俺のFateな話   作:始まりの0

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今回は龍牙の過去について少し触れます。


EP39 夢

 1人の子供がいた。子供は産まれながらに不思議な【力】を持っており、大変頭も良くでその考えも普通の子供とは異なっていた。

 

 とある日、親類が死にその葬儀でのことだった。子供は言った

 

 

 ―何故哀しむの?死は生きる者の終着点、そして新たな始まりなのに―

 

 そんな事を言う子供に「異質」「気味の悪い」と言う視線を向ける大人達。頭のいい子供はそれに気付き、自分の考えは人とは異なる事と知った。

 

 それからは、考えを隠し、力も隠して生きていた。

 

 10歳の時に彼の力が増えた、元々持っていた力とは対なす【力】。その2つを手にした時に、彼は自分がどう言う存在なのかを知った……いや正確には思い出した。

 

 彼は力を理解しそれなりにコントロールしていた……だが感情が高まると彼の意志に関わらず発動した。だから彼は自分の感情を押し殺し、暮らしていた。もし何かのきっかけで力が発動し、悪ければ暴走し世界が危機にさらされる。暴走しなくても発動している所を誰かに見られると、自分だけでなく家族にも迷惑が掛かると彼は理解していたからだ。

 

 悩む彼の支えは家族と1人の友達だった。家族は両親と妹、弟、そして1人の友である男の子……俗にいう幼馴染だけは彼の悩みに気付いていた。どういう悩みなのかは彼等も分からなかったが、黙って彼の傍に寄り添っていた。

 

 その生活が17年続き、子供は少年になるくらいに成長していた。彼は家族や幼馴染のお蔭で、普通の生活をする上ではある程度、感情を押し殺す事なく過ごす事ができ、何かが在り感情が高ぶっても本気で怒らなければ力が発動する事はなくなっていた。

 

 彼は普通に生活する中で、様々な事を考えていた。この時代で自分が生を受けた意味、力の使い道、世界の変化など彼の頭の中では常にそう物が渦巻いていたが家族や幼馴染と一緒にいる時間だけは年相応の人間として過ごせていた。

 

 そんな彼は在る事を思いつく「このままなら、普通の人間として暮らしていけるのでは?」と。しかし運命は彼を人として過ごさせはしなかった。

 

 それはとある日の事だった、幼馴染と共に遊ぶ為に発売したばかりのソフトを買いに行った。その帰りにこの世界……人類を脅かす事件が起きた。

 

 突如起きた天平地異、それだけならば自然災害だけというだけの話、だが今回は違う。天変地異の直後に現れた、神を名乗る存在とその先兵達。そして神々は言い放つ。

 

 

 ―傲慢で、愚かな人間達よ。我々はもうお前達を守らない―

 

 

 ―自分達の利だけを考え、他の種族を滅ぼし、信仰すらも忘れかけ、この星を蝕むなど許される事ではない―

 

 

 ―知性を持ったが故に、理を忘れた人間。あろうことか、同族で無意味に争うなど―

 

 

 ―このまま行けば、数百年もしない内にこの星は駄目になる―

 

 

 ―この星にはお前達だけでなく、他の種族もいる。お前達だけの為に他の種族を犠牲にする事はできない―

 

 神々はそう言い放った。

 

 地球()を、他の生命を護る為に人間を滅ぼすと言った。神の言う事は正しいだろう。

 

 人間は目に見えぬ神でなく、自分達に便を齎す科学を求めた。そして神への信仰を忘れると同時に、自然への感謝も忘れていった。自分達の益の為に、他の種族を狩り、森を伐採し、廃棄物を海へと流し汚す。その所為で幾つもの種族が滅びてしまった。そしてこのまま行けば、この地球そのものが駄目になる。

 

 これを聞いた人類は突然、現れた神々を認める事ができなかった。いきなり神だと名乗る者が現れて、それを信じられる訳がない。だが殆どの人間が目の前で起きる人智を超えた力に絶望していた。だがそんな中で別の事を考えている者がいた。その者は瓦礫の下敷きになってしまったビニール袋を見つめて、項垂れていた。

 

 その中身は家の手伝い等をして苦労し手に入れたソフト、例え数千円の物で在っても高校生の彼からすれば大金だ。苦労しやっとの事で手に入れ、友と遊ぶのを楽しみにしていた。それを目の前で潰された。

 

 幼い頃から抑制していた感情が爆発した。そして理屈など関係なく神々(原因)を排除する為に今まで隠し続けていた【力】を解放する。向かってくる神の使い達を倒して、神の1人を倒した所で他の神達も訳が分からなくなり撤退した。

 

