ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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痩せる為にジムに通おうかと思ってる。


121話 悦子の部屋

そんなこんなでしばらくの休暇を宣言した俺だが……。

 

『るーるる、るるる、るーるる、るるる……』

 

「本日はゲストとして、世界一の冒険者である赤堀藤吾さんに来ていただきました」

 

「……どうも」

 

……何故か俺は今、テレビに出ていた。

 

 

 

理由としてはまあ、説明するまでもない。

 

俺が暇だと聞きつけたテレビ局が、政府のイメージアップ戦略と言う後押しを得て、突撃してきたという話だ。

 

十五年も表に顔を出さなかったから、国民に心配されていたらしい。

 

そんな筋合いはないと言ったのだが、俺は『英雄』だそうだからな。

 

メディアにある程度は出なきゃならない訳だ。

 

有名税と言うか、とにかく俺はもう俺一人の身体ではない、みたいなことを周囲から言いつけられた。

 

お国の英雄……、怪獣ガジラの名を冠する野球選手のように……いやそれよりもはるかに、国を代表する人間に、俺はなってしまっている。

 

事実、俺の娘の一人は天皇家に嫁ぐなどしているようで、俺は最早、軽々しく動ける立場ではないのだ。

 

無論、そういうのを俺が嫌がると周りの人間はよく知っているために、可能な限りの便宜は図ってもらっている。

 

なので今回は、俺も周りの人間に慮り、テレビ番組の一つくらいには出てやろうと思ったのだ。

 

どちらが悪いかで言えば、十五年もダンジョンに篭りきりで連絡一つ寄越さなかった俺が十割悪いからな。

 

だが、バラエティ番組などに出るのはだるいので、三十分間ババアと話すトーク番組でお茶を濁すことにした。

 

白柳悦子とかいうババアの、『悦子の部屋』とかいうトーク番組だ。

 

「赤堀さんは龍心人(ドラグナー)とのことですが?」

 

「ああ、そうだ」

 

「なるほど」

 

「………………」

 

「………………」

 

いやこのババア話振るの下手じゃねえか?

 

「赤堀さんは、この十五年間にエクストラダンジョンの全てを攻略したそうですが、どうでしたか?」

 

「楽しかったよ」

 

「そうですか」

 

「………………」

 

「………………」

 

「十五年かかりましたが、家族に会えず辛くはなかったのですか?」

 

「特にそうは思わん。だが、嫁に寂しい思いをさせたのは申し訳なく思っている」

 

「それでは、これからは奥さんと一緒にいてあげるのですか?」

 

「もちろんだ。しばらくは地上で休暇を満喫したい」

 

「休暇中のご予定はどうなさるので?」

 

「嫁と国内旅行だろうな。視察という名目で各地を巡り、温泉にでも入ろうかと思う」

 

「温泉がご趣味とのことで、よく熱海などにいらっしゃるそうですが」

 

「ダンジョン前は熱海が好きで良く行っていたが、ダンジョン後は異界にもいい温泉が出てきたんで、そっちにも顔を出すな。近さの関係で塩原温泉とかもよく通っていた」

 

「熱海はよろしいですね、わたくしもよく参ります。塩化物泉は身体がよく温まりますから」

 

「そうだな。しかし冒険者となり、人間の枠を逸脱して久しい今は、普通の温泉では中々に満足度が足りない。だから、ダンジョン内にある毒沼やマグマに浸かることが増えてきたな」

 

「高位の冒険者には、そう言った方も多いと聞きますね」

 

「馬鹿みたいに見えるかもしれないが、俺のような種族レベルで違う人間は、酸性泉に丸一日浸かっても薄皮一枚とて剥がれないんだよ。だから、酸の沼に浸かり古い肌を溶かして、灼熱のマグマで芯から温まり、4000シーベルトの放射線泉で湯治しなくては休んだ気がしないんだ」

 

「4000シーベルトとはどれくらいなのですか?」

 

「広島原爆くらいだな」

 

「なるほど。核爆弾を受けないと、休んだ気がしないのですね」

 

「ああ。俺くらいの高位の冒険者は、単純な熱量では最早死ねんからな。反物質レベルならまあ効くだろうが……」

 

「反物質というものはあまりよく分かりませんが、超高エネルギーがある物質なのだと耳にしております。どちらにせよ、高位の冒険者は、星が滅びるほどのエネルギーでなければ死ねないのですね」

 

「そうなるな」

 

「なるほど。確か、最上位の冒険者の方々は、ダンジョンで核爆弾の投げ合いや戦艦を使ってキャッチボールなどを嗜むとか」

 

何それ????

 

怖……。

 

「最近の冒険者のことはよく分からん。だが、理論上は可能なんじゃないか?」

 

「そうなのですか。最上位の冒険者の方々は、あまりメディアに露出なさらないので、国民の皆さんは動向が気になっていると耳にしています」

 

「へえ。だがまあ……、冒険者で最上位となると、浮世離れしているだろうからな。最上位の冒険者は、本当に好きでダンジョンに潜っている奇特な連中だ。自己顕示欲よりも、ダンジョンに潜ることの方が好きなだろうよ」

 

「それは、貴方もそうなのですか?」

 

「じゃなきゃ、あんな良い嫁を十年以上も放ってはおかん」

 

「そうですね。今後は、しばらく休暇とのことですが、他の冒険者の方とはお会いにならないので?」

 

「その予定はないな」

 

「実は、わたくしは、冒険者の方々からお手紙を預かっています。それによると、皆、世界一の冒険者である貴方にお会いしたいとあります。赤堀さんは、そんな他の冒険者達と戦うのは面倒なのでなるべく会いたくないそうですが、どうですか?」

 

どうもこうもないだろ。

 

オチを言ってから話を振るなよ……。

 

「あー……、挑戦者か。殺さないように手加減するのは、割と面倒だからな。俺と戦いたいなら、せめて『オリハルコン』クラスの冒険者になってから来てくれ」

 

「そうですか」

 

「ああ」

 

「………………」

 

「………………」

 

なんなんだこのババア……。

 

「また、赤堀さんは、長者番付の一位になるほどの資産をお持ちだそうですが、資産管理については配偶者の方々に丸投げしているそうですね」

 

「そうだな。もう、俺の口座にいくら金があるのかなんて、俺は知らないな」

 

「そしてその資産の殆どを国債などにしてしまうそうですが、その理由は世のため人のためではなく、単に使い道がないのからだとか」

 

「そうだな」

 

このババア、手元のカンペを読み上げて詰問するだけで、俺と会話する気あんまないんじゃないのかこれ????

 

 

 

「それでは、お時間になりましたのでこの辺で。本日のゲストは、赤堀藤吾さんでした。ありがとうございました」

 

「ああ、ありがとうございました」

 

『らーららーらー』

 

ババアに一方的に捲し立てられていたら、終わっていた……。

 

何だったんだこの時間は……?

 




書き溜め、もうないです。

次は不審者か狂人。

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