ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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セミ!!!!!!


91話 六百六十六階層の決戦

ダンジョン攻略だが。

 

「六百六十六階層で一旦打ち止めか」

 

栃木、日光ダンジョン。

 

六百六十六階層。

 

いかにもラスボス臭い奴が、宇宙空間に鎮座していた。

 

全長は……、分からん。大き過ぎる。

 

だが、感覚的に、月そのものと同等ほどだろう。

 

それは、有機部品で構成された機械の星で、灰色の骨のようなフレームに、ステンドグラスのような角膜が配置されている、悍ましい化け物だった。

 

超巨大な複数の腕部が、数万じゃ下らないほどに生えており、本体と同じくらいの大きさがある浮遊する多腕が六本。

 

『———kililatmgpwjdapxojhrvyyyflaAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!』

 

悍ましい、機械音と肉声の混成音が、暗黒空間に遍く響いた……。

 

アナライズの結果、名前は『エンド・オブ・ザ・ワールド』だそうだ。カッコつけ過ぎだな。

 

「ハ、ぁあ……、『御影流』……」

 

迫る、迫る。

 

空が落ちてくる。

 

星の質量と、超鉄の堅牢、星そのものの熱量を伴う、超力に満ち満ちた凄まじい一撃。

 

天蓋そのものをひっくり返す、天魔の拳骨。

 

ああ、良い。

 

楽しい。

 

「———『鬼哭』」

 

中華における、鉄山靠に近い動きか。

 

アレは、足を引っ掛けて背中で押しつぶす、みたいな、ある種の投げ技でもある訳だが、これは違う。

 

この技は、むしろ防御の技。

 

相手の打撃を、丈夫な背中で受け止める。

 

或いは斬撃であっても、背中で受ければ死に難いからな。

 

……だが、レベルにして666を迎えた俺は、この防御技においても。

 

『whaakdaguxuo?!!!!!』

 

「『星を弾き返す』くらい、訳はねぇぞ」

 

って訳だ。

 

心の中で嫁が「たかが石ころひとつ、御影流で押し返してやるってことっすね!!!」などと世迷い事を言っている気がするが、スルーさせてもらおう。

 

さあ、弾いた大腕は彼方遠くまで飛んでゆく。

 

俺は、そのまま、向かってくる二本目の大腕に蹴りを入れる。

 

それも、気……、今は魔力か、魔力をあえて拡散させ、全身にダメージを分散させる蹴り方でだ。

 

これこそが、御影流拳法……。

 

「『水面踏』」

 

である。

 

水面踏は、歩法の一種でもあり、中華の拳法では『軽気功』と呼ばれる技術に酷似している。

 

つまるところ力の分散……。

 

浸透による深部の破壊という、致命的攻撃ではなく。

 

表面を広く破壊すると同時に、自分や相手の肉体そのものを大きく動かすのが目的だ。

 

半径数百キロメートルのクレーターと共に、月ほどの大きさがある腕の一本は弾かれ、これまた彼方まで飛んでいく。

 

その反動で俺は前進、エンドオブザワールドなどというアホくさい名前のモンスターに真っ直ぐ向かう……。

 

が、そうしようとした瞬間には。

 

『faakjkkklxyoeacccadrgz!!!!!!!!』

 

「なるほどな」

 

周囲、三百六十度に、こちらを向いた銀の槍があった。

 

回避とか防御とか、そういう話ではない。

 

全身に、全方向から、無限回数の、超威力遠距離攻撃が飛んでくる訳だ。

 

察するところ、このエンドオブザワールドとかいう奴の能力はこれなんだろう。

 

即ち、『無』から『有』を産み出す。

 

物理法則、エネルギー保存則の完全否定。

 

頭の中のイマジナリー嫁が叫ぶ。

 

———「SFオタクなら知ってて当然なんすけど、『宇宙の熱的死』っていう滅びの概念があるんすよ!それに対する答えみたいな感じの奴っすね!!!」

 

なるほど、そういうことか。

 

何も分からんが分かったぞ。

 

つまり、俺がこいつと戦う上で理解しておけば良いのは、『何もないところから攻撃が飛んでくる』ということだ。

 

最高だな、ドキドキしてくる。

 

いつ死ぬか分からんギャンブルとは、胸が高鳴って仕方がない。

 

ああ、良い……。

 

たまらん。

 

