ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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寒いとねー、なんか調子出ないよねー。


103話 ダンジョンとインターネット

明空命こと、ソラに鬼電したところ、「インターネット完全に理解した」という意味不明な供述が返って来た。

 

要するに、インターネットの構造と、それに接続する方法を完全に理解したから、迷宮端末をインターネットに繋げてみたらしい。

 

すると時城のジジイが新年早々音速で突っ込んできて、新しい法律というか決まり事を制定。ソラと交渉して、迷宮端末と国産スマートフォンを融合させ、ついでにDマテリアルをふんだんに使った最新モデルにリファインしたとのこと。

 

俺も買い換えたが、これは凄いな。

 

今までのお遊びのようなそれとは違い、完全なAIを搭載しており、お年寄りでも「電話をかけて」や「アプリを開いて」と話しかけるだけで、全ての機能が使いこなせる。

 

また、インターネットが一本化されたのもいい。

 

例えば、野良パーティを組む時、地上のインターネットのSNSや電子掲示板などでマッチングする場合と、迷宮端末用の擬似的なネットワーク機能で近くにいる人とマッチングさせる場合の二通りの手段があったのだが、それが、迷宮端末用のネットワークが地上のそれと一体化したので、一本化した訳だ。

 

今まで、ダンジョン内では地上のネットワークが使えないし、バッテリーなども有限で壊れやすい電子機器をダンジョンに持ち込む人はそう多くなかった。

 

しかし、魔力駆動によって半永久的に動き、神の力で不壊となっている迷宮端末を、既存のスマートフォンと融合させられるシステムができた今、どうなるのかというと……。

 

『ハロー!ユウチューブ!Dチューバーの、梵天&もぐら丸でーす!』

 

こうなる訳だな。

 

 

 

……と、某田舎剣士がユウチューブの動画を見ながら呟いた。

 

既存の電子機器と融合し、稼働時間と堅牢性を跳ね上げる迷宮端末の新機能がもたらしたものは、ダンジョン内での行動を動画サイトにアップロードする者……、『Dチューバー』の萌芽であった。

 

そもそも、現在の日本人は、「ダンジョンに定期的に潜れば鬱病患者でも生活できる」くらいに満たされている。

 

その気になれば小学生でも、その辺の棒切れでスライム叩きするだけで、慎ましくとは言え生活できるだけの費用を稼げてしまうこの世の中……。

 

つまり日本人は、大変に暇だったのだ。

 

アブラハム・マズローの提唱した自己実現に関する著書は有名だが、正にその通りで、人は衣食住という基礎的な欲求が満たされると、今度は承認欲求や自己実現に関する欲求が湧いてくるもの。

 

現在、ダンジョンでの最低限の活動をすれば、治安のいい街で毎日の食事に困らない日本人。

 

となるとやはり湧いてくるのは、「娯楽」の分野への欲求であった。

 

ダンジョンで稼いだ賃金で、美食や娯楽品を買い漁るのももちろん、Dチューバー……ダンジョン・ユウチューバーとしての活動を皆がこぞって始めた。

 

その他にも、空間拡張によりできた異界という名の新たな観光資源を消費するべく流行し出した「国内旅行」や、魔法や亜人などを使って行う「映画及びドラマ撮影」に、「テレビゲーム」や「アニメーション」などの分野がここにきて大きく発達していった。

 

また、ファッションの分野も独自の進化を遂げ、「日常生活に溶け込む鎧」などが生まれた。

 

日本人は、例えば学生などが、部活動代わりに下校後にダンジョンに潜るのがもはや普通のこと。

 

故に、日常的に武装するのが当たり前という異様な世の中になっていた。

 

仮にダンジョンに潜らない者でも、並のスーツより軽くて丈夫な「日常鎧」を着ない必要性がない。

 

日常鎧を着ていたお陰で、事故に遭っても生き延びたなどというケースは枚挙にいとまがないというのもまたあった。

 

銃刀法ももはや撤廃され、その辺で帯刀した人間が普通に歩くのが今の日本だ。

 

一方で、格闘技以外のスポーツは、簡単に超人を作れる今では人気が極めて低迷したし、外国に対する敵愾心をマスコミが執拗に煽る為、西洋文化……特に英会話教室などが下火だ。ポーションの万能性からエステサロンなども不人気になってしまっている。

 

また、マスコミの偏向放送により、「海外に負けない日本文化!」と言ったようなノリでの文化復興なども盛んに行われていた……。

 

因みに、日本で今英雄視されている某田舎剣士の趣味は、温泉巡りや地酒の飲み比べなので、その辺りの分野は勝手に「かつて英雄が来店しました!」と宣伝を打って荒稼ぎしているのは余談だろう。

 

 

 

さて、そんな今日の日本だが、なんだかんだ言っても最も人気なのはDチューバーであった。

 

