~城のとある一室~
「少しは反省してね……はいもう一枚」
「いでででででっ!!ごめんなさい!俺が悪かったです!」
ギルは拘束されギザギザの板の上で正座している龍牙の膝の上に重石を乗せた。
「全く君って奴は……そんなにあの娘達との話が楽しかったのかな?」
ギルは冷たい視線を龍牙に向けながら、もう1つ重石を置く。ギルがこんな事をしているのは、龍牙と出掛ける約束していたのだが困っていた女中達がいたので龍牙が助けて遅れたのが原因だ。
「違うってば!困ってたから助けただけだって!」
「その割には鼻の下が伸びてたんだけど……」
龍牙は視線をギルから反らした。
「……キノセイジャナイカナ?ハハハ、ヤダナ……ギル、ソンナコトナイナイ」
「……まぁいいさ。今回はこれ位で許してあげる、取り敢えず行くよ」
「はい」
~ウルクより少し離れた荒野~
「ん?……此処って俺がいた場所か?」
龍牙はこの荒野に見覚えがあった1年前にギルと出会った始まりの場所だ。
「そうだよ、君に出会って1年か……時間が経つのって早いね」
「そういやそうだな。もう1年か………」
「うん……龍牙は本当に訳が分からない存在だよね、ボクの眼をもっても見通せない人間……人間かな?」
「おいこらっ、人間以外に何に見えるんだ?ただの人間の子供だ」
「でも人間とは思えないよね………ただの子供は壁を駆けあがらないし、素手で剣術の先生の剣を折って倒さないし、100人の兵達を勝ち抜いたりしない。国の政に口を出さないから」
この1年でギルは龍牙の人間離れした身体能力、頭脳を見た。
その1.ちょっとしたトラブルでギルが剣をもって龍牙を追いまわした事があり、行き止まりに追い詰められたが壁を駆け上り逃げ延びた(勿論、後に制裁されたが)。
その2.従者として強くなる為に戦いの武南を受けていたのだが、素手で剣を殴り折り倒した。
その3.国の100人の兵士達とバトルロワイヤルで勝ち抜いた。
その4.偶々悩んでいるルガルバンダ王の相談に乗り助言すると喜ばれ、何故か国の政まで口を出す様になっていた(どうしてこうなった?)。
「ハハハ、なんでこうなったんだろう………はぁ」
この1年の出来事を振り返って見ると、ただの子供とは思えない行動だと思った。思い出すと疲れた顔をして、近くにあった岩の上に寝転んだ。そして自分の手を見る。
「どうかした?」
「この先、どうすっかなって思って」
「どうするってなにが?」
(まさか未来知ってます、それを変えるにはどうするかってなんて言えない)
「またそうやって黙る………龍牙は自分の事を何も話してくれないし、大切な事は言ってくれない」
(言えないから……違う世界の未来から来ましたなんて頭おかしいと思われる)
「まぁいいか………そう言えば龍牙、1つ聞きたい事があったんだけど」
「なに?」
「龍牙って友達っている?」
「友達か………」
龍牙の脳裏には1人の人物の顔が思い浮かぶ、神を殺すと言う大罪を犯してでも人類を救い(本人は曰くゲームソフトの仇だが)……人類に裏切られ殺された英雄。だが唯一ただ1人だけ自分を信じてくれた友人がいた。
「居るよ……いや、正確には居ただな」
ギルは信じられないって顔をしている。
「そっ……そうなんだ、ねぇ…友達ってどんな感じ?」
「どんなって………何でも相談できて、一緒に居て楽しい奴かな……(そう言えばアイツ……ちゃんと生きてるかね?)」
異世界の友人を想いながら瞳を閉じた。
「ねぇ龍牙……龍牙、寝てる……全く自分勝手な……」
眠ってしまった龍牙を見ながら、自分も岩に腰かけた。
「君は一体どういう存在なんだろう……この1年、君を見てたけど本当に掴み所のないよね……」
そう言って、ギルは寝ている龍牙の頭に触れた。
《バチッ》
音と共にギルの手が何かに弾かれた。ギルは何が起きたのか理解できなかった。龍牙は寝ている、だが黒い髪が白く染まって行く。
「龍牙?」
龍牙が目を開く、その黒眼も金色に染まっていた。
「【汝は誰だ?】」
龍牙の声が男の様な、女の様な声に変わっている。今までの龍牙とは全く異なっている。そしてその身から放っている異様な力をギルは肌で感じていた。
「君こそ何者だい?それに龍牙はどうしたんだ?」
「【眠っておられる……夢を見ておられる。遠き日の夢を】」
白く染まった髪の龍牙はそれだけ言うと立ち上がり、空を見上げた。
「【成程………御可哀想に……人間を護り、人間に裏切られるなど】」
その瞳から涙を流し、手で顔を覆う龍牙。そして突然、力が抜けた様に倒れた。
「ちょ……龍牙!?」
倒れた龍牙を起こし揺さぶり起こそうとする。
「あばばば、なんだ?!何事だ!?」
「りゅ……龍牙だよね?」
「えっ……うん、勿論俺だけど……」
ギルは龍牙の身に何が起きたのか全く理解できなかったが、本人は何も覚えていない様なので言わない事にした。いや正確には言いたくなかった、言えば龍牙が何処かに消えてしまいそうな予感がした。
~???~
真っ暗な闇の中に巨大な何かがいた。
-イナイ……イナイ……ドコニモイナイ。我……お……壊ス…コワス……ケス……滅ス…コレ違ウ、此処でモなイ―
巨大な存在は何かを探して居る、そして何かを壊そうとする。だが見つからない、真っ暗な何処かも分からない場所でずっと探し続ける。
―ドコ?ドコに居ル?―
探す……探す……探す……見つからない。だが変化が起きた。
―こノ匂イ……懐カしイ、匂イ……イタ……ミツケタ―
巨大な存在は何かを見つけたらしく、その匂いの方向へと進んでいった。