~ラ・シャリテ~
龍牙は魔力で身体強化し、5分と掛からず立香達に追い付いた。
そこに居たのは嘔吐している立香と彼を護るマシュ、ジャンヌ、ダレイオス、牛若丸、そして彼等に相対するワイバーンの群れと、5人のサーヴァント達だった。
「予想通りに5人いるな」
「うぇ……むっ無皇さん」
「大丈夫か、藤丸君?…………まぁ気持ちは分かる、俺も始めの頃は慣れなかったからな、今も慣れないけど」
立香に近付き、様子を見た。恐らく、周りの無残に殺された無数の死体を見て気分が悪くなったのだろうと、考えた龍牙はポケットからハンカチを取り出し渡して立香を立ち上がらせた。立香の反応は当然だろう、こんな光景を見て平然としている一般人はいない。
「当分の気持ち悪いだろうけど、取り敢えず気持ちはしっかり持っておけ。目の前には敵がいる」
龍牙は立香にそう言うと、マシュとジャンヌの前へと出た。
「ルーマニアの王ヴラド三世、ツンデレ乙女脳カーミラ、龍騎士のシュヴァリエ・デオン、
「これは奇怪な事だ、我等の真名を見破るとは」
「全くだね……少なくとも私の知り合いでもない」
「あらっ私はそんなに有名かしら……まぁそっちには
ヴラド三世、デオン、ジャンヌ・オルタはそれぞれそう反応した。自分の真名が何故見破られたか分からなかったが、自分達の真名を見破った目の前の人間に興味が沸いた様な目をしている。
ヴラド三世はルーマニアの王としてよりも、吸血鬼ドラキュラとしてのイメージが強い英霊である。ハロウィン・イベントでは大変な扱いを受けたが、裁縫得意の面倒見のいいおじさんである。ピックアップで来てくれた。
シュヴァリエ・デオン、女であり男、男であり女として語られる人物。謎が多く、性別は判別できず、自己暗示によって男にでも、女にもでもなる。細い体にも関わらず筋力Aである。モーさんピックアップで呼符で来た、初めての金演出で期待していたので残念。
ジャンヌ・ダルク・オルタ、ジャンヌの憎しみの側面という話であるが、実際は違う。今は此処で離さないが、知ってる人は知ってる。ピックアップ時に無課金で溜めた石を60個消費で来た。
「ちょっと待ちなさいよ!私、なんか変な呼び方されたんだけど!?」
彼女はカーミラ、ドラ娘の別の未来の姿。娘時代から
「私も何か含みのある言い方をされた様な気がするんですが……」
彼女はマルタ、祈りだけで悪竜を鎮めたと言われる聖女だ。多分、祈り=拳orドスの効いた睨みだと思ったのは俺だけじゃないと思う。だって水着になって鉄拳で制裁だよ?始めて見た時はちょっと驚いたわ。俺の
以上、解説:龍牙でした。
「気にしないで、ツンデレ、
「よし、殺す!今すぐ殺すわ!」
カーミラは完全にご立腹の様だ、本当に今すぐでも龍牙に襲い掛かりそうだ。マルタに至っては殺気を込めた瞳で睨んでいる、あっ周りのワイバーンが逃げ出した。
「さてと……冗談はさて置いて……ジャンヌ・ダルク・オルタ……長いな、よし、邪ルタ!」
「誰が、邪ルタよ!?」
「えぇ……長いもん、仕方ない。ジャンヌ・オルタ………何でこの村を襲ったのか教えて欲しいんだが」
「理由?……私は国に裏切られ、総てに裏切られただから復讐よ。そしてこの国を滅ぼすの、全部!全部、この国の全部を炎で包んでやるわ!」
その眼には自分の祖国フランスに対する怒りと憎しみしかない。龍牙は彼女がある人物の願いにより生み出された存在である事を知っていた故に、少し考えた。彼女が悪いのか、ジャンヌを裏切り辱めた国が悪いのか……それとも歪んだ願いを持った者が悪いのか………それに答えなどない。
正しいとは人の数だけあり、他から見れば間違っていてもその人物からすれば正しいのかも知れない。龍牙はそう考えていた、されど……。
「例え、そうでも…………此処には命が在った、それが奪われた………悲しい事だ、此処にいた者達の子に、そのまた子へと繋がる筈だった命の光が失われたのは」
