建国派から逃げてきた逃亡者のお嬢様に、俺は言った。
「じゃあこうしましょう、死刑!」
試しに一言。
「なっ?!!!」
顔を青くするお嬢様。
やっぱり、悪役令嬢は死刑されないとね!
「本気で言ってるの?」
あ、啞零がガチ切れだ。
「まあ待てよ、軽いジョークだろ?」
「しゅ、趣味が悪過ぎますわ!!!」
いかんなー、ジョークを言えるくらいのメンタルがなきゃ。
「良いぜ、付いてきな。但し、全員、可能な限り働いてもらうからな」
「あ、ありがとうございますわ!」
まず、俺は、氷室のシマウマ肉を一頭分持ってきて、賽の目状に分解する。
それを、賽の目状に分解したさつまいも、キャベツ、しいたけ、パースニップ、塩漬け魚と一緒に、鶏ガラスープで煮込む。
しかし、鍋がない。
どうするか……。
「あ、あのっ!ひょっとして、鍋がないんすか?!」
おっと……?
銀髪で、片目を隠した短髪。スラリとした体躯のボーイッシュな少女。同い年くらい。
「自分、黒鉄紫衣(くろがねしえ)って言うっす!」
「で?」
「自分は、『鉱石生成(メタルボーン)』って能力を持ってて、物質を鉱物に変換できるんす!」
うーん!俺の下位互換!
「よろしければ、その辺の土から鉄を作りますっすよ!」
だが助かるな。
「頼む」
「はいっす!……やあっ!」
足元に鉄の塊ができた。
これを『分解』して加工して……、できた、巨大鉄鍋!
これを、薪の上に設置して、と。
「火はわたくしが」
先ほどのお嬢様が指パッチンすると、火がついた。
「申し遅れましたね。私は、夢想院睦(むそういんむつみ)ですわ。能力は、『仮想元素(エレメンター)』と言って、仮想の元素を作り出す能力ですわ」
火を見てみると、アニメ調の、エフェクトがおかしい感じだった。
しかし、手をかざすと確かに熱い……。
「仮想元素は、わたくしが任意に出したり消したりできますの。存在しない物質ではありますが、エネルギーは持っていて、使うこと自体は可能ですわ」
うーん!俺の下位互換!
ってか、創造系能力者は全員、俺の下位互換なんだよな。
まあ良いや。
「なら、その仮想元素とやらで食い物を出してくれよ」
「仮想元素は、食べれますけれど、食べて身体の一部になってからわたくしが分解すると、大変なことになりますわよ?」
なるほど、そう来るか。
さて、鍋をかき混ぜて、と。
「えー、今回は食料を供出しますが、貴様らが来たせいで、しばらくは粗食になります。今回は、遠いところから頑張って歩ったご褒美に、美味いものを出しますが、明日からは肉とか出せません。食いたきゃ働け!よろしいか?」
俺が宣言する。
「随分と、直截なことを言いますのね」
お嬢様……、睦がそう言った。
「その辺を曖昧にして誤魔化した方が良いか?あの生徒会長みたいな理想論で塗り固めた嘘がお好みならそうしてやるぞ」
「いいえ。理想論はもう懲り懲りですわ」
そうかい。
「じゃあ、飯を食えー。嫌味は言ったが、飯を食うときは美味しく食えよ!」
「「「「「「はい!」」」」」」
そう言って、大鍋四つを空にした逃亡者チーム。
食うなあ……。
「さて、腹一杯食ったか?」
「「「「「「はい!ありがとうございました!」」」」」」
うむ。
じゃあ、もう夜だし……。
「今晩は休め!明日は、朝から面接をやるぞ!」
「「「「「「はい!」」」」」」
よし、寝るか。
「あの、よろしければ、一番小さいこの子達だけでも、建物の中で寝てもらえませんか?」
と睦が五人の十歳くらいのガキを連れてきた。
「啞零」
「良いわよ、私達は外で寝ましょう」
あらま、優すぃー。偉い偉い。
よし、朝。
広場の前に逃亡者チームを集める。
「よーし!じゃあ、面接をするぞ!一人ずつ前に出て自己紹介してもらう!名前と、何級で、どんな能力かと、特技を言ってもらうから、考えとけ!」
今朝方に俺がミンチにした鶏肉六キロと、さつまいもと、浜大根の鶏ガラスープを振る舞ってから、俺はそう言った。
その中から、特に有能だった奴をピックアップして紹介しよう。
夢想院睦と黒鉄紫衣は普通に有能だとして……。
他は。
まず一人目。
メカクレピンク髪、中学生二年生ながらもめっちゃでかいおっぱい。
「あ、愛羅弥絵(あいらやえ)です。特技は動物の世話で、能力は……、一級で、その……」
と、口ごもる弥絵。
「どうした?言ってみろ」
「わ、笑わない、ですか……?」
なんだ?ギャグ能力か?
