人気があれば続きます。
1:ピンチの時こそ太々しく笑え
三十四年間の『令和』が終わり、新しい元号を二つ跨いで、新元号『万保(ばんほう)』が始まった頃。
世界に、『超能力者』が現れた。
しかし、超能力者達は、その能力を笠に着て暴れ回り、完全に世論を敵に回した……。
もちろん、真っ当に生きている、ちゃんとした超能力者もいたが、暴れる超能力者のせいで、「こいつもいつか暴れ出すんじゃないか?」と思われてしまい……。
超能力者は全員、北米にある『FBハイスクール』に通うことになった……。事実上の島流しだ。
山奥で小卒ユウチューバーとして隠れ住んでいた俺も、軍事衛星で捕捉されてあえなく逮捕。
「うおおーっ!離せーーー!」
「大人しくしろ!」
「三人に勝てる訳ないだろ!」
「シュバルゴ!」
この通り、普通に捕まった。
いや、まあ、ぶっちゃけた話、能力について話せば、速攻で幽閉間違いなしだもんげ。
物を分解する能力!と嘘ついて生きてく方が楽だね!
まあ、こうなっちまったもんはしゃーない。切り替えてけ。
俺は、護送用の飛行機の中で、暇なんで隣の人に話しかける。
「よう嬢ちゃん、景気はどうだ?」
隣にいるのは女だ。
絹のようにサラサラな黒髪ロングに、血のような赤い瞳。
あ、あらかじめ言っておくが、超能力者は基本的に美男美女ばかりで、その上、瞳や髪の色が常人と違うなど、見た目からして一般人とは異なる。
因みに言えば、俺も瞳の色が金色で、肌が褐色だ。
つまりこの子も超能力者って訳だ。カラコンじゃなければだが。
「……景気はどうだ、ですって?良いと思うの?親兄弟から引き離されて、友達もいないアメリカに一人で行くのよ?」
おっ、ブルーだね。
ブルーブルー、明日を救いそうだ。
「そういう時は『ボチボチでんな』とでも返しておくのが関西人ってもんだぞ?」
「……私、生まれも育ちも関東なんだけど?」
「そうか。俺は北海道生まれだ」
「えっ、じゃあ何で関西人の心得的な話をしたのよ?」
「え?駄目なのか?」
「い、いや、駄目ってことはないけど……、あー……、なんか、あんたと話してると調子狂うわね……」
「お?飛行機酔いか?大丈夫か?」
「そういう意味じゃないわよ!あんたがおかしな奴だって話!」
「いや分かってるけど……?」
何言ってんのこの人。
「何なの?あんた何なの?喧嘩売ってんの????」
「夫婦喧嘩は犬も食わないって言うだろ?」
「あんたと夫婦になった覚えはないんだけど!」
「奇遇だなあ、俺もないわ」
「ぶっ殺して良い????」
うーん、参ったぞ。
今時の子って気難しいな。
バッドコミュニケーションだ。
「まあ待て、俺は超能力者だ」
「でしょうね。って言うより、ここにいる殆どが超能力者よ」
「そうなのか?」
「ええ……。ここにいるのは、一年に一度だけ帰国を許されたFB学園の生徒と、これから入学する生徒。それと、まあ、一般人とか先生とかの職員もいるけどね」
へー、そうなんだ。
「まあそりゃどうでも良いや。はい!俺は超能力者なんで、お前の前歴を当てて見せよう!」
「学生以外にあると思ってるの?最初の超能力者が万保二年に現れて、今は万保十九年なのよ?全員が学生に決まってるでしょ……」
「え?俺は通信小学校卒で、学校行ってなかったけど?」
「そうなの?何やってたのあんた?」
「山奥で自給自足しながら、現金はゲームの動画配信で得てたよ」
「へー……、凄いわね。北海道の山奥でしょ?最近は、猟師もほぼいないから、熊とか野放しらしいわね」
「おう。五、六回、ヒグマに襲われたぞ」
「良く生きてたわね……」
「動画配信中にクマが現れたから、めっちゃウケて投げ銭たくさん貰えてラッキーだったわ〜」
「あんた、本当にもう……、何て言うのかしら、タフね」
そう言って女は、クスリと笑った。
「おお、お嬢ちゃん、笑うと美人だな」
「え?!な、何よ急に!」
「いやぁ、誰も彼もが辛気臭ぇ顔してるからよ」
「……元気付けようとしてくれたの?」
「そう言う訳じゃないがね、空気が重いと嫌じゃん?ギスギスオンラインは辛いんだよ」
ボイチャで罵声と舌打ちが飛び交うオンゲはもう嫌じゃ……。ゲームは息抜きなのに、何で息抜きで辛い思いせにゃならんのじゃ!
「そう……、そうね。でも、普通は辛気臭くもなるわよ。島流しなのよ?北米の山奥で暮らせだなんて……」
うーん、まあ、俺の能力があれば、地球上のどこでも楽々生活できるし……。
「大丈夫だって、超能力者だぜ?超能力を活かして、みんなで協力すれば生きていけるって」
「そう……、そうよね!ありがとう、元気が出たわ。私、界動啞零(かいどうあれい)よ、よろしく!」
ん、ああ。
「俺は神薙創壱(かみなぎそういち)だ。そーちゃんって呼んで良いぞ。上目遣いでラブリィにな」
「ふふふ、呼ばないわよこのアホ」
うーん!笑顔で毒を吐かれた!
そんな感じで、啞零ちゃんとイチャイチャ(当社比)していたら……。
爆発音がした。
それから、一拍遅れて警報の嵐。
『マスクをしてください、シートベルトを着用してください』
「な、何よこれ?!どう言うこと?!」
おっと、啞零ちゃんがテンパってる。
「この世界、ひょっとしたらカプンコなんじゃないか?カプンコの乗り物はよく落ちるからなー」
「冗談言ってる場合?!」
キレてるなー。
ふむ。
「まあ落ち着けよ、啞零ちゃん。なるようになるさ」
「だ、だって!」
「大丈夫だ、俺がついてる。安心しろ」
「でも……!」
「最悪、命だけは助けてやるから、怖がらなくて良いぜ。ピンチの時ほど太々しく笑ってなきゃな」
「何それ……、馬鹿みたい。でも、それって……」
カッコいいわよ。
啞零がそう言った瞬間に、飛行機は大きく揺れた。
エアバッグが広がる。
もう何かこう……、木かな?何かを薙ぎ倒すような、断続的な衝突音、何かがへし折れる音、相変わらず鳴り響く警報の音と、クッソうるせぇ音に包まれながら、俺達の乗った飛行機は不時着した……。
超能力サバイバルものです。