奥義を以て答えねばなるまい。

 

「『御影流棒術、奥義……』」

 

魔力で作った棒を、回す、回す、回す……。

 

「『霹靂神大返(はたたがみなりおおがえし)』」

 

『whghhhyyynomblffffeku?!?!!?!?!!』

 

やがて、棒が見えなくなるほどの速度まで達し、その棒で相手の攻撃を相手に弾き返す……。

 

言わば、棒でやる柔術。

 

相手の力を利用して返す、ただそれだけのことなのだ、この奥義は。

 

……まあ、銃弾を相手に弾き返して殺すくらいはできないと、修得したとは言えないんだが。

 

雷神、つまり霹靂神に雷を打ち返す技だと伝わっているが……、開祖は本当にやったんだろうな。

 

何が起きたか、と言われれば、ごく単純に、全方位から音速の数百倍で迫る仮想金属槍を、その力を利用して弾いている。それだけだ。

 

六本のうち一本の腕で、俺が弾いた銀の槍を防ぐエンドオブザワールド。

 

六本の大腕……、アレは邪魔だな。

 

一つずつ斬るか。

 

牽制に、いつもの『火尖槍』を投げつけて怯ませた後に。

 

「『打神鞭』」

 

魔力の塊を、火尖槍に混ぜて放った。

 

数億発の火尖槍の中で、一発だけ混ぜ込んだ打神鞭は、赤黒い棒状の……、はっきり言うがドリルが飛んでいった。

 

雑に、四本の腕で防ぐエンドオブザワールドだが、打神鞭はそれでは防げない。

 

『Gggohoaddthmxeahpyzzzmz?!!!!!!』

 

防がれて、腕の表面に着弾した火尖槍は、表面を数百キロメートルほど抉ったが、それだけだ。

 

しかし、打神鞭は、回転しながら突き進み、腕の奥へ奥へと掘り進む。

 

そして、その腕の核を貫いた。

 

そう、打神鞭は、『対象を自動追尾して核を抉る』魔法の矢なのである。

 

脳内の嫁が「えっ?!風を操るんじゃないんすか?!!!」とか言ってるが、俺のは原典の方を採用してるんだよ、このオタクちゃんめ。

 

腕二本が落とされてから、慌てて対魔障壁を張るエンドオブザワールド。

 

馬鹿が、遅いんだよ。

 

残り二本、今度は質量で攻めてくるようだ。

 

極大の、それこそ太陽くらいに大きな金属の塊が、上下から叩きつけられる。

 

ああ、そうか、こいつはアホなんだな。

 

「そんな大振り、当たる訳ねえだろ」

 

まあ、そうだ。

 

確かに強い。

 

ただ、出力が馬鹿高いだけの存在は、武術家からすればカモなんだよな。

 

「『御影流拳法、奥義』」

 

脱力、極限まで。

 

そして。

 

「『仙境崩(せんきょうくずし)』」

 

相手の力に、自分の力を乗せて返す。

 

上下から叩きつけられた星を、弾き返す訳だ。

 

それも、力を一点に集中して。

 

するとどうなるか?

 

星を掴んで叩きつけてきた二本の腕は……。

 

『———gGGgyyyynbuldaycbaaAAAA?!!?!?!!!!!』

 

文字通り、爆ぜる。

 

気を、魔力を流し込まれて、内側から炸裂したのだ。

 

柘榴のように。

 

さあ、残るは本体だけだ。

 

中々に楽しめたが、終わらせよう。

 

「『御影流剣術、奥義———』」

 

納刀、そして。

 

「『天魔降臨(てんまこうりん)———!!!』」

 

……御影流においても。

 

雲耀、即ち、空を駆ける稲妻より速く刀を振れと教わる。

 

剣術なんざ、所詮は首の狩り合い。

 

速く抜いて速く振って速く斬ったらそれで勝ち。

 

そして、往々にして、奥義とは、その基礎を突き詰めたものとなる。

 

須臾を超えて、刹那を超えて。

 

虚空、清浄の彼方を超える剣速を実現した、ある時。

 

技ではなく、「理(ことわり)」の方が捻じ曲がる。

 

それの意味するところ。

 

『斬る』前から、『斬った』と言う結果を産み出す。

 

因果逆転、結果が先に、行動が後に。

 

限りなく速い剣は、世界すらも騙すのだ。

 


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