ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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しゃあっ!


118話 しょうがねえな、人がプライベートでデートしてる時に

ふと、道に目をやると、コンビニがある。

 

黄色い看板、マニストップだ。

 

「コンビニはなくならないのか?」

 

「公共料金の払込みとか、チケット予約とか、あとは単純にトイレとかは必要っすからね」

 

……「いらっしゃイまセー」

 

店員はワーウルフだが、今はどこもこんなもんなのでスルー対象だ。

 

「ただ、商品の陳列の必要はほぼないんで、バックヤードとか無くして飲食スペースにしたりしてるっぽいっす」

 

そう言う杜和に従ってコンビニを見やると、確かに、中に大きな飲食スペースがあった。

 

レジの奥には大きな調理場もあり、最早飲食店レベルだ。

 

揚げたてのチキンやポテト、ダンジョンスイーツなどがディスプレイに並ぶ……。

 

「折角だから、何か食べてくっすよ!このコンビニは確か、アイスクリームが美味しいんす!」

 

そういって、俺の手を引く杜和。

 

ディスプレイを見る……。

 

黄金アイス、肉の葉の串焼き、骨なし鯵のフライ……?

 

「なんか……、このアイス、輝いているんだが食べても大丈夫なのか?」

 

「これは金色牛のミルクからできたアイスっすね。このミルクって、砂糖を入れず、バニラエッセンスを入れなくても、そのまま冷やせばアイスクリームになるんすよ」

 

「この肉は?」

 

「これはミートツリーの葉っぱっすよ?肉の味と食感っすけど、肉じゃないんすよ。葉脈っぽいところは脂身っぽい食感で、ジューシーでなかなかいけるっす」

 

「じゃあ、こっちの魚は?」

 

「これは普通に、骨がない魚のフライっすね。頭の部分はパリパリで、胴体はフワッとしてて、二つの食感が味わえるんすよ」

 

ははあ、ダンジョン食材か……。

 

十数年前は一部の人間しか口にできない特別なものだったのだが、今はもう、一般的に流通しているんだな。

 

俺は適当に購入したホットスナックをザクザクと齧り、通販で買ったカップ酒で流し込んだ。

 

……旨いな。

 

コンビニのホットスナックが、このレベルの味なのか。

 

「美味しいっすか?」

 

「ああ、かなり旨いな。三十五年前、二人で新潟に行った時を思い出す」

 

「あー、懐かしいっすねえ……。もう三十五年っすか」

 

「そうだな」

 

「でも、最近は会ってなかったし、実質夫婦してたのなんて十年位じゃないっすか?」

 

「悪いな」

 

「いえいえ、いいんすよ。先輩はそう言う人だって、覚悟して一緒になったんすから」

 

……何だか、悪い気がしないでもないな。

 

そう言われれば、子供の顔も名前も覚えてないくらいだ。

 

親としても、旦那としても酷過ぎるな……。

 

その辺は、俺の親にそっくりだ。

 

俺も、親には金だけもらってほぼ放置されて育ったから、俺もそういう風に自分の子供にするんだな。

 

「……ホントに、気にしなくて大丈夫っすよ?」

 

「気にしている訳じゃないんだが……、まあ、しばらくはお前の側に居てやろうかと」

 

「自分は嬉しいっすけど……、いいんすか?」

 

「ソラも、しばらくは新規コンテンツを出さんと言うしな。それに、旦那らしいことをせんとマスコミもうるさそうだ」

 

「今更では?」

 

まあそうだが。

 

 

 

「マスコミって言うっすけど、先輩が思ってるようなのは今時殆どいないっすよ?」

 

「そうなのか?」

 

コンビニから出て、二人で街を散歩する。

 

杜和が言うには、政治でも何でも、今の体制が上手くいき過ぎているから、逆張りして反体制を唱えようとする組織は民意にボコボコにされるらしい。

 

そうでなかったとしても、今では癒着だの不正だのをする必要がないくらいに豊かだから偏向報道をする動機がないという。

 

だが……。

 

「大分、見られているようだが」

 

俺が周囲を見渡すと、多くの人々がこちらを見ていることが分かった。

 

スマホでの撮影もされている。

 

「そりゃ、世界一の冒険者なんすから、当たり前では?」

 

それもそうだが……。

 

おっと。

 

「あ、あのっ!赤堀藤吾さんですよね?!」

 

若い男に話しかけられる。

 

スポーツマン風の好青年だ。

 

……背中に剣を二本背負っているが。

 

「そうだが」

 

「俺、ファンなんです!よろしかったら……」

 

ああ、アレか?

 

握手とか、サインとかか?

 

参ったな、これじゃまるで映画俳優じゃないか。

 

仕方ない、握手くらいなら……。

 

「……一手稽古をつけてください!」

 

……はい????

 

目の前の男はその瞬間、素早く剣を抜き、二刀流で襲いかかってきた!

 

「イヤーーーッ!!!!」

 

えっ、何これ????

 

何か俺はやってしまったのか?

 

とりあえず俺は、男が剣を抜き打ちにする瞬間に間合いを詰めて、斬撃を掻い潜りつつ首元に人差し指を添えてやった。

 

「……お、お見事ですっ!!!!流石は世界最強の男っ!!!!」

 

男は勝手に感動して、涙を流しながら去っていった……。

 

「……何だありゃ?」

 

「先輩のファンじゃないっすか?」

 

ファン……?

 

冒険者のファンって、いきなり襲いかかってくるのか……????

 

めちゃくちゃ怖いなこの世界……。

 

「普通に狂ってるだろ」

 

「その狂ってる奴らのトップが先輩なんすよ」

 

「それを言われるとぐうの音も出んな」

 

そんな話を杜和としていると……、いつのまにか群衆に囲まれていた。

 

「赤堀藤吾さんだ!」

 

「赤堀藤吾さんがいるぞ!」

 

「うおお!僕も手合わせ願います!!!」

 

そして襲われた……。

 

イカれてるなあ、この世界は……。

 

 




不審者、四話書けた。

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