「おいおいおいおい……、マジかよ!ハッハー!」
「どうしたのマンソン?またチンチンをうちのチワワに噛まれた?」
「そんなこと一回も……、いや一回しかないだろ?それよりジェニファー!こいつを見てくれよ!」
「ええ?何よこれ?またジャパンのDチューバーグッズ?」
「そうじゃないんだ、よく見ろって!」
「……嘘?!これ、ジャパン行きの飛行機のチケットじゃない?!!」
「ああそうだよ!抽選に当たったんだ!新婚旅行はジャパンで決まりだな!」
やあ!俺はマンソン!
アメリカで法曹関係の仕事をしている!
……正味な話、今のアメリカではそれくらいしかまともな仕事がないんだが。
今のアメリカでまともな仕事と言えば、軍関係か法曹関係、医者か、政府系金融機関。それと南部の土地持ち農家くらいか。
それ以外の仕事は、信じられないほどに賃金が低いらしい。
今じゃよくいる餓死者も、昔じゃ考えられない話だったと親が言っているのをよく聞くな。
親の世代では、アメリカは世界でいちばん金持ちで、うちはペンシルベニアに別荘も持っていた、今は貧しくなったー、だなんて言っていたが……。
物心つく頃には、俺からすればこれくらいが普通だった。
むしろ、聞いたところによると、アフリカなんかは部族社会に戻って幾つにも分断されたし、南米や中東はクーデターが頻発して軍事独裁政権の国ばかりになっているし、そういうのと比べればアメリカは豊かだろう?
ヨーロッパも大体アメリカと同じような感じとは聞くが、治安の悪さはアメリカの比じゃないらしい。なんでも、不法入国してきた移民がかなり暴れているのだとか。
アジア連合国?あそこは独裁「国家」ですらない。
治安が完全に崩壊しているから、国家の体をなしていないんだとさ。
例えば、軍人は国家の上層部の私兵で、警察は憲兵で拷問や不当逮捕は当たり前。国民というものはなく、基本的に全員奴隷扱い……。
それよりはアメリカの方がずっとマシだ。
アメリカならまだ、最低限は食事も得られるし、貧しい家庭でも小学校くらいには行ける。
ジャパンはまあ別格として、本当にアメリカに生まれて良かったぜ。
で、そんなジャパンは、裕福なアメリカ人の俺達から見ても、まさに夢の国だ。
未来的な美しい都市、ファンタジーな人々、裕福な生活と充実した福祉……。
ああ、住んでいるジャパニーズが妬ましいよ!
政府側はジャパンを悪者にしようとしているみたいだが、インターネットが発達したこの現代社会で何かを隠すことなんてできやしない。
実際、俺達がこうして辛い生活をしている中でも、ユウチューブなんかのインターネットに上がっているジャパンのDチューバーを見れば、どちらの主張が間違っているかなんて一目瞭然ってもんだぜ。
それに歴史を見ても、第三次世界大戦に至るまでの経緯で、ジャパンに悪い点はなかった。
しかも最近は、こうやってジャパンが鎖国の解除や租界の解放なんかをしたから、政府は全力で手のひら返しをしてきていやがる!
薄汚いぜ……!都合が悪くなれば手のひら返しなんて、クールじゃないな!
だから、俺達みたいな若い世代は、ジャパンが好きか嫌いかは置いておいて、とりあえず政府が大嫌いだ!
懐にピストルを忍ばせて自衛するんだぜ!政府なんて信用ならないからな、自衛だ自衛!
そんな俺達は、基本的に、ジャパンのマンガやアニメ、Dチューバーを見て育った。
娯楽産業に金をかけられるほど裕福な国はジャパンだけだからな、よく出回るのは日本の娯楽品。必然的にそうなる。
そうなってくるとやっぱり、「いつかジャパンに行きたいよな!」とみんな思ってしまうもんだ。
俺達夫婦も例外じゃない。
あの、アニメの国に行ってみたいと子供の頃から思い続けて、今……。
やっと、ジャパンに観光に来れたんだ……。
「うおおっ、凄いな!本当にアニメの中の世界だ!クールだぜ!」
空港で降りた後は、荷物を受け取って街に出たんだが……。
まあ、凄いな。
完全にサイバーパンクの世界なんだけど、道はとても綺麗でゴミ一つ落ちていない。いや、それどころか、汚れ一つない。
「見ろよジェニファー!ジャパニーズが普段から鎧を着て剣を持っているって本当だったんだな!」
「ええ、そうね!」
本当に凄いぜ。
その辺を歩いているジャパニーズは、ごく普通に帯刀しているし、テイムしたモンスターに跨っているのも普通……。
大人気日常系アニメ、『ゆるダン▷』の世界観そのままだ……!
ん?『ゆるダン▷』を知らないのか?
きらきらコミックスってレーベルのマンガが原作のアニメで、ジャパンの女子高生が「ダンジョン攻略部」を作ってゆるくダンジョンを攻略していく日常ものだぜ。
あらすじはこうだ。
高校生にして銀ランク冒険者をやっているソロの槍使い、「島津蘭世」ちゃんという青髪の少女が、ある日、ダンジョンで重戦士の「加賀美撫子」というピンク髪の少女が戦っているところに出くわす。
計らずして臨時パーティを組むことになった二人は、襲い来るモンスターを倒し、友人関係に……。
ツインテールの呪術師「板垣千夜」と、ポニーテールの忍者「大神茜」の二人を加えつつ、ダンジョン攻略部を発足する!みたいな話だ。
これがめちゃめちゃ面白くてな……。
実はかなりのリアリティがあるらしくて、現在のジャパンの生活を知るための教材として、研究者がオススメするくらいなんだ。
ジャパンでも、ダンジョン攻略の教材として人気なんだとか。
時代を表すための民族風俗資料として一番有名なのがマンガなのはジャパンらしいな!
そう、それで、俺が降り立ったのは横浜……、横浜租界だ。
長崎、神戸、新潟という選択肢もあったけど、チケットの抽選で取れたのがここだけだったんだよな。
……にしても、まだここには何もないな。
外国人が山ほどいて、各所で工事をしているようだけど、まだまだ租界は始まったばかり。
だから、最初からちゃんと建物があるジャパンのエリアに行くことになるな。
とりあえずホテルに荷物を置かなくちゃ……。
「……ワオ!凄いわマンソン!ここがホテル?!」
ジェニファーがそう言うのも無理はない。
俺も言葉を失ってる。
だってこれは、本当に凄い!
高さにして二、三マイルはありそうな、麓から天辺が見えない超巨大な塔!!!
これに、空中を浮遊する外殻のようなものがいくつも回転しながら纏わりついている……。
その外殻からは、小型のドローンが出たり入ったりしているな。
外見は白色のフレームのような柱に、鏡張り。
そんな建物の周りに、一マイルほどの小型の塔が連なるように建ち並ぶ……。
凄え、凄えよ!
本当にSFだ!
高校生レベルの物理学を知っていれば、三マイルもの高さの建物が成立するはずなんてないって分かるもんだ。
そんな矛盾を解決しているのがDマテリアルの力であり……、「魔法」ということだろうな。
そして、この塔の周辺には、警備員らしいエルフやドワーフ、ロボット(ゴーレムってやつかな?)なんかが武器を持って歩き回っている。
ああ、本当に凄いぜ!
これだけでも、日本に来れた甲斐があるってもんだ!
やっぱり暖房はクソだな!!!
こたつ買います。