龍牙は近くで亡くなっていた亡骸へ近付き、開いていた瞳を閉じた。
「だから………俺は君達を倒すとしよう」
「倒す?……ぷくくく……アハハハハハハハ!面白い事を言うのね!?見た所、貴方唯の人間……マスターよね?人間である貴方がサーヴァントに勝てるとでも!?」
ジャンヌ・オルタは龍牙の言葉を聞き、笑い出した。周りのサーヴァント達も笑っている。それもそうだろう、普通は人間がサーヴァントに敵う筈がない。龍牙は普通ではない事を知らない彼等が笑うのも無理はない。
だが、龍牙の背に金色の翼が生えた瞬間、ピタリと笑いが止まる。
「『【無】より産まれし創造の龍よ。創造の力を我が身を纏う鎧と成せ』」
【
龍牙の身体を眩い光が包み込んだ。そして光が止むと、そこには穢れの無い純白の鎧を纏った龍牙がいた。
「
12枚6対の金色の翼、翼に埋め込まれた12色の宝玉、黄金の2本の角のついた龍を模した兜、両腰部と両腕部のアンカー、腰の辺りから出る尻尾。その姿は、おとぎ話や伝説に出て来る騎士の様だ。
「【グオォォォォォォォォォォォ!!!】」
龍牙が龍の様な咆哮を上げた。
「(理性は残ってるけど、殺戮の為の狂化されてるな。取り敢えずは)ワイバーンの群れは邪魔か。風よ」
龍牙はジャンヌ・オルタを含めた5人のサーヴァントの位置を確認し、空を飛ぶワイバーン達へと視線を向けた。
【
龍牙の声ではない声と共に、翼に埋め込まれた12色の宝玉の内、黄緑の宝玉が光り始めた。
そして龍牙が手を上げると、突風が吹き始め、その風が小さな台風の様になり空を飛ぶワイバーン達を巻き込んだ。台風の中で互いにぶつかり合い、風によりその肉を引き裂かれているワイバーン達は全滅した。
「なっ?!私のワイバーン達がこんなにもあっさりと………その光……あの時に見た、忌々しい主の光」
ジャンヌ・オルタは憎しみに満ちた目で鎧を纏った龍牙を睨み付けた。
「俺はお前等のいう神じゃないし、基本的に神嫌いだし……最近、良く間違えられるなぁ」
『パチッ』
龍牙はそう言いながら溜息を吐いた。指を鳴らすと、空の台風が掻き消えた。
「さてと………唯の人間が相手してやるよ。藤丸君、マシュ、少し休んでな(牛若、彼等を頼んだよ)」
龍牙は背中に装備されている2振りの刀の内、1振りを鞘から引き抜き、剣先をジャンヌ・オルタ達に向けた。その行動と同時に牛若丸に念話を送った、牛若丸はそれを受けると立香達を護る様に彼等の前に立つ。
「ふふふ……いいわ、忌々しい神め。此処で滅ぼしてくれる!行きなさい、バーサーク・ランサー!バーサーク・アサシン!バーサーク・セイバー!バーサーク・ライダー!」
ジャンヌ・オルタは自分のサーヴァント達に命令を出した、サーヴァント達はその命令を受け、龍牙へと襲い掛かる。
「『炎よ。聖光の力を得て闇を焼く、神炎と成れ』」
【
龍牙の背の翼の白い宝玉と赤い宝玉が輝き、手に持つ刀の刀身を白い炎が覆う。
「死になさい!その血!全て搾り取ってあげるわ!【
カーミラが自分の宝具を使用した。
「ん?」
龍牙が後ろを振り返るとアイアン・メイデンが現れた。アイアン・メイデン、それは聖母マリアを模ったとも言われる女性の形をした空洞の人形……空洞の中には無数の針が在り、閉じ込められるとその針に串刺しにされる拷問危惧である。逸話ではカーミラはこの拷問危惧を使用し処女の血を絞り取り、それを浴びたと言われている。
「(確かランクCの対人だったな……それに女性特攻だったか)……あっ」
龍牙は前の世界の記憶を呼び起こした。それを思い出している間に
「?!未だ死んではないわ!」
カーミラは宝具の中で龍牙が未だ生きている事に気付くと、そう叫んだ。
―ギッ……ギィー―
「うべぇ~血生臭い……全く、普通なら死んでるぞ」
「無傷ですって!?」
「この程度じゃ死なんよっと!」
龍牙が右手に持つ白い炎を纏う刀を振るうと、斬撃が炎の刃とカーミラへ飛来する。
