~第一特異点 オルレアン~
「さて……レイシフトしたはいいんだけど、此処何処だろう?」
「見る限り……廃墟の様ですね、主殿」
龍牙はあの後、準備を終えて立香達と共にレイシフトを行ったのだが………何故か立香達とは違う場所に着いたらしい。龍牙と牛若丸は辺りを見廻す、どうやら村が在った様だが今は廃墟になっている様だ。
「うん………それにろくでもない状況の様だね」
龍牙がそう言うと、瓦礫から何かが現れた。それは人だった。それも1人じゃない、大勢いた。
「人間……ではないですね。動く屍ですか」
それはこの廃墟で死んだ者達だった。それが何かによって動かされている様だ。
「死んで、生者の生を求め動く
「主殿、この者達は……」
牛若丸は刀を引き抜き、構えている。
「うん、もう助けられない。せめて………その苦しみから解放してやろう『破壊龍よ……死を司る龍よ。苦しみ続ける魂達をその力を持って、彼の者達の魂を輪廻の輪へと還せ』」
龍牙の顔に龍の仮面が現れ、その眼が龍の物に変化した。そしてその手に漆黒の焔が出現した。
「【
「はい!」
龍牙は牛若丸に声を掛けると、漆黒の焔が牛若丸の持つ刀の刀身を包む。
「その焔は死者を導く焔………彼等の魂を解放を」
「承知しました!はぁ!!!」
牛若丸はそのまま駆け出し、屍達を攻撃し始める。龍牙も死者達に向かい、漆黒の焔を放つ。焔は意志があるかの様に、屍達を飲み込んでいく。
-■■■■■-
屍達は声ならぬ声を上げ、焔の中で燃え尽きていく。牛若丸も、焔の灯った刀で屍達を斬っていく。
そして約数分で周辺に居た屍達は倒し尽くされた。龍牙は漆黒の焔に包まれた屍達を何とも言えない表情で見ていた。
「主殿……如何なさいましたか?」
「いや………以前もこんな事が在ってね、その時の事を思い出していただけさ」
「この様な事が在ったのですか?」
「あぁ……俺のいた世界でね。思い出すだけでも胸糞悪いけどね………」
焔が消え、辺りに燃え尽きた屍達の灰が積もっている。すると、その灰の中から光の球が幾つも現れ始めた。牛若丸は敵かと思い再び刀を構えるが、龍牙が止めた。
「大丈夫………突然に死して、苦しかっただろう、辛かっただろう………でももう、安心して。大いなる魂の故郷に還りなさい」
龍牙がそう言うと、光球………先程の屍達の魂が龍牙の周りを周っている。龍牙はその魂の1つ1つに触れていく。
「………そう」
龍牙は最後に自分の仮面に触れると、仮面が光に変わり魂達と共に天へと昇っていく。そして確かに龍牙は聞いた。
―ありがとう―
という声を……。
「破壊龍よ、この魂達を【輪廻の輪】へ………大いなる母の元へと………ふぅ」
「主殿、あの魂達は何処へ?」
「あるべき場所へと逝ったよ………これ以上、命が失っていくのは哀しい事だ。牛若、こんな事、止めないとね」
「泣いておられるのですか……見ず知らずの者達の為に?」
龍牙は何故か涙を流していた。見知らぬ者達の為に泣いていた。
「何故か涙が流れてくる………天命を迎えずに死した命を見ると、何故か涙が流れてくる。昔からそうだ………これが、俺自身の心なのか………それとも俺の中の龍達の哀しみか………はたまた我が母の哀しみか」
自分の中にいる2体の龍……
龍牙はそんな彼等の哀しみを受けてか、それとも自分の哀しみか………分からないが、彼は泣いている。
「はぁ………こんな事では先が思いやられるな」
涙を拭い空を見上げた。本来なら青空が在る筈の空に光の輪が在った。龍牙はその光の輪がとある人物の宝具である事を知っていた。
「名前は忘れたが………凄まじい熱量だ、1つ1つが聖剣のそれに匹敵するか……フン、アレの力の供給源……考えずとも分かるが、もしそうだとするなら………アレの発動主はいい趣味をしている」
龍牙は忌々しそうに、空の光輪を睨みつけている。
「……まぁいい。牛若、取り敢えずは藤丸君達と合流しよう………俺自身飛んでいくのも、宝物庫から舟を出すのもいいが……怪しまれるから馬が在れば楽なんだが」
「主殿!お任せください!」
牛若丸がそう言うと、隣に大きな白い馬が現れた。
「馬だな……」
「はい!我が愛馬!
