ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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おあああー!!!

凍えるうううー!!!


112話 末法世界においでませ

横浜租界にあるダンジョンは、全部で十。

 

そのうち、二つをアメリカが、三つをアジア連合国が所有している。

 

そして残りの三つを欧州が管理し、最後の二つがその他の国……。

 

この形に収まるまでに、何千もの屍が積み上がっている。

 

冷静に考えれば、話し合いで平和的に解決するべきなのだが……。

 

第三次世界大戦で相争ったばかりの国々に、国際協調などと言っても無意味だった……。

 

 

 

ずらり、と。

 

鉄筋コンクリートの城壁。

 

その反対側の路地には大型シェルターを隠す武装陣地。

 

飲食店やコンビニくらいは通りにあるが、レジ周りには鉄格子で商品とレジと店員をガードしている有様。

 

街の中ではいつも何処かで喧嘩が起きているし、その喧嘩は結構な割合で命のやり取りに転ずる……。

 

末法都市、横浜租界。

 

この街の飲食店、とあるドーナツ屋。

 

ここは、アメリカ人の経営する店で、この周辺もアメリカ租界の土地。

 

この租界では最早、国は国と言うよりかは、ヤクザのようなものに成り果てていた。

 

即ち、みかじめ料を受け取って、このような飲食店を他の国の人間に攻撃されないように守る、いわゆる縄張り制度が暗黙の了解というかデファクトスタンダードと化している……。

 

アメリカらしい、ピンクやブルーに着色された、油でギトギトのドーナツ。

 

これを、米兵達がモリモリと食べて、舌が痺れるほどに苦いコーヒーで喉奥に流し込む。

 

「レベルなんて上がっても意味ないよなー。こうやって、メチャクチャに腹が減るだけだぜ」

 

「ああ、困るよ本当に」

 

「はあ……、しばらくはシールドゴーレムから『シールドメタル』を剥ぎ取る仕事だな」

 

「あーっと、なんでそのシールドメタルが欲しいんだっけか?」

 

「あぁ?確か、電線をこの金属で皮膜すると、電気が完全に漏れなくなるから……えーと、送電の時の損失を減らせるんだとか?よく分からんが、科学的に凄いんだとよ」

 

「ま、産業のためか。損失が減るんなら、コストカットになるだろうしな」

 

「おっと、そろそろ時間だぜ。屯所に戻らなきゃな……」

 

「ああ」

 

そんな時、店で、アジア人が叫んだ。

 

「おい!このドーナツ、虫が入っていたぞ!謝罪と弁償を〜……!」

 

その瞬間、ノータイムで、警告なしに米兵が魔法銃のストックでアジア人の頭をかち割った。

 

「うわあああ?!!!」

 

「舐めてんじゃねえぞ、猿野郎!」

 

頭から血を流しつつ倒れ臥すアジア人に、もう片方の米兵が蹴りを入れる。

 

「お、俺はただ、ちょっと詐欺をしようとしただけなのに……!なんで、ここまで……!」

 

割れた額から血を流し、泣きながら許しを乞うアジア人。

 

だがそれの襟首を掴み、米兵はドーナツ屋の外へと叩き出す。

 

そして、何度も踏みつけてボロボロにしながら、二人は叫んだ。

 

「うるせぇ!この店はうちの軍がケツ持ちしてるんだよ!」

 

「うちのシマでチャチな詐欺しやがって!舐めんじゃねえぞ黄色い猿が!」

 

「大体にして、どうして猿が店の中に入ってんだ?!舐めやがってアジア野郎がよぉ〜っ!!!」

 

「クセェんだよ黄色い猿が!駆除されてぇのかテメェよぉ!!!」

 

こんな大通りで、人前で誰かが死ぬ寸前まで暴行されていても、誰も止めようとはしない。

 

人種差別的な侮辱も最早当たり前。

 

倫理観だの平和だの、そんな贅沢品がそこらに転がっているような世界ではもうないのだ……。

 

そんな米兵に対して、ドーナツ屋の主人である恰幅のいい白人はこう言った。

 

「いやあ、助かりましたよ、軍人さん。お礼に、今日のお代はタダということで……」

 

米兵の手を感謝の握手と見せかけて握り、ドル札を丸めて輪ゴムで縛った棒を掌に置いていく。大体、50ドル紙幣を十枚くらい。

 

その棒を見て、米兵はニヤリと笑って、言った。

 

