサーカー(シャドウ)は攻撃を受けると、直ぐに下がる。シャドウサーヴァントは言わばサーヴァントの成り損ないだ。サーヴァント程ではないが通常の魔術師からすれば十分脅威であり、龍牙逹が戦っているのはギリシャ神話に出て来る英雄ヘラクレスの影。影とは言え大英雄……かなりの力を持っている。
「流石は大英雄!影とは言え中々やる!牛若丸!援護する!一気に突っ込め!」
龍牙はエンキを弓に変形させると、矢をつがい光の弦を引く。
「心得ました!我が兵法お見せします!」
牛若丸は龍牙の言葉を疑う事無く、バーサーカー(シャドウ)へと駆け出そうとする。
「『【壇ノ浦・八艘跳!】』」
壇ノ浦・八艘跳:牛若丸……義経が壇ノ浦の戦いにおいて船から船へ飛び移ったと言われる逸話の具現である。どの様な足場であろうとも、小さな足場さえあれば彼女の跳躍を止める事はできずその跳躍力を強化していく。
バーサーカー(シャドウ)は凄まじい速さで自分の方に向かってくる牛若丸を斬り伏せる為に石斧を振り上げるが、無数の光の矢により両腕が吹き飛ばされた。
「■■■!?」
その光の矢は弓形態のエンキより放たれたものだ。
「そこっ!」
跳躍力で強化された牛若丸の斬撃がバーサーカー(シャドウ)に叩き込まれた。バーサーカー(シャドウ)は斬撃を真面に受け、そのまま消滅してしまった。
「ふぅ……影ならこの程度か。さて騎士王、待たせたな」
「主殿、あの者は……」
戻ってきた牛若丸は直ぐに龍牙の前に立つ。それほどセイバーの力が凄いと言う事だろう。
「ほぉ……そちらのサーヴァントも中々やるな。ならば我が聖剣、受けてみろ!」
再び聖剣に魔力が収束していく。
「主殿!あの一撃は…」
「うん……凄まじいね。でも」
龍牙は牛若丸の前に出ると、両手に持つエンキを宝物庫に仕舞う。
「すぅ……はぁ……」
龍牙は自分の顔に手を翳すと、黒い仮面が現れ目の周りを覆い、その瞳が龍のものに変化する。
「!……何をしようとしているのか知らんが受けよ!『卑王鉄槌―――極光は反転する!光を呑め!』」
膨大な魔力が騎士王の黒き聖剣へと収束し、再び巨大な黒き光剣を形成する。
「【
かつてブリテン島を守る為に顕現したとされる魔竜ヴォ―ティガーンの破壊の息吹。その破壊の力が龍牙達に向かって放たれる。
「無皇さん!」
「龍牙先輩!」
「無皇!」
「龍牙の坊主!」
4人が龍牙に声を掛ける。龍牙はその声に振り返る、4人はその顔を見て驚いた。迫りくる破壊の息吹、なのに龍牙は笑みを浮かべている。
漆黒の破壊の息吹が龍牙と牛若丸を飲み込んだ。