ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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ゼロ魔は一期を昔見ただけです。

資料が、資料がないよ。


ヴァリエール君と平賀ちゃん
1話 召喚


耳をつんざき、脳を揺らす大爆発。その爆心地に彼はいた。

 

 

 

「ちょっと失敗しちゃったわね(精一杯の釘宮ボイス)」

 

 

 

この男、身長188cm、体重98kg、適当に切られた金髪を風に揺らし、存分に鍛えられた鋼の身体を軽鎧で包み、背中にマント、腰には拳銃、腕には手甲、そして、特大剣を担いだその姿は、どう見ても傭兵の類だ。

 

だがしかし、彼こそが、このトリステインで知らぬ者はいない大貴族、ヴァリエール公爵家の長男。

 

ルイス・コバックス・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールその人であった。

 

 

 

……「不味い、さっきの爆発に巻き込まれたギーシュが虫の息だ!!」

 

……「イヤァァァ!!ギーシュ!死なないで!!」

 

……「頼むからもうやめてくれヴァリエール!死人が出てからじゃ遅いんだぞ!!」

 

生徒達はまさに阿鼻叫喚といったご様子。

 

先程までは、このトリステイン国立魔法学園の二年生への進級試験である"使い魔召喚の儀"によって、生徒達は使い魔を召喚し、それに一喜一憂するという、毎年恒例の素敵イベントの真っ最中だった。

 

しかし、"学園始まって以来の問題児"、"歩く災害"、"破壊のプリンス"、"キラークイーン"などと呼ばれるルイスは、その和気藹々とした雰囲気を綺麗に吹き飛ばした。文字通りに。

 

この男、ルイス・コバックス・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、"メイジ"でありながら、一部のコモンマジック以外、「魔法が一切使えない」のだ。

 

正確に言えば、魔法を使うと爆発が起きる。つまり、今回、魔法によって使い魔を召喚する、"使い魔召喚の儀"でも、その特性を遺憾無く発揮した。

 

 

 

「ミ、ミスタ・ヴァリエール?その、何も今日じゃなくても、また後日でも良いんですよ?」

 

「いや、ヴァリエールが成功するはずない!やるだけ無駄だ!」

 

「これ以上被害者が出ないうちに中止を!!」

 

周りの人々は彼を必死に止めた。もう十数回は爆発を起こしている。周囲の生徒や使い魔に甚大な被害を出しながら。

 

「いやいや、まだ本気でやってないから、お試しだから」

 

「じゃあ早く本気でやれよ!!なんでも良いから早く終わってくれ!!」

 

「じゃあそろそろ本気出すわ」

 

「……えっ?」

 

 

 

「……我が名はルイス・コバックス・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」

 

 

 

 

その瞬間、ディテクト・マジック(魔力探知)を使うまでもなく、周辺の魔力の密度が高まったのが分かった。ルイスがサモン・サーヴァント(使い魔召喚)のスペルを一言唱える度、大気が歪み、地面が揺れ、世界の全てが悲鳴を上げた。

 

「退避ィー!!皆さん退避してくださぁーい!!遠くへ!出来るだけ遠くへ!!」

 

 

「……五つの力を司るペンタゴン!!」

 

 

 

冴えないハゲ(ルイス談)の教師、コルベールが叫ぶ。その剣幕と、ルイスのいつにない本気っぷりは、生徒達の危機感を充分に煽った。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!逃げろおおおおお!!!」

 

生徒達は蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。そして…………

 

 

 

「……我が運命に従いし、使い魔を召喚せよ!!!」

 

 

 

 

 

先程の爆発が霞む程の大爆発。

 

その爆轟は、青々と茂った草花を無残に蹴散らし、大地を抉り取った。広がる破壊の波動は、学園の校舎にすら届き、固定化で強化された壁を破壊した。爆発の余波はそれだけに留まらず、爆風は雲を吹き飛ばし、渦巻く風は竜巻になった。罅だらけの大地は慄くように震え、地震が起こった。

 

 

 

……そしてその爆心地にいるのは、ルイスと……

 

 

 

 

 

