俺のFateな話   作:始まりの0

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EP46 危険視

 ~城より離れた荒野~

 

 

「はぁはぁ……」

 

 立香達はジャンヌ達により、何とかアルテラの宝具から逃れる事は出来た。

 

 

「死ぬかと思ったぞ」

 

 ネロはそう呟いた。

 

 

「マスター……マスターは?!」

 

 ジャンヌ達はふっと龍牙の姿がない事に気が付いた。龍牙の令呪により、立香達はジャンヌ達に抱えられ、被害は免れたがそれにマスターである彼は含まれていない。

 

 

「ふぅ………危なかった。流石は軍神の剣……城が影も形もなく消し飛んじまった」

 

 そう声がして、龍牙がジャンヌ達の横に出現した。

 

 

「マスター!御無事ですか?!」

 

 

「あぁ………何とか逃げれたよ」

 

 龍牙は立香達の方を見る。どうやら怪我はない様だ……だが立香のサーヴァント達は龍牙に対して敵意を持っていた。

 

 当然だろう………龍牙の使った力………アレは英雄である彼等とは決して相容れぬ物だと、彼等は分かっていた。ジャンヌ達はそれに気付いたのか、龍牙を守る様に立ちはだかる。

 

 

「……まぁ、敵意を持つのは分からんでもないよ。俺の力はそれだけ危険な物だと自分でも理解しているから………だけど今は此処で争うよりもアルテラ(彼女)をどうにかすべきではないのかな?」

 

 

「……龍牙よ、お主は一体なんなのだ?」

 

 ネロがそう龍牙に尋ねる。

 

 

「少なくとも俺は人間です………誰かを守りたいと思い、戦うだけの人間………ちょっと人間離れした力は有しているけど………ローマに害を成す事はありませんのでご安心下さい、陛下」

 

 

「ちょっと?……それはどうかしらね」

 

 今まで黙っていたステンノが発言し始めた。

 

 

「アレは神々(私達)を殺し………世界に滅びを齎す力よ。それに関してはアルテラ(あの女)と同じね……それにしてもまたアルテラ(あの女)と相まみえるなんて……」

 

 ステンノは堂々としているが、少し震えている。

 

 

「むぅ……確かにあの力、キャットの奥底の本能が危険だと告げていたぞ。正直、もう見たくないぞ」

 

 タマモキャットもそう言った。タマモキャットのオリジナル、つまり玉藻の前はとある神の分身の様な存在。なので彼女もまた龍牙の力を恐れていた。

 

 

「女神ステンノ、タマモキャット……昔を思い出したかな?」

 

 

「!………そう、貴方。知ってるのね……アルテラ(あの女)のこと」

 

 

「えぇ……少しですけど。まぁそんな事はおいて置いて………ジャンヌ、彼女は?」

 

 龍牙はジャンヌの裁定者(ルーラー)のクラス特性であるサーヴァントに対する知覚能力を頼る。

 

 

「……少しずつ此方に近付いて来てます」

 

 

「この先は………ローマか」

 

 

「なっ!?あやつは我がローマを灰燼に帰すつもりか?!」

 

 

「でしょうね、彼女は文明を滅ぼす者………此処一帯で大きな文明はローマですから……此処から先に進ませる訳にはいかないか。行かせれば多くの犠牲がでる事になる……それはさせない、彼女自身も望まない事だろうから」

 

 龍牙はアルテラと言う存在を知っていた。前の世界で、画面越しにではあるが、彼女がどう言う存在で、何を願っていたかを見ていた。

 

 

「陛下……俺を信用できないのは当然の事だと思います。ですが……今は貴女の国を救う為に、貴女のお力をお借りしたい」

 

 

「余の?」

 

 

「我等は戦う事に集中したい……だがあの軍神の剣が解放されれば、被害が及ぶ。だから貴女の劇場をお借りしたいのです。あの劇場に、アルテラを招けば少なくとも余波でローマに被害が出るのを防ぐ事ができしょう」

 

 

「何故、余の劇場の事を知っているのか分からぬが………ローマを守る為であれば喜んで力を貸すぞ」

 

 

(ローマ)も力を貸そう。今のローマをあの者に壊させる訳にはいかぬ」

 

 

「ありがとうございます………さて、藤丸君達は俺を信用できないと言うなら無理に協力しろとは言わない………君達から見れば俺は魔神柱と同じ様な異質な存在だからね、俺自身、それを一番分かっている」

 

 龍牙はそう言うと、身を翻す。

 

 

「それに……嫌われるのは慣れている」

 

 

「マスター」

 

 ジャンヌや沖田達は彼から聞いた事を思い出した。

 

 始まりは己の些細な怒りで在った、だが人類を護る為に戦った。それも命がけでだ……破壊龍の力は無償ではない。その魂を、魔力を、すり減らし戦った。これまでのワイバーンやドラゴンとの戦いではない、本物の神々との戦いだ。これまでしてきた戦いとは消耗の度合いが違う。

 

