さて、五月の頭。
『近接武器を使わない』ことと、『スキルスクロールを使わない』ことを公言している外国兵士は、今どうなっているのだろうか?
「ぐわあああ!!!」
「ボブーっ!!!」
「ボブがやられた!退がれ!」
……まあ、普通に負けている。
かつての自衛隊と同じ愚を犯している訳だ。
即ち、ダンジョンのルール……。
『九人以上の集団は、パーティとして認められない。よって、経験値はゼロとする』
『ダンジョン内で繰り返し使用される武装は、魔力を吸って強化される』(つまり、弾丸を使い捨てる銃器は強化されない)
『パーティ人数が多ければ多いほど、アイテムドロップ率は低下する』
この三つの絶対ルールを、無視したのだ……。
「……ですから、時城総理!こんなことはおかしいのです!確かに、フロンティア利権を取られたくないのは分かりますが、これはやり過ぎだ!」
『は、はあ……?』
同日。
新出島の外国用オフィスの一室で、英語の叫び声が上がる。
『アンディ・マクラーレン大使。私は、貴公が何を仰っているのか、その意味を図りかねるのだが……』
珍しく、困惑の表情をした総理大臣の時城政史郎が、怒り狂う米大使を画面越しに見つめていた。
テレビ通話だ。
「分からないと?本気で言っているのか?!」
『本気だとも、大使。要領を得ないな、交渉は理性的に行なっていただきたい』
「……つい先日、我が軍のダンジョン探索部隊に、死者が出た。しかも、二人もだ!」
『……はあ、それで?』
「それでとは何だ!!死者が出たんだぞ?!貴国のせいでだ!ダンジョン探索部隊への決定権と共に送り込まれた大使の私は、良い面の皮だ!」
『……????』
そりゃそうだろ、と言った顔をする時城総理。
その反応を無視して、米大使は机を叩きながら叫び続ける。
「安全なはずのフロンティア開拓で、兵士が無駄に死んだとなると、私のキャリアは……、もうお終いだ!!!」
時城総理は、眉を顰めて言った。
『……その言い方ですと、まるで、国の命令で戦って死んだ兵士より、自分のキャリアの方が大事だと言うように聞こえますが?』
「だ、黙れ!話を逸らすな!」
『……失言でしたな、申し訳ない。して、死者が出たとのことですが?』
「そ、そうだ!死者が出たんだぞ?!フロンティアでだ!」
『あー……、その、機密に触れない程度でよろしいのですが、そちらはダンジョンの脅威度をいかほどであると定義していらいたのかお聞かせ願えるか?』
「き、危険度だと?」
『ええ、危険度です。我が国はあらかじめ、《ダンジョンでは年間五十万人以上の死傷者が出ている》と、そちらにもデータを送ったのは存じておりますか?』
「ここまできて、私にそんなお為ごかしを聞かせて何になる?!」
『はあ……?』
またもや、困惑する時城総理。
……が、時城総理は聡明だった。
故に、気付いてしまう。
『……まさか、信じていなかった、とでも?』
「信じるも何も、資源採掘場のフロンティアで五十万人も死傷者が出る訳がないだろう?!経済が低迷した貴国の『棄民政策』の話など、今はしていない!!!」
『あー……、ええと、つまり。貴国は、我が国が《養えきれなくなった国民を殺して、それをダンジョンの死傷者とカウントした》と、そう考えていらっしゃる?』
「だから、さっきからそう言っているだろう!!!」
いよいよもって頭が痛くなってきた時城総理は、目頭をぎゅっと抑えながら、気持ちを落ち着ける。
思わず、怒鳴り散らしたくなるような怒りを、すとんと鎮めた。
これができる辺り、実に政治家らしい。
『我が国の名誉の為に言っておきますが、お渡しした全データは真実です。我が国では、ダンジョンで毎日のように死者が出ております。家族の為に勇敢に戦い、死ぬ。それが我が国の国民です』
「だ、だが!データには物理的に正しくないものが多く含まれていた!例えば、『音速で動く獣』や、『鉄をも溶かす毒虫』などだ!それはどう説明するつもりだ?!!」
『前置きに、重ね重ね書いておいた筈でしょう?《信じられずとも全て真実だ》と……』
「そんな筈はない!貴様は、物理法則を理解していないのか?!獣が音速で動けば、大気の壁にぶつかり砕け散る!そもそも、獣程度の筋肉ではそこまでのエネルギーは」
『知っておるわ……。故に、何度も書きましたぞ?《ダンジョンにおいて物理法則は役に立たない》と!』
「嘘をつくな!軍の報告によると、銃器もしっかり通用していると……」
『銃器は使い物にならんと言ったであろうに……。それはまあ、確かに、効きはするとも。要するに投石の類なのだからな。だが、ダンジョンにおいて、銃器で倒せる程度の敵は雑魚も雑魚!最底辺よ!』
「わ、我が国の調査によると、対戦車砲で……」
『だから、そんなものが通用するのは雑魚だけだと言っておる!大体にして、コストが見合っていない時点で気付かんのか?』
「い、いや、その、だが、国民を生物兵器にする訳にはいかない!聖書の神以外に神はいないのだ、得体の知れぬエイリアンの力を取り込むなど、あり得ん!」
世の中には、一神教と多神教というものがあり。
そして往々にして、一神教とは不寛容である。
『貴国はそんなことを言っていられる状況か?何がそんなに恐ろしい?その下らん、お主ら白人が勝手に定義した《正義》とやらを守ることに、今更どれだけの価値があると言うのだ?』
「何と言われようとも、我々は『正義』と『自由』の国の国民なのだ!文明人として、貴国のように野蛮な真似はできん!」
『その野蛮な国の上前をはねねば立ち行かぬ国が、何を言うか……。政治家の理想の為に無辜の民草をすり潰していることが、何故分からん?』
「今更、国是を曲げろと?!それこそ国民は許さないぞ!」
『では、誇りを胸に抱いたまま溺死するか?言っておくが、我が国は商取引以外では外国に金銭を渡すことはないぞ?』
「な、なにっ?!」
『年間何十兆円も、国連やら後進国やらに金を払ってきたが……、肝心のダンジョン騒ぎの時に、外国は何もしてくれなかったではないか?危機的状況でも助けがもらえないのに、何故、国際関係などに気遣わなければならない?』
「そ、そんなことをすれば、そちらもただでは済まんぞ?!加工貿易を主とする日本が、海外市場への介入を止めれば、内需だけでは市場が満たせずに自壊する!」
『そんな訳はないだろう?なら何故、今こうして国家が運営されているのだ?……亜人もいるし、内需は今までにない高まりを見せている。異界によって国土も広がり、ダンジョン開拓により資源問題も解決した今、経済という数字を追う必要は、今の日本にはないのだ』
「まさか、共産化か?!」
『フッ、ある意味ではそうかもしれんな。ダンジョンの無限の資源を自由に使える今、資本主義は意味を持たなくなってきている……』
「こ、このことは本国に報告させてもらう!」
『ああ、好きにしたまえ』
こうして、海外のダンジョン攻略は、遅々として進んでいなかった……。
そろそろ書き溜めがなくなるぞー。
それはさておき、ジャッジアイズ(亜門は諦めた)をそろそろクリアするので、前に言ってた「異世界が如く」をマジで書きたい。