 そして少年は我に帰る。

 

 ―やってしまった……一刻の怒りに任せて神殺しをしてしまった―

 

 と後悔した。勿論、その光景は世間に知られる事になる。そうなれば、世界の人々は自分達とは違う力を持つ彼に助けを乞うのは必然だった。少年は人類を守るなどと言う大義名分で戦うつもりはなかった……自分を支えてくれた家族と親友の為に戦う事を決意する。

 

 神々は少年を排除する為に全霊を尽くしたが、2体の龍の力を持つ彼を止める事はできなかった。少年は終始「人に機会を与える様に」言い続けたが、神々には届かなかった。

 

 程無く、少年と神々との戦いは集結する。神々を滅ぼすのではなく、今一度人間に機会を与える様に言い続けた少年と、神々(自分達)を未だに信仰し続ける者達を信じて、残った神々は引き下がったのだ。

 

 闘いが終わり、少年は人々から【神殺しの英雄】と呼ばれる様になっていた。

 

 それからというもの、彼の力に縋る者、利用しようとする者、恩恵を預ろうとする者、心から彼に感謝する者、様々な考えを持つ人間が彼の周りに集まっていく。そしてある時、1人の人間が言った。

 

 ―神をも殺す力を持つ者……仮に暴走した時に止められる存在が居るのか?―と。

 

 居る筈もない、彼はその気になれば世界を壊せる存在だ。神でも対抗できなかった存在をどうやって止めれるだろうか?

 

 その言葉をきっかけに、恐怖は伝染し、瞬く間に世界へと広がってしまった。そして世界は少年の意志に関係なく彼を抹殺する方向へと進んでしまう。人種、国、勢力、様々な理由で争い続けていた世界は……皮肉にも一丸となった。人類の為に孤独ながらも戦った少年を殺す為に。

 

 刀剣類、銃、爆弾、ミサイル、毒ガス……核兵器、人類はありとあらゆる兵器を用いて少年を攻撃する。しかし少年は加護により全くの無傷だった。それを見た人々は更に少年に畏れを抱くのは必然だった。そして迫害は家族までに及んだ。

 

 少年は被害にあった家族を見て激昂し、怒りにより力を使い、周囲を破壊してしまった。少し落ち着いた時に周囲を見回した。そこであるものを見つけた、自分を恐怖の眼で視る人間達……その中の子供を守る様に抱き締める母親。その時、少年は気付いた。

 

 

 ―そうか……弱いからこそ、恐怖する。自分の命を……自分の大切な者達に害が及ばないかと。だからこそ、自分達と違うものを排除しようとする―

 

 その気持ちは自分も同じだった。神と戦ったのも家族や幼馴染を守る為……その恐怖の大元が無くならない限りは彼等に平穏はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから少年は人柱となった。家族や幼馴染を巻き込まない為に、人々が安心できる日を迎える為に。

 

 人類の代表達に、家族の安全を引き換えに自分を処刑する様に取引をした。代表達はそれを受け入れ、家族の安全を約束した。

 

 そして少年は自らの加護を消し……命を散らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍牙side~

 

 自室で休んでいた龍牙は目を覚ました。

 

 

「随分と懐かしい夢だ……はぁ……」

 

 家族との思い出、幼馴染と過ごした楽しい時のこと、神々と戦い勝利し人々から感謝された時のこと、人々から怖れられた時のこと、化物と言われた時のこと……昨日の事の様に鮮明に思い出せた。

 

 嫌な事もあったが、嬉しい事も沢山あった。あの様な結末で在ったが、ギルガメシュやエルキドゥにも出会えた。だから龍牙はあの結末に後悔はなかった。

 

 

「レイシフトの時間まで未だ時間はある……もう少しだけ寝よう」

 

 そう思って再び、ベッドの中へ潜り込んだ。先の特異点での疲れも抜けきっていなかった為に直ぐに睡魔が襲ってきた。

 

 

「ふぁ~……明日はローマか。皇帝、神祖、女神、魔神柱……それに彼女か。まぁ……最悪の場合、もう一段階上を使うだけ……それで駄目なら最終手段か」

 

 

【主人よ】

 

 龍牙は今にも眠りそうな眼で横を見てみると、ぬいぐるみ状態のフンババがいた。

 

 

「どうした?」

 

 

【またあの夢を見たのか?】

 

 

「あぁ……最近は見てなかったけど……な」

 

 フンババはそれを聞くと黙って、ベッドの上にあがり龍牙の上に乗った。彼も黙ってフンババを撫でた。

 

 

「ありがとう……おやすみ」

 

 彼はそう言って睡魔に身を任せて眠りについた。


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