「いやいや!貴方もアメリカの市民じゃあないですか!これくらい当たり前のことですよ!」

 

ここは、不正が罷り通る危険な街、横浜租界。

 

これが日常だった……。

 

 

 

一方で、日本人がいないのか?と言えば。

 

「うわあ、ガイジンって怖いね、そーちゃん」

 

「そうだね、りっちゃん」

 

別にそんなことはなかった。

 

ボコボコにされたアジア人の男を遠目で見ながら、「高校生」が二人、街を歩く。

 

そう、この地獄のように治安が悪い街に、若い子供が二人きり。しかも両方とも女の子。

 

あっていいことではない。

 

制服のブレザー……最近の学校制服にはデフォルトでモンスター革や魔法金属の鎧が付属している。

 

紺色の装甲ブレザーに、モンスター革の装甲付きグローブ、短めの外套。腰には短いが太く重い、切先が平らな大鉈剣を持つ「金髪」の少女が言った。

 

「ガイジンの人達って、いつも喧嘩してるよね。喧嘩する元気があるなら、ダンジョンで稼げば良いのに」

 

同じく紺色の装甲ブレザー、その上から魔法金属の胸当てと、肩鎧、肩鎧と一体化した腕鎧をつけ、レイピアを腰に下げた「銀髪」の少女が答える。

 

「そうだねー。弱いものいじめなんて『士道不覚悟』だよー。『切腹』ものだよねー」

 

二人の会話は、女子高生のそれとは思えぬ物騒なもの。

 

しかも、外見も日本人離れしている。

 

一体どう言うことなのだろうか……?

 

そんな時、先程、米兵にリンチされていた詐欺師のアジア人が、女子高生の足を掴む。

 

「ま、まっでぇ……。だずげでぐれぇええ……」

 

「えぇ……?」

 

本気でわからない、と言う顔をした二人は、声を揃えてこう言った。

 

「「それって……、『自業自得』でしょ?」」

 

と。

 

そう……、かつて日本に広まった思想、『実力主義武士道』の蔓延は、ついにここまで来たのだ。

 

今の若い子供達は、例え普通の女子高生でも、『名誉や家族の為に戦って死ぬのは当たり前』だとか、『自分の失敗で自分が死ぬのは当たり前』のような考えを持っているのだ。

 

「ぞ、ぞんなぁ……!アジアの国同士のやさじざはないのがぁ……?!」

 

「そんなこと言われても……。『負けたら死ぬのって当たり前』じゃないですか?」

 

「と言うより、『勝てなくても一矢報いる』のがマナーだと思うんですけど……、そっちの国では違うんですか?」

 

セリフはまるで戦国武将だが、この二人はとても可愛らしい女子高生である。

 

「同じ人間が……!人種同士……!だすげあいだろぉお……!!!」

 

「えっと……、私、エンジェルとのハーフなんですけど……?」

 

「私はダークエルフとのハーフです……。貴方とは、人種レベルで違いますので……、その、助け合う義理はないかと……」

 

そう、もう一つの日本の変化。

 

現在、日本には五億を超える民が住んでいるのだが、そのおよそ八割は「亜人との混血」である。そうでなくても、「超越種との混血」で、純粋な人間の日本人はもう殆ど存在しないのだ。

 

本来、金銭的にも人格的にも結婚できなかった層は、亜人をテイムしてそれを伴侶とし、有り余る金と子育て手当で大量に子供を増やした。

 

そして、本来なら結婚できていたような優秀な日本人達は、とっとと超越種(エクストリア)に進化して、人間を辞めた。

 

出生数は、2020年頃には八十万人程度だったものが、今では毎年千万人以上という頭のおかしい数値を叩き出している。

 

尚、死亡数も数十倍じゃきかないほどになっているので、バランスは取れていた。

 

そんな訳で、今の「日本人」とは、このような種族レベルで別の存在を指す言葉になっていた。

 

海外の保守的な地域では、「日本人=エイリアン」と言う認識である。

 

「ぐ、ぎぎい……!鬼め!化け物めぇええ!!!」

 

「「はあ、そうですか……」」

 

そこに突然、アジア連合国の兵士が現れる。

 

「どうした?!誰にやられた!」

 

「ぞ、ぞごの女だぢだ!」

 

流れるように嘘をついた詐欺師のアジア人。

 

「なんだとぉ……?」

 

五人の兵士が、女子高生二人に魔法銃を向ける……!

 




お気付きかと思いますが、感想をもらえると書く気が増します。

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