-【無】より産まれし破壊の龍よ。破壊の力を我が身を纏う鎧と成せ-
【
龍牙逹のいた場所から
「なに!?」
【グオォォォォォォォォォォォォ!!!】
龍の咆哮と共に黒き聖剣の光は、禍々しい光に呑み込まれた。
辺りに砂埃が舞い、この場にいる全員の視界が遮られる。
しかし、サーヴァント達は違っていた。例え視界が遮られていても感じた、言葉に現せない程の異質で圧倒的な力を。
「ムゥゥゥン!」
中でも理性を封じ本能が高まっているダレイオスは、この気配を最も警戒していた。
「おいおい、なんだよこの力……こんな物がこの時代にあっていいのか!?」
「ッ!同感だ、光の御子。これ程の力は我等の時代でさえなかったぞ……」
クーフーリンも、敵である騎士王も生前ですら感じた事のない力を目の当たりにしていた。
砂埃が消え、現れたのは漆黒の鎧だった。
血の様に紅い2本の角のある龍を模した兜、金色に光る瞳、刺々しい形状の鎧、腰の辺りから出ている太い龍の尾、尾の先に付いている禍々しい力を放つ玉、背から生える12枚の翼。
「貴様………何者だ?!」
「無皇龍牙。そしてこの鎧は
龍牙は一気にセイバーに向かい駆け出し、拳を放つ。その速さは一般人の肉眼では捉える事はできない、しかし騎士王はサーヴァントだ。常人を遥かに凌ぐ動体視力を持っている為、龍牙の動きを捉え自分の持つ聖剣で攻撃をガードした。
「ッ!」
ガキィン!と金属の衝突音と共にセイバーは十数メートルほど吹き飛ばされた。
「何と言う力……貴様、本当に何者だ!?」
「ただの(異世界から来た)マスターさ。騎士王よ、少しばかり俺に付き合って貰うぞ」
龍牙は両腰部に装備されている剣を手にし構える。そして背中の翼が消えた。
「今の俺の力が何処までサーヴァントに通用するか、試させて貰おう。牛若丸は手を出さないでくれ」
龍牙は顔だけを振り返らせると、牛若丸を見てそう言った。牛若丸はそれを聞くと、黙って頷いて下がった。
「……いいだろう。貴様と言う存在を見極めさせて貰おう」
セイバーもまた黒く染まった聖剣を構えた。龍牙は右手の剣を地面に突き刺しコインを出し上に放り投げた。龍牙は再び剣を構えた。
コインが宙を舞い、2人の間へと落ちていく。2人は沈黙したまま、互いを見据えている。そして地面にコインが落ちた。
-チャリーン-
その瞬間、2人は駆け出した。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」
黒い龍牙の剣と漆黒の聖剣がぶつかり合い、火花を散らす。
「流石は!おっと……アーサー王!よっ……危ねぇ……魔力放出と剣術……超一級だ!」
-ガギィン!ガンッ!ガガガッ!-
「貴様こそ!中々にやるではないか!剣もそうだが、避けるのも上手い!」
龍牙はセイバーと剣を交えながら、致命傷となる剣戟を躱す。
「そりゃ、もっと凄いのを毎日の様に避けてたからな。この程度は簡単さ……おらっ!」
セイバーの剣を回避した後、龍牙はジャンプし双剣を振り下ろす。しかしセイバーは後方に下がる事で回避した。
「面白い……ならば受けてみよ!『極光は反転する……光を呑め!』」
セイバーの聖剣に膨大な魔力が収束していく、それは先程マシュや龍牙が受けたものとは比べ物にならぬ程強大な力だ。龍牙はそれを感じ取ったのか、自分の後方を確認した。
離れてはいるが、射線上には立香やマシュ達がいる。このまま回避すれば確実に立香達に直撃するだろう。防御を行うマシュはクーフーリンやオルガマリーにより多少は回復しているが、先程より威力の上がった聖剣を防げるかどうか……。
~立香side~
立香は龍牙が聖剣の光に呑まれる時に、手を伸ばし彼の元に駆けようとしていた。自分が唯の人間で間に合ったとしても何も出来ないと分かっていながらも、体が自然と動いた。
マシュ達に止められた。此方を振り返った龍牙は笑みを浮かべていた。そして次の瞬間、龍牙は聖剣の漆黒の光に呑み込まれた。
それを見て、立香もマシュも、この場にいる全員が龍牙は死んだと思った。サーヴァントと対等に戦え、先頭を切って自分達を守ってくれた心強い存在が死んでしまったと。特にマシュやクーフーリン達は聖剣の力を知っている為に生きているなどと考えなかった。
悲しみ、後悔と言った感情が込み上げてくる瞬間、恐怖が襲ってきた。
【グオォォォォォォォォォォ!!!】
全てを否定するかの様な咆哮がこの洞窟内に響く、そして騎士王の漆黒の聖剣の光を蝕む禍々しい光が現れ、聖剣の光を呑み込んだ。
辺りに砂埃が舞い、視界が遮られる。だが恐怖は一向に薄まらない。
マシュやクーフーリンが有り得ないという様な表情をしている。ダレイオスも何かに警戒するように唸っていた。
オルガマリー所長に至っては恐怖で震え、その場にへたり込んでいる。自分もへたり混みそうになるが、何とか踏ん張る立香。
そして、龍牙とセイバーの凄まじい攻防が始まった。それは素人の目で見ても分かる、これが英雄の戦いだと。剣と剣のぶつかり合いで火花が散っている。立香はその戦いに見入っていた。
「あれ?」
セイバーと龍牙が距離を取り、龍牙が一瞬此方を見たのに気付いた立香。セイバーの聖剣に魔力が収束している。再びあの力を使うのだと……だがこのままいけば自分達が巻き込まれてしまうと。
「ッ!」
マシュやクーフーリン達もそれに気付き、動こうとするが気付くのが既に魔力は聖剣に収束し終えていた。
~side out~
龍牙は後方を確認し、立香達を見て回避が間に合わないと考えた。
「仕方ない……あんまり手を晒し出したくないが」
龍牙の眼が鈍い光を放つ。
「【
聖剣の力が解放され、漆黒の魔力の奔流が放たれ真っ直ぐ龍牙とその後方にいる立香達に向かう。
「【
鎧の尾の先に装備されいる黒い宝玉が光を放ち、セイバーの放った聖剣の光を吸収していく。
「なっなに!?」
「ご馳走様……これはお返しだよ、騎士王」
背中の翼が展開し、次の瞬間に龍牙の姿が消え、一瞬の内にセイバーの懐に潜り込んだ。そして剣でセイバーの胸を貫いた。
「がっ!?」
「誉れ高き騎士王……もう1人で頑張る必要はない、全部1人で背負い込まなくていい」
「………フッ、不思議な奴だ。唯の人間で在りながら私と対等に戦い、その様な言葉をかけてくるなど。しかし見事です……結局私1人では同じ結末にしかならないと言う事ですか……」
「騎士王……そなたは闇に堕ちながらも世界を護ろうとした、十分立派だよ」
セイバーの身体が金色の粒子となって消えていく。
「フフフ……人理修正、
「あぁ………俺は【知ってる】。だからもうお休み……アルトリア・ペンドラゴン、願わくば次に会う時には君と共に戦える事を祈ろう」
セイバー……アルトリア・ペンドラゴンは笑みを浮かべて消滅した。
「終わった……のか……げっ…こっちも時間切れか」
クーフーリンも金色の粒子となって消えていく。
「今度は龍牙の坊主!立香の坊主!今度はランサーとして呼んでくれや!」
クーフーリンはそう言うと消えてしまった。