 幾度も傷付き、血を吐き、死にそうにもなった。そこまでして護った人類に裏切られた、もしその力が自分達に向けられたらと言う人間の浅はかな思い違いで……石を投げられ、化物だと蔑まれ、その命を散らせた。

 

 

「例えどう思われてもいい………俺がする事は変わらな……ぃ」

 

 そう言い龍牙はアルテラが来る方向へと向き直るが、膝を付き、目を抑える。

 

 

「マスター!?」

 

 

「主殿、御顔が!!」

 

 龍牙の眼は黒から金色に変化し、人間の丸い瞳孔ではなく、蛇の様な盾に長い瞳孔になり、血涙が流れ出ている。加えて眼の周囲が黒く変色、鱗の様な物がびっしりと生えている。

 

 

「ッ……龍化(ドラグーン・ドライヴ)の反動が………」

 

 

「……そう、そう言う事ね」

 

 

「成程なぁ」

 

 ステンノとタマモキャットが納得した様な顔をしている。

 

 

「どう言う事だ?」

 

 全く分かっていない、立香やネロ達。

 

 

「さっきのあの龍になった影響ね………あの時の詠唱にもあったでしょう?」

 

 

 ―我が魂力を喰らい、我が肉体を通し現世へ顕現せよ―

 

 

「魂力……つまりは魂だな。あの龍の姿になる為に、自分の魂を喰わせたのであろう。等価交換だワン」

 

 

「それにその姿を見る限り魂だけじゃなく、身体の一部も食べられてそうね」

 

 

「はぁはぁ………龍化(ドラグーン・ドライヴ)は本来、世界に顕現できない破壊龍を俺の身体を通して顕現させる方法。その代償に魂・魔力を消費する。破壊龍を同化させる以上、多少なりに身体が浸食されても、俺自身の力で元に戻す事も可能………少し苦痛はあるが、それは俺が我慢すれば問題ない」

 

 龍牙はそう言うと立ち上がり、眼から出た血を拭い、振り払う。

 

 

「無駄話はこれで終わり………彼女の取り込んだ聖杯の影響で余計な奴等まで集まって来たみたいだし」

 

 彼はそう言うと、空を見上げた。他の者達も空を見上げてみると、空に黒い小さな何かが数えきれない程、現れ始めた。

 

 

「アレは……ワイバーンか!」

 

 

「フム、100は居るかのぅ」

 

 この中でアーチャーである、エミヤと信長がそう言った。アーチャークラスである2人には

 

 

「空を飛ぶ敵ですか……」

 

 

「しかもあの数……」

 

 

「面倒ね」

 

 

「あんなにも高いとアーチャークラスのノッブなら撃ち落とせそうですけど、私達には手が出せませんね」

 

 ジャンヌ、牛若丸、邪ルタ、沖田がそう言う。

 

 

「主殿、動けそうですか?」

 

 

「大丈夫と言いたい所だけど………身体を治すのに少し時間が掛かる、完治まで約10分……それまで俺は動けないし、お前達に魔力を回せない」

 

 牛若丸が龍牙に聞くと、彼はそう答えた。彼は自分の顔に手を翳し、淡い光を放っている。その光を受け、徐々にであるが龍牙の顔は元に戻り始めている。

 

 

「宝具の使用はできんという事か」

 

 

「じゃあ、その治すのを後回しにすればいいじゃない」

 

 信長が落ち着いた様子でそう言い、邪ルタが龍牙に向かいそう言う。確かに全てが終わってから治せばいい話…………普段の龍牙なら自分の事は後回しする筈だが、今回は自分を治す事を優先している。

 

 

「まぁ……後回しでもいいんだけど、これだけは放っておけない」

 

 

「ならばその時間、私が稼ぐとしよう。既にこの身は過去の物………未来に繋がる世界(ローマ)を護れるならば、この身を捨てる意味もあろう」

 

 

「ならば私達も行こう」

 

 

「そうね、私達じゃあのアルテラを倒すのは無理だけど………時間を稼ぐこと位はできるよ」

 

 ロムルス、荊軻、ブーディカがそう言う。

 

 

「異形の力を持ちしマスター。カルデアのマスター……そして愛し子(ネロ)よ。この世界を頼む」

 

 ロムルス達は、アルテラのいる方向に向かい駆けて行く。

 

 彼等はサーヴァント……既に一度は死んだ身、今、自分達に出来るのは壊れかけた世界を護る為の最善の手に全力を尽くす事だけだ。

 

 

「神祖ロムルス、荊軻、ブーディカ……」

 

 龍牙は静かに彼等の名を呟くと眼を瞑り、己の身体を治す事に集中した。

 

 

(枷の掛かったままの俺じゃ、龍化後真面に戦えない。情けない………かと言って枷がなければ俺は世界に()()()()()()

 

 仕方ない……深く、深く入るしかないか)

 

 龍牙は自分と繋がる根源()へと意識を向ける。深く……深く………その意識を根源()に歩み寄って行く。彼の身体に薄らと何かの紋様が浮かんでいるのを、誰も気付かなかった。


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