~崩壊した街~
龍牙はスカサハと共に彼女が感じた気配の原因を確認する為に北東に向かって進んでいた。
「途中でゴースト共を倒して進んできたけど………」
「些か飽きたな」
出てくるゴーストが弱過ぎて、スカサハが飽きていた。
「まぁ……気持ちは分からなくもないですが(主に種火・素材の周回で経験済みだし)」
「何故、その様な遠い目をしておるのだ?」
「種火……素材……周回……(ブツブツ」
「しっかりせぬか!」
「はっ?!……負の連鎖に飲まれる所だった。助かりました」
「良く分からぬが元に戻って何よりだ」
スカサハの声で我に戻った龍牙は気を取り直すと、再び歩を進め始めた。
「ん?」
少し歩くと龍牙は何かに気付いた様で、しゃがみ込むと地面に手を当てる。
「これは………冥界の」
「ほぉ………冥界の気配が分かるとは驚いたぞ。普通の人間には分からない筈なんだが」
「まぁ、冥界には何度か行ってますし、知り合いもいますから」
「……お主、本当に人間か?」
「一応、人間ですよ………ただ、普通の人間がした事ない経験を嫌と言う程してきただけですよ(主に神殺しとか、平行世界に行くとか、毎日寝ずに仕事を約半年続けるとか、宝具ブッパとか)」
「まぁいい………それよりもこの魔力、凄まじい」
この先から感じる凄まじい量の魔力を感じ、スカサハはそう呟いた。
「取り敢えず、行ってみるしかないですね」
龍牙とスカサハは気配の元に向かうのであった。
「これは……デカい穴だな」
「穴ですね」
気配の元に辿り着いた2人の前にあったのは、100mくらいの大きさの穴だった。底を覗いてみると、真っ暗で全く見えない。龍牙は試しに石を放り投げてみた。
「音が聞こえない……石が小さすぎたか」
と龍牙は近くに在った人間大の大きさの瓦礫を持ち上げ放り込んだ。しかし地面に当たった音は聞こえない。
―ギャアァァァァ!―
「駄目だな………何か悲鳴みたいの聞こえて来たけど」
「そうか?儂は何も聞こえなかったが………恐らく、冥界に繋がっているのだろう」
「取り敢えず、穴、閉じちゃいましょうか。この穴からゴースト共が出て来てるみたいですし、閉じてしまえば出て来なくなるでしょうから」
「フム……そうするとしよう。しかしどうやってこれを閉じるか」
「まぁ………方法はなくはないですよ」
龍牙はそう言うと、その背に
「大いなる大地よ、死者が這い出す冥界の穴を閉じたまえ」
【
大地を司る創造龍の宝珠が輝きを増すと、冥界へと続く穴が段々と閉じ始めた。
「なんだ、それは?」
「まぁ、後々に説明を………ん?」
スカサハにそう返す龍牙だが、順調に閉じていた穴は何故か半分ほど閉じた所で止まってしまった。
「足りない……瓦礫でもいいか」
龍牙がそう言うと、近くの瓦礫を指差した。すると瓦礫が浮き始め、穴の上まで移動すると粘土の様な物質に変わり、穴を塞いでいく。それを幾度も繰り返し段々と穴は小さくなっていった。
「ふぅ、後一回くらいか」
龍牙は目の前にある1m位の大きさの穴を見降ろした。
「じゃあ、これで終わ………何か物凄いデカい反応が下から」
「ぼさっとするでない!」
龍牙は何かの反応を感じると、スカサハに襟を掴まれてその場を離れる。次の瞬間、穴を突き破り巨大な何かが現れた。
「なんだ……アレは?」
「儂の経験上、アレは神の類だぞ。だが……アレからは純粋な悪意しか感じぬがな」
「……この感じ、聖杯を取り込んでいるみたいだな」
現れたのは超が付くほど、巨大なゴースト。そしてそのゴーストからは凄まじい魔力と聖杯の力を感じた。
そしてスカサハはこのゴーストが神である事を指摘する。
―おのれぇぇぇぇ!人間がぁぁぁぁ!!!よくも私の邪魔をしたなぁ!!!―
と叫ぶゴースト。しかし何の事なのかと思い首を傾げる龍牙とスカサハ。