黒髪の少女だった。

 

 

 

 

 

「……ここどこ?」

 

 

 

 

 

 

 

×××××××××××××××

 

 

 

この身体になってもう十六年か。前世も合わせりゃ俺もいい歳だな、オイ。

 

笑っちまうよな。前世じゃ毎晩喧嘩だのナンパだのばっかりのチンピラ。今は大貴族の跡取り息子だ。輪廻転生ってやつなのかね、これは。

 

で、まあ、十六年もすると、気付く訳だ。

 

この世界は、前世の知り合いのオタク野郎が言っていた、ゼロの使い魔ってアニメとおんなじだ、って事にな。

 

俺も詳しくは覚えちゃいねぇが、ハリー・ポッターみたいな魔法の世界で、魔法の学校に通って、それで、魔法の使えないか弱いヒロインが一人の男を呼び出して、典型的なボーイミーツガールの始まり。主人公は何故か恩も何もないヒロインを守りつつ戦い、ヒロインは伝説の力に都合よく覚醒したりして、最終的に世界を救う、とかいう安っぽいストーリーだった筈だ。

 

他にも、大体のストーリーとか、色々聞いたが、まあ、殆ど忘れたな。

 

ただ、まず分かっているのは……

 

……俺がヒロインだって事だ。

 

いや、俺も自分が何言ってるか分からねえ。でもよ、このヴァリエールという苗字と、魔法を使えないという特徴、魔法の学校とくれば、俺みたいな馬鹿でも分かっちまう。

 

そして、俺がヒロインだとすると、本日、必然的に、主人公が召喚される訳だ。

 

つまり、男にキスして、その男と一緒に世界を救ったりなんだりする訳だ。

 

 

 

……は?

 

いや、俺ホモじゃないんで、としか。

 

 

 

つまり、俺のすべきことは、主人公以外を呼び出す事だ。いや、できれば雌を。何かしらの生物の雌を呼ぶことだ。

 

 

 

さて、目的が分かればあとは簡単。目的に向かって進めばいい。使い魔は主人に相応しいのが呼ばれる。つまり、魔法が使えない、か弱い女だと、主人公が出てくる。ならは、魔法が使えずとも、十全に戦える強い男なら?

 

その為に俺は、今の今まで戦い続け、爆破魔法の制御と、武器や素手での戦い方を学んだ。その経験を統合したオペレーション(戦術)、無数の戦場を渡り歩いた俺の頭脳。そして、戦いの中で鍛えられたこの肉体。これが失敗するとは思えないけど。

 

取り敢えず、軽くサモン・サーヴァントを唱えてみたときは、いつもの爆発。それだけだった。

 

しかし、周りからの野次が本格化した今、本気を出そうと思った。煽られたら答える、これ、貴族の鉄則。

 

そうして俺が本気で魔法を使うと、そこにいたのは、この世界じゃ珍しい黒髪の女だった。

 

 

 

 

 

 

 

×××××××××××××××

 

 

 

「……さて、財布忘れちゃった訳ですが」

 

私は、平賀里見。高校二年生。将来の夢は両親と同じお医者さん。夢に向かって毎日お勉強を頑張る女の子。

 

 

 

……と、いうのは表向きの話で、実は私はオタクなのである。子供の頃、ふと見ていたとあるカードをキャプチャーする魔法少女にハートをキャプチャーされて以来、マンガ、アニメ、ライトノベル、ゲームといったサブカルチャーに夢中になってしまったのだ。サブカルチャーは勉強ばかりの私の心に潤いを与えてくれる。まあ、おかげさまで、スポーツは全く駄目、友達も少ない、これと言った特技も何もないんですけどね!!

 

しかし、勉強だけはそれなりにできる私は、都内の有名な進学校に通っている。だが、そのせいか、周りにはオタクなどおらず、クラスでは半分空気!真面目な両親にもオタクですとは言えず!!結局今の今までオタクを隠し通して来たのだ!!

