私は界動啞零。
超能力者だ。
周りには黙っているが、私の超能力は『神の手(ゴッドハンド)』と言い、分子レベルで物質を動かせて、工業機械よりも精密で、重機よりも力強い、サイコキネシス系能力の最高峰だ。
私は今、井戸を掘っている。
「はーい!ここから深さ三メートルくらいの地点に地下水溜まりがあるでやんすよー!啞零の姉貴は頑張ってくださいでやんすー!」
お調子者の肆嘉が応援する横で、私は、『神の手』で穴掘り。
何故こんなことになったのか、回想してみる。
私は、東京で生まれた。
特に変わった家庭じゃない。
荒川の方の、そこそこの値段がする土地で、そこそこの広さの一軒家で。
一人っ子で、両親がいて。
普通の家庭。
普通の家庭の子なのに、超能力を持って生まれてしまった。
両親は、普通の……、本当に普通の人間だった。
私が超能力を使うと、「普通の子はそんなことをしない」と怒ってきた。
最初はそれこそ、自分が、漫画のキャラクターのような選ばれた特別な人間だと思っていたわ。
でも、超能力を使った時の、両親の怯える目を見る度に、その意識は薄れていった……。
実の子に向けるものじゃない、化け物を見る目。
思えば、いやに優しい両親は、私の超能力を恐れていたのかもしれない。臭いものには蓋をせよ、か……。
そうして私は、普通を強制されて、赤い瞳を隠すためにカラコンをして、普通の子として、普通を意識して生きてきた。
けど、ある日……。
FB学園が設立された。
去年の話だ。
FB学園は、超能力者に、超能力を持つに相応しい社会性と知識を身につけさせる場所だと、社会は広報していた。
けれどその実、本当は島流し以外の何者でもないと、ネットの情報で気がついた。このご時世、高度に発展し過ぎたネットワークは、そうそう遮断できないものね。
北米の山奥に、周囲を軍隊に囲まれて、陸の孤島で、銃を持った教師という名の監視員に監視されながら過ごす。FB学園に強制収容された生徒達の声が聞こえてきたわ。
こんなところに閉じ込められる?そんなのは絶対嫌だ……!
私は、超能力者であることを隠すことにした。
幸い、普段から普通を心がけて、超能力は使わずに過ごしていたので、この時点ではバレていなかった。
一年間、十六歳の高校一年生の間はなんとか隠せた。
けど、二年生になろうか、と言うところで政府に見つかって、そのままFB学園に送られることとなった……。
最悪の気分で飛行機に乗り、FB学園に向かう。
そんな時、隣に座っている男に話しかけられた。
そいつが、私が今、世話になっている男、神薙創壱だ。
創壱の第一印象は、私好みの骨太系超イケメン。
野性味溢れる褐色肌に、黒のロングヘア。
金色の鋭い瞳で見つめられるとクラっとしちゃう。
性格さえ良ければ、是非お付き合いしたいって感じ。
普通の学校に通っていた頃は、こんなイケメンはいなかったし、テレビに出てるイケメン俳優も、ナヨっとしたビミョーな奴ばっかりだった。
話しかけられて、正直、めちゃくちゃドキドキした。
素敵な恋とかできちゃえば、FB学園の強制収容も悪くないかも?とかなんとか思っちゃったりした。
けど……。
創壱は、ガキみたいな笑顔で、馬鹿みたいなジョークを言った。
その時は、「くっ!こんなイケメンなのになんで性格がこんなに残念なのよ!これが残念なイケメンってやつなのね?!」なーんて思ってたんだけど……。
こいつと馬鹿話をしていると、なんだか、今まで思い詰めていたこととか、ブルーな気分とか、段々とどうでも良くなってくるのよね。
それが、すっごく助かった。
そして、飛行機が墜落した。
それも、未開の森の中に。
最初は何がなんだか分からなかったけれど、五分も過ぎると現実が見えてくる。
救助を待つ?
こんな未開の森の中で?
そもそも救助は来るの?
もし救助が来なかったら、一生このまま?
ここで暮らすの?
どうやって?
