ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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政治、なんもわからん。


95話 落ちてゆく国々

へスター・フリントン大統領。

 

第三次世界大戦時のジョンソン・ローデン大統領は、「戦争を引き起こした責任を取る」と言って辞職(逃げたとも言う)したが、その後釜に座ったのが彼女だった。

 

幸いと言って良いのか、アメリカは、泥沼の消耗戦になった中東付近とは異なり、戦争らしい戦争をせずに終戦を迎えた。

 

無論、ジョンソン・ローデンは利益確保のため、いつものように外国の前線に米兵を送り込んだが、それはそれとして、アメリカそのものの国土は踏み荒らされることなく存在し続けている……。

 

第三次世界大戦でボロボロになったこの世界で、例外の日本を除けば唯一の当たりくじ。

 

クリントンは、その席を思い切り掴んだ。

 

だが。

 

「そんな……!失業率が20%超え、株価は30%以上の急落ですって?!世界恐慌並じゃない!」

 

彼女が座ったその席は、とうに崩れかけていた……。

 

 

 

第三次世界大戦。

 

迎撃ミサイルがあったが故に着弾はしなかったが、北朝鮮やパキスタンなどが核兵器の使用をした、紛れもない「大戦」であったこれは、世界人口を一億人以上すり減らし、幾つもの国が経済的にも武力的にも破綻した大戦争であった。

 

核が使われるまでの戦争で相当数の人間が死んだが……、油田関係、中東付近に降り注いだ放射能と電磁パルスは、中近東からヨーロッパ南部、アフリカ北部の電子機器を破壊し尽くし、それによって起きた経済的損失により星の数ほどの人間が職を失った。

 

電磁パルス……、要するに、核兵器の発するガンマ線が大気中の分子とぶつかり合い発せられる電磁波のことで、断続的に発する大きな電磁波が、コンピュータの回路を破壊してしまうということだ。

 

手に持つスマートフォンも、テレビもパソコンも、電子レンジや冷蔵庫も。ありとあらゆるコンピュータが破壊されるのだ。

 

いきなり原始時代に戻されて生活できる現代人はほぼいないだろう。

 

この時の混乱の死者数は、暴動などによる生産な殺し合いや物資不足による病死に餓死など、諸々含めて数千万人を超え……、それどころか、大戦の間接的な被害を受けたものは人類の八割以上と言われている。

 

国際化により、国と国とのつながりが深くなったこの現代社会においては、一つの国が打撃を受けると、そこと深く繋がる他国もダメージを受けるということだ。

 

世界恐慌もかくやというレベルで株価が乱降下し、たくさんの街の機能が麻痺して、無法地帯が広がってゆく……。

 

第三次世界大戦そのものは終わったが、これからは、長い長い戦後復興の時代がやってくるのだ……。

 

アメリカも例外ではない。

 

確かにアメリカは、核爆発の電磁パルスが発せられた地点からは遠く、なんとか被害を受けずに済んだ。

 

だが、経済とは、お金とは、「流通」つまりは他人からの借金、信用の取引によって成るもの。

 

お金を貸す相手が、働いてくれる相手が、皆一様に死に絶えれば、アメリカ一国が札束を持っていても無意味なのだ。

 

分かりやすく言えば、貧乏人がいなくなれば、金持ちは金持ちではなくなってしまう、と言ったところか。

 

大国アメリカと言えども、取引をする小国達が軒並みこれでは……ということだ。

 

まあだからこそ、前大統領のジョンソンは逃げ出したのだが。

 

その辺りは流石、熟練の政治家だろう。自己保身は政治家の最も大切な能力だ。

 

そして、その後釜に嬉々として座ってしまったフリントンは良い面の皮である。アメリカ初の女性大統領!などと持て囃された結果がこれだ。

 

「ぐ……!早く資料を!」

 

「こ、こちらです」

 

「……ジョンソン!道理で!強欲なあなたが権力の座から降りた理由はこれね?!」

 

酷いものだ。

 

無法地帯と化した外国で、米軍基地が民間人に襲われ、やむなく銃撃戦に発展。

 

ウォール街が自殺者の死骸まみれで清掃が追いつかず、死臭が漂っている。

 

国内でダンジョンを崇めるカルト宗教が大規模テロをして決起、小さな街が占拠される……。

 

まさに、地獄の様相である。

 

兎にも角にも金がない。

 

そもそも取引相手もいない。

 

となると、どうなるか?