 

そんな私は今日、珍しく学校も塾もないので、図書館で勉強してくるって言って、池袋まで来ちゃいました!でも一応都内なので、学校の人にバレたら即死する。なので、今日はちょっと服装を変えて来た。今の私の格好は、黒のズボンと青のパーカー。後ろ姿なら男の子に見えるだろう。我ながら完璧な変装である。

 

さて、折角の休日を楽しもう、というところで、これだ。

 

「うう、ちくしょーめー!!今時ドジっ子なんて流行んないんだよー!大っ嫌いだ!私のバーカ!」

 

小声で愚痴をこぼす。このドジで休日が無駄になった。今更家に帰る訳にもいかないので、その辺を散歩することにした。そして私は、見たことがないものを目にした。

 

 

 

 

「……姿見が、浮いてる?」

 

 

 

 

 

そう、空中に、とても大きな鏡が浮いているのを見つけた。

 

あり得ない。

 

あれ程大きな鏡が、なんの支えもなく宙に浮くなんて、物理法則に反している。でも私は、その輝く鏡がとても綺麗に見えて、吸い寄せられるように近づいていった。

 

「……綺麗……」

 

私は、姿見に手を伸ばす。

 

そして……

 

「えっ!ちょっ!す、吸い込まれ、て、きゃああああ!!!」

 

そして私は、本日二度目で、なおかつ人生最大のドジをしでかした。

 

 

 

 

 

「……ここどこ?」

 

 

 

 

 

 

×××××××××××××××

 

 

 

爆発がおさまってから数分。生徒達は恐る恐るといった様子で戻って来た。

 

……「おい、どうなったんだ?」

 

……「どうせまた失敗だろ?」

 

……「いや待て!何か、あそこに何かがいるぞ!!」

 

…………「ルイスが、召喚に成功したぁ?!!」

 

世界の終わりかの様に、生徒達は騒いだ。普段から、魔法成功率ゼロのルイスが魔法に成功するなど、誰も思っていなかった。

 

 

 

 

 

一方ルイスは、真剣な眼差しで、目の前の少女を見つめていた。

 

「ひっ!なっ、何ですか貴方は!!」

 

少女は、パニックになった。無理もない。気がついたら急に荒野に立っていて、目の前にはハリウッドスターの様にマッチョでハンサムで、しかも武装した大男。この状況は、全くと言っていい程に男性経験がないこの少女、平賀里見(処女)を困惑させるのに充分だった。

 

大男……ルイスは、少女の言葉を無視し、手を翳す。

 

そして……

 

「イ、イヤっ!気に障ったなら謝ります!!命だけは、命だけは助けて下さい!!」

 

 

 

両手を挙げ、泣きながら命乞いする少女の……、

 

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい!やめて下さ、……い?」

 

 

 

乳を揉みしだいた。

 

 

 

 

「うーむ、80cmくらい、カップはC、いやBくらいか?この感触はシリコンじゃねえ、天然だな。うん、間違いなく女だ。」

 

 

 

 

「…………キャァァァァァ!!」

 

 

 

平賀里見、B経験+1である。

 

 

 

 

×××××××××××××××

 

 

 

「……驚きました。まさか人間を召喚するとは。こんなことは前代未聞です」

 

いつの間にか現れたコルベールは、顔を真っ赤にしてフリーズしている少女をよそに、ルイスに話かけた。

 

「あー、俺もびっくりだよ。こんなにかわいい子犬ちゃんが召喚されるなんてな」

 

「見るからに平民ですが、相手は女の子です。栄えあるトリステインの、貴族の男性として!紳士的な対応を心がけるようにして下さい!」

 

「大丈夫、大丈夫。安心しなよ、えっと、ツル・ツルリーナ先生「コルベールです(半ギレ)」あっそう。まあ、俺もさ、アレだよ?こんなにかわいい子犬ちゃんを無理矢理手篭めにしたりする訳ないじゃん?大体にして俺は言われるまでもなく紳士だぞ、紳士。ベッドの上では特に紳士と評判で「そう言った物言いが良くないと言うのです!!」

 

普段は温厚なコルベールも、ルイスの貴族らしからぬ振る舞いに怒りを見せる。

 