「(そう言えば馬に乗ったシーン在ったのに、戦闘では一切乗ってなかったよな。そういや、この子ライダークラスだったよね)中々、足腰の強そうな馬だね」
龍牙がそう言い手を伸ばすと、太夫黒の方から龍牙の手に擦り寄って来た。
「おぉ!コヤツは中々に気性の荒い奴なのです、私以外が触ろうとすればその者は蹴られたくらいです!それを太夫黒から触れるとは………流石、我が主殿です」
「そうなの?……結構人懐っこい奴だと思うけど……太夫黒……お前の力を貸してくれ」
そう言って太夫黒を撫でる龍牙。太夫黒はそれに応えるかの様に、顔を上げた。それはまるで乗れと言わんばかりだ。
「さて……藤丸君はどこにいるのやら……通信は安定してないし……そうだ、アレが在ったな」
龍牙は宝物庫から在る物を取り出した。それは宝石で飾られた木の棒の様な物だった。
「たらたたったたん!【探しもの杖】!」
何処かの青い猫型ロボットの様な声でそう言うと、その杖を高く掲げる。
「【探しもの杖】?人を探すなら【たずn】「それ以上は駄目だ!色々と駄目だ!」良く分かりませんが、主殿が言うのであればいいません」
牛若丸が何かを言おうとしたが、直ぐに止めた。その名前を言うのは拙いからだろう。
「ではこの【探しもの杖】を探したい物・人を思い浮かべながら、地面に立てて……離します。そして倒れた方向にそれが在ります」
龍牙が杖を離すと、倒れた。そして杖を回収し、太夫黒に乗る牛若丸の後ろに乗った。
「では主殿、この方向なのですね」
「あぁ……じゃあ頼むよ、馬に乗るのは久しぶりだから御手柔らかに頼むよ」
「はい!では参ります!」
牛若丸は太夫黒の腹を軽く蹴る。そして太夫黒は牛若と龍牙の2人を乗せて駆け出した。
~その頃、立香やマシュ~
龍牙と逸れた立香とマシュ、エミヤ、クーフーリンは途中で会った兵士に攻撃されたが、峰打で撃退し、その兵士の後を追った。
因みにダレイオス3世は現在、霊体化しており立香の傍に控えていた。流石にバーサーカーに峰打と言っても力が他のサーヴァントと違って段違いの為に、加減が出来ないので控えて貰っていた。
「これは……酷いですね」
「砦の外壁がボロボロだな。これでは長く保たないだろうぜ」
「あぁ、兵士もかなり疲弊している様だしな」
マシュ、クーフーリン、エミヤの順にそう言う。
「っ……拙いな。向こうからワイバーンがくるぞ!」
エミヤはアーチャークラスで現界しており、常人の数倍以上の視力を持っており、その眼で空から来るワイバーンの姿を確認した。
「ワイバーンですか!?しかし、十五世紀にワイバーンが居たと言う記録はありません。恐らく」
「レフ教授の仕業か……」
マシュの言葉に立香がそう言った。だが悠長に言っている暇はない、ワイバーンは砦に攻撃を始めた。
《キシャアァァァァァァ!》
炎を吐き、砦や人間を燃やしていく。総ての兵士達が絶望した時、彼女は現れた。
「諦めてはいけません!水を被って下さい!それで炎は凌げます!」
「あ、貴女は…」
その姿を見た、兵士達は驚いた。彼女はただの村娘で在りながら、この国を救わんが為に、旗を振るい、最後まで戦い抜いた英雄なのだから。
「動ける人は負傷者を砦の中へ!此処は、私にお任せください!」
聖少女ジャンヌ・ダルク……国の為に戦い、最後には国に殺されてしまった英雄だった。
「残った兵士は武器を取り、私に続いて下さい!」
ジャンヌは旗を槍の様に振るい、ワイバーンの群れに立ち向かっていった。
「先輩、どうしましょう?」
「取り敢えず、砦を守ろう。クーフーリンも、エミヤもいい?」
「あぁ、構わんよ」
「いいぜ!」
「ダレイオスさんはマシュの援護を!」
「■■■■■!!!」
ダレイオスも実体化すると、マシュと共に砦の兵士達を護る為に戦闘を開始した。
「はぁ!
「おらぁ!燃えちまいな!」
エミヤは投影魔術で作りだした剣を矢に変え放ち、クーフーリンは魔術を用いて空に居るワイバーン達を落とすが一向に数が減らない。
「おいおい、なんだよこの数は!?」
「全く、何処からこんなに出て来るのやら」
クーフーリンとエミヤがワイバーンの数に呆れている。1体1体は大した事ないが、こうも数が居ると面倒なことこの上ない。
「くっ……なんていう数……主よ、どうか御加護を」
ジャンヌがそう言った瞬間、天から眩い光が出現する。ワイバーン達はその光を避けているのか、群れの中央に大きな穴が空いた。
「主……なのですか?」
ジャンヌは光を見て、本能的にそう呟いた。光が段々と弱くなり、その場にいる一同はそれを見て唖然となる。
純白の鎧に、12枚の黄金の翼、翼に嵌め込まれた12色の宝玉。それは『美しい』の一言だった。その鎧は何も言葉を発する事無く、右手を上げた。それだけで、ワイバーン達は散って行った。
・輪廻の龍焔(リミテッド・ノヴァ)
破壊龍の力の一端。破壊龍の持つ「死」の力を用いて生み出された禍々しい白い光を纏った漆黒の焔。その禍々しい焔の姿とは裏腹に魂を在るべき場所……【輪廻の輪】へと導くための焔であり、魔だけを焼き尽くす浄化の焔の為、生きている者を焼く事はない。
この焔は龍牙が扱うだけでなく、サーヴァントの武器に纏わせる事も可能である。
・探しもの杖
ランク:B 種類:探索宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(個)
探し物・人を探し出す為の宝具。使い方は簡単、探し出したい物・人を想いながら杖を地面を突き、離すだけ。
そして倒れた杖の方向に探し人・物がある。確率はほぼ100%、外れる事は殆どない。
元ネタは【〇ね人ステッキ】。
・太夫黒(たゆうくろ)
生前、牛若丸が時の帝より賜った馬。
かなり優秀な馬だが、気性が荒く、牛若丸以外が触れようとするとその者達を悉く蹴り飛ばしたとか。
何故か龍牙は蹴られておらず、逆に懐いている。牛若丸によると、太夫黒に蹴られなかったのは、龍牙を入れても5人もいないとか。