「えっ……ちょw!?」
炎の刃の直撃を受けたカーミラは爆発した。
「ふぅ………どわっ!?」
一息ついた龍牙に遅い掛かって来たヴラド三世とデオン。2人の槍と剣を咄嗟に手に持つ刀で防いだ。
「我等の攻撃を難なく防ぐとは……」
「やっぱり只者じゃないね、君」
「そりゃどうも……やべぇ、鈍り過ぎだ。セイバー時は力任せだったけど……今後はそう言う訳にはいかないか」
龍牙はそう言いながら、左手でもう1振りの刀を振り抜いた。それに一瞬早く気付くたヴラドとデオンは後ろに下がった為に無傷だ。
「はぁ!」
2人が下がった段階で後方に居たマルタが連続で魔力弾を放つ。龍牙はそれに気付くと、回避しつつ両手の刀で魔力弾を斬り裂いていく。魔力弾は全て捌いた時点で龍牙は一度下がると、空を見上げる。
「そろそろか……」
「余所見なんてしてていいのかしら?はぁ!!」
「良くもやってくれたわね!」
龍牙がそう呟いた直後、マルタとボロボロの格好のカーミラが同時に魔力弾を放ってくる。龍牙はそれを刀で全て斬り伏せた。
「ありゃ、流石にあの程度では倒せなかったか」
ボロボロのカーミラを見て、そう言うと何故か刀を2振りとも鞘に納めた。
「なんのつもり……
ジャンヌ・オルタが武器を収めた龍牙に対しそう言い放つ。龍牙は一度、立香達の方に視線を向けてみる。牛若が今にも龍牙を侮辱したジャンヌ・オルタに襲い掛かりそうな勢いだが、何とか理性で抑えているが既に手には刀が握られておりぷるっぷるっと震えている。
「お断りだ。取り敢えず目的は果たしたし逃げさせて貰うよ」
「はぁ?!逃がすとおもっt『カランッ』ん?」
ジャンヌ・オルタは足元で何かを蹴った感触を覚えて、下を見てみると無数の缶が転がっていた。しかしこの時代にこんな物があるだろうか?
「なにこれ?」
ジャンヌ・オルタはその缶を持ち上げてみる。他のサーヴァント達もその缶に注目した。缶自体は黄色に魚のマークが描かれており、上部にはピンが付いている。そのピンには細いワイヤーがついており、それを辿って行くと龍牙の方へと向かっていた。
「せぇの……ほいっ!」
龍牙が何かを引っ張る仕草をすると、ジャンヌ・オルタの持つ缶と地面に転がる無数の缶のピンが全て抜けた。
「「「「「?」」」」」
ジャンヌ・オルタ達は何が起きたのか分からず頭に?を浮かべる。次の瞬間、缶から煙が噴き出した。
「げほっ!げほっ!?なにこれ!?くさっ!」
煙で咽るジャンヌ・オルタ逹、視界は勿論遮られている。
『フハハハハハハ!どうだ!くさやの匂いを忠実に再現したスモークグレネードだ!じゃあな!』
そう笑う龍牙の声が聞こえ、「ふざけるなぁー!」と叫びたいジャンヌ・オルタ逹だが臭さで真面に呼吸できない一同は咽かえ続けるのだった。
「フハハハハハハ!どうだ!くさやの匂いを忠実に再現したスモークグレネードだ!じゃあな!」
煙に向かいながら笑いそう叫ぶ龍牙。一旦落ち着くと、龍牙は直ぐに反転した。
「と言う訳で逃げよう」
「「「ぇえ!?」」」
龍牙の発言に驚く立香、マシュ、ジャンヌ。
「戦わないんですか!?」
「今は戦わない。現在優先すべきは生き残った人達を救う事……エミヤ達のお蔭で生き残った人達は避難する事ができた。今回はそれでいい」
「でっでもそれじゃあ……」
立香は周りの無残に殺されている村人の亡骸を見る。
「分かってるよ、藤丸君。此処で死んだ人たちの仇は討つ。でも今は生き残るのが優先。死んだ人達より生きてる人達を助けないとね」
「っ……分かりました。マシュ!ダレイオスさん!」
「了解です、先輩」
「ジャンヌもそれでいいね?」
「はい、構いません」
龍牙達はその場から撤退した。今、生きてる人達を助ける為に。立香達には疑問があった、あのスモークグレネードどうしたんだろうと?
「創造したのさ、前々から役立つだろうと思って練習したかいがあったよ」
と言われて唖然とした一同であった。