「良いですか?貴族というのは、ただ魔法が使えれば良いと言う訳ではありません!正しい知識と精神、王家への忠誠心を持ち、その上で……「……あの!ちょっと良いですか……?!」……ああ、ミスタ・ヴァリエールの使い魔ですね、何か?」

 

少女は、意を決して、という様子で口を開いた。

 

「あの、ここはどこでしょうか?もしかして、映画の撮影所とかに迷い込んじゃったんでしょうか?出来れば帰りたいんですけど」

 

「はぁ、サツエイジョ?よく分かりませんが、方言とかでしょうか?ええと、取り敢えず、ここはトリステイン国立魔法学園ですよ」

 

「と、とりすていん?えーっと、ヨーロッパとかでしょうか?見た所、白人の方が多いみたいですし。でも、さっきまて私は日本にいたはずなんですけど」

 

「??ハクジン?君の住んでいた村では貴族をそう呼ぶのですか?」

 

「???貴族?貴族が現存するってことは、ここはイギリスなんですか?」

 

「?イギリス??何ですかな、それは?」

 

「あっ、イギリスで一括りにすると失礼なんでしたっけ?」

 

「はあ?」

 

「えっ?」

 

全く会話が噛み合っていない二人。いくらか会話を続けたが、話はまるで纏まらない。それに痺れを切らせたルイスは、コルベールに声をかける。

 

「オーケー!ミスターサンシャイン!!「人の頭を見てサンシャインと言うのはやめなさい!」はいはい、分かったから。でね、さっきから見てたけど、その子、相当な世間知らずじゃん?多分、貴族がいないような田舎から来たんだろうぜ。あんまり虐めてやるなよ」

 

「……確かに、あまりにも話が噛み合いませんからね。かなりの田舎から来たという考えで良いでしょう。」

 

「で、だ。どうするんだ?」

 

「どうする、とは?」

 

「召喚のやり直しだよ。まさかこの子に一生仕えろって言うのか?」

 

ここでコルベールは悩んだ。この世界の平民に所謂人権はないとはいえ、いかに貴族と言えど、人一人の人生を勝手に決めて良いのかと。しかし、この使い魔召喚の儀は神聖なもので、やり直しなど認められない。

 

コルベールは顎に手をやり、少しばかり考える。

 

「(使い魔召喚の儀のやり直しなど、認められるものではない。それに、この世間知らずの田舎ものの少女を放逐してどうなる?人攫いか、物盗りあたりに襲われて死ぬだろう。ならば、いっそ順当に使い魔になって貰うか?幸い、ミスタ・ヴァリエールは相当に腕が立ち、懐にも困っていない様子。ならば、ミスタ・ヴァリエールの使い魔という名目で保護するのがベターでしょうか。待遇については、ミスタ・ヴァリエールのすずめの涙程の人間性に期待するしかありませんね)」

 

「……いえ、ミスタ・ヴァリエール。君はこの少女と契約してもらいます」

 

「ほー、その心は?」

 

「まず、神聖な使い魔召喚の儀のやり直しなど出来ません。そして、君の使い魔という身分を持つことで、学園である程度庇護するように手配します。大体にして、このまま放逐はあまりにも酷でしょう。平民を守ることも貴族の責務ですよ、ミスタ、ヴァリエール」

 

「まあ、良いさ。召喚したのは俺だしよ。女一人守るくらい余裕だよ、余裕。じゃあ、契約するか」

 

そして、少女に振り返ったルイスは、契約の魔法を唱える。

 

「我が名はルイス・コバックス・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

 

「……えっ、何で段々近づいて来るんですか?……いっ、いや、ちょっと、ま、待って!わ、私、初めてで……!!んっ……❤︎やぁ、❤︎だめれすぅ❤︎……あっ❤︎❤︎、んっ、ちゅ❤︎❤︎❤︎」

 

「やったぜ。」

 

そこには、モンスターをハントしたかの様なBGMの中、右手を上げ、完全勝利したルイス君が!乙女のファーストキスを奪っておいてこの態度である。

 

なおコルベールは心底後悔した模様。

 

 

 

 




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