インターネットに動画を流す以上、日本人だけではなく外国人にも見られるからである。

 

たくさんのコメント、たくさんの再生回数が稼げた方が、より承認欲求を満たせるのだから、女子供がDチューバーをやらない道理はなかった。

 

また海外も、政府関係者は少しでもダンジョンの情報を得ようとして、敢えて日本のDチューバーの動画投稿を差し止めずにいた……。

 

『はい!もぐら丸はね、今日はねー、気合い入ってますよ!』

 

『ぷむぅー』

 

『ほら!気合い入ってるって!』

 

大型バイクほどもある巨大なもぐらを撫でる若い男。

 

もぐらは、ふわふわの茶色い毛をした毛玉のような生き物で、とても可愛らしい。

 

……黒光りする鋼鉄の爪に目を向けなければ、だが。

 

男の方は、ブラックのカーゴパンツに、灰色迷彩柄のコンプレッションシャツ……ロードバイクのアンダーシャツに近いものを着込み、その上からイエローのコートを着込んでいるロックなスタイルだ。

 

だが、日本の現在のファッションらしく、イエローのジャケットの上から左腕を肩から保護する鎧パーツとガントレットを装着し、カーゴパンツにはグリーブが装着されている。

 

口元にも鬼の牙を模したマスクが付けられており、髪の色と瞳の色は薬品で弄ったらしく何と赤色。

 

アニメーションのキャラクターのような男が、一心不乱にでかいもぐらを撫で回している……。

 

『今日はねぇ、今話題の浜松ダンジョンに来てます!浜松だよ浜松、もぐら丸、分かる?』

 

『ぷむぅー』

 

『そうだよ〜!そう、静岡!最近またダンジョンが増えて、総数は千を超えるんだっけ?そんな訳だから新しいダンジョンはビッグチャンスなんだよねえ。浜松ダンジョンでは何が話題か分かる?』

 

『ぷむぅー』

 

『んんん!賢いねえもぐら丸ぅ〜!そうなんだよ!今、浜松ダンジョンでとれる蒼碧銀って鉱物がめちゃめちゃ綺麗だってセレブに大人気なんだよね!今回はこれを狙っていきたいと思います!』

 

男が、でかいもぐらと斧を振り回しながら、現れたモンスターの頭をかち割っていく……。

 

刃が薄く発光する黒い斧をモンスターに投げつけたと思えば。

 

『《リターン》!』

 

斧は一瞬で消えて、再び男の手に舞い戻る。

 

モンスターに囲まれれば。

 

『もぐら丸!ブレス頼む!』

 

『ぷむふぉあー』

 

やたらとでかいもぐらが、口から鉄の礫が混じった吐息をばら撒く。

 

大型のスラッグガンを数十挺並べて連射しているかのような破壊の渦は、迫り来るモンスターを挽肉に変える。

 

そうして、目的の鉱物を採取したそのDチューバーの男は、帰りに浜松名物のやたらでかいハンバーグを食べて帰った……。

 

こんな姿を見た、一般的な外国人はどう思うか?

 

政府筋の人間なら、それはまあ、戦力分析だの何だのと大騒ぎして冷や汗を流すものだが、一般人は違う。

 

『すげえええええ!!!!』

 

『超クールじゃん!!!!』

 

『僕も日本に行きたいよ』

 

『日本ばかり卑怯じゃないか?毎日こんな楽しそうなことをしているだなんて!』

 

『アラスカじゃモンスターみたいなクマが出るけど、こんなに簡単に倒せないよ』

 

『どうして政府はあんなことをしたのか?ちゃんと日本と縁を繋いでおけば、今頃は僕がモンスターと戦えていたのに』

 

そう……、冷静に考えてみてほしい。

 

『ダンジョンに潜り、魔法の力でモンスターと戦い、宝物を手に入れる』などという響きに、心が踊らない人はまずいないのである!!!!

 

例えばフランス。日本の漫画人気は凄まじく、かつては出版される全ての本のうち十数パーセントが漫画だったという。

 

アメリカなどもそうだ。現代のファンタジーの祖とも言える指環物語シリーズの根強いファンは未だに多く、テーブルトークRPGなども人気だ。

 

日本のことは知らなくても、日本のアニメーションは知っている!という例は極めて多い。

 

そんな中、それこそ、漫画やアニメのような世界で、ファンタジーな生活をしている国があると知れば?

 

『政府は日本との友好関係を樹立しろ!』

 

『早く鎖国を辞めさせろ!』

 

『ビザ発行を受け付けろ!』

 

……こうなるのは、ある種当然と言えた。

 




マジで書き溜めがないので、今度は20話に満たない思いつき品とかになりそうです。

まあ思いつき集だからセーフってことで。

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