「とりあえず、現状から整理しようか」
俺は、その辺の木を分解して倒して、簡易的なベンチを作る。
ベンチに腰掛けた俺は、ジェスチャーを交えて話をすることにした。
「まず、これを見ろ」
俺は、懐のスマコン(スマートコンピュータ)を出して、ARモードの画面を見せた。
「これって……!」
啞零は気付いたようだな。
「そうだ。7G端末は、アマゾン川のど真ん中から、南極点まで、地球上のどこでもネットワークに繋がる端末だ。それが……」
「圏外になってるわね……」
「そうだ。圏外だ。となると、どう考えられると思う?」
「電波遮断装置の近くとか、ですか?」
頬に手を当てながら、双夢が言った。
「そうだな。だとしたら、ここは太平洋のどこかにある、隠された島ということになる」
俺がそう言うと……。
「となると……、衛星写真を誤魔化すくらいに秘匿されている島、ですか……。マズい、ですね」
「ああそうだ、マズい。だが……、最悪のケースは……」
「ま、まさか、異世界転移でやんすか?!」
肆嘉が叫んだ。
「そうだ、それもあり得る。その証拠に……、周りを見て気づかないか?古代のような、見たことのない木々や……」
俺は足元を横切った小動物を掴む。
『ヂュイ!ヂュ!ヂュイ!』
「見ろ、こんな生き物、見たことがあるか?」
鋭い牙を持つ、ネズミとリスの合いの子のような生き物だ。
「うひゃあ!なんでやんすかこれ?!見たことないでやんす!」
肆嘉はたまげているようだ。
「そうだ、見たことがない。ひょっとしたら、ここは全く別の世界なのかもしれないってことだ。別の世界だとしたらどうなる?」
俺が問いかける。
「まあ……、救助は期待できないんじゃないかな」
正那が深刻そうな顔で言った。
「ええーっ!一生ここで暮らすでやんすか〜?!い、嫌でやんすぅー!!!」
肆嘉をスルーして、俺は更に話を続ける。
「これは可能性の話だが……、これは人為的な事故かもしれない」
「「「「「え……?!」」」」」
「俺達、超能力者は、社会から疎まれている。それは自覚してるよな?」
「ええ、まあ」
「今の日本の政情の『きな臭さ』ってのも理解してるか?」
「それは……、そうね」
俺は、捕まえた小動物をぶん投げる。
『ヂュイ?!』
「墜落する前、爆発音がしたのを覚えてるか?」
「ええ」
「爆発音がしてから、墜落したよな?」
つまりは爆弾だ。
「テロの可能性も……」
「飛行機で爆弾テロなんて、この時代にできると思うか?もう五十年は、飛行機墜落事故なんて起きてなかったんだぞ?ついでに言えば故障もあり得ねえ。日本の技術力を舐めるなよ」
二十二世紀の現在、世界中のあらゆる乗り物は、宇宙空間に打ち上げられた人工衛星に搭載された量子コンピュータ『メサイア』によって、自動制御されている。
車も、飛行機も、新幹線も全て、超演算能力を持つコンピュータによって制御されるこの世の中では、ここ五十年間くらい、交通事故というものは起こっていないのだ。
当然、死ぬほど頭の悪いガキとかが道路に急に飛び出した!みたいな、防ぎようなない不慮の事故はまだあるかも知れないが、飛行機や船舶、電車や新幹線のような大規模な乗り物での事故は、もう全くと言って良いほど起こり得ない。
「……確かにそうだな。飛行機墜落事故なんて、もう過去の話だ、最近はほぼねぇ。そして政府は、オレ達を追放したがっていた。状況証拠は揃っていやがるな」
涼巴が、腕を組みながら言った。おほー、おっぱいが持ち上がってグッドですわぞ〜!
「まあ、何にせよ……、帰れるかどうかは絶望的だ。例え帰れたとしても、政府の陰謀でここに島流しされたとしたら……」
「って、ことは、のこのこ帰っていったら、始末されたりするでやんす〜?!!」
「そうだ、その可能性もあり得る」
俺が頷いた。
「で?ここが政府に秘匿された島なのか、異世界なのかは分からないけど、これからどうするの?」
啞零が訊ねてきた。
「えっ?俺が決めて良いのか?」
「話し合ったらよく分かったけど、あんたが一番ものを考えられてるしね」
そうなのか?
「……正直、私も、こう見えてかなり混乱してるし、参っちゃってるわ」
ふーん?
ああ、本当だ、ちょっと震えてら。
「私も、正直な話、とても怖いです。ここに皆さんがいなければ、恐怖のあまり叫んでいるかもしれません。それくらい、怖いのです」
双夢が言った。
瞳が揺れている。
「……オレもだ。これからどうなっちまうのかわかんねぇんだろ?その上で、政府の陰謀だか何だかとまで言われたら、もう……、頭ん中がぐちゃぐちゃだ!」
涼巴が拳をベンチに叩きつけた。
「僕だって怖い!確かに、強力な超能力は持っているよ、でも!こんなところで生きて行くだなんて!」
正那が頭を抱えて俯いた。
「あ、あたしも怖いでやんすけど……、でも、皆さんが強いって分かってるんで、これからどうやって媚び入れしてこうか困ってるでやんすね」
肆嘉はベンチの上で縮こまっている。
「……でも、そんな中でも、あんたは冷静じゃない?だから、あんたに決めてもらいたいわ」
啞零がこちらを見て言った。
マジ?
ぶっちゃけ、山暮らしの時と変わらんので、特に困ってない俺は異端者なのか?
端末一つあれば別によくね?くらいの気分でサバイバル生活するのはおかしいんだなー。
「じゃあリーダー特権でおっぱい揉ませ痛ててててて」
痛い!抓るな!
「真面目にやりなさい!」
「ふむ、じゃあ、とりあえず生活基盤を築くことからだな。良いか?遭難した時は、まずパニックになるのが一番マズいんだ。とりあえず、落ち着いて深呼吸でもしろよ」
全員が、震える呼吸を整える……。
サバイバルは失敗だったかな……。
前、話が大きく動かないと地味な絵が続いて面白くないって言われたんだよね。
でも俺は面白いと思って書いてます。