 

「税金を上げるわ!法人税よ!」

 

「しかし大統領、これ以上法人税を引き上げれば、商業界からの押し上げが」

 

「アメリカが嫌なら出て行けば良いのよッ!……尤も、アメリカよりも経済がマシな国なんてあるなら、だけど」

 

そう嫌味な顔で言ったフリントンは、素早くキーボードを叩く。

 

「それだけじゃないわ、私が作らせたあの黒人保護団体の……ええと、なんだったかしら?」

 

「『黒人の守り手会』ですか?」

 

「そう、それよ。その守り手会に、黄禍論を唱えさせなさい。少しでも批判の声を海外に向けるのよ!今の日本は世界中から嫌われているのだから、我が国がヘイトスピーチをしても平気よ!」

 

「し、しかし、それでは『黒人の守り手会』の意義が!この団体は黒人の権利を守るための……」

 

「……あなた、何年官僚をやってきたの?私の補佐官ともあろうものが情けない!あんなもの、ただのお題目に過ぎないわ!黒人なんてどうでもいい、私達はそれを口実に金が手に入ればそれで良いのよ!」

 

「は、はい、分かりました」

 

「会長の黒人に黄禍論のスピーチをさせて民衆の支持を得たら、募金を募りなさい。……そうそう、日本のダンジョンフロンティアの探索で事故死した軍人は、確か黒人だったわね?それを使うのよ!」

 

「い、良いのでしょうか?」

 

「良いのよ!遺族に適当に金を握らせて、私達の息がかかったマスコミの前で台本をスピーチしてもらいましょう!私の演説文のゴーストライターに連絡して、台本を書かせるように!ほら早く!」

 

「は、はいっ!」

 

そう言って、部屋から出ていく大統領の補佐役。

 

フリントンは、長いため息をつきながら椅子に座り込んだ……。

 

「……全く!折角大統領になれたのに、こんな貧乏籤だなんて!とは言え、理由もなしに勤めを果たさずに逃げれば、私は破滅よ。こういう時に限って……、いえ、こういう有様だから、対抗馬だったハロルド・チェスも二度目の大統領選挙から降りたのね。やられたわ」

 

先先代大統領であり、大統領選挙で再選を目指すと公言していた財界の巨人、ハロルド・チェスは、アメリカのこの有様を見て逃げた。

 

この状況で大統領をやるなど、馬鹿らしいからだ。神よりも金を崇拝する商売人が、利益もないのに大統領などやる訳がない。

 

そして、フリントン大統領も、ハロルドほどではないが利益があるから大統領の席に座ったのだと言える。

 

政治家に必要なのは、愛国心でも能力でもなく、欲望と自己保身術なのだから。

 

ロハでこんな責任重大な仕事をやるアホはいない。

 

黒人の守り手会もそうだが、本当に黒人を守ろうなどと考えている人間はほとんどいないのだ。

 

安い賃金でデモ隊を雇い騒ぎを大きくし、集めた寄付金を横領する。

 

環境保護団体などもそうだ、環境汚染のことなど一切考えていない。寄付金欲しさに大騒ぎしているのだ。

 

本当に環境を保護したいなら、手のひらにあるスマートフォンを窓から投げ捨て、森の中で洞穴を掘り、黒曜石の槍で獣を仕留めて、その革を纏い肉を食い、原始人のように生きていけばいい。それこそが本当のエコロジーだ。

 

だが、そうしない。

 

石油でできたポリエステルの服を着て、排気ガスを吐き出す車に乗り、工業的に合成されたインクで「環境を守れ!」とその辺に落書きをして、科学力の塊であるスマートフォンでそれを撮影してSNSに写真を上げる……。

 

少し考えれば、そういう団体の言う「環境保護」のお題目など、欺瞞に過ぎないと子供でも分かる。

 

つまりは、金だ。

 

金と、金では買えぬ名声。

 

それ欲しさに政治家をやっているフリントンは、だからこそ、職務に背くことはない。

 

人の道には背くが、それはそれとして、自分の利益が最大限に大きくなるように動く。

 

故に、今のこの死に体のアメリカを見捨てることはない。

 

彼女は、最大の利益を得る為に……。

 

「そうだわ、日本をもっと弾劾しましょう!共に苦痛を受けたヨーロッパ圏やアフリカと手を組んで、日本から譲歩を引き出すのです!」

 

政治的な判断をした……。

 




この話を書いたのって二ヶ月くらい前なんですけど、最近、なんかよく分からんけどTwitterの方で女性保護団体?みたいなのが会計を誤魔化してる!みたいな話になってて、公開を結構躊躇いました。

慈善事業なんて嘘!募金させたり税金を横領する為にやってる!みたいな言い様をしている本編で、現実世界も大体そうですが、世の中にはちゃんとまともな団体もあるはずなので……。


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