それはそれで面白いのでアリなんだが。
「笑わねーから言ってみ?」
「わ、私の能力は、『発情(アフェクション)』で……、生き物を、は、発情させます……」
え?発情?
「発情ってのは具体的にどうなんだ?」
「ど、動物なら、メスは強制的に、その、は、排卵させて、オスは、その……、しゃ、射精させます。植物なら、花粉を出して受粉させます……。うぅ、恥ずかしいよぅ……」
え?マジで?
「スッゲェ!ってことは、家畜増やし放題?!最高!ありがとう!結婚しよう!」
思わず抱きしめちゃったぜ。
「ひゃ、ひゃわーーー?!!!」
啞零に引き剥がされる。
グーで腹パンされた。
ひどい……。
次。
黒髪と白髪のグラデーション、ツインテールのゴスロリ。童顔だが、高一らしい。
「私は、馬瀬智海(まぜちう)だよ!特技は裁縫!能力は一級の『混成(ブレンダー)』って言うの!」
混成?
「どんなんだ?」
「どんなものでも混ぜちゃうの!」
んー?
「例えば、水と土を混ぜて泥水にー、みたいな?」
「そうだよ!それだけじゃなくって、原子を混ぜて化合させることもできるよ!」
えっマジ?チートじゃん。
「例えばさ、貝殻、重曹、石英があったとして、それを混ぜ合わせればガラスになったり……?」
「あ!それ、やったことある!理科の実験みたいで面白かったよ!」
えっえっ、チート!!!
「スゲェや、結婚して!」
「良いよ!」
啞零に腹パンされる。
茶髪に赤のメッシュが入った短髪。眠そうな顔をした茶色の瞳の女。細めの身体つきだが、高一だそうだ。
「ん……。軟家桃花(なんけとうか)」
「特技は?」
「フィギュア作り」
「能力は?」
「一級、『質感変化(クオリティエディット)』」
「どんな能力だ?」
「物を柔らかくしたり、硬くしたりする」
んー?
「何でも、柔らかくして、液体みたいにしたり、鉄より硬くしたりできる。形が変わった物質はそのまま」
これは……。
「例えば、石を液体にして、コンクリートみたいにできるか?」
「できる。やったことある」
コンクリートミキサーマン!!!
「鉄を粘土くらいの柔らかさにして、型取りしてから鉄の硬さに戻すとかは?」
「できる」
すげえ!
次は男子。
中性的……、ってか、見た目は女っぽい、青髪ロングの美男子。中学二年生。
「僕は、時坂翔琉(ときさかかける)だよ。特技は……、女装?能力は一級の、『時間操作(タイムシフト)』だよ」
えっ、時間操作?強いやつじゃん。
「何ができるんだ?」
「物質や生き物の時間を操作できるよ」
うーん?
「具体的に何に使えるかと言うと、発酵食品が一時間でできたり、熟成が必要なお酒が一晩でできたりするよ」
えっ、ヤバくないそれ?
「あと、物質の時間を戻すと、原材料に戻せるよ」
ヤバイなそれはマジで。
「そう来ると思って、ギャレーから、お米と、コンソメと、醤油と、片栗粉と……、色々盗んできたよ!あとで原材料に戻すから、量産してね!」
おおっ!米問題が解決した!!!
いやー参った、有能マン、多いな?!
生徒会長の建国派、馬鹿っぽく見えますが実に理に適ってるんですよね。
生徒会長は、ヨーイドンの殺し合いでは作中最強レベルの使い手(光の操作なのでレーザーで頭と心臓を光の速さで撃ち抜いてくる)なので、戦闘能力が高い奴が他の能力者を支配するってのは効率的です。社会の形としては不健全極まりないですが。
お嬢様の方がむしろ、この状況でまともなことを言ってるのでおかしいです。周りがみんな狂人の中で、一人だけまともな人がいたら、そいつが逆に狂人、みたいな理論ですが。
ですがまあ、お嬢様は、この三週間くらいで、建国派内の反発者を水面下でまとめあげた辺り、上に立つ人間としての能力はバッチリなんですよね。とは言え、生徒会長には武力で勝てなかったんで、建国派を内部から変えることとかはできなかったんですが。
逆に、武闘派が偉い!みたいな風潮の蔓延る建国派で、冷や飯食いだった生産系能力者はまとめやすかったのやもしれません。
因みに、感想欄で、逃亡者さんチームに建国派のスパイがいるかも?みたいなことを言ってる人がいましたが、それはないです。
建国派の武力をもってすれば、主人公が本気を出さない限り、数の暴力で他のどの派閥も潰せますから。建国派の何が凄いかって、戦闘系能力者が過半数の四百人以上の集団ってところですからね。下手すりゃ小国の軍隊に匹敵するくらいの戦力がありますよこれは。
あと、お嬢様も馬鹿じゃないんで、建国派に悟られるような真似はしていません。だから、六十人の女子供という少人数しか連れてこなかったんですね。脱出の時も、真夜中にコソコソと、コソ泥のように逃げたそうです。