頭の中が真っ白になる。
口の中がカラカラだ。
胃が縮こまる。
目の前がチカチカしてきた。
大混乱の私を差し置いて、FB学園の生徒会長とやらが、建国をするだとか訳の分からないことを言っている。
私はそれに呆れた。
それどころか憤りすら感じた。
私のように、現実を見つめ過ぎるのも良くないかもしれないけど、あの男は現実が見えてなさ過ぎる。
あり得ない、あんな奴について行ったら死ぬ。
……死ぬ?
死ぬのは嫌だ。
死にたくない。
今までの人生、自分を押し殺して、必死に普通の女の子を演じてきた。
まだ、本当の私のことを見つめてくれる人に出会えてない!
ここで死ぬなんて絶対に嫌だ!
その時。
創壱が、あの生徒会長に反論した。
創壱はどうやら、この状況で、飛行機の爆発を防ぐために燃料タンクを分解してきたそうだ。
そんなこと、考えもしなかった……。
私は、頭の中が真っ白になって、とにかく死にたくないと心の中で叫び続けることしかできなかった。
けど、創壱は、この危機的状況でいち早く動いて、目下の問題を一つ解決した。
凄い……!
それだけじゃなく、創壱は更に、貨物室を開放して自分の荷物を確保すると、折れた飛行機の羽に駆け寄った。
何をしているんだろう?と思って近寄ると、創壱は、飛行機の羽からナイフなどの刃物を作り出し、更にコンテナを作り、その中に飛行機内の資材を詰め込み始めていた。
私はまさに、舌を巻く、というやつだったわ。
私はパニックになって思いつかなかったけれど、この状況下で最高の判断を下したのよ。
言動は馬鹿だけど、行動は神がかり的ね。
こうしちゃいられないわ、創壱について行こう。
創壱を守る代わりに、知恵を貸してもらおう!
そう思ったの。
実際、創壱について行ったのは正解だったわ。
他にも四人、創壱についてきた女の子達がいるんだけど、その子達も凄い能力を持っているみたいだし。
創壱は本当に、サバイバル慣れしているの。
私は、魚をさばいたり、獣を解体したり、食べられる野草を見つけたりはできない。そもそも、現代人にそんなことはできないわ。
昔は、田舎の方には猟師って人達がいて、熊とか仕留めてたらしいけど……。今の時代は、そんな人達はもういないわ。
つまり、サバイバルなんてできる人、地球にそもそもいないのよ。
けど、創壱は、そういうことをごく自然にやるの。
それだけじゃなく、海への移動で、寝るときに膝掛けをくれたり、気も利くわ。ふざけてるように見えて、マメなところもあるのよね。
それだけじゃなくて、夜中の見張りまでしてくれてた。
おっぱいを突っついてきたり、お尻を撫でたりしてくるけど、それ以外では至って紳士的よ。
家を建てた時も、私達に家を明け渡して、外で寝ようとしてたわ。
まあ本人は、「男が隣にいて眠れなかったから、次の日は寝不足で働けないとか舐めたこと言われた方が困るんだよな。そんなことほざいたら、迷惑料として今履いてるパンツを要求するから覚悟して、どうぞ」とか言ってたけど。
でも、とにかく、考えうる限り最高の判断を下して、最高の動きをしていると思う。
もちろん、双夢達の力もあるけれど、この状況で、屋根のあるところで、安全な水を飲めて、普通に美味しい食事を食べられるのは、創壱のおかげだ。
「創壱」
「何だ?」
「その、なんかね……、いつもありがと」
「おっ、デレ期か?!おっぱい揉んでいい?!」
「死ねっ!!!」
あー……、こいつは本当にもう!
もっとムードがあるときに言ってくれれば、好きなだけ揉ませてあげるのに!
ほんと、馬鹿なんだから!
はぁ……。
今日はそんな感じで、井戸掘りをしたわ。
無事に、飲めるレベルの水が出ることを確認して、創壱が井戸用の桶に縄を繋いで設置。
午後は、倉庫の棚と、家の中用のベンチを作って設置したわね。
うう……、硬いところで寝ると身体が痛くなるわね。
でも……、何だろうかな。
創壱と一緒にいると、本当の私でいられる気がする。
おっぱいを揉まれたのなんて生まれて初めてだし、それで人をビンタしたのも初めて。
けど、そのやりとりが楽しくて。
創壱の前だと、私は、ありのままの私にされちゃうんだなー……。
啞零のモデル?
閻魔あいです。
地獄少女見てないけど。