「今日は、石鹸を作ります」
「本当かい?!助かるよ!」
正那が喜んだ。
「正那、電気分解ってできるか?」
「できるよ!苛性ソーダだね?」
お、分かるのか。
「じゃあ、啞零は、サイコキネシスで薬剤を混ぜるのを手伝えよ」
「ええ。油は何を使うの?」
「これだ」
この前拾って来たココナッツ!
「ココナッツオイルね!良いじゃない!」
良いのか?よく分からん。
「ココナッツオイルの石鹸は、高級品なんですよ」
と、双夢が教えてくれた。
なるほど、高級品。
さて、石鹸作り。
まず、塩水を電気分解。
「えい」
バリバリーッ!はい終わり。
余った苛性ソーダは、小さな壺に封じておく。
瓶欲しいな、ガラスか……。
ココナッツから、油分のみを抽出。
分量は俺が覚えてるので、混ぜる!
なお、作業は危険なので、啞零がサイコキネシスで遠隔操作して作りました。
そして、完成した石鹸から水分を『分解』して……。
「完成だ!」
うん、上手にできた。
倉庫の棚に、切り分けて、置いておいた。
この辺りは湿度もそんなに高くないし、とりあえずはこれで。
こんなもんかな、と考えていると……。
「大変でやんす!大変でやんすー!」
肆嘉の叫び声が聞こえて来た。
「どうした?」
「南から、超能力者の集団が来てるでやんす!きっと侵略者でやんすよ〜!!!」
ふむ、川上から超能力者の集団か。
「超能力者の内訳は?」
「女の特級が一人、一級が五人、二級が八人、三級が十二人、四級が十六人でやんす!男は、一級が三人、二級が十人、三級が五人!」
ふむ……。
特級がいるのか。
侵略者だとすればまずいな。
いよいよって時は、覚悟を決めなきゃならんだろうな。
俺は、啞零と正那に護衛されながら、肆嘉を伴って前に出た。
向こうからは、特級能力者一人だけが歩って来ている……、と肆嘉が言っている。
特級能力者は……、身長普通、胸は大きめ。
髪型は、金髪のドリルみてーな感じ。
瞳の色は緑で、肌は真っ白。
アレっすね、昔のネット小説の、悪役令嬢みたいな……。
そんなのが、両手を上げながら歩って来た。
「そこで止まれ」
俺はそう命じた。
手元には、弓矢がある。
矢尻にはトリカブトの毒が塗り込んである……、ってか、この距離だったら外さない自信がある。
「何の用だ?」
「単刀直入に言いましょう。仲間に入れてくださいな」
ふむ……。
「六十人の足手まといを仲間にしろと?とんだ厚顔無恥野郎だな」
「その点については、面目次第もありませんわ。それにつきまして、私達は、超能力による労働力を対価とさせていただきますわ」
えっ、口調もお嬢様風なんだ。おもしれぇなこいつ。
「労働力は足りてますわよ」
俺もお嬢様口調で対抗する。負けてらんねぇぜぇ……!!!
「そうかしら?たったの六人では、見張りもできないのではなくて?」
六人と知ってるのか……。
感知系の能力者か。
ここから飛行機墜落現場からは、体感だが六、七十キロメートルは離れているはずだ。
それだけの範囲が見える能力者は、強力だな。
「盗み見ですか?随分と不躾なことをなさるのね」
お嬢様モード継続中の俺がその辺を突いた。
「あら、ごめんあそばせ?あまりにも楽しそうにしていらっしゃるから、気になってしまった子がいたのですわ。それに、素敵な殿方は、女性の耳目を集めるものですわよ?」
へえ、言うじゃん。
「仮に、労働力が提供できたとして、それを対価に、わたくしに何を求めますの?」
俺が訊ねた。
「知識を。それと、相互に守り合って欲しくありますわ」
ふむ……。
「嘘を仰られないで!わたくし達が、食品や資材を貯め込んでいるのを知って、奪いに来たのでしょう?!」
核心部分を突いてやるか。
すると、お嬢様は苦い顔をして……。
「……確かに、そう言った面もありますわ。ですが!わたくし達には、もう後がないのです!この身を捧げろと仰るならそうしますわ、だから、どうか!どうか……、助けて……!」
懇願だ。
なるほど……。
「啞零お嬢様!あなたの意見を聞いてもよろしくて?」
俺が訊ねた。
「誰も突っ込まないから私が言うけれど、真面目に頭を下げている人の前でふざけるのはやめなさいね。……ええと、私の意見ね。私は、まあ、あんたに無理矢理付いてきた身だから、意見を言える立場にないけれど……、できれば、助けてあげたいわね」
ふむふむ。
「じゃあ聞くがね、何で今更ここに来た?どこから来たのかは知らんが、生徒会長とやらと仲良しこよしで建国(笑)してりゃあ良いだろ」
疑問だった。
あの生徒会長とやら、頭は悪いがカリスマはあったように思える。
森は、ウサギやネズミがその辺にいて、木の実や山菜も採れる。
生きていくことは可能なはずだ。
何故、あの生徒会長とやらではなく、俺の仲間になりたいなどと言うのか、理由を知りたい。
「あいつは、あの男は……!」
話を聞いた。
どうやら、あの生徒会長は、特級能力者は王族で、一級能力者は貴族!とか言っているらしい。
自分の配下に、『複製(コピー)』『水類生成(ウォーターマスター)』『治癒(ヒーリング)』『電気操作(エレクトリック)』の四人を置いて、飛行機内で暮らしてるそうだ。
『複製』が食料を増やして、『水類生成』が水を出して、『電気操作』が電化製品を動かす。『治癒』はもしもの時の控え。
それと、抜群の戦闘能力を持つ『光芒(ライトブリンガー)』の生徒会長が、四百人ほどの能力者を支配しているそうだ。
能力者にあらずんば人にあらず、みたいな身分制度で、食料は配給制に。
そして……、これは初めて聞いた話だが、超能力者は、女の方が数は多いが、男の方が質がいいらしい。
能力者の六、七割は女だそうだ。
それにより、生徒会長は、より強力な能力を持つ存在が、弱い能力者を保護する代わりに、言うことを聞かせるべきだと提唱。
そんなこんなで女の立場は悪いそうだ。
挙げ句の果てに、男の能力者の方が強くて、女の能力者が多いのは、強い男の遺伝子をたくさんの女が受け取るためだ!とか言っているらしい。
非能力者の一般人は追い出し、小等部の子供達にもその身分階級を強制してきたから、身分制度に疑問を持った女と、子供達と一緒に逃げてきた……、んだとよ。
ついでに言えば、ここから追い返されたら、行き場がないとも。往路の分しか食料を持って来れなかったらしい。
なるほどな……。
どうです?
ちょっと話が動きましたね。