「えっと………俺達、何かした?」
―私が事をなそうとしておったのに、私の上に巨大な石を落としよって!!!―
「石?………あっ」
龍牙が自分が先程、落とした瓦礫の事を思い出した。
「アハハハハハ、俺だ。やったの」
―この【ネルガル】に対して何たる無礼!人間如きが!!―
「ネルガル……確か太陽と冥界の神だったか。なんで此処に?」
『ちょっと!勝手に出るんじゃないわよ!』
再び穴……冥界から巨大な魔力……そして神性を感じた龍牙。
冥界より現れたのは金髪、金眼、そして輝く槍を持った女神が現れた。
「あっ………」
「今度は女神が」
「ちょっと!冥界から勝手に出るのは止めて欲しいのだわ!」
―おのれ、エレシュキガル!私を追って来たか!―
「当たり前よ!私の寝首を掻こうとしたのよ!石が落ちて来なかったら、どうなって……い…た………か」
エレシュキガルと言う女神はネルガルを名乗るゴーストに殺されかけた様で、龍牙が落とした瓦礫が直撃した事でそれを邪魔されたのを怒っていた様だ。
エレシュキガルは龍牙を見ると、段々と声が小さくなり、顔を真っ赤にする。
「ななななななっ………にゃんでアンタが此処にいるのよ!?」
「久しぶり、エレちゃん」
どうやら龍牙はこの女神を知っている様だ。
「まぁ色々と在ってね………」
「知り合いか?」
「えぇ……昔、冥界に落ちた時に世話になった女神で」
「普通、冥界に落ちたら死ぬと思うのだが……」
「まぁ……俺の説明は後で。エレちゃん、状況の説明を頼むわ」
龍牙は状況が分からない為に説明を求めた。
「えぇ……」
エレシュキガルの説明によると、目の前にいるのは太陽と冥界の神・ネルガル。かつてエレシュキガルと冥界を取り合った神で、彼女に負けた本来は出て来る事がなかった冥界の王……の残滓。
ネルガルの悪意そのものらしく、何故か聖杯を手に入れ力を取り戻した様で。その力で、この時代に冥界を繋げたのも彼らしい。エレシュキガルが眠っている所を憑りつこうとした時に、龍牙が落とした瓦礫の直撃を受けたという事だ。
―貴様等が邪魔さえしなければ、エレシュキガルの身体を奪い、冥界を苦しみと嘆きの世界に変えられたと言うのに!―
「私に憑こうとしたのはそんな事の為だったの?!」
―冥界は苦しみの土地だ!屈辱の地だ!恐怖と嘆きが蔓延する世界であるべきなのだ!―
「違います!冥界とは、死後の一時の静寂の世界。魂達が安息を得る為の場所です!」
「ネルガル神の悪意………エレシュキガルの言う通りだ。大罪人が地獄に落ちるなら納得する。だが普通に、懸命に生きる人々が、そんな地獄に落ちるのは許さん」
―泥から創り出された人間如きが知った口を聞くな!―
「はぁ…………真面な会話のできない相手は疲れる」
龍牙はそう言うと
「言って聞かないなら…………力尽くで押し通るまで」
【
龍牙は破壊龍の鎧を纏う。
「っ!」
「なっ!?」
―なっなんだ、その力は!?―
破壊龍の力に驚愕する、エレシュキガル、スカサハ、ネルガルの残滓。
「神すらも知らぬ未知なる力って所か………神を相手にするのは久しぶりだ」
龍牙はそう言うと、両腰に装備された
「相変わらず物騒な力なのだわ!」
「詳しい事は分からんが、先に奴を倒すのが先決か」
エレシュキガルとスカサハはそう言うと、槍をネルガルへと向けた。
―おのれぇ!!!ならば、此処で皆殺しだ!!!その上で、エレシュキガルの身体を奪ってくれるわぁ!!!―
・エレシュキガル
冥界の女神様。龍牙がウルクにいた頃に既に在っていたらしい。
・ネルガル(悪意)
冥界のもう1人の神……の残滓。
何故か、聖杯を手に入れており、その所為で力を取り戻した。エレシュキガルの身体を乗っ取ろうとするが、龍牙が落とした瓦礫に直撃し邪魔をされた。